カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

日本屈指の猫島だったアートの島は、今?(男木島・後半)

瀬戸内海でもっとも猫が多い島のひとつであった香川県の男木島。すでに過去形なのは、2016年に全頭避妊・去勢をしたため子猫が生まれなくなって、じょじょに数が減ってきているからです。今はむしろ、3年に一度、瀬戸内国際芸術祭が開催されるアートの島として名を馳せ、人気があるように思います。

私が以前何度か渡島したときはまだ、猫が島のあちこちにいました。今回は、どれくらい猫がいるのか、男木島の「いま」を知りたくて数年振りに旅してきました。

そして、ぐんと数は減ったものの、まだ集落にはのんびりと暮らす猫たちがいて、しっかりと写真に収めることができたし、なによりのどかでスロウな空気が漂っていて癒されます。

後半は、男木島でもっとも猫密度が高かった、漁港のほうへ出向いてみようと思います!

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【これまでのねこ島めぐり】

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漁港のほうへ、集落をてくてく歩いていくと、秋らしい島の景色が広がっていました。柑橘類がたわわに実り、温暖な瀬戸内海ならではの恵みがいっぱいに広がるのを感じます。

男木島の集落は、他の島と同じく空き家が多いらしいです。

こうした開けた場所で、おばあちゃんが畑仕事をしていたりすると、ノスタルジックな気持ちになります。

男木島のように集落が山の傾斜にそって建っていると、奥行きのある集落の景観が撮れるので、写真撮影にも男木島は楽しい島だと思います。ローアングルでもハイアングルでも、さまざまなものが写り込んでくれます。

さて男木島小学校を過ぎてまっすぐ道を歩き、ようやく漁港のほうへようやく着きました。道さえわかれば、10分もしないうちに到着できます。

以前は漁港に着く前あたりから猫がいて、「みんなー! にんげんがきたにゃー!」と号令でもかけるかのように、あれよあれと猫さんたちが集まって、猫隊に囲まれるほどでした。

たしかに今は、そういった猫隊は姿をみせません。

それでも漁港を歩くと、観光客が明らかにアート作品とは違うものを見て、一斉にカメラを構えているのを目にします。

そこには、猫たちが、まるでアート作品のように並んでおりました。

観光客に取り囲まれているというのに、まったくもってマイペースな猫たち。

そのおっとりとした性格は、以前と少しも変わらないようです。

人懐こく、ぴっとりとくっついてくる猫もいました。

「ここにいた猫ちゃんたち、数が減りましたねえ」と地元のお母さんに話すと、

「そうねえ。猫たちにご飯をあげていた人もいなくなっちゃったしねえ」と、さみしくもうれしくもなく、ごく当たり前のことのように教えてくれました。

つまり、猫にご飯をあげる人がいればそこに猫はいつくし、いなくなれば猫もいなくなるという単純なことなのです。

「あの頃は」なんて過去に思いを馳せることもありますが、時とともに様々なことは移り変わっていくものだと、改めて感じました。

黒猫さんの立ち姿が可愛くて、パチリ。

なんだか、物言いたげな雰囲気です。

漁港沿をさらに進んでいくと、たびたび猫たちが、「ここが自分のお気に入り」という感じで、おのおのくつろぎ眠っています。

サビ猫さんも、ぐっすり。

そんな光景に出くわすだけで、ほんわかとした気持ちに満たされます。

漁港の先には、瀬戸芸のアート作品がありました。

みんなが写真を撮って、楽しそう。

「写真撮ってもらえますか?」と声をかけられると、タイ人の女の子。島の中では多国籍な言語が飛び交っていて、ついつい日本の島であることを忘れてしまいそうになります。

さて、ふたたび来た道を戻ると、さきほど寝ていたサビ猫さんが起きていたので、写真を撮らせてもらいました。

なかなか、変わった柄のかわいらしい猫さんです。香箱座りで、リラックスしているのかな?

漁港らへんは以前よりも猫の数は減ってしまっているけれど、変わらずにその場所に猫たちはいるし、マイペースにのびのびと過ごしていました。

猫が減って残念、と猫好きなら感じるかもしれませんが、もともと猫と人は付かず離れずの関係で共生できているのが理想的。今は、そんな状態なのかもしれないなと思いました。

漁港からふたたび男木島フェリー乗り場港へ。

戻る道を少し変えたら、大きな日本家屋がありました。

小道が屋根の高さにあるので、鳥の目線で写真が撮れるのが楽しいです。

石垣の小道を歩いていると、猫たちの日常が見えてきました。

三毛猫さんがすたすた歩いていくと、前方から黒猫さんがきて、ご挨拶。普通にすれ違っていきました。

こうした観光客が少ない通りでは、猫たちがここぞとばかりに行き交い、自由な時間を過ごしているようです。

さて、男木島の帰りの船は夕方が最後。それを逃すと宿泊しなくては帰れません。

そのため、大勢の人が夕方には島からいなくなるので、昼間よりも猫たちの姿をよく見かけるようになった気がします。

あるいは、迷路みたいな小道に惑わされて、最初はよく猫の姿まで見えなかったのかもしれません。

白黒猫さんのくつろぎタイムにお邪魔させてもらいました。

「んにゃ?」

誰だろうと警戒している一瞬の隙にパチリ。

そして、可愛い顔をレンズにぐっと近づけてきました。

「んー、見かけない顔だにゃあ」

その後、また何事もなかったように、毛づくろいに精を出していました。

さあ、私も夕方の便で帰らなくては。

港のほうへ降りる道、何度も、日本家屋に融合したアートと、背景に広がる瀬戸内海を見て、これが男木島らしい景色だなあと感じました。

男木島もフェリー乗り場あたりの港には、何隻か漁船が停泊していて、とっても風情があります。

いろいろな島でも見かけますが、海沿にお墓があって、いつも海風がふいて気持ちが良さそうです。

フェリーに乗り込んで甲板に出ると、男木島のぎゅっと密集した家々が広がっているのが見えました。

まったく隙間がないような集落ですが、その中を散策してみると、外からはほとんど見えないけれど小道が入り組み、アート作品が点在していて、猫がのんびりと過ごしていて、たくさんの観光客が散策しているのです。

奥へ、中へと入っていくと、一見ではわからない物語がそこには広がっているのだなと思います。

猫をめぐる島旅のなかで、男木島は猫が激減した島だと感覚的に思いますが、けっしてネガティブなことではなくて、長い島の歴史のなかで、そういう変化のときを迎えているのだということがよくわかりました。

島の変化を感じていくことも、島旅の楽しみのひとつだと思います。

これからも、男木島には定期的に通います!

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。