切り貼りデジカメ実験室

銀塩OMレンズで「半自動プリセット絞り」を実現!

絞り込みレバー付きマウントアダプターを作る

フィルム時代のオリンパスOMレンズは、レンズ側面に「絞り込みボタン」を備えている。今回はその機構をデジタルでの撮影に活かすため、マウントアダプターに、絞り込みボタンを押しやすくするための「可動レバー」を取り付ける改造を行った。これによって古い時代のOMレンズが「半自動プリセット絞り」として使用できる。絞り開放でピントを合わせた後、ワンタッチで設定した値に絞り込むことができる

レンズ側の「絞り込みボタン」を活かす

オリンパスからかつて発売されていたフィルム一眼レフのOMシステムは、名設計者と言われた米谷美久さんによる独自のアイデアが、随所に盛り込まれていた。その1つがレンズ側に装備された「絞り込みボタン」である。

一眼レフは、フィルムカメラもデジカメも「自動絞り」機構を装備している。レンズの絞りを絞ったまま(例えばF8とか)一眼レフのファインダーを覗くと、画面が暗くなりピントが合わせにくくなる。そこで、まず絞り開放の状態でピントを合わせ、シャッターを押した瞬間に絞りが設定値まで絞られる機構が「自動絞り」なのである。

一方で絞り開放のままでは、絞り込んだ時の被写界深度が確認できない。そこで多くの一眼レフは、ボディに被写界深度を確認するための「絞り込みボタン」を装備している。しかし絞り込みボタンは一般に中級機以上に装備され、普及タイプの一眼レフでは省略されている。

ところがOMシステムは、カメラボディではなく交換レンズに絞り込みボタンを装備していた。つまりどんな普及タイプの一眼レフでも絞り込みボタンが使えるという、合理的なシステムなのだ。

ということは、オリンパスOMシステムのレンズは、マウントアダプターを介してデジカメに装着しても絞り込みボタンが利用できる。すなわち、絞り開放でピントを合わせ、撮影直前に絞り込みボタンを押して、シャッターを切る、という使い方ができる。

これは、自動絞りが登場する以前の「半自動プリセット絞り」に相当する機構で、何のカラクリも無い「普通絞り」よりは便利に使えるハズである。ところがオリンパスOMレンズの絞り込みボタンは、あくまで被写界深度の確認用なので、小さくてちょっと押しにくい。

そこで、OMレンズをデジカメに装着するマウントアダプターに、絞り込みボタンを押しやすくするための、大型のレバーを取り付けるアイデアが浮かんだのだった。

―注意―
  • この記事を読んで行なった行為によって、生じた損害はデジカメWatch編集部、糸崎公朗および、メーカー、購入店もその責を負いません。
  • デジカメWatch編集部および糸崎公朗は、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。

その昔私が愛用していたオリンパスのフィルム一眼レフOM-2Nと、オリンパス最新鋭デジカメOM-D E-M5 Mark IIを並べてみた。あらためて較べると実によく似ている。OM-2Nには「ワインダー2」を装着しているが、E-M5 Mark IIにもこのイメージを踏襲したグリップが用意されている
E-M5 Mark IIに、OM-M3/4変換リングを介して、オリンパスOMシステムのレンズ「ZUIKO 28mm F2.8」を装着したところ。違和感なく実によく似合っている。ちなみに今回使用した変換リングは中国製と思われる安物だが、オリンパスからも純正品が発売されている
オリンパスOMレンズはその特徴として、レンズ側面に絞り込みボタンを装備する。この機構を利用すれば、デジカメに装着したレンズを半自動プリセット絞りとして使うことができる。しかし実際には、この絞り込みボタンは小さくて押しづらい。そこでマウントアダプターに改造を施すことにした
まず、マウントアダプター内側に飛び出した「爪」を取り除く。この爪はOMレンズ内側の絞り連動レバーを押して、レンズを普通絞りとして使うためのものだ
マウントアダプターのレンズマウントを外すと、内部の爪を外すことができる。このあとレンズマウントだけを、マウントアダプターに再度取り付ける
マウントアダプターに取り付ける可動レバーのパーツを製作。厚さ1mmと2mmのABS板を、所定の形状にカットし、専用接着剤で組み立てた。図面を引かず、現物合わせしながら機構を考え制作を進める
同じパーツを裏返したところ。左が可動レバーのパーツで、内側の爪でレンズの絞り込みボタンを押すようになっている。右はレバーの取り付け基部バーツで、マウントアダプターにネジ止めする
マウントアダプターには2カ所、ボール盤で垂直に穴を開け、専用工具を使ってネジ止め用のねじ穴を切る
レバーのパーツをマウントアダプター側面にネジ止めしたところ
仕上げに、カメラ用革を貼ってみた。これでマウントアダプターの改造は終了である
ZUIKO 28mm F2.8を装着するとこの通り。可動レバーの内側に取り付けた爪が、レンズの絞り込みボタンを押す仕組みになっている
参考までに、同じOMマウントの「SIGMA MACRO 90mm F2.8」を装着したところ。実は同じOMマウントでも、メーカーによって絞り込みボタンの位置が若干のズレがある。この誤差を吸収するため、絞り込みレバーの幅に余裕を持たせている
レンズとアダプターをE-M5 Mark IIに装着したところ。わかりやすくするために、グリップは取り外した
カメラを構えると、このような感じになる。左手人差し指でレバーを押すと、レンズの絞り込みボタンを確実に押し込むことができる。撮影時はまず絞り開放でピントを合わせ、次にレバーを押して絞り込み、シャッターを切る

