「高倍率超マクロ」のストロボシステムを考える


高倍率マクロに適したストロボ照明とは?

 前回の記事では、フォーサーズ用の標準ズームレンズ「ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6」を、リバース(逆付け)して改造した、高倍率マクロレンズを紹介した。今回は、このレンズに装着するための、高倍率マクロ撮影用のストロボシステムを考えてみる。

完成したマクロストロボを、「リバースマクロ14-42mm」と共に「E-420」に装着してみた。2灯式の発光部が、58mm径のフィルター枠の中に収められているわけで、マクロ用ストロボヘッドとしてはまさに最小最薄ではないかと思われるこちらは、前回「ZUIKO DIGITAL 14-45mm F3.5-5.6」を改造して作った「リバースマクロ 14-42mm」

 一般に高倍率マクロ撮影は、画角が非常に狭くなり、またレンズも暗くなるため、ストロボの照明が欠かせない。このような特殊な照明にも対応したシステムが、実はオリンパスから発売されていており、それが「ツインフラッシュブラケットFL-BKM03」と「エレクトロフラッシュFL-36R」の組み合わせである。

 ツインフラッシュブラケットは、その名の通り2台のストロボをカメラに保持するための器具で、アルミバーや止めネジ、ストロボシューなどのパーツで構成されている。これに、同じくオリンパス製のFL-36Rを2台装着すると、多彩な組み合わせの「2灯照明」を楽しむことができる。

 FL-36Rはコンパクトなクリップオンタイプストロボだが、ツインフラッシュブラケットと組み合わせる場合は、カメラの内蔵ストロボをコマンダーとしたスレーブ発光モードで使用する。FL-36Rのスレーブセンサーはかなり優秀で、直射日光の下でもカメラの内蔵ストロボに反応し、確実に発光するのには感心した。また、Eシステムのデジタル一眼レフカメラの内蔵ストロボを「RCモード」にすると、カメラ側から2台のFL-36Rの発光モードや調光補正などのコントロールを、それぞれ別に行なうことができ非常に便利だ。

 ツインフラッシュブラケットと2台のFL-36Rは、まさに合体ロボのスペシャルパーツのように自在にアレンジして、カメラやレンズと組み合わせることができる。普通のマクロレンズはもちろん、魚眼レンズによる「広角マクロ」の照明にも使えることから、昆虫などのネイチャー関係の写真家に使用者が多い。
そこで、ぼくもまずはこのメーカー純正のストロボシステムを使ってみることにした。

 で、ストロボ発光部の位置などいろいろ調整して、きちんと照明できるように設定できたのだが、やはりどうも大きく重すぎて使いづらいのだ。いや、撮影機材の大きさや重さは、撮影目的によってどこまで気になるかは異なるが、少なくとも約4×3mmの撮影画面の高倍率マクロ撮影を“手持ち”で行なうにはちょっと大きすぎる。

自作改造したリバースマクロ14-42mmをE-420に、「マクロフラッシュブラケット」と「エレクトロフラッシュFL-36」2台を装着してみた。レンズ前約4cmの被写体を照明するため、発光部が内向きになっている。FL-36はE-420とワイヤレスで同調し、TTL調光や、2台それぞれの調光補正なども行なえるツインフラッシュブラケットの各パーツは、大型の止めネジでがっちり固定できて安心感がある。しかし高倍率マクロを手持ちで撮影するには、ちょっとシステムが大きくて重すぎる。また外観に迫力がありすぎて、街中で使うにはちょっと目立ちすぎだ

 ぼくは以前の記事「高倍率マクロの最小システムを考える」にも書いたように、三脚を使わない手持ち撮影にこだわっているため、撮影機材は小型軽量なことに越したことはないのだ。

 そこで今回は、このツインフラッシュブラケットを参考に、自分なりに「最小のマクロストロボシステム」を製作してみることにした。

専門家や先人たちの工夫を参考にする

YASHICA DENTAL-EYEのレンズは一見レフレックス500mmのようにも見えるが、実はこの太い鏡筒の中に50mm F3.5マクロレンズと、リングストロボが内蔵されている。オレンジ色に光っているのは、ピント合わせ用のモデリングランプ。歯科医のために開発されたフィルム一眼レフだが、昆虫撮影用にも十分使える性能を持つ

 とその前に、今回ぼくが参考にしたもう一台のカメラを紹介しようと思う。

 それは「YASHICA DENTAL EYE」というカメラで、デジカメではなくフィルム一眼レフカメラである。しかしただの一眼レフではなく、歯医者さんが患者さんの虫歯を撮るための専用のカメラなのだ。

