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富士フイルム、海外写真家4名を招いた「X-Photographers」トークショーを開催

 富士フイルムは16日、Webサイト「X-Photographers」の開設1周年を記念したトークイベントを開催。同サイトのギャラリーで特に人気が高いという4名のフォトグラファーが登壇し、同社デジタルカメラのXシリーズおよび自身の作品について紹介した。

 Xシリーズは、2011年3月に発売したAPS-C単焦点コンパクト「FUJIFILM X100」(FinePix X100)からスタート。X100は世界で13万台を超えるヒットとなり、現在ではシリーズ累計で70万台出荷したという。今春に発売したX100の後継機「FUJIFILM X100S」および2/3型ズームコンパクト「FUJIFILM X20」も好調で、バックオーダーを抱えているという。

 オンラインギャラリーのX-Photographersは、Xシリーズを愛用する世界各国の著名カメラマンの作品を公開するという趣旨で、39カ国・155名が参加。いまだ多くの参加リクエストがあり、大きなギャラリーに育ちつつあるという。

 今回は「特に閲覧数の多い4名」として、ストロボの名手というDavid Hobby(デビッド・ホビー)氏、ストリートフォトを撮影するZack Arias(ザック・アリアス)氏、ストーリー性のあるウェディングフォトを撮影するKevin Mullins(ケビン・ムリンズ)氏、幻想的なポートレート作家というBert Stephani(バート・ステファン)氏を招いた。

David Hobby氏「ニコンと結婚しながらX100と危険な関係だった」

 米国内の報道写真を専門としていたHobby氏は、報道の前には自然、農産など、ほかの写真家が行かないような場所、面白い写真を撮っていたという。

David Hobby氏。年季の入ったドンケのカメラストラップを使用していた

 1984年からフィルムカメラで撮影をはじめ、1998年までフィルムのニコンカメラを使っていたと話すHobby氏。また、プライベートなど“意味のある写真”を撮る時はライカを使っていたそうだ。1998年に「マスコミはみんな使っていた」というデジタルのニコンに変更。仕事の機材がデジタル化されたあとも、意味のある写真にはフィルムのライカを使っていたという。

1998年までフィルムのニコンとライカを使用。仕事のカメラをデジタルに変更しても、“意味のある写真”にライカを使い続けた
FUJIFILM X100に出会い、フィルムのライカに取って代わった

 Hobby氏がX100に出会ったのは2012年の夏で、ライカを使っている人間としては扱いやすいというのが第一印象。AF速度やMF操作性に不満はあったものの、夕景の色などカメラで見たままの色を撮れる点に良さを感じたという。

 カメラ選びについてHobby氏は、「私にとってカメラは、デートをしたり、結婚するような、女性のようなもの。これさえなければという、気に入らない部分はあっても、愛することの方が大事」と哲学を語った。また、「私はニコンと結婚していたが、カメラに慣れるためにX100と危険な関係でデートをしていた」と続けた。

微妙な色合いも見たままに撮れる点が気に入ったという

 また、カメラ機材の小型軽量にもメリットを感じたという。「山に登るのに10ポンドもあるニコンは持っていけない」「X100ならすぐ子供達に追いつけるし、小さいカメラながら1mの幅にもプリントできる」と印象を話す。レンジファインダーカメラのようなスタイリングのため、ファインダーに接眼しても顔が相手に見えた状態で撮れる点も一眼レフカメラに対するメリットとして挙げた。

 加えて、撮っていることを家族にも気づかれないほど静かなリーフシャッターの動作音も美点と語るHobby氏。「ライカではトン(と足で床を鳴らす)と音がするが、これ(X100)なら静か」。フラッシュを使わなくても部屋で写真を撮れる部分も、家族の写真を撮るのに有利だという。

暗所でも撮影でき、ミラーショックがないため長いシャッタースピードでも撮影しやすいと例を示した

 撮影はJPEG記録というHobby氏は、「フィルムメーカーである富士フイルムは色やコントラストを知っている」「微妙な色も保存できる」とX100の絵作りを評価した。

 そうしてX100を使いながらも不満を感じていた頃に、インターネットで見かけたのがX100S発表前のリーク情報だった。Hobby氏は「このビルにスパイがいるのかもしれない」(会場は富士フイルム本社内)と会場の笑いを誘いつつ、X100Sを発売後すぐに購入したと話した。

 X100SはAFが速く、MFも扱いやすくなったという。それまでHobby氏にとってライカM6が最高のマニュアルカメラだったが、今ではX100Sを最も気に入っているという。高感度や低速シャッターも積極的に使い、三脚いらずで幅広く撮影できる点をアピールした。

現在持ち歩いているカメラ機材一式。サブはiPhoneだという

 そうして晴れて富士フイルムと「結婚」したHobby氏。XシリーズはX-E1も使っており、富士フイルムのロードマップにはない魚眼レンズ(ロキノン製)なども使っているという。シリーズ全体の印象として「私が見えれば撮れる。パーソナルでもプロフェッショナルでもありがたいことだ」と評した。

