写真展レポート

写歴76年を超えてなお「写真は頂くもの」。広田尚敬さんが今も軽やかにシャッターを切る理由

広田尚敬写真展「鉄道写真」

広田尚敬さん

広田尚敬さんは14歳から写真を始めたというから写歴は76年を超す。「家族に止められているんだけど」と言いつつも、今も思いついた場所へ鉄道を撮りに行く。最近は枕崎へ行った。

「カツオが美味しそうだと思ってね。けれど撮影に忙しくて、結局食事はコンビニなんだ」と広田さん。行動も発想も自由奔放だ。

本展は写真集『鉄道写真 広田尚敬』(2025年、小学館刊)と、『鉄道写真』(2026年、キヤノンマーケティングジャパン刊)からセレクトした写真と新作が並ぶ。

鉄道は何のためにあるのか

広田さんが捉える題材はさまざまだ。鉄道を中心にそこに集まる人や周囲の風景を広い視点や、クローズアップで捉える。作者の興味、着想の幅広さが写真にバリエーションを与える。時には鉄道の痕跡が背景に溶け込んでしまうこともある。

「鉄道は何のためにあるのか」

写真を撮り始めた時から、そうした疑問や興味が根底にあった。1950~60年代当時は鉄道車両をセオリー通りに写すことが絶対だった時代だ。

「鉄道は車両だけで存在しているわけではない。それで乗客や駅員さん、周囲の風景を入れて撮り始めました」

当時のセオリーとしては、「車内で人を入れると椅子が隠れる」、「沿線の花を写すと花が邪魔。電車が小さくなる」、「蒸気機関車は架線の下で撮ってはいけない」、「車庫では窓を閉めて撮れ」などがあったという。

窓について広田さんは、「車両によって窓の開け具合が違う。だから僕は開けて撮った方が面白いと思った」と語る。また、「車両は左右で形が違うから、僕は両サイドを撮りたい。すると『逆光側は撮るな』と言われる(笑)」とも。

撮影時の心残り、今でも……

撮影では事前にロケハンはなるべくしない。撮影当日、駅の周辺を歩き、その場の風景を見て感じ観察する。

「動くと身体が活性化し、脳も働く。そこから撮りたいものが見えてきます。写真はあくまで『頂くもの』だと思っています」

撮影者がイメージを作るのではなく、眼に入るものに反応して撮る。

「木の枝が邪魔だから切るなんてもってのほか。枝ぶりが悪かったら、今回は諦めて、いつか思い出した時、また来ればいい」

鉄道写真は大きな車両が被写体故に、被写体との距離が遠い。

「最近、『すべては距離感である 写真が教えてくれた人生の秘密』という本を読んで、共感しました」

中学3年の時、鉄道を20mほど離れて撮り、自作の鉄道模型を接写で写した。

「もっと近づきたいと思い、カメラのレンズに付いたストッパーを外して、レンズを繰り出して撮った。少しボケてたけど、凄く温かい感じのする1枚でした」

機関区、電車区に入り、車両を撮っていた時には、大型カメラを自作した。当初は自由に撮らせてもらえていたが、時代とともに部外者の出入りが厳しくなり、許可を得た上で、ごく限られた時間で撮らざるを得なくなった。

「大型カメラは撮影前のセッティングに時間がかかる。カメラを置いたら、すぐに撮影できるように、アオリやレンズ部などに手を加えました」

今も時折、その撮影時の心残りが夢に現れる。ドイツの「ダゴール」を使ったらどうだったか。なぜ「トプコール」を使わなかったのか。

こうしたこだわりも広田さんの世界を作る重要なファクターの一つだ。

失われゆくものも

会場を奥に入った壁面に、森の中の雪に埋もれた光景がある。一見、鉄道にまつわるモチーフは皆無だが、広田ファンなら「下北半島にある森林鉄道の廃線跡」だと答えるそうだ。

旅の取材で行き、本当に鉄路が残っているのか、シャベルを調達し掘って確かめた。

「一人だったから時間がかかった。雑誌には雪の下から現れた線路を写した写真も載せた」

また会場を入ってすぐの場所にある、幻想的に青く光る1枚も来場者を戸惑わせるだろう。これは機関車の模型が配置されている。

「高精細でピントが良い、デジタルカメラだから撮れるようになった写真です」

EOS R5 Mark IIとRF50mm F1.2 L USMを使い、背景までも意図通りに描写できるようになった。

こうした写真は鉄道が直面する現況と、鉄道の未来を考えて撮られている。ローカル線は衰退の一途をたどり、1996年度からの30年間で66区間、1,366kmが廃止された。

ベッドの上でも鉄道写真

広田さんの次男で鉄道写真家の故広田泉さんが駅や山の中、踏切近くなど撮影地で「ごみ拾い活動」を行なっていた。その延長で、有志が集まり、廃線跡の草刈り活動も始められた。

「鉄道の魅力を一人でも多くの人に知ってもらいたい。模型を使い、夢の鉄道を作って見せていきたい」

また、模型を使うことは、高齢になった広田さんの望みもかなえてくれる。

「近所や家の庭、掌の上でも撮れる。出かけなくていいんだからね。ベッドの中でも撮れるんじゃないかな。木村伊兵衛さんが撮った最期の一枚はベッドの中から撮った時計らしいからね」

全身鉄道写真家はそう言って笑う。

写真展概要

展示名

広田尚敬写真展「鉄道写真」

会場

キヤノンギャラリー S

開催期間

2026年5月14日(木)~2026年6月22日(月)

開催時間

10時00分~17時30分(日曜祝日休館)

入場料

無料

ギャラリートーク

日時

2026年6月13日(土)14時00分~15時00分
2026年6月20日(土)114時00分~15時00分
※事前申込不要。混雑状況により入場制限あり。

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォトギャラリーガイドでギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。