中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」
また訪ねたい海外の思い出「ジョイテツ! in the World」vol.07 タイ編(その3)
2021年7月10日 09:00
今回もタイの鉄道をご紹介。ちょっと日本離れした雄大な水の風景をご紹介します。まずはタイの首都バンコクを出発し、北上します。バンコクの玄関、フワランポーン駅から列車に乗ります。この駅はタイ国鉄の主要4路線の起点にもなっている、日本で言えば東京駅のような存在。
でもこの「フワランポーン駅」だけでなく、「バンコク中央駅」、「バンコク駅」など、さまざまな名称で呼ばれるため、外国人はちょっと混乱してしまうところです。ちなみにこのフワランポーン駅という名称は主に外国人向けの呼び方で、地元の人の多くは「クルンテープ駅」と呼んでいました。実際切符などのタイ語表記では、駅名がクルンテープになっています。
さらにもっとややこしいのは、このクルンテープ駅は略称だということ。正式には「クルンテープ・プラマハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーユッタヤー・マハーディロックポップ・ノッパラット・ラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤウィサヌカムプラシット駅」というらしいです(笑)。長すぎです。
列車は遺跡観光で有名なアユタヤ方面に向かいます。乗車したのは、日本からすっかり姿を消してしまった客車列車。どこか懐かしい客車の窓を全開にして、昭和の時代にタイムスリップした気分です。やはり地元の子どもたちも大喜びで、窓から手を伸ばし爽やかな風を満喫していました。どんどん近代化が進むタイの鉄道。この子達も、むかしは客車で窓が開いたんだよ……なんて、子どもたちに言う日が来るのかしら。
途中のアユタヤ駅で乗り換え。タイの駅では、いろいろな屋台が出ていて、ちょっとお祭り気分です。見つけたのは、お祭りの綿菓子のようなビニールに入った、カラフルで不思議な食べ物。さらに売り子さんがキュートだったので、試食しないわけにはいきません(笑)。ビニール入りの繊維状のものを買うと、別の袋に入った緑色のクレープのようなものを手渡されます。
まずは繊維のようなモノを恐る恐る口に入れてみると、なんと綿菓子でした。日本のようにふわふわではなく繊維状ですが、味も甘さもほとんど同じ。僕がその綿菓子だけをムシャムシャ食べていたところ、お姉さんが身振り手振りで綿菓子をクレープで巻いて食べることを教えてくれました。
ちょっとパサパサしていそうなので半信半疑で巻いて食べてみると、これが美味しい! とっても甘〜いシュガークレープに早変わりしました! これ、原宿の竹下通りとかに出店したら大人気になりそうだけどな〜。
駅に停車するたびに、物売りのおばちゃんが乱入してきます。このおばちゃんが持ってきたのは、大きな鶏の丸焼きで、値段は60円くらい。窓を全開にした車窓からの風を受けながら、ムシャムシャと鶏にかじりつくのはもう最高! これがホントの“鶏鉄”です(笑)
途中のゲンコーイ駅では日本製のディーゼルカーRHN型に出会いました。昭和46年前後に日本で製造された、タイ国鉄オリジナル車両で、当時製造されていた日本のキハ20形気動車に準じたデザインがたまりません。駅員さんに確認したところ、なんとこのRHN形が午後のダム観光の臨時列車に充当されるとのこと。予定を変更して3時間ほど待ち、その列車に乗ることにします。
ゲンコーイ駅を出てしばらくすると、車窓に海が広がりました。タイの内陸になんで海が!?と驚きましたが、これが観光列車の目的地でもあるダム、パサックチョンラシッドダムなのでした。う〜ん、やはり日本とはスケールが違うなぁ。このダムはタイ国王ラーマ9世の発案で、洪水を防ぐために建設されたタイ最大のダムだそうです。あまりうまい表現ではないですが、バスクリンのような鮮やかな緑色が異国感たっぷり。いや〜これは絶景だぁ!
キハ20のような窓に流れる異国の風景。ふと白い鳥が飛び立ちました。まるで青春時代に乗った国鉄のローカル線にタイムスリップしたかのような瞬間です。それにしてもダムが目的なのに、列車はアクセル全開でぶっとばします。せっかくダムを堪能するのだから、徐行してくれればいいのに……なんて思っていたら……
なんと突然列車が停車し、みんなが線路に降りていくではあ〜りませんかっ!? タイ語 のアナウンスがちんぷんかんぷんなので、まったくわからなかったのですが、なんとダムのど真ん中で停車し、乗客を降ろしてダムを堪能させてくれる観光列車だったのです。キハ20みたいな気動車がダムの真ん中で停車し、線路に降りて写真撮り放題。ここは天国ですか?(笑)。時間になるとみんな列車に戻ったので、ギリギリまで粘って、人がいないバージョンも撮ることができました。これはスゴい!
ダムの絶景にすっかり大興奮! 乗ってるだけじゃ満足できないので、この鉄橋で撮り鉄三昧することに。Googleマップでは陸地を走っているように表示されていますが、実際には長い鉄橋でダムを超えていきます。なんでわざわざこんなにメンテナンスが大変な線形にしたのかわかりませんが、世界有数の絶景路線であるのは間違いないでしょう。特に今年は水が豊富で、最高のシチュエーションだとか。肝心の撮影は、ダムのほとりから撮ることになるため、鉄橋が長すぎてどうしても列車が小さくなってしまいがちです。
そこで車をチャーターして、山の上のお寺から俯瞰撮影してみました。まるで列車が海の上を航海しているような光景に感動! やっぱり世界ってスゲーっ!
線路からはかなり距離があるのですが、タイにしてはヌケがいい日で、バッチリ撮ることができました。対岸や周囲の地面をあえてカットし、ダムの広大さを主題にした構図にしています。
地図を見たところ、鉄橋と朝陽を一緒に撮れそうなことが判明。まだ暗いうちから森を越えて湖岸へ出て、太陽を待ちます。地図だけを頼りに日の出の方角を予測して待ちましたが、時間になっても霧が邪魔をしてまったく太陽が見えません。そして列車が来る直前に奇跡は起きました。霧のヴェールの向こうから、真っ赤な太陽が昇ってくれたのです。手前の水面には美しいサン・ロードが。記憶に残る、撮影になりました。