X-E1も使うというHobby氏。ロキノン魚眼レンズ(左画像、左下)での作例(右画像)

 来場者からJPEG画像の調整方法について問われたHobby氏は、「モノクロ、イエローフィルター、VELVIAなどプリセットを作って使い分けている。カメラがうまくやってくれるので、調整より沢山撮ったほうがいい」「自分でLightroomなどで調整してカメラより上手くできれば運がいい。富士フイルムのJPEGは素晴らしい」と話した。

Zack Arias氏「X100が愛人と言われている」

 「常にカメラを持っているフォトグラファーになりたいと思っている」と話すArias氏は、 仕事でデジタル一眼レフや中判カメラを使っていたものの、家にはカメラを持ち帰らず、家で撮ることもなかったという。いつも持ち歩けるカメラを探していたが、画質に満足できなかったのが理由だという。

Zack Arias氏。カメラ取り付け部がスライドする速写タイプのストラップを使用していた

 一見良さそうなカメラはあったが、Photoshopで撮影画像を見るとそうでもなく、iPhoneで撮るようになったという。しかし、iPhoneの撮影画像はiPhoneで一番よく見えるもので、拡大すると画質は良くないと印象を語った。「プロのカメラに慣れているので、画質は絶対的に大事」というArias氏。小さいカメラだが画質は大きなカメラと同様、という1台が見つからなかったそうだ。

 Arias氏はあるワークショップで指導をしていて、その学生のひとりがX100を持っていたという。X100というカメラの外観は画像で見て知っていたが、触ったのはその時が初めて。その学生の好意で借りて試してみて、翌朝自分でも買ったという。

 子供の写真を示し、「これまでもこうした写真を撮っていたが、それはiPhoneで撮っていたから(画質的に)プリントできなかった」と話すArias氏。いつでも撮影に移れるよう斜め掛けタイプの速写ストラップを使っており、X100が愛人だと言われているそうだ。

こうした写真はこれまでiPhoneで撮るのみで、プリントはできなかったという

 まず購入2週間後にX100だけを持ってニューヨークへ行ったArias氏。最初は気に入らず悪口を言っており、Web上のユーザーの不満にも賛成していたという。だが、その不満と戦う必要がある点も好きだったという。

 その後、富士フイルムがフォトグラファーの意見をファームウェアアップデートという形で反映するなど、素晴らしいものにしようとしていた点に感心したというArias氏。「カメラメーカーでそこまで熱心に耳を傾けるところはないと思う」と語った。

写真にはテーマが必要と思うというArias氏。「これから10ブロック歩く間、電話を持っている人だけ撮ろうと思うと、あちこちにいる。もう10ブロック、と撮るうちに、結果的には“デバイスに熱中している人の写真”を10日間撮影することになったという。

 X100の気に入っている点について、「目立たないことが素晴らしい。どれだけ被写体に近づけるか。スポーツのようなもの」「そこにいたことすらわからないのがお気に入り」と述べた。

 ここでArias氏が「毎回うまくいく」というストリートスナップの撮影テクニックを紹介。目の前にいる人達を気づかれずに撮る方法として、光学ファインダーと液晶モニターを使い分けるというものだ。

撮影テクニックを実演した

 まず被写体として狙っている相手の目の前に立ち、どこか他の方向を撮っているようにわざとらしくファインダーに接眼し、その撮影画像を確認しているようなそぶりでカメラを下に向け、背面モニターのライブビューを見ながら撮影するという。相手が自分のほうを見たら、またファインダーに目に当てて別の方向を向く。相手が目を離したらまた背面モニターで撮影、というのを3mぐらいの距離から繰り返すそうだ。

 X100によりフォトグラファー人生が変わったというArias氏。仕事でもX100を使い、信頼しているという。ズーム付きのようなX-Pro1にも最初は興味がなかったそうだが、35mm F1.4のレンズと「恋に落ちた」と話した。記録はDavid氏と同様、JPEGで満足しているという。

インドでX-Pro1を使って撮ったという1枚

Bert Stephani氏「仕事とパーソナルワークのギャップが小さくなった」

 ポートレート撮影を主体とするベルギーのコマーシャルフォトグラファー、Bert Stephani氏。仕事で撮影した写真をスライドショーで紹介してから「ある時、自分は技術的によい写真家かもしれないが、ストーリーを伝えていないのではないかと考えた」と振り返った。

Bert Stephani氏

 まずStephani氏は1枚の写真を示し、「この写真は技法的に素晴らしくなくても、彼やその家族には特別な写真」「彼は父をこの2日前に亡くしている。意味のある写真になると思う」と説明した。

