インタビュー

メーカーインタビュー2013:導入編

インタビューに先立ち、まずは目立った動向を振り返る

 本誌では毎年、カメラメーカー幹部へ、業界全体を俯瞰しての戦略について話をきくインタビューを実施してきた。多くの場合、フォトキナやPMAなどのイベントに合わせたものだったが、今年はフォトキナが開催されない年でもあり、年の瀬を目前とすることになった。そこで今年一年を振り返り、そして来年に向けての意気込みを尋ねるインタビューシリーズを掲載することにしたい。

 本稿はインタビューに先立って、各社に向けて投げかけたメールをベースとしている。今年1年のトレンドを振り返るとともに、現在のデジタルカメラ業界に対する素朴な疑問をまとめたものだ。

 ただし、本稿はそれで完結するものではない。各社のインタビュー記事を目にするとき、どんな意図をもってインタビューに望んだかを伝えるものだ。各社幹部へのインタビューは、ほぼ今回のコラムに添う形で進めている。

大きな節目となった今年のデジタルカメラ市場

 年末商戦に向け、デジタルカメラの新製品が目白押しだが、今年はとりわけ話題性の高いカメラが多い。カメラ製品は2年に1度、大きな発表が行なわれることが多く、ドイツ・ケルンで隔年開催されているフォトキナで、事業戦略にかかる大きな発表があるのが通例だった。いわば“狭間の年”である。

 しかし、今年はノンレフレックスカメラ(いわゆる“ミラーレスカカメラ”、“ミラーレス一眼”)関連での、注目を浴びる発表が相次いでいる。

 たとえばパナソニックが発表した「LUMIX GM」(LUMIX DMC-GM1)は、コンパクトカメラ並のボディサイズに、マイクロフォーサーズ規格のレンズ交換式カメラのフル機能を盛り込むことに成功した。小さいだけでなく、マニアから初心者までカバーする作りがパナソニックらしいが、ここまでの小型化を想像した人が、どれだけいただろう。シャッターのメカ部に制限があるなど、小型化を優先させたことによる割り切りはあるものの、エポックメイキングな製品であることは間違いない。

レンズ交換式カメラで世界最小を標榜するパナソニックの「LUMIX DMC-GM1」(11月21日発売)

 オリンパスはレフレックスミラーを搭載する“一眼レフ”カメラのフォーサーズシステム規格から事実上撤退し、ミラーレスのマイクロフォーサーズシステム規格にカメラ開発の資源を集中させると9月に発表した。両規格用のレンズが持つ性能を、マイクロフォーサーズ規格のカメラだけで引き出せるという技術開発があったためだ。

 “撤退しないと言っていたのに、事実上のフォーサーズ撤退ではないか”との声もあるが、同社は「両規格を統合した」と説明している。しかし、発表時に投入された新機種「OM-D E-M1」を見れば、なるほど“統合”という言葉の意味が見えてくる。

オリンパスの新たなフラッグシップモデル「OLYMPUS OM-D E-M1」(10月11日発売)

 ミラーレスカメラ(ノンレフレックスカメラ)は、素早く場面を切り取る速写性やファインダー像の質などで、一眼レフカメラには及ばない。しかし、それらプロやマニアが拘る要素を求めないのであれば、ボディ・レンズともにコンパクト化が容易なミラーレスカメラの価値は高い。だからこそ、ミラーレスカメラが一眼レフ市場をある程度まで侵食できた。

 もっとも、一眼レフを主力としているキヤノンやニコンから見れば、まだまだミラーレスカメラは“傍流”であろう。世の中の雰囲気で言えば、ミラーレスカメラは“一眼レフ未満、コンパクトデジカメ以上”である。

 世界の市場動向を見ても、日本は絶好調。アジアもインドを除けば堅調で、なかなか拡がらなかった中国も、ジワジワとミラーレスカメラが伸びてきているが、欧米では、市場拡大につながる大きなトレンドは見つかっていない。

 とはいえ、足踏みもできないが現在の状況だ。

 昨今のトレンドとして、オートフォーカス性能・速度向上が加え、ミラーレスカメラが持つ欠点を見事に解決しつつある。連写中にファインダー像を確認しづらいといった欠点は残っているものの、いっぽうでは新方式故の従来にはなかった商品が生まれており、プラスマイナスで決してマイナスにはなっていない。

 上記のOLYMPUS OM-D E-M1も、位相差検出式のオートフォーカスを利用できる仕組みを撮像素子に内蔵したことで位相差AFを可能とし、過去のフォーサーズ用レンズを含めた全レンズの性能を引き出せるようになり、2つに分かれていたカメラの”統合”を果たした。位相差検出式と、ミラーレスカメラが一般的に採用するコントラスト検出式を組み合わせれば、オートフォーカス速度と精度を両立させることもできる。

