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「インプレス・フォトスクール」開校記念イベントレポート

辛口の公開フォトレビューで盛り上がる

公開フォトレビューの様子。左から大和田良さん、岡嶋和幸さん、鶴巻育子さん

「インプレス・フォトスクール」の開校を記念したトークショーと公開フォトレビューが9月3日に開催された。インプレス・フォトスクールはインプレスが10月に本格開講する「写真表現」に重きを置いた写真教室。すでにプレ開講として講座を開いている。

インプレスフォトスクールの詳細はこちら
http://school.ganref.jp/

今回のイベントではインプレス・フォトスクールで講師を務める岡嶋和幸さん、大和田良さん、鶴巻育子さんの3名が登場。40名ほどの参加者が集まり、半分以上を女性が占めた。

公開フォトレビューは、あらかじめ決まった3名が自身の作品を講師に見せてプレゼンし、批評を受けるというもの。他の参加者も見ているとあって、作品を見せる参加者は緊張した様子で作品の説明を行っていた。

1人7~10点のプリントを机に並べると、他の参加者も興味深そうに眺めていた。

綺麗なだけの写真は選ばれない

1人目の女性は日常のスナップなどの作品を出した。まず大和田さんは街中で知人を撮ったポートレートの写真を高く評価。「この写真以外は、ただ前にある物を撮っているだけという感じ。でもこれはあなたにしか撮れない写真。僕だったらこの写真を手がかりに作品を作っていく。他の人物といういらないノイズがあることでリアリティを感じる写真になった」(大和田さん)

「身近な人や物をもっと撮ると良い。旅が好きとのことだが、一緒に行く人をモチーフに撮るアプローチも自分しか撮れない写真になる。また、撮ることも良いがセレクトの意識も変えていくと、今まで撮った作品から個性的な写真が残せるようになる」(岡嶋さん)

「写真を見る側から言えば、綺麗な写真は見慣れているので基本的に外れることになる。撮った人は綺麗に撮れているので残しがちだが、フォトコンテストなどでは残らない。綺麗さを元から追い求めていない写真のほうが強くて、結果的にすごく美しいということが必要だと思う」(大和田さん)

組写真で多い“余計な1枚”

2人目は、栃木県の近代建築を撮影しているという男性。以前に岡嶋さんから水平垂直をきちんととるようにとのアドバイスがあったことから、85mmレンズ1本で撮影したそうだ。

「水平垂直は大事ですね。そこからどう崩すかということもありますが、基本的には意識しますね」(大和田さん)

「全体的に感じたのは捉えている光の印象に対して、用紙選択(マット紙)とそれに付随する画像処理がちょっと……ということです」(岡嶋さん)

「僕だったらバライタっぽい質感のある紙を使いますね。そうでないと黒の階調が活かせなくなる。全体的に黒の面積が多いが、その黒がモヤっとしてしまっている」(大和田さん)

「階調の繋がりということでは、光沢がある紙の方が色再現や階調表現には余裕があるぶん、しっかりと捉えた光を表現できるプリントになると思う。その方が画像処理にも負担がかからない」(岡嶋さん)

「セレクトで言えばこの写真(右下)が入っていることが残念。それが全体のレベルを落としてしまっている」(大和田さん)

「これも(その隣り)ですね。他のに比べてかなり人気(ひとけ)を感じてしまいます。組写真では余計な1枚が入ってしまっているというのが多いですね」(鶴巻さん)

「組写真の中にレベルの差があると、1番低いレベルの写真でその人の評価が決まる。1番良い写真で決まるということはない。ほとんどの審査員がそうだと思います」(大和田さん)

「組写真では明るさなどを画像処理でごまかした写真は浮いて見えてしまうんですね。単写真では比較対象がないのでごまかせることもありますが。なので、写真で大切なのはまず適正露出ということ」(岡嶋さん)

「撮っている意識が何に向いているのかということでは、この2枚は違和感がありますね。特に文字が入っているのはそれをどうしても読みに行ってしまうので。花が置いてある写真も誰かが花を置いている動作を想像させるのが、現実的すぎると思いました」(鶴巻さん)

この男性からは「白トビが怖いために適正露出よりも少しアンダーに撮っている」との説明があった。それについて鶴巻さんは、「光が違うのだから全部が見えるというのはかえっておかしい。白トビが自然なこともある」と説明した。

光を読むことが写真では一番重要

3人目の男性は風景写真や子どもの写真などを見せた。風景写真はハーフNDフィルターなどを活用したとのこと。

「風景写真を撮る人はハーフNDフィルターや画像処理で暗部を持ち上げたりをするが、個人的には山の向こうから光が来れば手前が暗くなるのは必然。むしろそこが見えているのが写真的にどうなのかと思った。肉眼で見えているように再現するのではなく、僕だったら空だけなどをを切り取るなどして組写真にする。その方が、その場所の情景が伝わりやすくなるのでは」(岡嶋さん)

「私が気になったのは、全体的にシャッターを撮る前の時間が長すぎるということ。考えすぎていて瞬間的な軽やかさが感じられない。それと、光を捉えていながらあまり光を読めていない感じが写真から伝わってくる。光が読めるようになるだけで写真は全然違ってくる。風景に対してももっと光を読むことを意識すると良い」(大和田さん)

「風景で言えば、順光なのか逆光なのかというのがあり、それらによる質感描写の違いなどを自分の中で理解する必要がある。顔に対しても、どの光だと輪郭が綺麗に見えるのかといったことを知る必要がある。写真は光を読む以外の技術はあまり重要ではないと思う。光の読み方に特化して訓練することで最終的に写真は凄く上達する」(大和田さん)

参加者からあった「どうすれば活かせるようになるのか?」との質問に大和田さんは、「自分はこの場所の光が好き、というのを決めるのが1番良い。光の位置、被写体の位置、ロケーションなどの組み合わせをいくつか覚えておくと、それを基に変えていくと良い。それをやっていくと相当光を使いこなせるようになる」と応えた。

最後に「デジタルカメラマガジン」(インプレス刊)の福島晃編集長が、「なんだかんだいっても、自分の好きなように撮るのが1番良い。ただ、いろいろ経験値を積んでいくことを考えれば、アドバイスを試すことも大切。新しいやり方が良いのか、今まで通りで良いのかトライしてほしい」と話した。

参加者の1人(3人目の男性)は、「写真は瞬間が写ってるだけのはずなのに、撮影の時に時間をかけていることまでわかったのには驚いた。アドバイスを聞いて、細かいことを気にせずにトライしていきたいと思った」と感想を述べていた

なおトークショーでは、講師の3人が写真家になったきっかけや、自身の作品についてのエピソード、好きな写真集を披露。こちらも大いに盛り上がっていた。

トークショーの様子。左から岡嶋和幸さん、大和田良さん、鶴巻育子さん、福島晃編集長
岡嶋和幸さんの作品。藤原新也氏の小説の舞台になったディングルで撮影
大和田良さんの作品。さいたま市大宮盆栽美術館の名作を撮影した
鶴巻育子さんはハワイの作品。「ハワイは好きではないが、そういう場所を撮ったらどうなんだろうと思って始めたシリーズ」とのこと