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「生成AIはクリエイティブの材料に過ぎない」米Adobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏
Adobe Fireflyの動画生成をデモ Adobe MAX Japan 2025で
2025年2月14日 10:03
アドビによるクリエイター向けイベント「Adobe MAX Japan 2025」が開催された。オープニングの基調講演として、米Adobe本社のCEOであるShantanu Narayen(シャンタヌ・ナラヤン)氏が登壇。Adobeのクリエイティブ製品やAcrobat製品における最新機能では、特に生成AIに関する新機能が紹介された。
ナラヤン氏は、これらの製品を通じて「全ての人々にクリエイティブとプロダクティビティのエンパワーメントを提供したい」と強調し、Adobe製品の新機能をアピールした。
日本市場を重視、様々な機能を提供
Adobe MAX Japanに、ナラヤンCEOが来日したのは初めて。「Create magic.」をテーマとしたAdobe MAX Japan 2025の基調講演では、マジックのテーマに沿った形で数々の新機能が紹介された。
ナラヤン氏自身は30年以上前から日本を訪れており、Adobeで初めて担当した製品は、当時「HOTAKA」と呼ばれていた日本向けのAdobe InDesignだったそうだ。その後、「すべての大手の出版・印刷会社に採用された」(ナラヤン氏)ほど、日本で普及。KADOKAWA、大日本印刷、TOPPANなど、多くの顧客があるとしたナラヤン氏は、日本語で「いつも私の誇りにあります」と、日本企業と長年の関係に感謝を示した。
「Adobeにとって日本市場はとても重要な市場」だとナラヤン氏。Adobe IllustratorやAdobe InDesignにおけるテキストエンジンの最適化は日本のユーザーの要望を反映したもので、他にもAdobe Expressにも日本向けの改良を加えており、日本向けの機能追加も行われている。そうした結果として、日本ではクリエイティブ製品としてAdobe IllustratorとAdobe Photoshopが最も使われている製品となっているという。
Adobe Premiere Pro向けにも日本ユーザーのニーズに応える機能も搭載しているが、クリエイティブ製品だけでなく、ドキュメントクラウドでは日本政府の政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)に登録され、制度上の対応も進められている。
ナラヤン氏は、こうした取り組みについて「素晴らしいコミュニティの人々と多くのイベントで交流してきたおかげ」と強調した。
生成AIはクリエイターを置き換えるものではない
「2024年は再びクリエイティブが変化を遂げた年として記憶されるだろう」とナラヤン氏。それが、1年間の生成AIの進化だ。「AI革命のペースとボリュームが大幅に増え、日常生活まで変えている」とナラヤン氏は話す。
こうした生成AIの進化についてナラヤン氏は、「これには“凄い”と“恐い”の両方がある」と指摘。生成AIによる様々な課題がありつつも、未来に繋がる技術だという認識を示す。
「Adobeは創業以来、技術を通してアートを自由に解放することを常に重視してきた。その中心にはクリエイターがいる」とナラヤン氏。その一環として提供されるのが、同社の生成AI「Adobe Firefly」だ。ナラヤン氏は、「アイデア出しとクリエーションの着地点」だと説明する。
同日、新機能が発表されたAdobe Fireflyは、画像、ベクター、動画、音声を1カ所で生成できるWebアプリケーション。クリエイティブクラウド製品とシームレスに統合され、生成してそのまま制作へ移行できる点も特徴とされる。動画生成に対応した新たなFirefly Video Modelは、Adobe Fireflyの特徴である、知的財産をクリアしたものだけを学習データとして利用し、生成したコンテンツを商業的に安心して利用できるというメリットはそのまま維持している。
他にもAdobeは、デジタルマーケティング業界向けのツールとしてAdobe GenStudioを提供。生成AIによってデザイナー、マーケッター、広告代理店、クライアント企業といった関係者がクリエイティブのプロセスに関与できるとナラヤン氏。
ドキュメントの生産性を高めるとしてAdobe AcrobatにもAcrobat AIアシスタントを搭載。PDFの要約や翻訳など、AIによる生産性の向上を可能にする。こうしたAdobe Acrobat、Adobe Express、Adobe Photoshop、Premiere Proなど、「あらゆるスキルレベルのユーザーに最適なAdobeを提供していく」とナラヤン氏は話す。
Adobeの生成AI技術は、3つの構造からなっているとナラヤン氏は説明する。データ、モデル、アプリとインターフェースの3つのレイヤーで、「これがあって初めてクリエイティブの役に立つ」とナラヤン氏。
データとはAIモデルの学習データの品質と完全性で、ライセンス許諾を受けたデータやパブリックドメインのデータを学習に使うことで、商業的に安全で知的財産を尊重した生成AIの利用が可能。Adobeユーザーのコンテンツを学習に使うこともないとしている。
Adobe Fireflyでは画像、ベクター、動画といった複数のモデルを開発しているが、「生成AI自体が目的ではなく、クリエイティブの材料に過ぎない」とナラヤン氏は話す。インタフェースは各ソフトやツールでAIを使いやすくしたUIなどのこと。こうした3つのレイヤーによって、クリエイターの創作をサポートするのが目的だ。
キーノートでは、Firefly Video Modelによる動画生成のデモ、Adobe Photoshopの生成AIを使った人や電線の削除ツール、生成拡張ツールのデモ、Adobe Premiere Proにおけるキャプション翻訳や音声翻訳、メディアインテリジェンス機能のデモなど、多くの新機能が紹介された。
Adobe Fireflyを含むAdobe製品のシームレスな連携もデモされていたが、その中心にAIがあり、AIがなくてはならない位置づけになっていることを示していた。こうした多彩なAIの機能によってアドビは、クリエイターのクリエイティビティと生産性を高めることを目指している。
「クリエイティブというのは人間独自の性質である。 AIは人の創意工夫を補助し、拡大するもの、そして生産性を向上させる力を持つもので、人を置き換えるものではないという信念を持っている」とナラヤン氏は強調。
今回のAdobe MAX Japan 2025では、「1カ月前にチケットがソールドアウト。Adobe MAX Japanでは初めてのこと」(アドビ中井陽子社長)と、クリエイターなどの注目度はさらに高まっている。アドビは生成AIを通じて、クリエイターたちの創造性を拡張し、クリエイターをサポートすることを目指していく。