フォトコンテスト

世界最大のフォトコンテスト「ソニーワールドフォトグラフィーアワード」最優秀賞 野見山桂さんインタビュー

休日に撮影し続けた成果を世界に発信 一夜にして話題のフォトグラファーへ

ソニーワールドフォトグラフィーアワードの最優秀賞(一般公募部門)を受賞した野見山桂さんの作品。
© Kei Nomiyama, 2016 Sony World Photography Awards

フォトコンテストに応募する魅力は何だろうか。腕試し、賞金狙い。それもあるだろう。だが一番は、未知の人とつながることではないだろうか。

昨年、ソニーワールドフォトグラフィーアワード2016の一般公募部門において、ヒメボタルを撮った写真で一般公募部門における最優秀賞を受賞した野見山桂さんは、その絶大な効果を実感している。

野見山桂さん。ソニーイメージングギャラリー銀座での個展「僕が四国で生き物を撮るということ」の会場で。
1979年、熊本生まれ。熊本県立大学環境共生学部卒。2016年 4月にSony World Photography Awards 2016で日本人初のOpen Photographer of the year(一般公募部門)受賞。現在、愛媛大学沿岸環境科学研究センター准教授。

受賞後、反響の大きさに驚く

「受賞後、海外からのオファーが格段に増えました。写真雑誌やウェブサイトから写真の掲載依頼が寄せられ、それを見た人がアクションを起こす。想像もしなかったことが起きています」と野見山さんは微笑む。

受賞をきっかけに、東京・銀座のソニーイメージングギャラリーで作品展「僕が四国で生きものを撮るということ」(2016年12月2日〜22日)を開いた。もちろん野見山さんにとって初個展だ。

「多くの人に写真を見てもらうことができた上、著名なプロ写真家の方とも知り合うことができました」

またロンドンで開かれた授賞式に参加し、多くの外国人写真家とも知り合えた。その後はFacebookで連絡を取り合っているという。

「ソニーワールドフォトグラフィーアワードはユニークな写真がたくさん応募されてきます」

意外な被写体に着目し、そこに作者のメッセージを込めて表現する。写真の奥にあるストーリーの存在が、海外の写真表現では重視されるポイントの一つだ。

「日本のネイチャーフォトは色彩や構図を重視した1点で完結する美が主流だと思います。僕は一つの物語があって、それを写真と言葉で伝えていくやり方をしています」

野見山さんの作品。ダイビング好きが高じて海の生き物の作品も以前から撮影。イルカは本職である環境研究における研究対象でもある。

あくまでも本業は研究職 週末に根気良く撮影

野見山さんの本業は環境汚染をテーマに研究する環境学者であり、愛媛大学の准教授だ。写真はアマチュアではあるが、本職の環境研究とも深く関わる。

高校時代、父親からフィルムカメラを譲り受けたことをきっかけに、天体写真を撮り始めた。大学でダイビング部に所属し、水中写真に目覚める。大学に勤務後、陸上の動物にも関心が広がっていった。

「大学では人間が出した化学物質が環境に与える影響を学びました」

イルカやクジラは大好きな動物でもあり、また環境汚染の影響を大きく受けている研究対象でもある。そうした海の生き物たちや、四国カルスト台地に生息するニホンアナグマやヒメボタルなど、いくつもの動物を被写体として並行して追う。

「撮影は仕事が休みの日曜か、連休しか行けません。愛媛に住み始め、四国の自然の豊かさに気づいて撮り始めましたが、逆に言うと撮影に使える時間が限られているので、身近な場所で撮るしかないんですね(笑)」

野生動物の撮影では現地調査が何より重要だと野見山さんは言う。ヒメボタルも、今、通い続けるニホンアナグマも情報が少ない中、現場で発見してきた。

「何度も行くと、現地の人とも顔馴染みになる。そうすると知っていることを教えてくれるようになる。やはり住んでいる人たちからの情報が一番有力です」

ニホンアナグマも一度、行動範囲が分かれば見つけやすいが、そこに行きつくまで相当の日数を費やした。受賞作の撮影地となったヒメボタルの竹林は、探し当てるまでに4年半かかったという。

「ヒメボタルを撮った写真はこれまで数多く見ました。そうしていく中で、自分が撮りたいイメージが形作られてくる。出会った場所でイメージを作るのではなく、この写真は、自分のイメージに合った場所を探し出して撮ったものです」

そのイメージの源泉には古典の竹取物語がある。深い味わいのある写真を得るために必要なのは、写真家自身が美や物語への造詣、理解が関係しているのではないかと野見山さんは思い始めている。

「そこを知ることで、撮りたい、表現したいイメージが膨らんでいくのだと思います」

野見山さんの作品。生態が謎に包まれているニホンアナグマも、野見山さんのフィールドである四国に多く生息するという。

意外に敷居が低い世界のフォトコンテスト

野見山さんはこれまでナショナルジオグラフィックとワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤーへ応募してきた。ただ思う結果が出ずにいた時、ソニーワールドフォトグラフィーアワードを知った。

「ホタルは長時間露光で、コンポジット合成で作るものが多く、結果、合成写真として扱われるので出せるコンペが意外と少ない。その中で制約がなく、アート表現としてきちんと評価してくれるこのコンテストは魅力的でした」

野見山さんはすでに2017年のソニーワールドフォトグラフィーアワードにも応募したそうだ。

「コンテストの応募は最初、日本語ですが、途中から英語に変わり、そこに抵抗のある人も多いと思います。けれど、そこを越えてしまえば、その先は広がりのある世界が待っています」

ソニーイメージングギャラリー銀座でのギャラリートークには、ゲストとして写真家の水口博也さんも駆けつけた。

前回の応募は186の国および地域から約23万点が寄せられた。英語圏以外からの応募も多く、完璧な英語力は必要ないのだ。

「ステートメントの英語が不完全であっても、入賞したら、きちんとした英語に直して公開されることになるはずです。実際、海外のフォトコンテストに応募することで、僕自身の人脈、交流は写真を通して大きく広がりました」

締切迫る! ソニーワールドフォトグラフィーアワードとは?

ソニーがスポンサーを務める世界最大規模の写真コンテスト。今回で9回目を数える。今年は世界186の国および地域から、約23万点もの作品が集まった。

2017年度で応募受付中の部門は次の通り。締切が近いので、ご興味ある方は早めのご応募をお勧めしたい。

応募締切
プロフェッショナル部門
 →2017年1月11日8時59分(日本時間)
一般公募、ユース部門
 →2017年1月6日8時59分(日本時間)

詳しくはこちらのページで確認してほしい。
https://www.worldphoto.org/ja

ちなみに、野見山さんが受賞したのは一般公募部門の最優秀賞。次の最優秀賞は、ひょっとしてあなたかも?

(編集部)

制作協力:ソニー株式会社