比較レビュー
キヤノンPowerShot G7 XはMark IIになって何がどう変わったのか
画質も操作性も着実に進化 新旧G7 Xを徹底比較する
2016年6月16日 09:50
4月に発売された「PowerShot G7 X Mark II(以下G7 X Mark II)」は、1型センサーを搭載するキヤノンのコンパクトデジタルカメラだ。
本機が属する「PowerShot Gシリーズ」には、本機と同じ1型センサー搭載機として、高倍率ズームモデルの「PowerShot G3 X」、EVF搭載モデルの「PowerShot G5 X」、薄型軽量モデルの「PowerShot G9 X」など、多彩なモデルが幅広くラインナップされている。これは、それだけキヤノンが1型センサーを搭載したプレミアムタイプのコンパクトデジタルカメラに力を入れているということだろう。
G7 X Mark IIは“Mark II”であるのだから、当然「PowerShot G7 X」(以下G7 X)という前機種の後継機である。
G7 Xは1型センサー搭載機のシリーズの中において、大口径標準ズームレンズを搭載しながらEVFを省略することで、持ち運びやすく普段使いに便利な程よいスペックで纏められた、スタンダード的な立ち位置のカメラであった。そうした経緯を考えれば、1型センサー搭載機で最も早く“Mark II”が登場した理由にも頷ける。
となると気になってくるのは、「G7 X とG7 X Mark IIはどこがどうどのくらい違うのか?」である。ということで、今回は操作感や描写に違いを中心として、G7 XからG7 X Mark IIへの進化を探ってみたいと思う。
新映像エンジン、DIGIC 7を搭載
撮像センサーは、G7 Xで2,020万画素、G7 X Mark IIで2,010万画素と、有効画素数にいくらかの違いがあるものの、基本的には両機とも同じ裏面照射構造の1型センサーを採用している。
固定搭載するレンズは、35mm判換算で24-100mm相当、両面非球面レンズ1枚、片面非球面UAレンズ1枚、片面非球面レンズ1枚、UDレンズ1枚を含む、9群11枚の標準ズーム。広角端F1.8、望遠端F2.8という大口径を誇り、G7 Xで高評価だった光学系をG7 X Mark IIが継承したかたちだ。
EFレンズにも採用されているスーパースペクトラコーティングが施され逆光にも強い。素性の良いレンズである。
内部的に大きく異なる点は、G7 XではDIGIC 6だった映像エンジンが、G7 X Mark IIでは新開発のDIGIC 7へと進化した点である。大幅に向上したという処理性能は、さらなる高画質化や低ノイズ化に大きく貢献しているというので、映像エンジンの違いによる画質の差は後程じっくり確認していこう。
DIGIC 7は画質だけでなく、カメラを制御する処理性能の向上にもかかわっており、例えばG7 XではCIPA準拠で3段分だった手ブレ補正効果(IS)が、G7 X Mark IIでは4段分になっている。
焦点距離100mm相当でシャッター速度1/50秒でも手ブレせず撮影できた。
高速で航行する船上から海ほたるを撮影。1/500秒の高速シャッターとはいえピタリと止めるのは、やはり高い手ブレ補正機能のなせるわざである。
DIGIC 7は省電力性能にも一役買っているようで、今回の試写においても、G7 XとG7 X Mark IIを同じ条件で撮影していると明らかにG7 X Mark IIの方がバッテリーのもちが良かった。使用するバッテリーパックは両機とも同じNB-13Lである。
やや大型化した理由は?
