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なぜ1型センサーで白飛びしない? 話題の「LOFICセンサー」の仕組み

Osmo Pocket 4P「最大17ストップ」の秘密

Osmo Pocket 4Pの発表をきっかけに、「LOFIC」という言葉を目にするようになりました。Osmo Pocket 4Pの広角カメラにはLOFIC技術を採用した1インチCMOSセンサーが搭載され、最大17ストップのダイナミックレンジが謳われています。

メーカーや測定方法によって数字の出し方は異なりますが、1インチセンサーで最大17ストップというのは驚異的です。一般的なフルサイズミラーレスカメラに匹敵、あるいは上回る数字といえます。私も実際に使ってみましたが、特にハイライト側の粘りは1インチセンサーとは思えないほどでした。

そこで今回は、LOFICが従来のイメージセンサーと何が違うのか、センサーが白飛びする理由から、LOFICがダイナミックレンジを広げられる仕組みなどについて整理してみましょう。

なお、このイメージセンサーは正確には「LOFIC構造を画素に採用したCMOSイメージセンサー」ですが、本記事では「LOFICセンサー」と呼ぶことにします。

そもそも、なぜセンサーは白飛びするのか

LOFICセンサーの仕組みを理解する前に、イメージセンサーが白飛びする理由を確認しておきましょう。

ダイナミックレンジとは、暗部から白飛びする直前まで、明るさの情報を記録できる幅のことです。この幅が広いほど、明暗差の大きな場面を1度に記録しやすくなります。

イメージセンサーの各画素には、光を受けて電気に変える「フォトダイオード」があります。受けた光が多いほど電気(電荷)も多く溜まりますが、その量には上限があります。上限に達すると、それ以上は明るさの違いを記録できず、同じ真っ白な信号になってしまいます。いわゆる「白飛び」という状態です。ここで失われた階調は、RAW現像やLog撮影でも取り戻せません。

画素を雨水をためるバケツに例えると、雨水がバケツの容量以内に収まれば水の量、つまり受けた光の量をきちんと測れます。しかし、さらに降り続けバケツからあふれてしまうと、あふれた分の水量が分からなくなり、明るさの違いを記録できなくなります(白飛び)。

一般に画素(バケツ)が小さいほど溜められる電荷の量(水量)が小さくなるため、特に小型センサーは明るい部分の階調を残すのが苦手とされています。

LOFICはあふれた電気を受け止める補助タンク

LOFICは「Lateral Overflow Integration Capacitor」の略で、日本語に直訳すると「横方向にあふれた電荷を蓄積する蓄電装置」といった意味になります。

従来の画素では、フォトダイオードが一杯になると、あふれた電荷は記録に利用できません。そこでLOFICセンサーでは、フォトダイオードの近くに大容量のコンデンサーを追加し、通常の容量を超えてあふれた電気を受け止めます。小さなバケツの横に大きな貯水タンクを用意し、バケツからあふれた水を捨てずにためておくような仕組みです。

通常の明るさまではフォトダイオード側の信号を使い、非常に強い光が当たった部分では、LOFICコンデンサーへ流れ込んだ電荷も読み出します。両方の信号をつなぎ合わせることで、従来なら白飛びしていた領域まで階調として扱えるようになるわけです。

白飛びした画像を魔法のような処理で復元するのではなく、白飛びする前に電気を別の器へ逃がして記録しておくのです。

画像のダイナミックレンジを広げる一般的な手法の1つに、露出の異なる複数の画像を合成するHDRがあります。しかしLOFICセンサーは1回の露光で記録できるため、複数露光のHDRで起こりやすい動く被写体のズレや、LED照明の点滅による画像間の差が生じにくくなります。

Osmo Pocket 4PとEOS R5 Mark IIを比べてみた

ここでLOFICセンサーのハイライト側の粘りを、実写画像を使って簡単に比較してみましょう。比較したのは私がメインで使っているフルサイズミラーレスカメラの「EOS R5 Mark II」です。

Osmo Pocket 4PはD-Log 2、EOS R5 Mark IIはCanon Log 2を使用し、露光量をできるだけ近づけたうえで、晴れた日の室内から大きな明暗差のある場面を動画で撮影しています。

