伊達淳一のレンズが欲しいッ!
AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VR
価格以上の写りに満足 小形軽量で持ち運びも苦にならず
2017年3月1日 12:00
35mm判換算で105-450mm相当の画角をカバーする、DX(APS-C)フォーマット専用の超望遠ズームレンズだ。開放F値はF4.5-6.3とお世辞にも明るくはなく、マウントはエンジニアプラスチック素材、VR搭載レンズにもかかわらず、VRのON/OFF切換スイッチはなく、AF/MF切換スイッチもない。フードすらも別売という、徹底した廉価仕様のレンズだ。
発売日 | 2016年9月16日 |
実勢価格 | 4万3,000円前後(税込) |
マウント | F |
最短撮影距離 | 1.1mm |
フィルター径 | 58mm |
外形寸法 | 72×125mm |
重量 | 約415g |
AF駆動にステッピングモーター(STM)を採用している“AF-Pレンズ”で、廉価仕様とはいえ、AF時にはフォーカスリングや前玉は回転せず、AF駆動音も静粛で、動画撮影にも適している。
AF-Pレンズは、カメラによっては使用できない機種や、使用できても制約を伴う機種もあり、基本的には、D3300以降のD3000シリーズ、D5300以降のD5000シリーズ、D7100以降のD7000シリーズ、およびD500など、比較的最近のDXフォーマット機に対応した超望遠ズームだ。FXフォーマット機では、D5、D810シリーズ、Df、D750でも使用できることはできるが、DX専用レンズなので、敢えてこのレンズを選ぶメリットは少ないと思われる。
さて、それでは、なぜこのレンズをレビューで取り上げたか? というと、「格安暗黒ズームなのに写りはかなりイイ」ともっぱらの評判だったのと、D500とAF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRを持ち出したとき、もう少しワイドが欲しいときの備えとして実用に耐える画質なのか? を確かめたかったのだ。
ニコンには、AF-S VR Zoom-Nikkor 70-300mm f/4.5-5.6G IF-EDという同じ焦点距離でFXフォーマットに対応している望遠ズームもあり、ボクも以前所有していたが、画質とAFスピードに不満を感じ、遠い昔にドナドナ済み。
AFスピードや画質、明るさ重視ならAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II(AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRに買い替える財力がないので……)だが、野鳥やヒコーキの撮影には70-200mmズームのプライオリティはさほど高くはなく、約1.5Kgの重量増による機動性低下と体力消耗は避けたいところ。
その点、AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VRは約415gと軽量でコンパクトだ。これで、噂どおり、画質が良ければ、その画角が必要なときに備え、カメラバッグに入れて持ち歩いても、身体への負荷はさほどかからない。いわば折りたたみ傘のような存在として重宝しそうだ、と考えたのだ。
うん、このレンズはイイ!
というわけで、本来であれば、このレンズに相応しい組み合わせはD5600あたりだと思うが、D500+AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRのワイド側の画角不足をカバーできる存在となり得るか、D500のAF性能を引き出せるか? という観点から、D500と組み合わせて実写を行ってみた。
ニコンのWebサイトで公開されているMTF曲線を見ても、開放F値が暗めということもあるが、ワイド端だけでなくテレ端も空間周波数30本/mmの線が画面周辺を除き0.8を維持していて、S(放射方向)とM(同心円方向)の乖離も少なめで、非常に素直なMTF曲線を描いている。
シャッター優先オートによる動体撮影では、シャッタースピードを速くするケースが多く、開放F値が暗いこのズームとなればなおさら絞り開放で撮影する頻度が高くなる。そのため、仮に開放F値が1段明るくても開放画質が緩いレンズよりも、開放F値が多少暗くても絞り開放からほぼピークの画質が得られるレンズのほうが、シャッター優先オートの撮影には向いている(とボクは思う)。そういう意味では、AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VRのMTF曲線は、ボクの期待にマッチした特性だ。
とはいえ、MTF曲線は設計値であり、実際のレンズ性能は実写してみるまではわからない。しかし、このレンズで撮り始めてみて、期待は確信に変わった。「うん、このレンズはイイ!」。
解像やコントラストという点では、AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR IIをF5.6前後まで絞ったものにはもちろん及ばないが(実売3万円台の格安ズームにその性能を求めるのは酷だ)、アウトフォーカス部分でコントラストが必要以上に高くならないので、ボケがうるさくなりにくい。
それでいて、合焦部分の解像は水準以上にキリッとしていて、ヒコーキの機体のように高コントラストで硬質な被写体は驚くほどカリッと仕上がり、ディテール描写のむずかしい野鳥の羽根や動物の毛並みも特に不満を感じない程度の解像を得られている。開放F値が暗い分、高ISOでの撮影となっていることを考えると、上々の描写といえるだろう。
うるさいことを言えば、画面周辺部のハイライトや光っている部分にパープルフリンジが生じるケースもあり、特にピントが外れている部分でパープルの滲みが目立つ。ただ、それを除けば、廉価仕様のズームとは思えないほど、滲みや色ズレが少なく、スッキリとした描写が得られるレンズだ。
※共通設定:D500 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE
動体追従性
では、動体に対する追従性能はどうだろう? このレンズにはちょっと荷が重すぎるかも、と思いつつ、多摩動物公園の鷲を檻越しに追ってみたところ、フォーカスリミッターやM/A機能など一切ないにもかかわらず、飛んでくる鷲にそこそこピントを合わせ続けることができた。
ピクセル等倍チェックでは、若干ピントが甘いかもしれないが、ボクの腕ではこれだけ鷲を捉えられれば上出来の部類。下手に大きなレンズを持ち出すと、被写体の動きにレンズが振り遅れてしまうが、このレンズなら超望遠ズームとしては極めて軽量で、しかも鏡筒がコンパクトなので、振り遅れが少ないのが功を奏した形だ。
※共通設定:D500 / 1/4,000秒 / F5.3 / +0.7EV / ISO3200~ISO4000 / シャッター優先AE / 180mm(多摩動物公園で撮影)
当然ではあるが、ナノクリスタルコートは非採用。夕陽を画面内に入れて撮影してみても、淡いゴーストが出ることもあるが、思ったよりもフレアやゴーストは目立たない。むしろ強い光源が画角外にあるときにフレアが生じることがあるので、逆光気味の撮影にはできれば別売のフードを装着したほうが確実だ。
流し撮りにも挑戦してみたが、自動的に流し撮りを判別し、流し撮りを阻害しないような制御に切り替わるようだ。また、VRモードは[NORMAL]か[ACTIVE]かは不明だが、露光前センタリングが行われ、テレ端で横方向に動く被写体を連写で追うと、カットごとに微妙にフレーミングがずれるので、[SPORT]モードでないことだけは確かだ。
まとめ
以上、短い期間ではあったが、D500にAF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VRを装着していろいろ撮り歩いてみたが、とにかくカメラバッグが軽く、あちこち歩き回っても疲れにくいのがイイ。
フィルター径も58mmと小さめなので、羽田空港展望デッキのワイヤーフェンスにジャマされず、隙間からヒコーキを狙えるのも小口径ならではの強みだ。
念のため、カメラバッグの中にAF-S NIKKOR 300mm f/4E PF ED VR も入れておいたのだが、AF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VRの写りに特に不満を感じなかったので出番はまったくなかった。DXフォーマット用の超望遠ズームとして、小型軽量で写りも良く、コストパフォーマンスに優れた超望遠ズームなのは間違いない。