外観を比べてすぐ分かる違いは、G7 XにはなくG7 X Mark IIに新設されたグリップの存在。中指をひっかけられるようになっただけのことではあるが、これだけでカメラのホールディング性はずっとよくなることが実感できるのだからこの差は結構大きい。
前面のグリップにはラバー素材が貼られていること、カメラ背面の親指用グリップ部の形状が深く変更されたことも、ホールディング性向上の要因になっている。
背面の親指グリップも凹形状が深くなり、前面のグリップと合わせて確かなホールディング性に寄与している
G7 Xの外形寸法は、幅103mm、高さ60.4mm、奥行き40.4mm、重さが約304g(バッテリーおよびメモリーカード含む)であるのに対し、G7 X Mark IIの大きさは、幅105.5mm、高さ60.9mm、奥行き42.2mm、重さが約319g(バッテリーおよびメモリーカード含む)と、わずかに大きく重くなっている。
その違いの理由のひとつは、背面の液晶モニターの可動域が大きくなったことによるものである。パネル自体は約104万ドットと変更がないが、G7 X が上側に180度動くだけのチルト式であったのに対して(自撮りやローアングルには十分対応する)、G7 X Mark IIではヒンジが追加されたことで、上側180度に加え下側45度にも対応するようになり、ハイアングルでも楽な姿勢で撮影できるようになった。
液晶モニターを引き出しローアングルで猫を撮影。G7 Xより格段に自由度が増したのを実感する。
また、パッと見ではそれほどの違いはないものの、実際に使ってみると素晴らしく良くなったと思えるのが、背面コントローラーホイールと周辺ボタンの高さ(段差)の変更だ。両機を並べても違いに気づくのが難しい小さな変更であるが、このわずかな違いでホイールの操作感は全く違うものとなっている。
筆者はコントローラーホイールを操作する右手親指が短く太いいわゆるまむし指なので、小さなホイールを操作する時にいつも難儀していた。それだけに、こうした小さな親切には普通より大きく感謝してしまうのだ。
ちょっと大げさかもしれないが、コンパクトデジタルのチマチマしたホイール操作に苦労している人というのは意外と多いとのではないかなあ、と思うのである。
その他、外観上の目立った違いといえば、G7 X Mark IIに「クリック/スムーズ切り換えレバー」が新設されたこと。これは、コントローラーリングを回した時に、クリックありか無しかを選ぶためのもので、クリックありは、絞り値やISO感度など通常の設定でカチカチとした明確な操作を楽しむことができ、クリック無しでは、MF操作時のスムーズな微調整や動画撮影時の作動音低減に役立つ。
遠景描写で確かな画質向上を実感
さて、G7 XとG7 X Mark IIの画質実写比較であるが、まずは広角端(24mm相当)から確認したい。
とその前に、G7 XとG7 X Mark IIが搭載する1型センサーの画質特性をお約束としておさらいしておきたい。
1型センサーはコンパクトデジタルカメラ用の撮像センサーとしては大型といえる部類であるが、それでもデジタル一眼レフカメラなどが搭載するAPS-Cサイズや35mm判フルサイズの撮像センサーに比べればずっと小さいため、その分、画素数に対して相対的に画素ピッチも狭くなってしまう。
画素ピッチが狭いということは、回折の影響を受けやすいということ。デジタル一眼レフカメラと同じように絞り込むと、あっという間に回折現象で像が滲んで解像感が低下するということを理解しておく必要がある。
比較作例にもその現象は顕著に表れており、G7 Xの画像を見ると、開放F1.8からF2.8までは絞り込むほどに解像感は高くなるが、F4で早くも鮮鋭性が失われ始め、F8以上では明確に画像全体の解像感が甘くなってしまう。
ところが、G7 X Mark IIの画像を見ると、F2.8で解像感が最高となるのは同じであるが、F4以上に絞っても解像感の低下はほとんど見られず、高画質を維持していることが分かる。
つまり、G7 X Mark IIは絞り値の変化による画質への影響がほとんどなく、G7 Xよりも解像感において高画質であるということである。これは、G7 X Mark IIの映像エンジンがDIGIC 7となり、回折現象を低減する処理を行っている効果だと思われる。
