インタビュー
いまニコン Z 9にぴったりのCFexpressとは?ProGradeの新「GOLD」の魅力を上田晃司さんに聞いてみた
2023年4月21日 12:00
メモリーカードメーカーProGrade Digitalは、CFexpress Type Bのラインナップに512GBと1TBのモデルを追加した。2月に発売したこの2製品は、ProGradeのベーシックラインに位置づけられる「GOLD」に属しながらも、公称の最大書込速度が1,500MB/sに達する新世代の製品となる。
つまり、上位ラインの「COBALT」にスペック上で並ぶことになるのだ。それでいて価格面でも高いコストパフォーマンスを持つという下克上ぶり。
何とも判断に困る新GOLDだが、実際に撮影現場での肌感覚ではどのような評価になるのだろうか?
それを確かめるべく、COBALTシリーズをニコン Z 9で使用するカメラマンの上田晃司さんに新GOLDを使っていただいた。
Prograde Digitalを愛用する理由とは?
――上田さんはProGrade DigitalのCFexpress、それもCOBALTを大量に持っていますよね。他メーカーの製品と比べて優れていると感じる点はありますか?
上田晃司さん(以下略):やはり撮影途中にトラブルを起こす心配がほとんどないという点がありがたいですよね。
いまメインで使っているZ 9には「自動電源OFF温度」という機能がありますが、経験上、ProGrade DigitalのCFexpressで温度警告が出たのは、夏の沖縄で撮影していたときくらいです。
ところが、他のブランドのCFexpressだと、撮影の途中でオーバーヒートしたり、単純に書き込みが追いつかなくなって書き込めなくなるということが結構ありました。
なぜそういうことが起こるのかといえば、Z 9でN-RAW 8.3K 60PやH.265 10bit 8K 30Pの映像を撮影しているからなんですね。機材スペックの上限に近いところで映像の撮影をしていると、メモリーカードの性能が公称の数字を大きく下回ってしまうことがあります。
僕が最近取り組んでいるプロジェクトの中のひとつに、大規模な発電所や工事現場の記録映像を8Kで残すというものがあります。10年後やそれより先に価値が出てくるという性質の映像ですから、将来を見越して8K/60Pや30Pで記録しています。
――8Kはわかるのですが、60pもやはり必要なのでしょうか?
8K映像の場合、動きのあるシーンなどは最低60pは必要ですね。なぜなら人間は8K解像度の映像を30pで見ると、目がついていかなくて疲れやすくなってしまうらしいんですよね。
――メモリーカードの品質についての考え方を教えてください。
正直に言ってしまうと、僕にとってメモリーカードってあまりときめかない部類の買い物なんです。メモリーカードで直接的に画面の描写が変わったりするわけではないですから。
でも同時に、撮影の結果をすべて記録しておく必要不可欠な要素でもあるわけです。特に僕がいま使っているZ 9はデュアルスロットではあるのですが、(映像の)両スロット同時記録はできないので、そうなると、いかに信用できるメモリーカードを使うかが重要です。その観点から評価するなら、ProGradeに関しては今のところ使っていて何のトラブルもないですね。
COBALTに迫る新GOLDの実力
――新世代のGOLDでは512GB/1TBと大容量化していますが、具体的にどのようなメリットがありますか?
8K映像はN-RAWで撮影しているのですが、1TBの場合は23分22秒記録できるのがうれしいですね。COBALT最大容量の650GBではその半分くらいしか撮れません。
4.1K/60pで撮影したProRes RAW HQでも30分近く記録できるので、やはり現場ではメモリーカードの交換頻度が少なく済む点で非常に助かっています。
――速度面ではどのように評価されますか?
ベーシックラインとして考えると、他にないくらい速いですね。僕が使ったのはGOLDの1TBですが、純正のカードリーダーをThunderboltでMacbookに繋げれば、読み出しの実測値で1,300MB/秒、書き込みで1,500MB/秒を安定して出ます。COBALTと遜色ないといっていいでしょう。カメラでの使用感にも差はなく、COBALT同様、Z 9の性能を引き出せていると感じました。
――となると今後悩ましいのが、COBALTとGOLDの使い分けですね。どのように考えていますか?
GOLDはまず旧モデル(128GB/256GB)と新モデル(1TB/512GB)は完全に別物ということを踏まえつつ、僕の使い方に限っていえば、新世代のGOLDで問題なく使っていけると思います。今後メモリーカードを買い足すとしても、コストパフォーマンスの観点からGOLDを選ぶことになるだろうというのが正直なところです。
その上でCOBALTの立ち位置を考えると、カメラ側で撮影可能なデータの幅が拡がったときの先行投資として持っておくのはありだと思います。今はN-RAW 8.3Kを普通に撮影できるけれども、もしかしたら数年後には8K/120pを撮ることになるかもしれない。用途でいえば、12Kで撮っておいて後で8Kにクロップするということもありうるし、もっといえば映像の記録フォーマットも進化していくわけですから、COBALTにはそのとき追加投資なしで使える可能性があるかもしれませんね。
――ProGradeのCFexpressはCOBALTとGOLDでそれぞれ異なるNANDメモリを使っていることもあり、両シリーズで容量の区切りが異なります。容量によって運用を変えることはありますか?
僕の場合は大容量の方が使いやすいですね。映像なら選択の余地なく1TBだと思います。「1TB」という容量は、外付けのSSDに移すときとかにキリがよくてなにかと便利なんですよね。静止画であれば512GBでも運用上十分な容量だと思います。価格も1TBの半額以下なのでコスパもいいですし。
例えば、先ほど8.3K RAWの話をしましたが、あれはちょっと極端な例で、実は8KでもH.265の10bitで撮ることの方が圧倒的に多くて、その場合であれば1本あたり5時間近くは撮影できます。
――ProGrade製CFexpressが搭載しているNANDメモリの種類は、GOLDがTLCで、COBALTはpSLCということで、COBALTの方が長寿命、高信頼性とされていますが、メディアの寿命についてはどのようにお考えでしょうか?
信頼性は確保されているのが前提ですが、メモリーカードの寿命に関しては、僕の場合は寿命まで使うことって考えにくいですね。
ただ、8Kの映像を撮るようになって、毎回メモリーカードの空き容量ギリギリまで記録するというのはこれまでになかったので、これからはちょっと考えないといけないかもしれません。
CFexpressの普及にも一役買う?
――CFexpressというフォームファクタについてはどうお考えでしょう。
実感としてトラブルが少ないというのはありますね。まず主流のSDメモリーカードと比べて端子の露出具合が少ないというのに安心感があります。これは個人的な感想ですが、SDメモリーカードよりは大きくて、CF(コンパクトフラッシュ)よりは小さいサイズ感が、取り回しがしやすくて好きです。端子の話に戻りますが、CFは抜き差しするときに緊張感があるんですよね……。
――今後、CFexpressは普及すると思いますか?
あり得ると思います。個人的にはこれから中級機でもCFexpressが使えるようになると予想しているのですが、その予想がいまいち現実的でなかった理由は、CFexpress自体が高価すぎたことでした。現行の中級機ってだいたい20~30万円くらいのレンジだと思うのですが、そこに対してメモリーカードに10万円かかったりするのは明らかにバランスが悪かった。
価格帯でいえば、UHS-II V90クラスのSDXCメモリーカードって容量に対する価格が高止まりしてしまっている感もあって、それを思えば、新「GOLD」シリーズの512GBなら3万円いかないくらいで、これまでと比べればコスパも良いですし、特に写真だけ撮るならば、相当長い期間交換せずに済むのではないでしょうか。
制作協力:ProGrade Digital Inc.