リコー、ユニット交換カメラ「GXR」の発表会
リコーは10日、ユニット交換式デジタルカメラ「GXR」の発表会を都内で開催した。
発表したのは既報の通り、ボディとなる「GXR」および、単焦点レンズ付きユニット「GR LENS A12 50mm F2.5 Macro」とズームレンズ付きユニット「RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VC」。製品個別の詳細は別記事を参照いただきたい。ここでは発表会の模様をお伝えする。
GXR。装着ユニットは、GR LENS A12 50mm F2.5 Macro | 発表会場の様子 |
■「コンパクトでもここまでできる」と湯浅氏
リコー パーソナルマルチメディアカンパニー プレジデントの湯浅一弘氏 |
発表会の冒頭、リコー パーソナルマルチメディアカンパニー プレジデントの湯浅一弘氏が挨拶した。「GR DIGITAL III発表のときにも申し上げたが、コンパクトデジタルカメラではできないと思われていたことに挑戦し続けている。これが、リコーのやるべきことであり、できることだ。新しい撮影領域に、コンパクトカメラにこだわりながら挑戦してきた。GXRは、開発当初から『世界のすべてを撮りつくせ!』をというテーマでやってきた。APS-Cサイズのセンサーに果敢にチャレンジし、コンパクトでもここまでできる、ということを示したかった」と話し、同社コンパクトデジタルカメラの新たな進化を宣言した。
湯浅氏は、カメラユニット交換式を採用に必要な3つの大きな条件を挙げている。1つはシーンごとに最適な画質が選べ、カメラがフレキシブルに対応できること。2つめはデジタル一眼レフカメラ並の画質で常に撮れること。3つめがコンパクトデジタルカメラ並の機動性が発揮できることだった。今回、これらの条件をクリアして製品化を実現した。
「切れ味鋭いナイフのGR DIGITALシリーズに対してGXシリーズを十徳ナイフに例えているが、GXRはGXシリーズの進化型になる」(湯浅氏)と説明。GXRでGXシリーズを置き換えるとしており、GXシリーズはGX200が最後になるという。なお、GXRの次のモデルに関しては、「1年や1年半で新しいボディを出すことは考えにない」(湯浅氏)とした。GXRおよび同時発表のユニットについては、GRシリーズなどと同様にファームウェアアップデートによる機能拡張を必要に応じて行なうとのこと。一例として、カメラユニットのノイズリダクション性能を向上させることなどもあり得るとしている。
一眼レフカメラが担う領域に挑戦した | 「GXR」の由来は“GX”と“XR”から |
カメラユニットを交換式にする5つのメリット | ストロボ内蔵のレンズ交換式デジタルカメラのレンズ装着時で、世界最小最軽量を謳う |
湯浅氏は、「デジタル一眼レフカメラでは、選んだレンズがセンサーとベストマッチングするとは限らない。GXRでは撮像素子、レンズ、画像処理エンジンのベストマッチングで高画質を実現している。リコーが提供するユニットを使えば、必ずベストマッチングの組み合わせで撮影できる」とアピール。ローパスフィルターも、レンズの分解能に最適化したものを使用することができるため、偽色を防ぎつつ、解像力への影響を最小に抑えることができたとのこと。またユニットをパッケージ化したため、ゴミが入らない点も挙げ、「屋外でレンズを変えたいと思ったときに、何の懸念もなくカメラユニットで交換できる。私は1カ月前から、実践しているのでこの点は自信がある」(湯浅氏)と述べた。
GXRのスライドインマウントに関しては、「設計者に何度も作り直しをさせて、操作感が落ちないようにした。使いやすさは自負している」(湯浅氏)とこだわりを述べた。湯浅氏によれば、ユニット交換式カメラの具体的なアイデアは2年余り前からあったという。一方、リコーでは2005年にGR DIGITALでの撮像素子交換サービスを検討していたことがあった。それについて湯浅氏は、「今回のGXRに直結してはいないが、少なからずそのときの考えがずっとあったのは事実だった」と明かした。
湯浅氏はGXRについて、「デジタル一眼レフカメラでもできない領域に足を踏み入れることができたのかなと思っている。オーバーシュートしてしまったユーザーを取り戻せる手段にできると考えている」とした。湯浅氏の言うオーバーシュートとは、それまで携帯電話やコンパクトデジタルカメラでライトに写真を撮影している人が、いきなり一眼レフカメラに飛躍してしまうこと。
ユニット交換式は、デジタルカメラとして珍しいシステムだ |
GXR本体は当初月産5,000台を想定しており、GR DIGITAL IIIと同程度のボリュームでのスタートになるという。想定ユーザー層は、「カメラや撮影が大好きな人」(湯浅氏)と従来からの主張は変えていない。それだけに、「些細な数だと思うが、GR DIGITAL IIIとの食い合いはあると思う。GXRの最大のライバルはGR DIGITAL IIIにになるのではないか」(湯浅氏)とも話す。一方で、「マイクロフォーサーズ機がデジタル一眼レフカメラから降りてきたところに、リコーはコンパクトデジタルカメラからGXRを上げている。その境界でユーザーは選択に迷うだろう」(湯浅氏)とマイクロフォーサーズ機をライバルとする考えも覗かせた。
