カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

珊瑚の石垣が圧巻の知られざる島で、ネコに会う(与路島・後半)

奄美群島の一つで、いつか行ってみようと思ってから10年が経ってしまった、加計呂麻島の目と鼻の先にある与路島(よろじま)。

今回、加計呂麻島の常宿で、同じ日に泊まった旅人たちと一緒に船をチャーターすることにして、念願の与路島へと向かいました。

与路島は、集落の塀がほとんど珊瑚の石垣で出来ていて、かつては琉球とのつながりも濃かったとされ、昔ながらの島の面影がそのまま残っています。国土交通省の「島の宝百景」に認定されていますが、八重山諸島の竹富島と違って、まったく観光地化されていない、ひっそりと静かな島です。

実際に来島すると、想像以上に立派で重厚な石垣は、どこか儚げに美しく見えました。また、思いがけずたくさんの猫たちに出会えて、心がふわふわ、浮き立ちました。

後半は、与路島散策の続きです。

【これまでのねこ島めぐり】

集落が一望できる山上へ

与路島は、周囲25kmありますが、集落は一つあるだけで、実際に歩いて回ると1時間程度で散策できます。港で、島の女の子に声をかけると、「山の方へ登ったら、集落が一望できるよ」と教えてもらいました。

さっそく港を背にして左手の山の方へ、えっさえっさと歩いていくこと15分ほどで見晴らしのいい場所まで登れたので、パチリと一枚。

ざっと見て50軒ほどの家々が、小さな集落にきゅっと集まって、異国の知られざる港町を眺めている気分。港で出会った女の子が通っている、小中学校も見下ろせました。

集落の家々の背後には畑や牧草地が広がっています。与路島では、仔牛を出荷するために育てていると、女将さんが言っていました。

山道から、隣の請島と、うっすらと加計呂麻島が見えました。まるで瀬戸内海の島々のような、多島美!

山道の随所で見た、ほわほわのコットンのような植物がありました。

これはなんだろう? と思っていると、女将さんが「サキシマフヨウだよ〜」と教えてくれました。

島巡りをしながら、もっと動植物の名前も覚えていきたいなあ。

ということで、気になった植物もパチリと撮ってみましたが、猫と違い目線や動きがないので、撮り方にすごくセンスがいるな〜と実感。

島で唯一のお店でひと休み

山を降りて、喉が渇いたので島唯一「元商店」に立ち寄りました。

実は、山に登る前に立ち寄ったら不在で、代わりにドアに携帯番号が貼ってありました。女将さんが電話をすると、「今、港で定期船を待っているから、ちょっと待ってて」と言われたので、先に山に登ったのでした。

さて、元商店に戻ると、やっぱり不在。また女将さんが電話をすると、3分ほどしてお母さんがやってきてくれました。

お茶やお水をそれぞれ買って、喉を潤すと、ああ〜美味しい。

レジ横にうまい棒が入った網があって、「それは、漁で使う網だよ」とお店のお母さんが言っていました。

移住猫とツーショット

それからまた、気になる猫たちに会いに行くと、前方で待ってましたと言わんばかりのお出迎えをしてもらいました。

三毛猫のモカと、グレー猫のハイソック。飼い猫で、飼い主のお母さんから、名前を教えてもらいました。

ハイソックは超人間が大好きな様子。

「さわって、さわって〜」と自ら頭をぐいぐいくっ付けてきて、甘えたい放題、ごろごろと近づいてきてくれます。

ハイソックは、島生まれではなく、島へやってきた移住猫さん。抱っこもさせてくれて、本当にかわいらしい。

ツーショット写真を撮ってもらいました!

コンクリートと珊瑚石の壁が共存している

その後、ふとピンポン球のような実を発見。

これなんだろう? と思っていると、農業用運搬車でゆっくりとすれ違ったおじいさんに、聞いてみました。

私がこの実を食べたそうに見えたのでしょうか。「それ、カラスしか食べんよ」という返答が(笑)。

おじいさんが、少しだけ珊瑚の石垣について話してくれました。

「石垣のすき間にはね、ハブが潜むから、危ないんだよね。道もね、コンクリートにしてからは、ハブが出なくなったけど」

島にはハブ棒と呼ばれる、猛毒の蛇ハブとご対面してしまった時に、追い払うために使う棒があるのですが(といっても、ただの棒です)、珊瑚の石垣にそこら中立てかけてあるから、ちょっぴり緊張します。

島には、ハブの通り道というのもあるそう。

「あそこはよく出るよ」と指差した方向は、私たちがまさに歩いていたところでした。

奄美群島の多くの島々も、昔は珊瑚の石垣だらけだったそうですが、やはりハブが潜むという理由で、徐々にコンクリートの塀に変わったようです。

神さまの通り道がしっかりと息づいている

そろそろチャーターした船の迎えがくるからと、みんなで港へ向かうことに。

その途中で、狭いけれど雑草などなく、きちんと手入れされた細い小道がありました。

一緒に来ていた加計呂麻島の方が、「ここはね、“神道(かみみち)”だよ」と教えてくれました。

もともと日本にはあちこち、こんな神様が通るための道があったそうです。それが知らず知らずのうちに、家を建ててしまったり、別の道が出て来てしまったりと、どこに神道があったのか分からなくなっていると……。

「神道はそっとしておかないとダメなんです。奄美の島々では、まだまだ神道があるのよ〜」

奄美群島の島々を旅していると、自然崇拝の思想がそこかしこにある気がします。

そして帰る間際に、ありがたや、猫神さまに会えました。真っ黒な毛並みの綺麗な黒猫さま。どこを見つめているのかな……。

猫を撮ると、猫の視線がどこにあるのか、気になることがあります。人間の見えざるものを、猫たちは敏感に感じているのかもしれません。

ふっと、どこかへ行こうとした黒猫さまが、くるっと一瞬振り返ってくれました。

「まあ、気をつけて帰りにゃさい」

そう言ってくれている気がしました。

島の思い出話に花が咲く

港には定期船「せとなみ」が停泊していました。

今度は「せとなみ」に乗って、一泊しよう。

午後13時に、約束どおりチャーターした「おさい丸」が迎えにきてくれました。船長は、私たちが島に滞在していた3時間ばかり、ずっと釣りをしていたそう。

与路島沖は、フィッシャーマンたちの絶好の釣りスポットで、船をチャーターしてくることも多いようです。

クーラーボックスを開けると、わお、わお。大漁のヨスジフエダイが! いますぐ与路島にもどって、猫さまたちに1匹ずつおすそ分けしたいなあ、なんて思いました。

夜、加計呂麻島の宿では、珊瑚の石垣やハブの話、港にテトラポットがなかった時代の話など、与路島の話でひとしきり盛り上がりました。

その傍らで、宿の看板猫ミーが「あーあ、今日はやけにうるさいにゃあ」なんて、肩をすくめているようでした。

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。