写真展レポート

「アレック・ソス 部屋についての部屋」(東京都写真美術館)

初期から最新作まで約60点を展示

写真展「アレック・ソス 部屋についての部屋」で作品を解説するアレック・ソス

東京都写真美術館で10月10日(木)より、写真展「アレック・ソス 部屋についての部屋」が開催されている。初期を代表するシリーズ〈Sleeping by the Mississippi〉から、今秋刊行の最新作〈Advice for Young Artists〉まで、アレック・ソスの作品約60点を6つのセクションで展示した内容になる。

プレス向けの内覧会では、来日したアレック・ソス自身による解説を交えながら進められた。その模様をもとに、同展を紹介したい。

アレック・ソスはマグナム・フォトの正会員であり、世界的に注目される写真家の1人だ。会場の構成は時間軸で彼のシリーズをたどっていくが、トータルでは「部屋」というテーマで編み直した。

「僕の写真に共通しているのは、何かに対して焦がれて止まない思いと孤独感であるということ」とソスは話す。

展示は6つの部屋に分けられ、1つ1つの空間で呼応・共鳴するシリーズを置く試みも行なっている。

本展が企画されたのは約5年前。ソスは国内外の舞踏家や小説家などさまざまな人を訪ねたシリーズ〈I Know How Furiously Your Heart is Beating〉をまとめたころだった。彼ら、彼女たちをプライベートな空間で人と私物を撮影した。

アレック・ソス《Anna, Kentfield, California》〈I Know How Furiously Your Heart is Beating〉より 2017年 東京都写真美術館蔵 ©Alec Soth

「写真は現実をあるがままに写し、伝える特性とともに、そこに写されていないものを想像させるメディアでもある」

それはソスが早くから意識的に取り組んできたことだ。

写真を始めた頃はただあらゆる場所に出かけ、彷徨い、出会ったものを撮影していたが、「どの写真にも共通する空気感を感じる」。

当時、知り合った人とは、できれば家に招かれることを目指した。

相手といかにスムーズに打ち解けられるか。それには「ボディランゲージが有効だ」と話す。

「例えばコロンビアのボゴダで撮影した時、僕はスペイン語は話せないから、身体的なコミュニケーションで向き合った」

実際、このプレス内覧会の日もソスは熱心に身振り手振りを交えて話していた。

雑誌の仕事も多くこなす。

「取材のサポートが受けられるから好きなんだ」と話す。2015年、『ニューヨークタイムズマガジン』は旅をテーマにした特集号で、ソスに依頼した。

「世界中、どこに行っても良いと言われたので、東京、パークハイアット東京に泊まりたいと答えた」

その着想にはソフィア・コッポラの出世作である映画『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年公開)がある。

「以前も日本には来たことがあるが、面白いけど謎だらけだった。だから今度は僕が街に出るのではなく、この部屋に東京を手繰り寄せ、僕のイマジネーションの中で体験したニッポンを写真にしようと考えた」

自らがベッドでくつろぐ姿が、都市に浮遊していくようなイメージは、掲載誌の表紙に選ばれた。

「それはこの写真を何百万という人が目にしたということなんだ」とおどけた感じで言う。

〈I Know How Furiously Your Heart is Beating〉を展示した5つ目の部屋を「この展覧会の核心」とソスは示す。タイトルを訳すと「どれだけ激しくあなたの心臓が鼓動してるのかを知っている」。

「自分と被写体の関係性だけでなく、交流するエネルギーの存在に気づけた。それは私にとって重要な意味を持つ」

最後の部屋では、初公開となる最新作〈Advice for Young Artists〉などが並ぶ。

アレック・ソス《Still LifeⅡ》〈Advice for Young Artists〉より 2024年 作家蔵 ©Alec Soth

「年齢を重ね、自分がなぜ写真家になったか、表現をするのかを考えるために取り組んだ。全米約25ヵ所の美術大学で、学生たちの創作の現場に一緒に入り、追体験した。非常に楽しい撮影だった」

「どこかで、これは何だろうと思う写真があるはず。それこそが僕の狙うことで、重要なことだと思う」とソス。

本展でしか見ることのできない彼の世界が感じられるはずだ。

アレック・ソス《Two Towels》〈Niagara〉より 2004年 作家蔵 ©Alec Soth
アレック・ソス《Bil, Sandusky, Ohio》〈Songbook〉より 2012年 東京都写真美術館蔵 ©Alec Soth
アレック・ソス《Untitled 07》〈Dog Days, Bogotá〉より 2003年 東京都写真美術館蔵 ©Alec Soth

会場

東京都写真美術館

開催期間

2024年10月10日(木)~2025年1月19日(日)

開催時間

10時00分~18時00分(入館は閉館時間の30分前まで)
木曜日・金曜日は20時00分まで。1月2日(木)、3日(金)は18時00分まで

休廊

月曜日
※月曜日が祝日の場合は開館し、翌平日休館
※年末年始(12月29日~1月1日)

入場料

一般:800円(団体640円)
学生:640円(団体510円)
中高生・65歳以上:400円(団体320円)

主催

公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都写真美術館

協賛

東京都写真美術館支援会員

アーティストトーク(定員190名)

2024年10月12日(土)14時00分~16時00分

ギャラリートーク

2024年10月18日(金)14時00分~
2024年12月6日(金)14時00分~(手話通訳付き)
2025年1月10日(金)14時00分~(手話通訳付き)

作者プロフィール

1969年アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス生まれ。現在も同地を拠点に活動。これまでに、『Sleeping by the Mississippi』(Steidl、2004年)、『Niagara』(Steidl、2006年)、『Broken Manual』 (Steidl、2010年)、『Songbook』(MACK、2015年)、『I Know How Furiously Your Heart is Beating』(MACK、2019年)、『A Pound of Pictures』(MACK、2022年)など、数多くの作品集を出版。
「Alec Soth: The Space Between Us」(ジュ・ド・ポーム、パリ、2008年)、「From Here to There: Alec Soth's America」(ウォーカー・アート・センター、ミネソタ、2010年)、「Gathered Leaves: Photographs by Alec Soth」(メディア・スペース、ロンドン、2015年)など個展も多数。2022年には日本の美術館で初の個展「アレック・ソス Gathered Leaves」(神奈川県立近代美術館 葉山、神奈川)が開催された。2004年に国際的な写真家集団「マグナム・フォト」に参加し、2008年より正会員。2008年から出版や教育活動を行うレーベル「Little Brown Mushroom」を主宰している。

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォトギャラリーガイドでギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。