ライカレンズの美学
SUMMARIT-M F2.4/35mm ASPH.
レンズ遍歴の末に発見する「通」な1本
2016年6月30日 07:00
現行M型ライカレンズの魅力をお伝えしている本連載。今回はSUMMARIT-M F2.4/35mm ASPH.をご紹介しようと思う。
SUMMARITシリーズ全体の話については前回の本連載で軽く解説しているので、「SUMMARITシリーズってナニ?」という方は、ぜひそちらも参照して欲しい。
というわけでSUMMARIT-M F2.4/35mm ASPH.である。いきなり最初からこんなことを言うのも何だけど、地味な立場だなぁと正直思う。現行M型ライカレンズにはSUMMARITの他にもF1.4のSUMMILUX、そしてF2のSUMMICRONという開放F値の異なる3本の35mmレンズがラインナップされているわけだが、その3本の中でSUMMARITの存在感はかなり地味な印象なのだ。SUMMILUXやSUMMICRONのような華々しいストーリー性がバックグラウンドに見えてこないということもあるし、古くからのライカファン的には前回書いたようにSUMMARIT銘に対する戸惑いもやっぱりちょっとある。早い話、ライカレンズとしてはオーラがやや希薄に思えてしまうのだ。
だが、写りに全く不満はない。絞り開放から画面全体が均質で周辺乱れが少なく、非常にプレーンによく写ってくれる。SUMMILUXやSUMMICRONのような大口径由来のエフェクタブルさは望めないものの、現行SUMMARITシリーズの4本の中では、この35mmだけに非球面レンズが使われていて、小型化と収差量の少なさを両立させることに非球面レンズの採用が寄与しているであろうことは想像に難くない。
フローティング機構などは搭載されていないが、撮影距離によって描写能力が変化するような印象はまったくなく、近距離から無限遠まで描写は常に一定に保たれている印象。35mmという焦点距離で開放F2.4というのはどちらかというと小口径に属するが、どうしてもレンズ構成が複雑になりがちな大口径レンズとは異なり、きわめてシンプルな光学系でも高性能を狙えるのが小口径レンズの強みでもある。
SUMMARIT 35mmは現行M型ライカレンズとしては入手しやすい価格設定なのも特長のひとつだが、だからといって鏡胴の作り込みなどに手抜きは一切ない。金属製の鏡胴は基本的にはSUMMICRONなどと同じクオリティで仕上げられており、距離目盛りや絞り値などの文字類は印刷などではなくしっかりと印刻されている。
ネジ込み式にもかかわらず定位置でピタリと止まる付属フードももちろん金属製。そういえば、この取り付け形式のフードはここ数年で他の多くのM型レンズにも取り入れられているわけだが、最初に採用したのは先代といえるF2.5のSUMMARITシリーズだったことを思い出した。ちなみにこのフードは円柱型でありながら前面の開口部は角の丸い長方形に絞り込まれた独自形状だが、その造形は超シンプルでまったく無駄がない。
プレーンさが魅力の「通」なレンズ
思い起こせばフィルム全盛期の頃は今回のSUMMARIT 35mmに近いスペックの35mmレンズ(たとえば35mm F2.8とか)は一眼レフ各社からも沢山発売されていた。ズーム全域F2.8の大口径標準ズームや大口径広角ズームが進歩した今となっては、そうしたスペックの小口径単焦点レンズは「存在価値が薄いもの」と決めつけられがちだけど、本当にそうだろうか?
いまでは少なくなってしまったが、かつてはルポルタージュの分野などでは機動性の高い小口径単焦点レンズを愛用する写真家も多かった。そうしたルポルタージュの名手たちはレンズに必要以上の情緒性や画面的にエフェクタブルな部分を求めておらず、それ故あくまでもプレーンな描写を得られる小口径単焦点レンズを愛用したのだと思うし、さらには小口径レンズには「無事これ名馬」的な意味合いもあったように思う。
そういう文脈でこのSUMMARIT 35mmを見てみると、実はこれこそもっとも「通」なレンズではないかという気がしてきた。もしかすると、ある程度のレンズ遍歴を経ていなければその良さがわからないのではないだろうか。冒頭で地味だとか何だとか書いてしまったが、ライカ遍歴を重ねてライカのレンズ沼にどっぷりと浸かってしまった人が、最後に「発見」するのは、このSUMMARIT 35mmのような、一見何でもないけど小型軽量で良く写るレンズなのかもしれない。
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協力:ライカカメラジャパン