カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

日本屈指の猫島だったアートの島は、今?(男木島・前半)

香川県の瀬戸内海に、現在「アートの島」として有名な男木島(おぎじま)があります。高松港から船で40分の沖に浮び、女木島(めぎじま)の先に浮かんでいます。

今年、瀬戸内国際芸術祭が開催されている島のひとつなので、島の人口よりもはるかに多くの人が渡島します。船は大勢の積み残しをして、臨時便を出すほど。

男木島は、数年前まで島の人口より猫が多い? と言われるほど、日本屈指の猫島として猫好きの間で有名でした。男木島の情緒的な家並みや朗らかな港に、たくさんの猫が集まり、時にはとことこ人間について回るほどの人懐っこさでした。

ところが、2016年に島で全頭の避妊・去勢をしたのを機に、猫の数が激減したと言われていました。

今回、久しぶりに男木島へ、どれほどの猫たちがいるのか見にいってきました!

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【これまでのねこ島めぐり】

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高松港から船「めおん2」に乗ろうとすると、切符売り場は長蛇の列で40分ほど並び、ようやく臨時便に乗ることができました。瀬戸芸人気、おそるべしです。

船は女木島を経由して、男木島へ行きます。女木島は、細長い形で、平地に集落が広がります。一方、男木島はやや丸い形で、平地が少ないため山の斜面にびっしりと家がうろこ状に密集しています。

女木島を経由して数分止まり、その後男木島へ。

船からは男木島の先にある豊島や小豆島、本土も眺めることができ、瀬戸内海の多島美を満喫しながら写真撮影。なにより、穏やかな海なので船旅も気持ちがよいです。

男木島の港について、まずは荷物を預けにテントに立ち寄りがてら、

「最近猫ちゃんはいますか?」と聞くと、

「いやあ、もう避妊去勢してるから、増えないし、減ったなあ」と地元のお母さんが教えてくれました。

やはり、減ったのでしょう。ただ、全くいなくなったわけではなさそうです。

では、どれほどいるのでしょう?

さっそく、集落へ向かいます。

集落の玄関となる鳥居をくぐると、すぐに階段が続き、山の斜面に建てられた家々の間をすり抜けるように登っていきます。

階段の小道は、迷路のごとく縦横無尽にあって、すぐに方向感覚を失ってしまいます。なんとなく、海のほうを眺めて自分がいる位置を掴む感じです。

瀬戸内海では、石垣の多い集落もいくつかありますが、男木島も立派に石積みされていて、そこに草花が絡み合ってとてもフォトジェ二ック。

小道は人ひとりがぎりぎりすれ違えるほど狭いところも多く、その上側にも下側にも家が立っているため、歩いていると視界に制限ができるけれど、「その先には何があるのだろう?」という冒険心に満たされます。

それにしても、ずっと上り坂なので呼吸が荒くなってきます。時折、原付バイクに乗った地元のお母さんやおじいさんとすれ違って、ほっこりと、のどかな時間が流れていきます。

パッと開けたところに出たと思ったら、空き家や木など、炭に焼けていてびっくり。これは瀬戸芸のアート作品のひとつです。

瀬戸内海の古い家屋は、炭焼きしていたところが多く、そこからインスピレーションがきたのでしょうか。

島の上にある豊玉姫神社へ到着。

実は、ここが猫探しの目的のひとつ。数年前に来島したとき、豊玉姫神社の鳥居周辺や境内には10以上の猫たちが暮らしていて、みんなとっても人馴れしていました。

神社に行くまでの道では、まったく猫に出会いませんでした。

境内のベンチに腰かけているマダムたちが、

「まあ、かわいいわねえ」と話している声がしたので近づいていくと、いました!

茶トラ猫さんです。

やはり猫は人に注目される存在なのでしょうか。

境内にいた観光客は、女性も男性も、みんな茶トラ猫さんを撮ろうとカメラを構えるのです。ええ、例にもれず、私もカメラを構えます。

すると、茶トラ猫さん、大サービスで木登りを披露してくれました。

背後に海が見えて、島猫らしい写真となりました。

その後、茶トラ猫さんは境内から階段を降りて、鳥居のほうまで移動。ぞろぞろと観光客も移動します。

ああ、なんて情緒的な眺めでしょうか。

瀬戸内海に、昔ながらの面影を残した集落を眺める猫の図。

しかし、数年前はこの鳥居の茶トラ猫さんがいる場所には、ご飯ほしさに階段を駆け上ってくる多くの参拝猫さんがいたのです。

男木島の中を歩いていると、あちこちでアートの島らしい場所があります。

数年前に来たときも瀬戸芸開催地のひとつとなっていましたが、その頃よりもずっと島の中のアートスポットが増えています。

おしゃれで日本家屋に馴染んでいるので、写真撮影も楽しいです。

さて、集落を何度も同じ道を歩いたり、登ったり降りたりしていたとき、ふと「ドリマの丘」というカフェを発見しました。

一見、田舎のお友達の家に来たようなカフェっぽさがなくて、入るのに勇気がいりましたが、とっても感じのよいスタッフさんに迎え入れてもらってランチをとりました。

ここは、地産地消の野菜やハーブ、小魚を使った薬膳料理を出すカフェです。空き家を使って、とっても居心地のいい空間です。

メニューはワンプレートのみで、来た人にどんどん提供されます。ずらっと並んだランチの写真を撮らせてもらいました。

かわいらしい小物を並べているかのようです。

お食事中は、スタッフさんが薬膳にまつわる有難いお話や、その日に使った食材のお話をしてくれます。

瀬戸内らしい小魚とか、昔はよく島で食べていたという芋のツルを使ったお料理など、食材から見えてくる島の暮らしがあって、興味深かったです。

ふたたび集落を歩いていると、「さくらねこ?」のポスターを発見!

避妊・去勢をして、その後捕獲した場所に戻しているようですが、避妊・去勢をした印として耳に切り込みを入れます。そうすると、耳の形が桜の花びらみたいに見えることから、「さくら耳」というのはよく耳にします。

その後、ふと見ると小道の下の家で猫ちゃんが寝ていました。

小道から難なく真下で寝ている茶トラ猫さんを撮ることができました。その瞬間、「あ、前にもここに来た!」と思い出しました。

私にとって、猫との出会いの記憶を辿ると、数年前のことがいろいろと鮮明に蘇ってきます。

何度も言いますが、男木島は山の斜面に家に建てられているため、小道の上側にも下側にも家があり、小道と下側の家の屋根の高さがほぼ同位置なのが男木島らしい光景だなと思います。

そして、猫にとっては屋根でお昼寝しているのですが、小道からだと屋根や軒下で眠る猫を撮ることができます。もちろん、観光客は茶トラ猫さんもアート作品だと言わんばかりに足を止めて撮影していきます。

みんなが写真を撮るので、ちょっと騒がしい……けど、眠気に勝てないにゃあ……。
寝顔がかわいい、むちむちな茶トラ猫さん。

男木島の迷路のような小道に目が、感覚が慣れてくると、猫ちゃんの姿もすっと目に入ってくるようになりました。

圧倒的に数は減っているけれど、まださくら耳の猫たちはいるし、スロウな島時間に則ってスロウなペースで暮らしているようです。

さて、私が知っているもうひとつの猫スポットへ行ってみようと思います。

そちらは、集落の南側にある漁港です。島の小学校を通過して、まっすぐ道を歩いていけ漁港に出ます。

以前は、こちらに数えきれないほどの猫がいました。現在、瀬戸芸中はアート作品もあるようです。

さあどうなっているのでしょう?

つづく

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。