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パナソニック、CEATEC 2024で高感度イメージセンサーを展示

TOPPANブースでは安定したホワイトバランスの取得技術も

CEATEC 2024

千葉・幕張メッセで開幕したCEATEC 2024の会場、パナソニックや凸版印刷が将来のカメラに繋がる展示をしていた。

いずれも技術展示の状況で、いずれも今後、開発を続けて商品化に繋げたい考えだが、まずはB2B向けの製品になる見込み。いずれ、コンシューマ向けの製品への展開も期待できる。

LUMIXの将来の高感度センサー?

パナソニックブースで展示されていたのはハイパースペクトルセンシング技術。モノクロセンサーと新たなカラーフィルターを用いることで大幅な感度向上と解像度向上を図った。わずかな色の差も識別できるようになることで、工場などでの目視検査業務省人化、効率化できると期待されている。

パナソニックブース

技術的な特徴となるのは圧縮センシング技術と独自の特殊フィルター技術の採用だ。圧縮センシングは、MRIのような医療機器にも使われており、色の変化する境界以外を間引いて記録し、それを復元するという技術。

デモでは、走行するプラレールの電池の文字を撮影する、というもの。動きが早いため既存機種ではブレてしまっているが、デモ機では感度が高いためシャッタースピードが速くなり、ピタッと静止している

特殊フィルターは、従来のRGBセンサーよりも色数の多いフィルターで20~50色程度の色に対応している。フィルター自体はまずざっくりとした色を取得しておき、画像処理で細かな色に分解する、という手法を採用しているという。

特殊フィルター(左は実際のフィルターの拡大画像)。RGBではなく、より多くの色が含まれている

最終的にはRGBよりも多くの色数を認識しているため、肉眼では識別が難しかった車の塗装ムラ、食品工場での調理ムラ、白米の上の白髪、などといった色の違いを判別できるようになるとのこと。

まずは工場などの現場でのセンシングで活用を目指す

こうした色を細かく分けようとすると感度が犠牲になる。これに対しては圧縮センシングが有効に働き、感度が犠牲にならない。感度は従来比10倍にも達して、これまでは室内の500lux程度の明るさで真っ暗に写ってしまったが、明るく色を再現できるようになった。

従来なら真っ暗なシーンでも新たな仕組みだと明るく色が表現できている。解像度も大幅向上

解像度に関しても、従来のVGA程度から4Kになり、約6倍の向上を果たしている。ちなみに、撮像素子にはモノクロセンサーを採用して感度が高められているという。

当初は、前述のような工場の現場や大学の研究室といった専門領域での活用を検討していたが、現状は後段の画像処理をPCで行っていて、システムとしての販売を想定しているとのことだ。来年度には商品化にこぎつけたい考えとしており、現状は可視光線のみだが、年内にも赤外光に対応させる計画だという。

今回、展示ではDC-BGH1にモノクロセンサーと特殊フィルターを搭載することでデモが行われていた。DC-BGH1自体が特殊なカメラだが、市販のカメラではある。今回は特殊フィルターがモノクロセンサー用に設計されているが、通常のRGBセンサー用に設計して搭載することは可能だという。

ただし、RGBセンサーの場合は入射光をそれぞれRGBに分解するため、例えばR画素にはGBの光が届かなくなる。モノクロだとこれがすべて通るため感度としては有利になる、と説明員。特殊フィルターが現状はRGBセンサーのフィルターと同等の透過率(30%程度)だが、これを50%まで引き上げられるという。

もともと、今回の仕組みで感度は向上しているため、これを50%まで引き上げるとさらに高感度なセンサーが実現できる、というわけだ。将来的にLUMIXのセンサーが「モノクロ+特殊フィルター」となる可能性もある「かもしれない」という展示だった。民生向けの展開はまだ決まっていないが、今後の開発が期待されるところだ。

より正確なホワイトバランスをAIで

TOPPANのブースでは、「カラーマネジメントエリア」として「実物の正確な色再現を可能とする撮影画像からの色情報取得」という展示が行われていた。これまで、印刷物に注力してきた同社ならではのノウハウを生かした色予測AI技術となっていた。

TOPPANブース

これまでTOPPANでは、モニターや撮影データ上で適切な色を再現するクラウドサービスとして「CAM-FIT」を提供してきた。これまで印刷物で培ってきた高精度なカラーマネジメント技術を使ったサービスとされているが、利用にはカラーチャートの撮影が必要だった。

このカラーチャートを使った色合わせを不要にするために、独自の色予測AIを活用して実物の色を正確に取得して、モニタ上に忠実に再現する、というのが今回の技術の特徴だ。

デモでは、市販の一般的なデジタルカメラを利用。標準の撮影だと、やや赤みが強く出ていて、カメラメーカーの味付けではあるが、「正確な色」という意味では異なっている。TOPPANの技術を使うと、色味が落ち着いて見た目と同じ色再現となっていた。

一般のカメラで撮影した画像を取り込む
撮影画像なので分かりにくいが、一般のカメラの写真(左)だと、赤みが強く美味しそうではあるが正確ではない、というところがポイント。右の同社の記述だと、見た目通りの色になっていた

まずターゲットとしているのは医療現場。例えば診察時に肌の色などを撮影して、後日改めて撮影する際に写真の色がバラバラだと正確な診断ができない。そこで正確に色再現にニーズがある、とTOPPANでは考えているようだ。

特に、今後は遠隔医療が普及してくることが見込まれ、遠隔地の患者の肌の色などが正確に再現できることがさらに重要になってくるとみられる。ただ、現状は医療機関でも遠隔医療に対する優先順位は高くはないということで、ニーズを見極めつつ開発を続けていく考え。

カラーチャートなしで正確な色再現を実現するため、大学の研究室とも協力してテストをしているとのことで、たとえ照明の色が異なっても物体の色を正確に検出しているため、正しい正確な色を再現できるという。

照明の色を変えても実際は正確に色を認識しており、照明の色を取り除くこともできるし、逆に別の色を重ねることもできるという

現状は、ローカルでAIを動かしているため処理は重く、PCで実行していると言うが、今後の半導体のパフォーマンス向上や研究開発によって軽量化を図るなど、より小規模なシステムでも実現する可能性はある。

応用範囲としては、例えばスマートフォンカメラのホワイトバランスのアルゴリズムなども検討範囲に入りそう。SoCメーカーのISP(Image Signal Processor)に内蔵すれば、カメラが得意でない端末メーカーも安定したホワイトバランスのスマートフォンカメラが実現できるかもしれない。

小山安博

某インターネット媒体の編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、スマートフォン、キャッシュレスなどといったジャンルをつまみ食い。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプで、「世界最小・最軽量」が大好物。たいてい何か新しいものを欲しがっている。