 カメラボディは、コンタックス・ヤシカマウントの「YASHICA FX3」を流用しているが、レンズ交換はできず、マクロレンズの55mm F3.5とリングストロボが固定装着されている(ストロボの取り外しも不可)。

 撮影倍率は等倍から1/10倍までで、無限遠の撮影はできない。ちょうど虫歯のアップから、患者さんの顔の記録写真までが撮影できる感じで、まさに“歯医者さん専用”ある。

 使い方は簡単で、ピントを合わせてシャッターを押せば、適正露出が得られる仕組みになっている。ストロボの光量は一定で、距離に応じて絞り値が変化するようになっており、これにより適正露出が得られる「フラッシュマチック」が採用されている。

 ISO感度ダイヤルを回すと、それに応じてストロボの光量が変化する。シャッター速度は1/60秒固定で、露出計も内蔵していないが、限られた条件下では確実に適正露出が得られる方式だ。

 このカメラはボディ下部にフィルム巻き上げ用のワインダーが装着されているように見えるが、実はこの中にストロボの回路と電源が内蔵されている。改めて調べると、YASHICA FX3用のワインダーのボディを流用し、モーターやギアの変わりに、ストロボ用のコンデンサーやそのほかの回路が仕込まれているのだ。

 電池ボックスや電源スイッチ、巻き戻し切替えボタンなどは元のワインダーと共用であり、その無駄のなさには感心してしまう。余計な出っ張りがないので持ちやすく、写真撮影に不慣れな医者や看護師でも、簡単に接写ができるよう、非常に良く考えられている。

このカメラは貼り皮が経年劣化でボロボロだったので、全てはがしてしまった。ボディ下部にはワインダーが装着されているように見えるが、中にはリングフラッシュの電源回路が内蔵されている。フィルム巻上げはもちろん手動のレバー式。必要最低限の機能がコンパクトに凝縮し、しかも誰でも簡単に失敗しないマクロ撮影ができるよう、さまざまなアイデアが詰まっている。こういうカメラを見ると、非常に参考になるし刺激になる

 かつてのYASHICA一眼レフシステムには、55mm F3.5マクロレンズも、接写用のリングストロボもラインナップされていたが、それらを脱構築して一体化させたのがYASHICA DENTAL-EYEだと言える。別の言い方をすれば、まさにメーカーによる“切り貼り改造カメラ”であり、非常に興味深い。

 今回ぼくが製作する「最小のマクロストロボシステム」は、このカメラの方式のコピーではないが、思想的な意味で大いに参考になったし、また刺激を受けたといえる。

 先に紹介したオリンパスのツインフラッシュブラケットにしろ、YASHICA DENTAL-EYEにしろ、専門家や先人たちの発明工夫を参考にしつつ、さらに自分の撮影意図に合わせて工夫を考えるのが、「切り貼りデジカメ実験室」の趣旨なのだ。

―注意―

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最小のマクロ用ストロボの製作

 いよいよ、ぼくのオリジナルのマクロ用ストロボの制作方法を紹介しようと思う。けっこういろいろ頭で考えたり、スケッチしてみたりしたのだが、最終的には割りとシンプルな方式に落ち着いたと思う。

