インタビュー

オリジナル・ラブ 田島貴男さんがフィルムカメラに夢中と聞いて

9月30日まで写真展「Bless You!」を開催中

田島貴男さん

ミュージシャン田島貴男さんの初となる写真展「Bless You!」が、東京・銀座の「MASTERWAL GINZA」(東京都中央区銀座5-8-9 BINO銀座6F。11〜20時営業)で9月30日まで開催されている。

この写真展は、アーティストがカメラを手にして撮影した写真を発信する「Artist Photo Lab」の第一弾として開催。展示スペースは雰囲気ある家具ショールームの一角で、カラーとモノクロ合わせて約20点が展示されている。作品はいずれも購入可能。

写真歴は「3年目」だという田島さん。しかし特に機械式カメラや現像処理についてはベテランの愛好家と話しているような自然さがあり、話し手が類い希なミュージシャンであることを時に忘れさせる。だがその知識と経験の蓄積は3年目にしては猛烈なレベルで、本業である音楽と同様、その天才的とも評される探究心の賜物だと感じられた。

田島貴男さんにインタビュー(聞き手:筆者)

——カメラとの出会いについて聞かせてください。

ミュージシャンとして毎年ツアーをしている中で、スマートフォンでは写りきらないようないいシーンを撮りたくなって、最初にミラーレスカメラを買いました。それが面白くなって、デジタル一眼レフカメラも買ったんです。

フィルムカメラとの出会いは、ライブアルバム「SESSIONS」(田島貴男&長岡亮介)の写真を撮ってくれたカメラマンがきっかけです。彼がライカM3を使っていて、それに触れてみてカッコいいなと思いました。出来上がった写真を見ると、フィルム写真の質感もよかったんです。

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それでフィルムカメラをやってみたいなと思って、一昨年の春ぐらいにニコンのFM3Aを買ったところからハマりました。ライカは高価だと思っていたんですが、カメラ屋を見ていると中古なら割と手に入る価格帯だということがわかってきました。

すると、ある店でライカM3が13万円から10万円に値引きされていて、外装は傷だらけでトップカバーもスレが多かったけれどアタリはなく、整備済みで機能はOK、ファインダーも綺麗でした。

それで撮ってみて写りにハマり、ライカにハマりました。それからM型はM2、M6と買って、バルナックライカにも興味が出て、最初はIIIfを買い、ほかにDII、DIIIと計3台を持っています。

——その日に持ち出すカメラは、どうやって選びますか?

その時ハマっているカメラです。今はニコンSシリーズにハマっています。S2、S3、SPと持っていて、S用ニッコールレンズの描写も気に入っています。

現在愛用のニコンS3。コシナのVCメーターIIを載せている。同じく所有するS2も、後発のSPやS3に比べ、より手作業らしいディテールが残る点が好みだという。

ニコンS2を使っていると、当時いかにライカを追いかけつつ、ニコンならではの味を付けるかを考えられたカメラだなと思います。造りがシンプルですし、M型ライカとバルナックライカの中間のような使い心地が面白いですね。上に取り付けるズームファインダーの見た目もカッコいいです。

ニコンSPは、レンジファインダーカメラの中で使いやすさにおいては完璧な気がします。ライカのM3やM2より使いやすいかもしれません。SPはファインダーが暗いと言われますが、いい状態で残っている個体が少ないだけで、探せば広角側も望遠側も綺麗なものがあります。

先日、初めてカメラマンとして依頼を受けて仕事をしました。「友達感覚でアーティストを撮る」というところから始まった撮影です(フラワーカンパニーズ「50×4」)。その時はさすがにもっと手堅いカメラを使いたくて、ニコンのF4を持っていきました。あと、ハッセルブラッドとライカM2も使いました。ハッセルはフレーミングがすぐに決まって便利でしたね。

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中判だとゼンザブロニカもすごくいいです。ハッセルよりちょっと重いけど、より頑丈な気がします。ゼンザブロニカS2の時代のニッコールレンズは素晴らしいですね。これには大判用レンズからの流れがあるんじゃないかと想像しています。1960年代のレンズなのに、カラーで撮っても不思議といい色が出るんです。

——普段の撮影ペースはどれぐらいですか?