なお、GR LENS A12 50mm F2.5 Macroの撮像素子は「ソニー製と同等品」(湯浅氏)とのこと。また、RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VCの撮像素子は、GR DIGITAL IIIと同じものとなっている。
湯浅氏によると、2010年5月頃には望遠端が300mm程度の高倍率ズームレンズと高速CMOSセンサーからなる新カメラユニットをリリースしたいという。「次のカメラユニットはできるだけ早く出したいが、価格は全く決まっていない」(湯浅氏)。
リコーでは、カメラ用途以外のユニットも提案している。これらは具体的な製品形態や発売時期は未定だが、「カメラユニット以外のユニットを発売すること自体は決定している」(湯浅氏)という。発売するユニットについては、「まだ社内でも揺れている」としており、今後、市場のニーズを見ながら検討していく考え。なおカメラユニットも含めて、年に2~3種類のユニットを供給していく計画としている。
ユニット交換式は、レンズ、撮像素子、画像処理エンジンのマッチングが図れる | 各ユニットをそれぞれのシーンで活かすことができる。望遠レンズと高速CMOSとある右のユニットは、2010年5月頃発売予定の新型ユニット |
GXRは、カメラ以外のユニットの装着も可能となっている |
会場には、プリンター、プロジェクター、ストレージ、無線撮影ユニットなど、GXR対応ユニットのコンセプトモデルを展示した。いずれもモックアップで、製品化は未定。なお、カメラユニットとGXR本体をコードで繋ぐことに関しては、「デジタルインターフェースのためノイズの影響は無いが、ドライブ能力が問題になると思う。エンジニアは現段階では難しいと答えている」(湯浅氏)とのこと。
GXRとユニットの接続インターフェースに関しては、積極的に現時点でオープンにしていくつもりはないとしているが、他社から対応ユニットの提案があればアイデア次第では仕様公開も考えるという。また、「メーカーとしては保証できないが、コネクタは汎用品を使用しているので……」(湯浅氏)とリコーの非公認ながら、サードパーティーメーカーなどから対応製品が出る可能も示唆した。
CIPAのカテゴリは何になるのか? との質問には、「我々は、『コンパクトデジタルカメラ』として開発し、販売する。CIPAがどう判断するかわからないが、コンパクトデジタルカメラに入れて欲しいと思っている」(湯浅氏)と答えた。
なお、デジタルカメラの画素数について湯浅氏は、「リコーは、画素数競争を追いかけることは端からしない。“高画素=高画質”ではないことにユーザーはもう気付いているのではないか」と答えた。併せて、「良い製品であることのアピールはしていくが、シェアを追うことはしない。シェアのためなら何でもあり、ということをするつもりはない」と従来からの考えを強調した。
●ユニットのコンセプトモデル(すべて製品化は未定)
GXRから離して撮影できるエクステンションユニット。GXRの下に付いているのはGPSユニット | 無線で画像を転送できるワイヤレスユニット |
プロジェクターユニット | ストレージユニット |
プリンターユニット |
■これまでの技術を結集
リコー パーソナルマルチメディアカンパニー設計室の北郷隆氏 |
続いて、リコー パーソナルマルチメディアカンパニー設計室の北郷隆氏がGXRの機能などを説明した。
GXRは、「実用性を追求したデザイン」(北郷氏)という通り、無骨な印象の道具感の強いものとなっている。表面には「GR塗装」と呼ばれるGR DIGITALシリーズと同様の仕上げを施した。
スライドインマウント方式のための工夫として、スライドシステムにはレールの形状を工夫するなど誤装着防止の機構を設けた。また、コネクタ部はフローティング機構を取り入れ、着脱の際のずれを吸収するシステムとした。GXRのボディはマグネシウム合金製だが、スライドマウント自体はステンレスを採用した。さらにマウント板には、バヨネット板(スプリング)を備え、レンズユニット挿入時の操作品位を向上させている。
GXRとユニットを繋ぐコネクタは68ピンの汎用コネクタだが、着脱回数が多くなることを考慮してコネクタメーカーで耐久性のテストも行なったという。なお今回のカメラユニットの場合、未使用のピンも多少残っているとのこと。今後登場する予定のさまざまなユニットに対応させるため、余裕を持たせている。
スライドインマウントのためのさまざまな工夫 |
ユニット側(左)とGXR側(右)の2つに処理エンジンを搭載し、小型化などを実現した | EVFは輻射対策などを行なって92万ドット相当を実現した |
GXRのスライドインマウント部 | 背面 |
グリップの上部にユニット取外しレバーを設けた | 底面にも信号端子を装備。将来、ボディの下側に付くアクセサリーに対応する。例としてGPSユニットや縦位置グリップなどが考えられるとのこと |
バッテリーとバッテリー室。なお、底面の穴(GXRのロゴの下部分)は、下側に取付けるアクセサリーの固定を助けるためのものだ | ユニットの端子部 |
ユニット交換時は電源をOFFにする必要があるが、電源ONでユニットの取外しを行なってしまった場合でも故障に至ることはないという。ただ、画像の転送中に外してしまうとその画像は失われる。なお、電源ON時に取外しレバーを操作すると警告画面と警告音が出る。
