デジタルカメラマガジン

インタビュー:「建築士の眼」でシティスケープを撮るアキラ・タカウエさん

NDフィルターを使ったフラット表現と、その作品背景を紹介

デジタルカメラマガジン2015年8月号の特集3「絶対に失敗しないNDフィルターの使い方」では、写真家3名による特徴あるNDフィルターの使いこなし術を紹介しています。

その中で「建築構造物」編を担当されたアキラ・タカウエさんに、NDフィルターを使った作風や、自身の写真について語っていただきました。

アキラ・タカウエ(Akira TAKAUE)

博士(工学)、一級建築士。世界各国の建築構造物に関するメガプロジェクトに携わる。

写真撮影における得意とするカテゴリーは、構造工学や景観工学に基づいた精密な構図を活かしたシティースケープ撮影である。

International Photography Award, 2013にてArchitecture部門最優秀賞を始め欧州や米国の国際写真コンテストにて数多くの受賞暦がある。

<主な受賞暦>

  • 2012年:National Geographic Photo Contest USAファイナリスト、"ARCHITECTURE", 1x.com Photo Awards, Sweden1位
  • 2013年:The 7th annual PX3 competition, France3位、"Building/Architecture", IPA, USA1位、"Cityscapes/Architecture", IPA, USA1位、"Other Architecture", IPA, USA1位、"Architecture", IPA, USAカテゴリー最優秀賞、"Discovery of the Year Award"ファイナリスト、11th Annual Lucie Awards Honor Photographers, NY
  • 2014年:"Professional Division/Other/Special", IPA, USA(3位)、Visionography B&W Fine Art Photography Contest", Greece(1位)、
    "Professional Division/Architecture", Moscow International Foto Award, Russia(カテゴリー最優秀賞)"Cityscape/ Architecture, Moscow International Foto Award, Russia1位、"Bridges/ Architecture, Moscow International Foto Award, Russia1位
  • 2015年:Open Competition, Sony World Photography Awards(2 of Commended Images)、"Japan National Award", Sony World Photography Awards"2位

作風全般について

--写真との出会いをお聞かせください。

幼少の頃から赤道儀を用いて天体写真を撮影をしていました。技術的な基礎は、この頃感覚的に習得したと考えています。しかしその後、社会人になるまで一切写真に興味をもつことはありませんでした。

再び写真を撮るきっかけになったのは、自身が携わった大型建築構造物や長大橋梁などのプロジェクトで、記録写真を撮るためでした。クライアントの要望に応えて撮影することに加え、度々訪れる様々な国の文化や自然なども同時に撮影してみよう、と思ったのがきっかけです。

建築写真ですが、当初は純粋な構造写真であり、その中にコンセプトやアート性などを組み込むことなど考えてもいませんでした。

しかし2010年頃、主に欧州の建築系ファインアートフォトグラフィーに出会い、完成度の高さ、メッセージ性、そして表現方法に強く感銘を受けました。各種撮影手法からポストプロセッシングにいたるまで、その研究に没頭することとなり現在に至ります。

「ソニーワールドフォトグラフィーアワード2015」の日本部門賞贈呈式で。選出者のハービー・山口さん(左)からは、「日常的な風景を不思議な写真に変える力。建築の専門家による眼差しが、新しい発見を見せてくれる」とのコメントがあった。

--シティスケープへの思い、魅力を教えてください。

シティスケープの被写体とは、一部の計画都市を除き、大部分はその地域で「人間生活」が行われてきた結果生まれたものです。

それらの構造物は、考えうる様々な外乱(外部および内部荷重)に耐えるよう、多くの技術者の力で安全性を確保されています。時には単独で、そして時には複合的に計画・解析・設計が行われます。もちろん、構造物の利用者がスムーズに人間生活を行えるような配慮もされています。

一方で、構造物を技術者から受け取った構造物の管理者は、利便性や商業的価値をより向上させるため、その構造物の外観やテクスチャーを独自の狙いで変化させていきます。

そのためシティースケープは、構造性、利便性、商業性、景観性といった点から、人間社会で最も最適化され、地域を取り巻く様々な要素が収束した人工的風景だと定義できるでしょう。

その一角を切り取ることは、単に人工構造物の配置や外観を記録することだけではありません。人間生活の歴史や独自の文化までもをメッセージとして切り取ることにつながり、極めて有意義な被写体であると考えています。