2日でフィルム1本ぐらいです。モノクロフィルムは自分の手で現像しています。未現像フィルムがたまってくるので、週に1〜2回は現像します。今朝も廃液処理の引き取りがあったんですが、その値段が上がっていて大変! 特に停止液がたまりますね。

最初は撮ったフィルムをカメラ屋に現像へ出して、スキャンされた画像をスマホで受け取るサービスを使っていましたが、詳しい人から「スキャナーを買ったほうが安いし、画質もいい」とアドバイスを受けて自分でやり始めました。

現像後はスキャナーでスキャンして、Lightroomで仕上げています。音楽制作ソフトと違ってタイムラインがないのは新鮮ですが、Lightroomの操作も上手くなってきましたよ。写真と絵画の中間的なものに感じられて、手作業の楽しさがあります。

使うモノクロフィルムはコダックのトライX 400と富士フイルムのアクロス100がメインです。カラーネガのFUJI PRO 400はニコンのオールドレンズと相性がいいですね。最近では長巻きのモノクロフィルムを海外から買って、フィルムローダーで詰め替えています。このフィルムローダーが新品だと意外に高くて、ネットオークションで探して落札しました。

スキャンはフラットベッドスキャナーを使っています。使っているうちに、ガラスの内側の取り除けない位置にホコリが入ってしまって、それを避けるようにネガを並べたりしています。

先日、展示作品のセレクト用に500枚をスキャンした時は大変でしたね。ずーっとスキャナーの前に張り付いていないといけない。やっているうちに、スキャナーのガラス面を綺麗に拭いておくと、フィルムにホコリがつきにくいということがわかってきました。

そうそう、現像液の温度管理は難しいですよね。1度でもずれると結果が変わってしまうので、1.5リットルの現像液全体をどうやって20度ピッタリにするか、風呂場で20分ぐらい必死に悩みながら作業していたり(笑)。

——カメラと楽器、写真と音楽で、共通性や違いを感じることはありますか?

ヴィンテージカメラとギターは似ていると思います。どちらも昔の職人の心意気を感じることができますね。ギブソンなら1949〜1964年ぐらいまでのギター。工業製品が手工業から機械化される直前で、1950年代あたりまでの職工さんは、木材の選び方や工作技術など、とにかく腕が良かったんだろうなと思います。

思えば今こうしてカメラにハマっているのは、ギターに凝るようになったのが原点かもしれません。40歳を過ぎてアコースティック楽器でツアーをやるようになるまでは、ギターというモノ自体には無頓着でした。

カメラもデジタルを使っている時はわからなかったけれど、1950年代ぐらいのフィルムカメラを触るようになって、そうした時代ごとの質感の違いに気づき、ギターに似てるなと思いました。

例えばニコンSならSレンズ、ライカならDIIIに赤エルマーとか、その時代のマッチングを意識するとより恰好もいいし、その時代のデザインがわかってきて面白いですね。バルナックライカを辿っていくと、「35mmカメラを昔の人はどのように考えて作ったのか」、「それがどう洗練されていったのか」と思いを馳せます。

当時のカメラの魅力は「まだ人間の頭が追い付いていける工業製品である」というところです。1970年代以降は(カメラの内部が電子化されてきて)難しすぎて。デジタルカメラも、画素数的には1,200万とか1,800万画素で十分な気がします。

会場に展示されているライカDII。シリアル番号から1936年製だとわかる。エルマーのレンズ先端部で絞りを操作するのが楽しいという。革ケースはカメラ・ヒラノ製。

——カメラや写真から音楽に触発されることはありますか?

写真が音楽を浸食してきましたね(笑)。ライブでも、自分で撮った写真をステージの後ろに投影したり。そもそも写真は遊びでやろうと思っていたし、50代の自分が始めたところで、モノになるとは思ってなかったんです。

自分の撮った写真は自分の音楽性と合っているような気がします。これまで、自分の音楽にどういったビジュアルが合うかわからなかったけど、自分がフィルムで撮った写真が曲にマッチしているなと思うことがあります。自分が気に入っているものがベースになっているので、写真と音楽の両方に現れるんですね。

フィルム写真は、イレギュラーやエラーもあるのが魅力です。露光量が正しくないと、とたんにカラーバランスが崩れたり、粒子が荒れてしまったり。でも、デジタルのシミュレーションでそういった画質にするのは物足りない。音楽もそうです。

フィルム写真をやっていると、そのままのフィルムが残した偶然や、自分の意識からはみ出た部分が意外な表現になっているのが面白いです。

——ゆくゆくは、音楽のアートワークもご自身で手がけられたり?

いや、それはないですね。あくまで音楽があってこその写真、つまり遊びです。写真をやって気付いたのは、音楽も含め「仕事だけど、遊びなんだな」ということです。そこを忘れると、つまらなくなっていきます。写真が遊びだったことの良い面が出てきました。これを仕事と考えたらつまらなくなる。

もちろん"業務"は必要だけど、それだけじゃないんです。それを面白いと思えるか、ですね。面倒だと思ったら何でも面倒です。

——今回の展示作品はどのように選びましたか?

撮影した写真が6,000枚以上あったので、400枚ぐらいまで自分で選んで、あとはお任せしました。他人に選んでもらうことによる再発見もあって、満足しています。

本誌:鈴木誠