バッテリーは新型となるリチウムイオン充電池「DB-90」。撮影可能枚数でデジタル一眼レフカメラユーザーの要求に応えるために大型のものを採用した。撮像素子の大型化による消費電力増に対応する意味もある。なお、乾電池は使用できない。十分な撮影枚数を確保できないためとしている。なお、ユニット側に電源を搭載するユニットも作ることは可能としているが、ユニット側からGXRボディへの電源供給はできないとのこと。
GR LENS A12 50mm F2.5 Macroを装着したところ。ポップアップストロボを内蔵する | 同側面 |
RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VCを装着したところ | 同側面 |
RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VC専用となる自動開閉式レンズキャップ「LC-2」もオプションに追加した |
GR LENS A12 50mm F2.5 Macroのレンズ構成 | GR LENS A12 50mm F2.5 MacroのMTF曲線。点光源ボケもほぼ真円になるという |
RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VCのMTF曲線など |
背面左上のDIRECTボタンを押すと表示されるコントロールパネル。新搭載の機能で、ダイレクトに設定を変更できる |
専用EVFとなる「VF-2」は、約92万ドット相当の0.37型。sRGBをほぼ100%再現できるという。従来品の「VF-1」に比べて色収差も半減させた。今回、シミュレーション技術の改良などで接続部などの不要輻射を抑えた。「VF-2ではかなりの高画質を実現できた」(北郷氏)とする。なお、VF-2はRGBの表示を順次切替えるフィールドシーケンシャル型となっている。
設定のカスタマイズも細かく行なえるようになった。「GXRでは、一眼レフカメラの考え方を尊重した。デジタル一眼レフカメラユーザーは、画質に対する要望が多いためだ」(北郷氏)と述べ、デジタル一眼レフカメラユーザーにも馴染みやすいインターフェースであることをアピールした。
北郷氏は最後に、「GXRは、従来から開発してきたテクノロジーを集約したシステム。今後発展する技術にも対応できる将来性のあるシステムになっている」とまとめた。
VF-2 | VF-2を装着したところ |
GXRと同時発売のクリップオンストロボ「GF-1」。TTL調光が有効となるのはGXRとGR DIGITAL IIIの2機種 | 背面 |
各ユニットを装着した状態に合わせた専用ケースも用意する |
■「ボケ味に感動」。ハービー山口氏とテラウチマサト氏が登場
ハービー山口氏(左)とテラウチマサト氏(右) |
発表会ではスペシャルゲストとして、写真家のハービー山口氏と同じく写真家のテラウチマサト氏が会場に駆けつけ、GXRの印象などを語った。
ハービー氏はGXRの第一印象を「僕は専らライカを使っているフィルム派だが、(GXRを使って)うーん、ここまで来るとデジタルやるな、と。GXRはベストなフィルムとマッチングしているというような感覚があり心強い。GR DIGITALシリーズで培った信頼もある」とした。
一方テラウチ氏は、「アウトフォーカスの表現はカメラでしかできないもの。そのためにボケにはこだわるんです。今回のGR LENS A12 50mm F2.5 Macroのボケ味にはかなり感動しました。こんな大きなセンサーが小さなカメラに入っているのにびっくりしました」と驚いた様子。ハービー氏も「ボケ味には僕も感動しました」と気に入っていた。
「携帯電話の登場でコンパクトデジタルカメラはどうなるか心配でした。その中で、こうしたカメラが出てきてよかった」(テラウチ氏)。「タイムラグさえどんどん小さくなっていけば、ハイエンドコンパクトデジタルカメラの未来は明るい。人物を撮るときに一眼レフカメラを使うよりコンパクトタイプを使う方が安心します」(ハービー氏)。
ハービー山口氏 | テラウチマサト氏 |
ハービー氏は、トイカメラとして使えるユニットや立体撮影ができるユニットのほか、35mmフルサイズセンサーを搭載したユニットが欲しいとリクエスト。「ロモのような遊び心のあるユニットが廉価に登場すればおもしろくなりますね」(ハービー氏)。
テラウチ氏は、サンアントニオで実際にGXRを使ってきたという。「朝に走りながらズームで撮って楽しみました。さらに、GR LENS A12 50mm F2.5 Macroに交換してゆっくり撮ることもできました。ISO800でもいけました」。「高感度の進化は嬉しいですね」(ハービー氏)。
ハービー氏は、「いいカメラというのは、撮る勇気を与えてくれるカメラ。あの人は怖そうだから撮るのはやめようかな、というときに使えるのが僕の場合はライカ。コンパクトデジタルカメラでそういうものが出現したらフィルムとデジタルが両立する。それがGXRだったらという期待があります」と語る。テラウチ氏は、「僕の場合は、買ったときより年月が経ってからの方が嬉しくなるカメラがいいカメラの定義です。GXRは(ユニットによって)今後変わっていくことで未来的な楽しみがありますね」と話した。
発表会を開催したリコー大森事業所(東京都大田区) |
2009/11/10 22:51