フォトアプリガイド:【iOS】Field Tools

〜レンズや撮像素子による被写界深度の違いを調べられる
Reported by 本誌:折本幸治

 今回紹介するのは、被写界深度をシミュレーションしてくれるiOSアプリだ。iOS 3.1以降のiPhone、iPod touch、iPadで動作する。ダウンロードは無料。

Field Toolsのメイン画面

 改めて説明するまでもなく、被写界深度とは、写真の中でピントが合っているように見える距離範囲のこと。写真表現において、どこからどこまでを被写界深度に収めるかは、撮影者の重要な判断のひとつとなる。「撮像面積」、「レンズの焦点距離」、「レンズのF値」、「撮像面から被写体までの距離」の組み合わせで被写界深度が変化するのは良く知られており、これらに加えて「許容錯乱円の大きさ」(写真上の最小分解能を表す値)をどう設定するかで、その結果は変わってくる。詳しいことは世の中にたくさん存在する他のWebサイトの解説に譲りたい。

 その被写界深度を数値で示してくれるのがこのアプリ。例えば「APS-Cサイズ相当の撮像素子のカメラボディ」に「焦点距離35mm F1.4のレンズを装着」、「絞りはF8」、「被写体までの距離は3.5m」。この条件で撮影すると……「被写体の前後9.3mは被写界深度に入る=それ以外はボケる」いったことがわかる。被写界深度は、数値で覚えるより体験を重ねて感覚で身に付けるものだと思うが、このアプリを使って数字で示してみると、変化の度合いがわかりやすい。

 基本的な操作は、被写界深度を知りたいレンズとカメラボディをあらかじめ記憶させておくことからはじまる。設定できるのは、レンズがレンズ名、焦点距離、開放F値、最小絞り値。カメラボディがカメラボディ名、許容錯乱円(撮像素子フォーマット)。設定した項目を呼び出し、スライダーでF値と被写体までの距離を指定すると、焦点距離が表示される仕組みだ。

レンズの設定。任意のレンズを記憶しておける。おおざっぱに「50mm F1.4」とかでもOK各レンズの設定項目。単焦点、ズーム、焦点距離、F値、、最小絞り値を設定。ズームの場合は、ここで設定した焦点距離(1種類)をもとに計測される
こちらはカメラ名の設定。ここからCircle of Confusion(許容錯乱円)を設定する35mmのほか、4:3やAPS-Cなどが揃っている

 選択できる撮像素子フォーマットは、汎用的な「35mm」をはじめ、「Nikon DX」、「Canon APS-C」、「Olympus 4:3」、「Panasonic 4:3」「Pentax 645D」、「Mamiya ZD」などそれなりに揃っている。「4×5 format」や「6×6 format」など、中判フィルム用のプリセットもあるのもうれしい。ただし、APS-Hについては、初期設定はライカM8とライカX1を一緒にした「Leica M8/X1」という、いささか怪しげなものしかないのは気になった。

 このアプリが威力を発揮するのは、広角レンズにおけるパンフォーカス撮影のときだろう。手前から無限遠までが被写界深度に含まれる状態をパンフォーカスと呼ぶ。パンフォーカス時にはピント合わせの手間が省けるので、スピーディに撮影できるというわけだ。

 そもそもレンジファインダーカメラで超広角レンズを使う際に多用されるテクニックだが、広角レンズを搭載、または装着したコンパクトデジタルカメラやミラーレスカメラでも利用できる。このアプリを使えば、こうした目測パンフォーカス撮影を事前に、あるいは撮影現場で、ある程度シミュレーションすることが可能になる。

AF-S NIKKOR 24mm F1.4 Gで距離3mの被写体をF値を変えながら撮影したと想定。F値が変わるごとに被写界深度も変化するのがわかる

 正直にいうと、この手の機能は、撮影便利機能を集めたアプリの中の一機能として良く見かける。中にはグラフィカルなものもあり、その点、本アプリは単機能(名称はField Tool“s”だが)かつ表示も数字が中心なため、地味な印象を受けるかもしれない。その代わり、起動の速さやシンプルな操作性を特徴としており、撮影現場で被写界深度だけを素早く確認したいときこそ、実力を発揮してくれる。

 不満点はスライダーの操作がシビアで、思った数値で止められない点。例えば「被写体までの距離3m」など、切りの良い数値をぴったり設定するのが難しいのだ。どのみち被写体までの距離は目測になるため、厳密に設定する必要はないのかもしれないが、数値入力の手段も欲しいところである。

 他の撮影関連アプリに比べると物足りない印象も残るアプリだが、目的に特化したシンプルな造りが好印象。パンフォーカスを数値で知りたい人、あるいは超広角レンズユーザーなら、インストールしておいて損はないアプリだ。



本誌:折本幸治

2011/11/21 00:00