山岸伸の「写真のキモチ」

第99回:山岸伸・近井沙妃写真展「馬力」

二十余年の歩みを結ぶ最後のシャッター

写真展「馬力」DM

10月6日(火)からキヤノンギャラリー銀座で開催される写真展「馬力」。

2006年から撮影し続け、何十万枚から選び抜いたこの写真展をもって、ばんえい競馬の撮影は一区切りと考える山岸さんにお話しを伺いました。(聞き手・文:近井沙妃)

開催までの経緯

2026年10月6日(火)から17日(土)まで、キヤノンギャラリー銀座でアシスタントの近井と二人で「馬力」というタイトルの写真展を開催する。なぜ二人で写真展をやるのか。なぜキヤノンギャラリー銀座なのか。少しだけ、そのことを書いておきたいと思う。

これまで数多くの写真展を開催してきたがキヤノンギャラリー銀座は公募による写真展。昨年10月にエントリーし、なんとか二人で写真展ができるということになった。

銀座でやりたかった理由はいくつかある。まず、私のスタジオから近い。そして交通の便がいい。何より私がカメラマン人生で1番最初に写真展を開催したのが移転前の銀座5丁目にあったキヤノンサロンだった。そんなこともあって、いつか一度キヤノンギャラリー銀座でもやってみたいとずっと思っていた。

私は若い頃からずっと千代田区に事務所を構え、銀座にも知り合いが多くいた。当時は知り合いのママさんがいたり、よく通うレストランがあったり、銀座には随分お金も使ってきた。そういう兼ね合いできっと銀座は昔からの知人も来てくれるだろうな、と今でも思っている。ただ、時は流れて皆さんそれぞれに引退されたり、私自身ももう銀座で写真展をすることはないとも思う。

区切りの挨拶

ばんえい競馬の撮影を2006年から始めて20年。今年3月に競馬場へ行き、関係者の皆さんに挨拶をした。前市長にも「これで私は、もうばんえい競馬の写真を撮ることはないと思います。長い間ありがとうございました。皆さんのおかげです」と伝え、競馬場関係者の皆さんにもひとつの区切りとしてお別れをしてきた。

東京-帯広の移動は飛行機。いったい何十回通ったのだろう。行けば二泊三日、三泊四日とアシスタントも必ず同行して撮影を続けてきた。なんとなく、生きる力をもらいたくて。真夏よりも冬が好きだった。寒い、寒い、極寒の競馬場でそこにいる馬たちを撮り続けていた。

競馬場では騎手の方々と特別親しくしていたわけではなく、ベタベタした関係でもない。それでも長く通っているうちに顔見知りになり優しく声をかけていただくことが何度もあった。

ばんえい競馬のレースは200mの直線を輓馬がソリを曳いてゴールをするという、非常にシンプルだがエキサイティングな面もある。私はもともと賭け事があまり好きではなく、競馬にお金を賭けたのは5回ほど。それも勢いで買っただけ。馬券を買うにしても、馬で買うというより「人で買う」。そういう買い方をしていた。

ばんえい競馬 レース
ばんえい競馬 レース、2つの障害を越えゴールを目指す

そして今は女性ジョッキーの今井千尋さんも活躍し、より男女を問わずさまざまな人がばんえい競馬を楽しむことができるようになった。

今井千尋さん

アシスタントの同行

近井をアシスタントとして競馬場に連れて行くようになったのはこの5年ほど。私のカメラや機材を運ぶだけでなく、細々したことをやってもらうのにとても助かるアシスタントだったのでばんえい競馬だけでなく十勝・帯広に同行させてきた。その中で朝調教はやはり厳しい。彼女に機材を持ってもらい競馬場の朝調教を撮影してきた。「私が馬を撮っている姿を撮る」というテーマではないが何かあったときに皆さんに見てもらおうと。私がこうやって写真を撮っているんだという姿を少しでも残してもらえればと機材を持つ傍ら私の後ろで私を撮ってくれていた。今回の写真展ではそのカットもたくさんある中から数点展示する。

朝調教にて(撮影・近井)

