デジタルカメラマガジン
同じ場所で2つのイメージを撮影してみよう!
デジタルカメラマガジン10月号特集「2バリエーション テクニック」より
Reported by デジカメWatch編集部(2015/9/18 12:00)
本日発売「デジタルカメラマガジン2015年10月号」の特集1は、「1つの現場から異なる2つのイメージを表現する!!『2バリエーション テクニック』」です。各ジャンルの写真家12人がイメージを変えた写真の撮り方を解説しています。
それは非常にもったいないことなのだ。写真家は同じ撮影場所でもイメージを変えて写真を作る。ただアングルを変えるだけではない。イメージを実現するために、レンズを変えてパースをコントロールし、色も大胆に変化させている。
ここでは、そんなテクニックの一部を紹介したい。
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撮影時刻で撮り分ける(山下峰冬)
夜の空のイメージを撮り分けるには、何を主題にするかがポイントとなる。撮影場所に着いたのは月の入り時刻の約1時間前。月光を利用して空のグラデーションを美しく表現するには絶好の時刻である。期待どおり、低い月が夜の風景に陰影をつけてドラマチックに浮かび上がらせていた。
静かな夜の灯台と月の共演を幻想的に表現したいと考えて、月が海へ沈みゆく光景が見渡せる高台へ向かった。そこでしんとした灯台のある夜景を撮影した。月が沈んだ後は、撮影ポイントを変えて満天に輝く星を主題にしてきらびやかな夜を表現する。夜空の撮影は撮影時刻と撮影する方角でイメージを変化させる。
Pattern RED
「月光による空のグラデーションをドラマチックに描く」
広い風景をとらえるため(A)広角レンズを使用する。灯台が不自然に歪まないように灯台と水平になる場所で三脚を立てた。夜の印象は(B)WBを白熱電球にして青味を出すことで強調。思わず絞り込みたくなるシーンだが、あえて月はぼんやりと描写して夜の曖昧なイメージを誇張することとし、ピントは灯台に合わせて絞りは開放のF2.8を選択した。
一方で灯台は鮮明に描写し、空間を引き締めて月夜の凛とした空気感を表現したい。そのため灯台の光源付近の白飛びを抑えることに注力して、(C)シャッター速度は10秒にした。ISO感度は空の階調を損なわぬようなるべく低くしたい。ISO 800で露出のバランスがとれた。上空の雲の流れを写し撮って、幻想的な表現とした。
詳細テクニック
(A)広角16mmで奥行きを作る近景に足下の草、遠景に月光に輝く水平線を見せることで灯台の前後に遠近感が生まれた。縦横だけでなく、広角レンズ特有の奥行きへのスケール感を月光での撮影にも生かしたい
(B)白熱電球で空の青を強調
水平線に近づいた月は、太陽と同じく黄色から赤い光を帯びはじめる。WBがオートだと夕焼けのように写ってしまうので、ここでは白熱電球に設定して現地で感じた印象を強調した
(C)白飛びを防ぐため10秒の露光がベスト
灯台は照射しながらゆっくりと回転していた。そのため、ポイントによっては白飛びしてしまう恐れがあった。そこで、灯台が照射する間隔を計り、照射のタイミングが少なくなるようにシャッター速度を10秒にした
Pattern BLUE
「夜空に輝く満天の星をきらびやかに写し止める」
満点の星空を写すため、月の残照がある西の空が狙える撮影場所から(A)北の空が狙える撮影場所へ移動する。東の空はまもなく夜明けに向けて白み始める時刻で、南の空は街灯の光害を受ける可能性があった。唯一、漆黒の空が広がっているのが北の空だった。(B)下から灯台をあおるアングルで撮影に挑む。
星空を広く入れながらも灯台の存在感を保てる画角を探り、焦点距離は18mmに決定。そして星を点像で写すために(C)シャッター速度は30秒に設定。絞りは開放のF2.8にする。ISO 2500で灯台の形が分かる明るさになった。なお、灯台の光源部分の白飛びは気にしない。恒星のごとく輝くインパクトを強めるため、思い切って星と同じく光を「点」で表現しようと考えた。
第三者の目と主観を表す(茂手木秀行)