--モノクロでプリントする理由を教えてください。

例えば自然風景に溶け込む都市風景を表現する場合、自然の豊かな色彩やデリケートな色彩の変化といったものが、カラー撮影で可能です。色彩に特徴があったり、テクスチャーが色彩光に敏感に反応しているような構造物も、カラー撮影を選択してもよいでしょう。

ただし、今回紹介している写真は色彩的な特徴のない構造物ですし、背景も同じように色彩に頼る理由が見当たらない。一方でモノクロは、写真としての構図、入光と構造物の外壁に反射したトーナルコントラスト、そして美しく流れる背景をテーマ化して先鋭化できます。

--長時間露光による表現の意図や、合成/モーションブラーを使わない理由をお願いします。

長時間露光で「時空の変化」を自由に操ることができれば、被写体とそれを取り巻く環境を撮影者が意図したコンセプトで表現できます。

例えば風の強い日のことを考えてください。肌で強い風を感じるとともに、肉眼ではダイナミックに流れる雲と、微動だにしない構造物に直面している、という印象を受けるでしょう。また、遠くにたたずむ構造物を見た場合、背景にある空や雲は、主要な被写体である構造物とは別の二次的な被写体にすぎないと定義するコンセプトもあるでしょう。

通常、昼間の撮影では主として1/200秒から1/800秒のシャッタースピードにて一瞬を切り取ることとなりますが、そもそも建築構造物は動くことがありません。そのため一瞬に拘る必要はなく、シャッタースピードを遅くすることで、比較的長い時空を切り取ることが可能です。欧米の静物や風景写真では、背景に時空の変化を内層する効果がフィルム時代から応用されていたようです。

近年、Photoshopで似たような効果をだせるようになりました。ファインアートの一環として、多くの方々がPhotoshoopなどのソフトウェアを使用するようになってきたようです。

しかし雲は3次元に流れます。奥から手前へと広がり、明度とコントラストも変化します。しかも末端では不規則に発散していきます。その現象を十分に理解し、気合でPhotoshopで作成するのならばそれもよいでしょう。ただしPhotoshopでは、一方向にしかモーションブラーはかけられません。また実際の物理現象としての光の反射と影を再現することは、非常に複雑な作業が必要でしょう。実際に長時間撮影を行っている撮影者は、Photoshopを使った画像をすぐに判別できます。

Photoshopを使用し、背景を作成している写真家を否定するつもりはありません。ただ私は技術者が設計し施工したその建築物・構造物群のありのままのコンセプトを撮影したいと考えています。雲などの自然条件や道路構造物との融合もこの「生きた静物写真」としてパッキングの重要な要素の一つと定義しています。背景や構造物への光の当たり方がうまく撮れなかった場合は、別の日に撮り直します。

SCENE1:5分間の長時間露光による構造物のフラット表現

正方形の窓が規則的なリズム感を生んでいる中層ビルと駐車場のランプを主題とし、歪みのないフラットな表現を試みた。NDフィルターで雲を動かして主題を際立たせた。
ニコンD700 / タムロン SP 70-300mm F/4-5.6 Di VC USD / 230mm / マニュアル露出(F8、305秒) / ISO 200/ WB:オート

--この作品のコンセプトについて解説をお願いします。

この構造物は極めて一般的な中層構造物です。有名建築家による超高層ビルでも、名だたる長大橋梁でもありません。

私は構造物を見ると、すぐに2次元の図面が浮かんできます。このようなよくある構造物であっても、正確でリズム感のある正方形で構成される幾何学的模様の設計思想に心打たれました。ただし、撮影するアングルを考えないと、この幾何学的模様の効果は薄れてしまいます。そこで2次元の図面のようなフラットプレーンな写真に仕上げるこで、幾何学的模様を正確かつ効果的に表現しようと考えました。

近くにあるABCの区画記号を組み合わせたのは、構造物が図面ではなく実社会でひっそりと、それでいて活き活きと佇む姿を表現したかったからです。技術者の設計や、景観思想のコンセプチュアルな成果を表したかったのです。