近井が撮った写真を見ると、寒そうだよね。真夏以外、帯広の朝は冷える。冬は−10°くらいは普通。毎度よく耐えたなと思う。

競馬場に行けばいつも必ず輓馬が曳くソリに乗せていただきコースを行って帰ってくる。谷厩舎の谷さん。「写真展会期中に必ず行きます」とメッセージをいただいている。無理をしないで、でも来てくれたら嬉しい。

谷さんのソリに乗せていただきコースを周る(撮影・近井)

その寒さの中で朝の調教をする皆さん。そして輓馬たち。白い息、荒い息遣い。その一頭一頭が生きている姿を私は撮ってきた。

これまでの展示と出版

ばんえい競馬の写真展については、これまでもOLYMPUSで開催したり、北海道でグループ展を行ったり、合同展に参加したりと何度か作品を発表してきた。

山岸伸写真展「北海道遺産 ばんえい競馬」(2007年)

2008年には最初の写真集を出版。その後、ムック本を1冊、写真集を2冊。20年という時間を考えると私の役目もそろそろ終わったのかな、とも思っている。

山岸伸写真集「北海道遺産 ばんえい競馬」(大阪書籍・2008年)
ムック本「北海道遺産 ばんえい競馬」(朝日新聞出版・2016年)
山岸伸写真集「輓馬」(朝日新聞出版・2019年)

最初の写真集の帯には故・西田敏行さんから言葉をいただいた。私にとって生涯残る言葉だ。2冊目の写真集では俳優の斎藤工さんに推薦文を書いていただき、今回の写真展でもその言葉を使用させていただいている。本当に、お二人の俳優さんにはお世話になった。西田さんは亡くなられてしまったが、今年11月22日(日)には郡山に西田さんの写真を寄贈し、トークイベントを行う予定。何か少しでも西田さんにお返しができればと思い、そうした行動をしている。

山岸伸写真集「馬力」(日本写真企画・2025年)

久々の大阪

今回は大阪でも写真展を開催する。大阪は12月1日(火)から12日(土)まで。私にとって大阪は少しアウェイのような場所でもある。OLYMPUSギャラリー大阪があった頃は毎年のように同会場で写真展を開催させていただいた。なんとなくOLYMPUSのお客様とも交流でき、カメラマンの皆さんとも仲良くさせていただいたつもりでしたが、その後OLYMPUSが無くなりOM SYSTEMとなってからは大阪で写真展を開催する機会もなく、ここ数年は撮影の仕事やイベントでしか訪れていない。今回、久々に大阪で写真展をするので懐かしい方々とお会いできれば嬉しい。

感謝を込めて

今回が最後と思い、20年間撮ってきたばんえい競馬について、最後に皆さんにお知らせしておきたい。そして、感謝の気持ちを伝えておきたい。それが今回、この文章を書いた理由。

今回の写真展では印刷物がすでに完売しているため、あえて会場での物販は行わない。それが私のばんえい競馬最後の写真展で最も大切なことだと思っている。20年撮ってきた時間を、写真として見ていただければ嬉しい。

会期・会場

キヤノンギャラリー銀座

2026年10月6日(火)〜10月17日(土)
10時30分〜18時30分
※日曜・月曜・祝日休館

キヤノンギャラリー大阪

2026年12月1日(火)〜12月12日(土)
10時00分〜18時00分
※日曜・月曜・祝日休館

ギャラリートーク(銀座)

  • 日時:10月10日(土) 14時00分〜
  • 定員:なし(※希望者が多い場合は入場規制の可能性あり)
  • 参加費:無料(事前予約不要)

(やまぎし しん) タレント、アイドル、俳優、女優などのポートレート撮影を中心に活躍。出版された写真集は400冊を超える。ここ10年ほどは、ばんえい競馬、賀茂別雷神社(上賀茂神社)、球体関節人形などにも撮影対象を広げる。企業人、政治家、スポーツ選手などを捉えた『瞬間の顔』シリーズでは、15年をかけて総撮影人数1,000人を達成。また、近年は台湾の龍山寺や台湾賓館などを継続的に撮影している。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本広告写真家協会会員。