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「ニコンDf」「AF-S NIKKOR 58mm F1.4G」講演会レポート
“軽すぎる”と言われたDf。レンズの三次元的な評価とは?
Reported by 本誌:鈴木誠(2014/7/3 08:00)
一般社団法人日本写真学会による「第11回『写真好き』のための定例講演会」が、6月30日にニコン大井ウエストビルで行なわれた。
日本写真学会が学会員向けに定期開催している講演会。今回の講演テーマは、カメラグランプリ2014での受賞が記憶に新しい「ニコンDf」および「AF-S NIKKOR 58mm F1.4G」。本稿ではその内容の一部をお伝えする。
Df発売後のエピソード
ニコンDfのパートでは、プロダクトマネージャーの三浦康晶氏が登壇。企画・開発にまつわるストーリーのほか、発売後に寄せられた声を紹介した。
Dfはフィルム一眼レフのサイズを意識して設計し、フィルム一眼レフの「ニコンF3」に近い大きさ・重さになったとのことだが、デジタル機だけに厚みが増している。そのせいもあってか、発売後には「軽すぎる」との声があったそうだ。同じ重量だと、体積があるぶん軽く感じるのだろう。重いと言われることはあっても、軽すぎると言われるのは珍しいケースだと話していた。
また、10月末までの期間限定で受付再開された「名入れサービス」についてもエピソードがあった。サブコマンドダイヤルに円周で文字を入れるというのは三浦氏のアイデア。文字数は、長い名前の有名人を調べた結果を踏まえ、最大19文字に設定。すると発売後にユーザーから「NIPPON KOGAKU KOGYO」が19文字ピッタリだ、という思わぬ指摘があったそうだ。
加えて、7月中旬に発売される「ソフトシャッターレリーズAR-11」についても触れた。Dfにはレリーズソケットがあるためソフトレリーズボタンが付くが、Df発売時点で長年ラインナップされていた「AR-9」(上面が凹型で、黒地に白抜きのNikon斜めロゴ)がディスコンになっていたため、新たに企画したそうだ。
「好印象な写真」のためのレンズ評価・設計とは
レンズのパートでは、まず稲留清隆氏がニッコールレンズの設計思想を紹介。ニッコールレンズの技術には産業用製品から取り入れたものもあり、ナノクリスタルコートはステッパー投影レンズの反射防止膜、「AF-S NIKKOR 58mm F1.4G」の設計にはステッパー投影レンズの計測技術が応用されていると説明した。
続いて、AF-S NIKKOR 58mm F1.4Gの設計を担当した佐藤治夫氏が登壇した。佐藤氏は「(自分の)30年間の研究の成果がこのレンズに現れているといってもよい」と前置き、それに含まれる「三次元的ハイファイ」(高再現性)の設計思想に触れた。
レンズ性能は、結像部分をMTFや解像力といった「二次元」で評価されることが多いが、有限距離にある物体は三次元で、実際は近距離ほど被写界深度が浅くなる。例えば画面内の数%しかピントが合っていないような構図(寄りのポートレートなど)も写真として存在する中で、ピント面だけを評価してもどうなのか、という考えがあったという。
そこでピント面の解像力だけでなく、画面全体の奥行きなど見た目に好印象な撮影結果を得られるよう意識しているのが、ニコンのいう「三次元的ハイファイなレンズ」なのだそうだ。
AF-S NIKKOR 58mm F1.4Gでは、往年の“ノクトニッコール”(Ai Noct-Nikkor 58mm F1.2S)へのオマージュもあり、点を点に写す設計とともに、無限遠でのMTFは高い方がいいと考えた。いっぽう近距離では、ピントを合わせた位置のシャープネスを追い求めず、その余力を三次元的ハイファイな描写に振り分けたそうだ。
佐藤氏はAF-S NIKKOR 58mm F1.4Gまで約30年間にわたり、「三次元描写特性の研究」、「ボケ味の研究」、「ソフトフォーカス(軟焦点)の研究」などを行なってきたといい、かつてはDC-Nikkorの設計に自身の研究レポートを提出したり、普及価格帯の一部の標準ズームレンズに“味わいを足す”ような設計アドバイスも行なってきたという。
ソフトフォーカスの研究については、ニコンが2013年にオープンしたWebサイト「nikkor.com」内の「ニッコール千夜一夜物語」第五十一夜において、ニューソフトフォーカスフィルターおよび軟焦点レンズに関する佐藤氏の記事を読むことができる。
80年前の建物が現存
講演会の終了後、参加者有志はニコン大井製作所の101号館を外から見学した。80年以上が経過する建物だが、内側を補強して現在も使用しているそうだ。場所は大井町駅から続く「光学通り」にある。