 そう前置くと、「2年前から自分の『個人的な作品』と『プロとしての仕事』の間にギャップがあると感じた」と話すStephani氏。プロとしての仕事はFlickrや500pxといったオンラインギャラリーで人気を得るような(Likeがたくさん付くような)写真だが、そこに「心がなかった」という。彼自身の好みとしては、“不完全さの美しさ”といった、もっと微妙で繊細なイメージだそうで、そこでふたつの違いを一緒にしたくなったのだという。

プロの仕事と個人的な作品のギャップ

 Stephani氏は、プライベートはコンパクトカメラを使うが、プロ仕事では中判カメラなどを使うという。しかし大きなカメラでは被写体との繋がりがなく、心も頭も技術的なことを考えてしまい、被写体とのコミュニケーションが取れないと考え、小さいカメラでプロの仕事ができないか考えたそうだ。

 FUJIFILM X-Pro1を借りて試して、「最初は率直に言って嫌いだった」と印象を語る。まず一週間使ってみるよう言われ、とある結婚式に3台目のカメラとして持っていったが、壁に投げつけようと思ったこともあったという。一度返却して「面白い試作機だけど自分には合わない」と言ったそうだ。

 しかし、撮影した写真を編集すると、その4割ぐらいはX-Pro1で撮ったものが残ったという。被写体にとても近いところから撮影できたところが良かったそうだ。そして更に一週間だけ借りて「カメラにチャンスを与えてみた」ところ、使うのに慣れるまで時間をかけなければいけないカメラだと気づいたという。

被写体と近い点が結果的にメリットとなった

 小さく軽量だがスタジオでも使えるX-Pro1を手にし、それまで使用していた一眼レフ機材は売り払ったという。写真家でない人はこのカメラに「それはライカか? 面白いね」などとよい反応をするといい、「女の子を口説くのに使えるかもしれない」とも加えた。

 以来、バッグに入る以上の機材は持ち歩かないと決めたStephani氏。それまでは撮影地へ事前に機材を送ったり、大きな機材を持っていても重くないようなフリをしたりしていたが、その必要がなくなったという。

撮影風景。この写真のバッグ以上の機材は持たないと決めたそうだ

 後には被写体との近さ(当時は長いレンズがなかった)におそれを感じたり、撮影で落ち着かないこともあったそうだが、「ポートレートは誰かのストーリーを伝えるもの。その人を知らなければならない」「その近さ・親密さがこのカメラを使う理由」と語った。

 通常はRAWを使うそうで、RAWには柔軟性が高いことを望むという。ダイナミックレンジが広く、ハイライトでもディテールを残せる点も魅力。色も、ISO3200でも気に入った色が出るという。こうして、自身の作品におけるギャップが小さくなってきたと締めくくった。

ハイライトのディテールが残る点も魅力とした
RAWには柔軟性の高さを求めるという

Kevin Mullins氏「カメラが小さいから招待客のように見られる」

 英国を拠点とするウェディングフォトグラファーのKevin Mullins氏は、ドキュメンタリー的作風が特徴。Xシリーズについて「(先に登壇した)皆と同様、素晴らしいカメラと思っている」と前置いた。

Kevin Mullins氏。ローマで結婚式の撮影を終えたばかりで、空港から会場に直接駆けつけたという

 Mullins氏は年間平均30件の撮影を行なうプロの婚礼写真家。自由に結婚式のなかに入っていけることが重要なため、カメラは小さいほうがいいと話す。「私は結婚式で招待客のように見られたい」「今は、(Xシリーズを使っているので)ほかの人よりずっと小さいカメラなのでゲストに見える」と印象を語った。

 撮影はモノクロで、グレインも足す。ISO6400まで使用し、95%はアベイラブルライトで撮影するそうだ。記録はほぼJPEGだという。

ISO6400での撮影例を示した
ダイナミックレンジの広さとスポット測光が有効という。ワイコン使用時もディテールを失っていないと評価した

 ドキュメンタリーの婚礼写真家を名乗る人々の中には、ドキュメンタリーといいながら立ち位置などを指示する人もいるそうだが、「私に依頼する人はストーリーを求めているため、それはしない」と話した。

 自身の哲学として、「構図やライティングよりタイミングを意識する」「それらが揃えば完璧なドキュメンタリー写真となる」と説明。いくつか例を示しながら、撮影の状況を解説した。

「今年一番」と語る1枚。新婦と母の感情の入った写真だが、一眼レフカメラと24-70mmのレンズでは音も立ててしまい、こうはならなかったと思う、と話す

 Mullins氏は、Xシリーズのカメラによって現場で他の人々に注目されることがなくなり、動きやすくなり、よりストーリーが伝えやすくなったと話した。

【9月5日11時】記事初出時、FUJIFILM X20のセンサーサイズを1/2型と記載していましたが、2/3型の誤りでした。

(本誌:鈴木誠)