また、画面周辺の画質に注目すると、G7 Xでは収差の残存があるため、結像がやや甘く像が乱れがちになることがあるのに比べ、G7 X Mark IIは周辺部でも像の乱れはほとんど見られない。画像の安定性という意味でも、G7 X Mark IIはG7 Xより高画質といえる。
望遠端では両機とも開放F2.8から2段絞り込んだF5.6で解像感が最高となるが、この場合も、G7 XではF5.6以降、絞り込むほどに回折の影響によって解像感が顕著に低下していくのに対し、G7 X Mark IIは絞り値が変わっても大きな画質劣化は見られず、安定した高画質を見せている。画面周辺の結像性能もG7 X Mark IIの方が明らかに高い。
G7 X Mark IIでは、映像処理能力の高いDIGIC 7が新搭載されたことによって、もともと高性能だったレンズと撮像センサーの能力がさらに高度に引き出された結果の高画質化といえるだろう。
近接撮影時の画質・ボケ味も向上
最短撮影距離は、広角端で5cm、望遠端で40cmとなっており、このスペックは両機とも同じである。
最短撮影距離では、絞りを開放にすると、いずれの焦点距離でもややハロの発生が見られるのが本機種が搭載するレンズの特性であるが、このわずかなハロが適度な柔らかさで被写体を包み、なかなか味わい深い柔らかなボケを生んでいる。
しかし、G7 Xではピントを合わせた被写体まで滲んでしまうという、場合によっては困ってしまうクセがあったのだが、G7 X Mark IIではレンズのもつ特徴的なボケ味はそのままに、ピント部分は滲むことなくクリアな描写をするようになった。
遠景だけでなく、近接撮影時においても、G7 X Mark IIはしっかり高画質化が図られていることが見て取れる。
さらに高感度性能も文句なしの進化
ISO感度はISO125からISO12800の間で設定でき、このスペックも両機に違いはない。
ただ、ノイズ処理を担当する映像エンジンが新しくなっているのだから、暗所撮影においてもG7 X Mark IIの進化は期待したいところ。結果からいってしまえば、やはりG7 X Mark IIの方が高感度特性は上だった。
基準感度となるISO125においてもそれは確認でき、比べるとG7 Xでは粒の大きな輝度ノイズが暗部に見られるのに対して、G7 X Mark IIは暗部の表現が非常に滑らかで、それでいて質感が失われるといったこともない。
両機ともISO3200やISO6400でも実用に耐えうる高感度画質を持ち合わせているものの、感度を高く設定しても色ノイズが少なく質感を保ち続けているのは、やはりG7 X Mark IIの方である。
画像の使用目的によって解釈は異なるが、G7 X Mark IIなら最高感度の12800でも十分実用できるといった印象である。
まとめ:画質・操作性とも確実に進化
本稿で取り上げた以外にも、ピクチャースタイルやNDオートの採用、リングファンクションの操作性向上など、G7 XからG7 X Mark IIへの進化点は数多くある。
この作例は、EOSでおなじみのピクチャースタイルのうち、「ディテール重視」で撮影した。G7 X Mark IIkからはピクチャースタイルが使えるようになった。
細かいところでは、再生で画像を確認しようとする度に、ズームレンズが広角端に戻されてしまうといった仕様が改善され、今回のように焦点距離を一定にしたいレビュー用の撮影では大助かりといった嬉しい変更もあった。
レンズ光学系をそのまま継承しながらも、画質は明らかに向上し、外観的にも内部的にも操作性が向上しているところは、さすがキヤノンが“G7 X 第二章”というだけのことはある。
始めに少し試用した段階では「これからコンパクトデジタルカメラを買うなら良い選択肢のひとつだね」という程度のまとめになるかと感じていたが、使っていくほどに有効で分かりやすいカメラ性能の進化を確信できたので、ここは感想を改めねばと思った。
G7 X Mark IIは、今現在コンパクトデジタルカメラ選びに迷っている人はもちろん、すでにG7 Xを愛用しているユーザーが買い替え、あるいは買い増しをして、決して損することのない実力派カメラである。