今回の改造のベースとして選んだストロボは、サンパック「PF20XD」である。小型軽量なのに加え、マニュアルで5段階の光量調節ができるので、これをセレクトしたまずは本体のネジを外したいのだが、3個のネジが背面シールの下に隠れている。シールのノリをシンナーで溶かしながら慎重にはがしてゆく
センサーを覆うカバーをはがしたところにも、ネジがひとつある。あと、ホットシューの取り付け部の周囲4カ所にネジが見えるので、これらのすべてを外すネジを外してストロボのボディを開けるとこんな感じになる
ストロボの発光部である「キセノン管」には黒、白、赤の3本のコードがハンダ付けされているので、これをハサミで切断する。なお、コードの接点同士が接触すると、高圧電流が流れて「パチッ!」と破裂したりするので要注意だ。切断したコードの先は、セロハンテープですぐ巻いたりして保護したほうがいいだろうストロボ発光部は、このようなユニットとして取り外せる
発光部のユニットは、さらにこのようなパーツに分解できる。今回はキセノン管と、「2G07B」のシールの貼られたパーツのみを使用するキセノン管に、延長用の電気コードをハンダ付けする。コードは3本平行にまとめてある製品で、ストロボの内部配線に使用されていたものより少し太めのものをセレクトした。もともとキセノン管に巻きつけてあった白いコード(トリガー用コード)は黄色に置き換えている。両端の赤と黒のコードは元の色と同じにしてある
ハンダ付けが終わったら、接点をホットグルーガン(熱で溶かす接着剤)で保護する。キセノン管は高圧電流がかかるので、作業中に不用意に感電しないためである
次に、ストロボ本体の改造にかかる。まず確認したいのはこの白いパーツ。これはストロボ本体に内蔵された、スライド式ディフューザーであるこのディフューザーの形状を元に、1mm厚ABS板を切り出し穴を開け、こんなパーツを作る
そしてディフューザーを取り外した部分に、ぴったりとはめ込むさらに「2G07B」シールのパーツをネジ止めし、自作パーツの穴にキセノン管の延長コードを通す
ストロボ回路のコードと、キセノン管の延長コードをハンダ付けする。作業中は異なる色のコードが接触しないよう注意する。今回は白いコードを黄色に置き換えているので、間違えないように。ハンダ付け部分は熱収縮チューブでガードするボディを元通りにネジ止めするとこんな感じ。ストロボ発光部だったところがABS板でふさがれ、そこから電気コードが出ている。このような「ストロボ発光部の延長」は、昆虫写真家の間では割と定番の改造方法で、特にぼくのオリジナルではない
今回自分なりに工夫したのは、ストロボヘッドの形状である。まずは中古で購入した「58mm径PLフィルター」のガラスを外した枠のみを利用することにする1mm厚の乳白色アクリル板から、このような形状のパーツを切り出す(円形のカットの仕方は前回の記事を参照)。パーツにヒビが入ってしまったが、アクリルは割れやすい素材で加工もしにくいため、このまま使用することにした。パーツの外径は、58mmフィルターガラスの大きさに合わせている
カットしたアクリル板の裏のこのような位置に、薄手のアルミ板を両面テープで貼るさらに同じアルミ板を、このような形状にカットする
アルミ板は、ストロボの反射板として、レンズ先端にこのようにセットするPLフィルターの枠には、ガラスの変わりにアクリル板のパーツを組み込む。アクリルパーツの切り欠き部分に、キセノン管のコードを通す
同じユニットを裏から見たところ。フィルター枠の内側にキセノン管が収められ、周囲に反射板を巻いている発光部ユニットを、レンズ先端にねじ込むとこんな感じ。これで「最小のマクロストロボ」はひとまず完成である
ピカッと光らせるとこんな感じ。キセノン管は1つだが、反射板によって2灯式に振り分けたところがミソである。これで被写体の隅々まで照明が行き渡る照明が可能になった。しかしテスト撮影の結果、光がフラットになりすぎて、被写体の立体感や質感が損なわれる場合があることが判明した
そこで、逆光用にもう一灯、スレーブストロボを加えることにした。ストロボはハクバ製「デジタルスレーブストロボDX」で、付属のブラケットも利用することにした。これにミニ三脚「ゴリラポッド」を加えた3点が、改造のための主な素材である以上の3点を切り貼り(ブリコラージュ)すると、「クネクネ曲がるスレーブストロボブラケット」になる。ゴリラポッドの脚のジョイントはグッと引っ張ると「キュポ!」と外れ、連結して延長することもでき、その特徴を利用している。このジョイントの先端は、スレーブフラッシュのボディにネジ止めされている。乳白色アクリル板のディフューザーは、マジックテープで発光部に止めている。ストロボブラケットのゴムも、自分の好みで薄手のものに張り替えている
逆光用スレーブストロボをカメラに装着するとこんな感じ。レンズのワーキングディスタンスは約4cmなので、ストロボはだいたいこんな位置にセットされる。高倍率マクロシステムとしては非常ににコンパクトで、手持ち撮影も楽に行なえる(と言っても基本的に大変な撮影なのだが)。しかし配線だらけの外見はいかにも怪しげで目立つ裏側から見たところだが、スレーブストロボはこのように固定されている。実はこのスレーブストロボユニットは、「最小の高倍率マクロシステムを考える」で紹介したリコー「R8」のために製作したもので、そのうち別の記事で紹介しようと思っていたところだ(2カ所のマジックテープは、R8に取り付けるためのもの)