上からOsmo Pocket 4P(ISO 400、1/200、F2.0)、EOS R5 Mark II(ISO 800、1/80、F4、4Pと同露出)、EOS R5 Mark II(ISO 800、1/640、F4、4Pから3段アンダー)。
真ん中はハイライト側の波形が平坦で白飛びして締まっている。。
1番下の3段アンダーはハイライト側は残ったものの、シャドウの一部が平坦となり黒潰れを起こしている。。
詳しくはstudio9 Channelの動画を参照(https://youtu.be/25v2aCt0HCg

比較すると、この撮影条件ではOsmo Pocket 4Pの方が非常に明るい部分まで階調が残った一方、EOS R5 Mark IIはハイライトが完全に飛んでしまいました。

EOS R5 Mark IIでOsmo Pocket 4Pと同程度のハイライト階調を残すには、基準露出から約3段暗く撮る必要がありました。しかし、その状態ではシャドウが大きく沈んでしまいます。

一方、Osmo Pocket 4Pはハイライトからシャドウまで比較的クリアに階調が残っていました。1インチセンサーとフルサイズセンサーの比較であることを考えると、驚きの結果です。

この比較は簡易的なものではありますが、Osmo Pocket 4Pは海外の専門サイトによるラボテストでも実際にフルサイズカメラよりも優れたダイナミックレンジが測定されているため、LOFICセンサーは「白飛びに強いセンサー」であることは間違いないでしょう。

Osmo Pocket 4Pの静止画モード(RAW)で撮影した例。非常に厳しい逆光でも太陽の中心以外は階調を保っており、ハイライトからシャドウまでしっかりと記録できている(DJI Osmo Pocket 4P、20mm内蔵カメラ、F2、1/4000秒、ISO 100)

デュアルゲインとは何が違う?

ちなみに、従来のイメージセンサーでダイナミックレンジを広げる技術としては、「デュアルゲイン」というものがあります。ざっくり言えば、同じ画素で得た信号を異なる増幅率で読み出し、それぞれの長所を組み合わせる技術です。

デュアルゲイン技術は、フォトダイオードにたまった限られた電荷を上手に読み出し、ダイナミックレンジを広げる技術です。

一方のLOFICセンサーは、フォトダイオードからあふれた電荷を受け止めるコンデンサーを設け、画素全体で記録できる電荷量を大幅に増やすという別の技術です。

原理的にはデュアルゲインとLOFICセンサーは組み合わせが可能ですから、今後さらに高ダイナミックレンジなイメージセンサーが出てくるかもしれません。

なぜミラーレスカメラではLOFICセンサーがまだ採用されていないのか

LOFICセンサーは車載カメラや監視カメラ、スマートフォン向けで採用が進んできましたが、執筆時点でLOFIC採用をうたった主要なミラーレスカメラは見当たりません。

あくまで私の推測ですが、フルサイズやAPS-Cセンサーは1画素を大きくしやすく、従来構造でも多くの電荷をためられるため、まずは画素が小さく、効果を出しやすい小型センサーでLOFIC採用が進んでいるのだと思います。

また、画素ごとに大容量コンデンサーと読み出し機構を加えるため、設計や製造は複雑になり、大型センサーの製造難易度が上がるということもあるでしょう。かつて裏面照射型CMOSイメージセンサーもスマートフォンやコンデジなど小型センサーから大型センサーへと普及してきたことを考えると、技術がこなれてくれば、遠くない将来、レンズ交換式カメラへLOFICセンサーの採用が広がる可能性もありそうです。

LOFICセンサーに弱点はないのか

夢のようなイメージセンサーのように描いてきましたが、LOFICセンサーにも弱点はあります。

前述の通り、設計や製造が複雑になり、製造コストや消費電力、発熱との両立が難しくなります。通常の信号とLOFIC側の信号を自然につなぐため、センサーと画像処理の両方に高度な制御も必要になるでしょう。

また、LOFICセンサーが得意なのは主にハイライト側です。搭載しただけで解像感や色再現、暗所ノイズ、読み出し速度まで一斉に向上するわけではありません。

まとめ

LOFICセンサーは、フォトダイオードからあふれた電気を画素内の大容量コンデンサーに保持し、従来なら白飛びしていた非常に明るい領域まで1回の露光で記録する技術です。

今後、スマートフォンや小型カメラだけでなく、レンズ交換式カメラにも広がっていくのか注目したいところです。

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワークショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主宰。ライフワークは写真をより楽しむための情報を発信すること。2021年より北海道に移住して活動中。