--この作品における長時間露光の狙いを教えてください。

主題化をより一層先鋭化させることが目的です。通常のシャッタースピードで撮影し、一般的な雲(この日は曇天)を残した場合、極めて現実的な背景の中に被写体のみを表現したことになります。それでは「圧倒的な主たる被写体の存在感」を表現するにはふさわしくなく、NDフィルターを利用し超長秒撮影を行い抽象化することとしました。

使用したフィルター
ケンコー・トキナーPRO ND1000 + PRO1D プロND8(W)
ステップアップリング62-67、ND1000、ND8の順に重ねて13段分減光している。

--8〜10段程度の減光ではこの表現は難しかったのでしょうか。

下層の暗い乱層雲と中層以上の光が反射している層の融合、そして抽象化が狙いです。8〜10段程度では完全に背景が抽象化しません。

もちろん風速や雲までの距離で、一概に300秒というシャッタースピードを使用するわけにはいきませんが、現場の状況とコンセプトにあうシャッタースピードの設定をすれば良いと思います。日中ではなく、夕刻や早朝など日が高くない場合は、10段程度でも300秒の露出が成功する場合もあります。

--パースのないまっすぐな構造物が印象的です。望遠レンズとのことですが、シフトレンズは使用しないのでしょうか?

撮影のコンセプトによってはシフトレンズを使用します。実際、クライアントから構造物の撮影を依頼されたときは、その構造物そのものを撮影するのでシフトレンズを使用します。近景撮影で発生するパースを消去し、その被写体距離での設計時の真の姿を撮影することで問題ないわけです。

しかしながら本作品の重要なコンセプトのひとつに、まっすぐ向き合った構造物を「二次元の構造図面のように撮影する」という要素がありました。

近くから無理やりシフトレンズで周辺歪曲をなくしたり、Photoshopで修正した場合、実際には見えない窓枠や梁の下面などが移りこみます。すると、極めて不自然な写真となり、当初に設定したコンセプトが根幹から崩れます。

そのため、撮影時はランプと構造物の複合体を底辺とし、私を頂点とした擬似二等辺三角形の位置を実際に50cm単位で調査しました。そこに三脚をすえて撮影しています。

--撮影地を教えていただけますか。

つくば市です。付近はもうマンションが建設されておりこの非常にユニークな被写体は埋もれてしまっています。

SCENE2:15秒の露光で信号の緑と雲の動きを表現する

中景にそびえ立つビル群と間近にある信号機のコラボレーション。レンズを上方に向けることにより、人気のない非現実的な街角を表現。これらの被写体に原型をかろうじて留める雲を付加することにより、非現実的な街角に時空の流れを内挿した。
ニコン Nikon 1 V1 / 1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6 3.5-5.6 / 10mm(27mm相当) / マニュアル露出(F8、15秒) / ISO 100 / WB:オート

--この作品のコンセプトについて解説をお願いします。

構造物撮影は、近景、中景、遠景、そしてそれらが複合的に組み合わされています。街中に見られる信号機や各種標識も、利用者の視認性に関する検討を十分に行い、設置されています。

この写真の信号機は近景です。背景にみえる構造物は中景なので、近景と中景の複合写真といえます。この作品は中景にそびえ立つビル群と、間近にある信号機のコラボレーションを主たる被写体としました。

双方が構造物として違和感なく写真に収まるためには、広角レンズを使い、ローアングルで撮影するのも重要な撮影手法といえます。

本来この場所は非常ににぎやかな場所ですが、構図は水平ではなく、上方に向けることにより人気(ひとけ)のない非現実的な街角を表現しています。

--撮影地を教えていただけますか。

フィリピンの首都、メトロマニラ中心街マカティ地区です。

--この作品における長時間露光の狙いを教えてください。

当初はSCENE1と同じようにシャッター速度を5分間とし、雲を筋雲のように流すことで、背景を抽象化することも考えました。

しかし、信号機が18秒で黄色に変わるのと、主要被写体のある場所およびマニラ有数の高層ビル群の存在感を際立たせたかったのです。

そこで15秒の露出時間としたところ、原型をかろうじて留める雲を付加でき、非現実的な街角に時空の流れが内挿された、ダイナミックな印象を加えることができました。

使用したフィルター
ケンコー・トキナーPRO ND1000
使用レンズのフィルター径が小さいため、ステップアップリング40.5-58と58-67を2枚重ねて保有しているフィルターを活用した。