まとめ

撮影倍率を確認するため、ノギスのメモリを撮影してみた。ズームのワイド端14mmで最大倍率になり、約4×3mmの撮影範囲となる。ここから「フォーサーズ」にひっかっけて、写真展のタイトルを「4×3mmの世界」というふうにしてみた

 前回紹介した「14-42mmリバースマクロ」はワーキングディスタンスが約4cmで、これがさらに短くならないように、できるだけ小型で薄型のストロボヘッドを考えてみた。高倍率マクロレンズはワーキングディスタンスが短くなりがちで、短くなりすぎると撮影も照明も困難になってしまう。だから今回の改造は、全ての改造パーツができるだけ薄くなるよう考えながら製作した。

 当初、ぼくはレンズの改造をせずに、取り外し式の「リバースリング」を作ろうと考えていた。フォーサーズの電気接点をコードで延長すれば、自動絞りが利き、あらゆるレンズで利用可能なリバースリングが製作可能だろう。しかし取り外し式にするとパーツの厚みがどうしても増してしまうことになり、ワーキングディスタンスが短くなってしまうだろう。それでその方式は断念して、レンズそれ自体を「リバースマクロ」に改造したのである。

 今回製作したマクロストロボも、ヘッド部分はレンズに組み込み式で、他のレンズに装着することは難しい。これも「取り外し式」にすれば応用範囲は広がるだろうが、やはり厚みが増してしまうはずだ。それでとにかく「薄く」と言うことを優先して、レンズ組み込み式にしたのである。

 メインの2灯式マクロストロボは、マニュアルで発光量を調節しながら使っているが。安定した照明が得られて便利である。元になったサンパック「PF20DX」はマニュアル調光機能を備え、改造しないまでもいろいろ便利に使えるだろう。それに対し、逆光用のハクバ「デジタルスレーブストロボDX」はオート発光のみであり、発光のクセをつかむのに戸惑ってしまう。

 まぁ、マクロ用に限らずストロボ照明は奥が深いようで、これからも研究や改良の余地はいくらでもあるだろう。カメラの外観も、配線だらけでいかにも怪しいので、YSHICA DENTAL-EYEを目標に、一体感のあるさりげない感じに改良したいところである。ぼくは別にカメラメーカーの設計者ではないから、改造カメラやレンズはいつでも「途中経過」なのだと言える。

 いや、ぼくはまず「写真家・美術家」を名乗ってるので、カメラもレンズも「写真」というか「写真に写るモノ」のために存在する。だから、前回と今回にわたり紹介した「高倍率マクロシステム」は、曲がりなりにも「新たな作品スタイル」を自分にもたらしてくれたわけで、その意味では非常に満足している。


作例

 と言うわけで最後に、現在開催中の個展「4×3mmの世界 ―超マクロで見る草花―」に展示中の写真と、同シリーズの未公開写真を掲載してみようと思う。ぼくは今回製作した「高倍率マクロシステム」で何を撮ろうかと考え、ふだん自分があまり目を向けない「植物」の部分を撮影することにした。

 この際、コンセプトをより明確にするため、全て同じ最高倍率で撮影することにし、その撮影範囲が約“4×3mm”なのだ。ここでは、植物の部分アップ(左)と共に、全体像を「ZUIKO DIGITAL 50mm F2 Macro」で写した写真(右)を並べて掲載してみることにする。先に書いたように、自分としてはまったく新しい撮影スタイルであり、今後しばらくは作品を撮りためてみようと思う。

※サムネイルをクリックすると、長辺1,024ピクセルにリサイズした画像を表示します(特記あるものを除く)。

「ゼニアオイ」の花粉。パールのように輝いているが、よく見ると小さなトゲに覆われている
「ムラサキツユクサ」のオシベの細毛。大型の細胞が数珠のように連なっている
「ドクダミ」の小花。開花したばかりでオシベもメシベも未熟だが、何だか海の生き物のように見える
「ツツジ」のオシベの先端。花粉が三角形をしているのが驚きだ
「タケニグサ」の葉裏に生える毛。まるでSF映画の舞台のようだ

【告知】

・糸崎公朗写真展「4×3mmの世界 ―超マクロで見る草花―」

期間:2009年5月30日(土)~6月30日(火)
会場:Deco's Dog Cafe田園茶房
   大田区田園調布2-62-1 東急スクエアガーデンサイト北館1F





糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。「非人称芸術」というコンセプトのもと、独自の写真技法により作品制作する。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ ミノルタフォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。ホームページはhttp://www.itozaki.com/

2009/6/4 17:56