テスト撮影

今回の撮影レンズは、ZUIKO 28mm F2.8のみとしたが、これが絞り開放から滲みもなくシャープなレンズで、驚いてしまった。本来はライカ判フィルムカメラ用の広角レンズだが、画面サイズが1/4のマイクロフォーサーズのデジカメに装着すると、56mm相当の標準レンズになる。

つまり広角レンズの中心だけを使うので、画質が良いのは当たり前だとも言えるが、フィルムカメラ用のレンズで、絞り開放から問題なく使えるレンズというのは、そう多くないと言えるだろう。E-M5 Mark IIの1,600万画素はフィルムの再密度を超えているので、ZUIKO 28mm F2.8はそれだけの潜在能力を秘めていたことになる。

テストはカメラを三脚に固定し、キャベツ畑越しの建物を撮影した。露出Mモードで、レンズの絞りを1段ずつ絞るごとにシャッター速度を遅くし、露出を一定値に保っている。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
F22

実写結果とカメラの使用感

カメラを持って小田急線成城学園駅から、祖師ヶ谷大蔵駅までのあいだを、ぶらぶらと歩いてみた。画像設定は「モノクロモード」に設定した。絞りはわかりやすくするためにF8で統一し、絞り優先モードで撮影した。

カメラとしての操作性は、当初のもくろみ通りなかなか良い感じだ。レンズ側面のレバーは軽い力で押しやすく、レンズの絞り込みボタンを確実に作動させることができる。しかし、光学ファインダーを装備した一眼レフと異なり、電子ビューファインダーを装備したデジカメは、絞りを絞ってもファインダー像が明るく見えるというメリットがある。

だから、レンズを今回のようにプリセット絞りに改造しなくとも、ファインダーの拡大モードを併用すれば、普通絞りのまま十分ピント合わせは可能なのである。しかし被写界深度の浅い絞り開放状態の方が、よりシビアなピント合わせが可能なのは確かで、その恩恵は充分にあると言える。

ZUIKO 28mm F2.8 / 1/250秒 / F8 / ISO200 / 絞り優先AE
ZUIKO 28mm F2.8 / 1/400秒 / F8 / ISO200 / 絞り優先AE
ZUIKO 28mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / ISO200 / 絞り優先AE
ZUIKO 28mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / ISO200 / 絞り優先AE
ZUIKO 28mm F2.8 / 1/640秒 / F8 / ISO200 / 絞り優先AE
ZUIKO 28mm F2.8 / 1/320秒 / F8 / ISO200 / 絞り優先AE
ZUIKO 28mm F2.8 / 1/160秒 / F8 / ISO200 / 絞り優先AE
ZUIKO 28mm F2.8 / 1/500秒 / F8 / ISO200 / 絞り優先AE
ZUIKO 28mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / ISO200 / 絞り優先AE
ZUIKO 28mm F2.8 / 1/200秒 / F8 / ISO200 / 絞り優先AE
ZUIKO 28mm F2.8 / 1/200秒 / F8 / ISO200 / 絞り優先AE

ものの見方とモノクロ写真

今回の作品もモノクロ写真だが、自分を含め人はなぜモノクロ写真を撮るのか? その意味をこの連載を通じて考えているのだが、なかなか明確な答えは見つからない。

そう言えば美大受験の予備校時代は、鉛筆や木炭による石膏デッサンの勉強をしたが、これはモノクロによる絵画である。私が初めて石膏デッサンをした時、まず自分があまりに“描けない”ことに驚いてしまった。しかしそれは“絵が下手”という以前に、人間はふつう世界を漠然と見ていて、そんな視点のままではデッサンは描けないと、予備校の先生は教えてくれたのだ。

絵を描くには“見る”と言うことに自覚的にならなければならない。そして石膏像の形や陰影を漠然となぞるのではなく、立体的な面の角度や、裏側への回り込み、背景までの奥行きなどを留意しながら描くよう、厳しく指導されたのだった。

人間が漠然と見ている世界は“立体”のようでいて、実は目の網膜に映る“平面”だ。つまり人は“平面”を“立体”と勘違いしながら世界を見ていて、その“ズレ”を自覚しなければ、絵画によって奥行きのある世界を表現することはできない。そしてモノクロの石膏デッサンは、そのもっとも基本的なスタディなのだ。

こうしたものの見方は、哲学者フッサールの“現象学”に近い、と言うことに最近あらためて気付いた。実は写真家にはフッサールを読んでいる人がけっこういるようで、大学の哲学科でフッサールを学んだという写真家も2人知っている。

なぜなら、フッサールの現象学は“見る”ことを含む認識の前提を解明しようという、絵画はもとより“写真”にも不可欠な基礎理論だと言えるからだ。

そこで私も遅ればせながら読むようになったのだが、難解過ぎて自分には無理だと諦めたくなるところ“みんなが読んでるから”と我慢しながら読んでいくと、だんだん面白くなってくるから不思議だ(笑)。

それで自分なりにわかってきたことは、現象学とは人間の認識にさらなる奥行きを与える学問なのであり、その認識は写真家その人が撮る“写真”にも反映されるだろう、と言うことである。さて、私の写真はどうだろうか?

糸崎公朗