カメラ旅女の全国ネコ島めぐり

ここが東京!? 猫のいる宿からはじまる日本唯一“砂漠”までの旅(伊豆大島・後半)

伊豆大島の岡田地区に、猫と次から次へと出会える“猫道”があります。そこを歩くと、なんだか幸運が舞い込んでくるかも? というお話は前半でご紹介しましたが、猫好きならば、他にも訪れていただきたい伊豆大島の猫スポットがあります。

ぜひ、猫がいる宿に泊まっていただきたいなあと思います。愛くるしい島生まれの猫たちと一緒に、の~んびりと過ごせる寛ぎの宿があるのです。

そして、伊豆大島南部の波浮地区の猫スポットや日本唯一の“砂漠”もご紹介したいと思います。

宿の猫“ニャン太郎ファミリー”に出会う

岡田港から車で15分ほどのところ、大島空港と野田浜の近くの森の中に、秘密基地のようにひっそり佇む一軒家宿の“アイランドスターハウス”があります。緑の木々のトンネルをぬけると、黄色を基調としたカラフルなビタミンカラーの外観が現れて、冒険心とともに、元気も湧いてきます。

ウッドデッキのテラスには猫たちがいて、のんびりと寛ぎ安らかな時間が流れています。庭に敷き詰められた碁石は波模様になっていて、「伊豆大島の海は黒いから、白い海をつくりたくて」とオーナーの自信作。フォトジェニックで、写真撮影が楽しい!

宿は、古い空家をオーナーが自らリノベーションして、2015年春にオ―プンしたばかり。オーナーは移住者で、以前から伊豆諸島には1カ月に1度程度遊びに来ていたけれど、2014年に空家を見つけ、別荘にするためリフォームを開始したそうです。

その最中、島暮らしがよくなって移住を決意。別荘ではなく、ゲストハウスを始めることにしたのです。

そしてリフォーム中に、黒白柄の仔猫と出会い、女の子だけど“ニャン太郎”と名付けました。ウッドデッキをつくっている時にひょっこり現れて、お弁当の残りをあげたら、何度も来るように。いつしか相棒となって、一緒にゲストハウスを運営する“猫スタッフ”(猫好き客の癒し係)として活躍しています。

現在猫は5匹いて、みんなニャン太郎ファミリー。つい最近は仔猫が生まれて、大所帯となって賑やかです。猫は家の中には入れないけれど、ウッドデッキや玄関先などでごろにゃんと寛ぎ、ご飯をあげようとすると、どこからともなく銘々集まってくるので、猫と存分に触れあうことができます。

時には、「お腹空いたにゃあ」とウッドデッキから部屋の中を見つめて、“ご飯くれくれ直談判”をしてくる猫たちの姿も。仔猫たちの元気な姿は、見ているだけで癒されていきます。なによりいつだって愛らしい猫の姿を撮れるので、猫好き、カメラ好きには堪らない!

アイランドスターハウスで過ごす夜。部屋は2つあって、別の旅行者やオーナーとリビングで一緒にあれこれと語らうのも、旅の醍醐味という気がします。傍らのウッドデッキには猫たちがいて、空には星が煌めいて、コロコロとなく虫の音色が聞こえ、ここが東京だなんて忘れてしまうほど。

伊豆大島のパワースポット「裏砂漠」を目指す

翌日は朝から、伊豆大島南部の波浮地区と大自然を感じに裏砂漠へ行くことにしました。

岡田地区から大島一周道路をひたすら走ること10分程で波浮地区に着きますが、その途中、“バームクーヘン”と島で呼ばれる地層を左手に見ることができます。

150年前後に1度の大噴火によって火山灰が堆積されていき、バームクーヘンのような断面となった地層が630m続いているのです。その横を走り抜けるのは、圧巻。積年の地球の営みを肌で感じずにはいられません。

波浮地区は、岡田地区のような古い街並を手直しして、観光地させています。岡田地区がありのままの姿だとしたら、波浮地区は“懐かしい家並み”を復元させたような感じで、どちらとも訪れると時間を遡行する旅に出たような気分になれます。

猫スポットは、波浮港からえんやこらと階段をのぼったところにある“梵天”というたい焼き屋さんです。“あんこ”という名前のサバ柄猫がいて、気まぐれにお客さん相手をしている様子。お店の息子さんが「あんこだよ。写真撮っていいよ」と見せてくれました。大人しく抱っこされていて、愛くるしい。

アツアツのたい焼きをいただき、波浮地区をふらふらしていると、「にゃーーん、いいな、いいな、ボクにもお魚ちょうだい!」という猫たちにも遭遇しました。

人懐こい猫たちは、梵天よりさらに上のほうへと歩いていった辺りにいます。道路の脇にしゃがみ込むと、猫たちもしゃがみ込んで、一緒にまったり。私のこと、猫だと思っているのかしら?

それから車に乗って、来た道なりをふたたび岡田地区へ戻る方角へ走ること20分程で、伊豆大島のパワースポット、裏砂漠に到着!

「月と砂漠ライン」の入り口から行くと裏砂漠の上のほうから砂漠を見下ろす場所に出ます(私は今回オーナーの車を借りて下道から行きましたが、レンタカーでは行けません)。

日本で唯一、日本国土地理院が発行する地図にも“砂漠”と表記されている、黒いスコリア火山岩が堆積して広がる黒い海のような場所です。

想像するサハラ砂漠のようなさらさらの砂ではなく、ごつごつとした小石程度の火山岩が広がり、惑星のようにも思えます。三原山の幾度と繰り返される噴火が、広大な大地を焼き、黒い海のような世界ができたのです。

ざくざくっと音をたてながら、砂漠を歩き、ごろんと横になりました。風のない日だったから、無音の世界が広がりました。静寂な時間。大地にずーんと沈んでいきそうな感覚。太陽の動きを感じて、地球の回転を感じて。

無音のなかで、ドクドク、ドクドクと、自分の体の真ん中から聞こえてきました。

人も、猫も、火山も、砂漠も、海も、空も、みんな鼓動している、という当たり前のことに気付き、

「生きてるなあ、なにもかも」

そんな言葉を呟きたくなりました。

帰りはふたたび東海汽船のジェットフォイルに乗って、数え切れないほどの写真を見返しながら、1時間45分で竹芝桟橋へと戻りました。たったの1泊でも、遠い、遠い世界から戻ったような充実感に満たされました。

小林希

旅作家。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後、『恋する旅女、世界をゆくー29歳、会社を辞めて旅に出た』で作家に転身。著書に『泣きたくなる旅の日は、世界が美しい』や『美しい柄ネコ図鑑』など多数。現在55カ国をめぐる。『Oggi』や『デジタルカメラマガジン』で連載中。