閉鎖され、打ち捨てられた公園を見つけた。夏の日差しにさらされて壊れたシーソーはノスタルジーを感じさせるのに十分だったが、それは自分自身の記憶だけではなく、SF映画の中にあるような遠い昔に滅んだ文明を懐かしんで見るような感覚だ。
それゆえ、自分の懐かしい記憶ではなく、少しこの公園跡地を客観視した第三者としての視線でこの場所を表現したいと思った。さらに、古いシーソーを使って、今度は自分を写真の中に投影して1人称のノスタルジーを表そうと思った。この場所全体を俯瞰したノスタルジーではなく、自分自身の記憶の中にある1コマを表現するのだ。
Pattern RED
「閉鎖されて誰もいなくなった公園跡でノスタルジーを感じさせる」
感覚的な表現とならないようシーソーとその架台がつくる十字型が幾何学的な伸びやかさを感じさせる場所から撮影した。(A)絞りはF2としてピントはシーソーと架台の接合部に合わせている。F2としてとしたのは主題の前後にボケを作り、立体感を出すため。同時に雑木を前ボケとして取り込むことで距離感を強調した。これは過去の時間を見ているということを明確にするためだ。
ISOは64、露出モードは絞り優先AEとしたが、明るい絞り値なのでシャッター速度は1/2,500秒となった。現像するときに(B)露出補正を-1.0EVして、日が当たったハイライト部分の情報を残した。また、(C)WBを9,900Kにすることで全体を暖色にし、
懐かしさを演出した。
詳細テクニック
(A)F2の絞り値で前ボケを作るF2で手前の葉をぼかして作った前ボケを、右側に配置した。ぼけた部分は情報量が少ない。人間は情報量が多い部分に注目するので、ピントを合わせて、ディテールを描写した主題に視線を誘導しやすい
(B)-1.0EVの露出補正で暗くする
-1.0E Vの露出補正をしたのは、明るく強い日差しを表現しつつ、ハイライト部分のディテールを失わないためだ。現像時に明るくハイコントラストに補正しつつ、ハイライトを抑えるようにする
(C)アンバーの色はWBの調整で作る
懐かしさを表すためにWBを9,900Kにした。また暖色にするためにに、グリーンに色かぶりさせる。色かぶりをさせると、全体の色味が濃くなるので、同時に彩度を下げると良い
Pattern BLUE
「写真の中に自分を登場させてシーソーの相手を想像させる」
(A)ピントを合わせたのは奥のアザミの花で、手前の花を前ボケにしている。奥のアザミでシーソーの向こう側に居た誰かの存在を表したのだ。ゆえに自分がシーソーに乗って撮影した。(B)撮影ポジションは逆光となるので、柔らかく明るい表現をするのに都合が良い。
(C)ピント位置と背景を離すことで、背景となるシーソーの向こう側が大きくぼける。具体的にいうと、シーソーの上面をぼかしつつもディテールを見せたいから。しかし、ぼけすぎると現実感を失ってしまう。最後に、色合いの調整は現像時に行う。WBの色かぶり補正でグリーンをかぶせて、懐かしさを表現した。写真の中に自分を登場させて、ノスタルジックな表現としたいので、明るく柔らかい印象の色作りとした。
詳細テクニック
(A)ピントは奥に合わせて手前の花を前ボケにする手前の花が前ボケとなることで、距離感を強く感じることができるようになるが、それは心理的かつ時間的な距離を表す。この2つの距離感はノスタルジーを表現する大事な要素である
(B)柔らかさを強調するには逆光の撮影場所がベスト
逆光のポジションを選ぶと、明るく柔らかい印象を作りやすい。この柔らかさは、自分と誰かが居た記憶に対する懐かしさであり、その時間が楽しいものであったことを意味する
(C)ボケを効果的にするため背景と主題の距離を離す
背景と主題の距離を離すことで、後ろボケを調整できるが、ここではシーソーの奥がぼけることで、そこに一緒にいた誰かを具体化することなくイメージとして扱うことができる
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本特集では、撮影の手順をABCの3ステップで紹介。鍵となるテクニックの比較作例も交えてわかりやすく示しました。