--街中での撮影です。通行人はいなかったのでしょうか。また、こうした街中で三脚はどのように扱ったのでしょうか。

非常ににぎやかな場所ですが、構図は水平ではなく上方に向け、車輌や人物が移らない構図を選択しました。三脚は信号機ぎりぎりに立てています。

SCENE3:70秒の露光で流れる雲の表情を構造物に添える

水平方向に完全に正対した剛体構造物。それを切り裂くような筋雲が現れた。70秒露光でその筋雲が構造物に対して水平に動き、オーロラのような軌跡を示した。マッシブな構造物と柔らかな雲の軌跡が構造物中央で融合し、新たなテーマが生まれた。
ニコン Nikon 1 V1 / 1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6 / 20mm(54mm相当) / マニュアル露出(F9、70秒) / ISO 100 / WB:オート

--この作品のコンセプトについて解説をお願いします。

水平方向において完全に正対した剛体構造物。それ全体にあますことなく太陽光が当たっている。背景はニューヨーク独特の一面の青。

そこにその構造物を切り裂くような筋雲が現れ、真正面から光を受けたコントラストの強い剛体構造物と、幻想的な背景を融合しました。

--撮影地を教えていだけますか。

ニューヨークのミッドタウンです。

--この作品における長時間露光の狙いを教えてください。

撮影をする直前、高高度に筋雲(剣雲)が現れました。ここで、このメインの被写体を短いシャッター速度で撮影すると、剛体構造物のコントラストが強くなりすぎます。また、それほど特徴的な筋雲ではなかったので、構造物撮影のテーマからすれば、その雲はノイズにすぎません。

一方、70秒の長時間露光で時空を切り取ると、筋雲は平面に動き、オーロラのような軌跡を示しました。マッシブな構造物と柔らかな雲の軌跡が構造物中央で融合し、新たなテーマが生まれました。

フィルターの装着例
ケンコー・トキナーPRO ND1000 + PRO1D プロND4(W)
ステップアップリング40.5-58と58-67を2枚重ねた上で、ND1000とND4を2枚重ねている。タオルでぐるぐる巻きにして徹底的に遮光するした。

--オーロラのような雲が印象的です。背景の雲をどれくらい残すか、事前に意識して露光時間を決めているのですか? 特にこの作品の場合、仕上がりを予想して露光時間(70秒)を決定したのでしょうか。

コンセプトを意識して露出時間を事前に決定しています。

露出時間の間はなにもできません。目的とした背景が消え去ることもあります。したがって私は減光段数、絞り、ISOなどのパラメータと周辺環境光を(大まかですが)数値的に把握しています。

このとき太陽は真正面から当たっており、雲はほとんどありませんでした。ということは、メインの被写体である建築構造物にとって、即座に悪影響を及ぼすものは向こう10分程度ではあらわれない、ということを意味します。

焦って撮影をする必要はなく、二次的被写体である背景を成功させることに集中すればよいのです。ここでチャンスをじっくりと待った結果、おそらく高高度に筋雲(剣雲)が現れ、高高度であるがゆえ30秒程度では移動量が足りないと予想できたため、もう1.5段、減光量を増やして露出時間を多めにとるというステップを踏みました。

今後について

--今後の活動、抱負をお聞かせください。

(作品を撮ることは)構造物の世界に身をおく人間として、自身の携わったプロジェクトの足跡を確認するという一面と、世界中の技術者の大いなる努力とチャレンジ精神の成果である構造物の設計思想の具現化という一面があり、まさに私にとって人生の一部となりつつあります。

技術者が拘ったであろう設計思想を想像し、彼らの、時には私の、努力の結晶を技術者の視点で撮影していき、それが実社会にてどのように活かされているのかをテーマとして撮影していくことを目指します。国内外の構造物、市街地風景などをコンセプチュアルシティースケープとして時間が許す限り作品作りに邁進したいと考えております。

発売中のデジタルカメラマガジン2015年8月号

特集3では、このページで紹介したアキラ・タカウエさん以外にも、大和田良さん、Yoshiki FujiwaraさんによるNDフィルターの使いこなし術を紹介しています。

そのほか、「魅惑のレンズ表現」「ちょっと不思議な映り込みの世界」といった特集も。キヤノンEOS 5Ds/5Ds R、ソニーα7R IIの情報もあります。

(本誌:折本幸治)