 撮像素子に位相差検出画素を搭載したのは富士フイルムのコンパクトデジタルカメラが最初だが、この技術はミラーレスカメラを採用する多くのメーカーに拡がりを見せている。その端的な例がソニーの発表したα7だ。α7は35mmフィルムと同サイズ(いわゆる“フルサイズ”)の有効約2,430万画素CMOSセンサーを採用しているが117の位相差検出画素が埋め込まれ、ミラーレスカメラながら一眼レフカメラと遜色ない撮影感覚を実現している。

35mmフルサイズセンサーを搭載した初のミラーレスカメラにして、位相差AFに対応したソニー「α7」(11月15日発売)。有効3,640万画素でコントラストAFのみの「α7R」も同時に発売された。

 一眼レフカメラが持つ光学式ファインダーの良さは変わらないが、様々な面で不利を克服する技術開発が行なわれ、それが一気に商品の力として吹き出してきているのが、今年のカメラ市場と言える。

 ここまでに至るには、ソニーをはじめとする各社がノンレフレックス方式に対し、かなり前のめりに投資をしてきたという経緯・背景もある。レンズ交換式カメラではキヤノン・ニコンが2強を形成し、その立場は揺るぎないものになっている。

 しかし、一眼レフカメラとミラーレスカメラでは、システム構成が大きく異なり、両立させることは難しい。一眼レフカメラ用のレンズは位相差AF向けのレンズとコントラストAF向けのレンズでは、転用に物理的な問題があるためだ。”2強”がミラーレスカメラで苦戦を強いられているのは偶然ではない。既存規格での優位性が、新規格への踏み込みを甘くしているからではないだろうか。

 今年、ミラーレスカメラが、一段の進化を遂げた背景のひとつには、上記のように現在、一眼レフ市場では圧倒的な2強となっている各社の踏み込みの甘さと、2強対策を他社が進めたこと。この2つが重なった結果とも考えられる。

 現時点では、ミラーレスカメラは日本を中心にアジア地区だけで盛り上がっているだけで、欧米ではまだまだ発展途上というのが、老舗メーカーの主張であろう。しかし、それがずっと続くわけでもないことは容易に想像できる。

 とりわけソニーの思い切った攻勢は目立っている。ソニーはレンズ交換式カメラ事業を強化するにあたり、2005年にコニカミノルタと提携。同社の撤退が決まると該当部門をまるまる買い取り、フィルム時代に形成されたカメラ技術と顧客ベース、レンズ資産などを引き継いだ。

 当初は既存のミノルタ製カメラユーザーに対し、伝統的な光学技術を活かした製品開発を行なっていたが、顧客ニーズの把握や流通経路の確保が進むにつれて独自路線へと舵を切り、昨今はミラーレスカメラのNEXシリーズへと軸足を移していた。

 そこに投入したのが、35mmフルサイズセンサーを搭載するミラーレスカメラのα7Rとα7。撮像素子が大きくなれば画質も上がるが、ボディ・レンズともにサイズアップ。一眼レフ方式に対するサイズ面での優位性は大幅に縮まる。従来のNEX用レンズでは実力を発揮できないため、新レンズの開発・流通といった負担も増える。

 しかし、それでもα7発売へと向かったのは、カメラ市場において他社が挑戦しない、作れない“プレミアム製品”を生み出していくことが重要だと考えているからだろう。

スマートフォンとデジタルカメラの魂は共存できるか

 ご存知のようにデジタルカメラ市場の裾野を支えていたコンパクトデジタルカメラは、2万円を割り込む価格帯が中心となった上、スマートフォンの画質向上とともにゴッソリとユーザーを奪われ、収益性が大きく低下している。

 各社がプレミアム製品に力を入れているのは、このためだが、“プレミアム・コンパクト”へと大きく舵を切ったのは、もはやコンパクトカメラでボリュームゾーンを取っても利益にならないことを予測していたからだ。

 エレクトロニクス事業の構造を「スマートフォン+プレミアム製品」へと転換していくソニーの新しい戦略については、別途記事を参照いただきたいが、“写真撮影”の原体験がスマートフォンになっている以上、スマートフォンにはない特徴を磨き込み、一目瞭然で心地よさや美しさを感じさせねばならない。ニコンはCOOLPIX Aを発表。APS-Cサイズのセンサーを搭載した点が特徴だ。

 ソニーの思惑通りにプレミアム・カメラでの存在感を高めて行けば、一眼レフカメラ市場で盤石の体制を持つキヤノン・ニコンもうかうかとはしていられないだろう。もちろん、ソニーがミラーレスにさらに投資をしていけば、関連する技術も進歩する。それらは他のミラーレスを主戦場とするメーカーの商品価値も押し上げるだろう。

 レンズ交換式カメラ市場は、ここで新しいフェーズへと突入しようとしている。

※来週より各社のインタビューを掲載いたします。ご期待ください。

本田雅一