中井精也のエンジョイ鉄道ライフ「ジョイテツ!」

デジタルピンホールカメラ「おもひでかめら」を楽しもう①

「おもひでかめら」のゆるくてやさしい描写力は、古い被写体とベストマッチ。とくに蒸気機関車を撮影すると、まるでタイムスリップしたかのような写真になります。SLだけでなく、懐かしい街並を入れることで、SLのある日常風景を演出してみました。
ソニーα7S II マニュアル露出(1/160秒) ISO 64000 WB:日陰(A+2) ニュートラル

「おもひでかめら」が生まれたきっかけ

言うまでもなく、僕は最新のデジカメを使うことがお仕事。でも心のなかにいつも相反する欲求があります。それは「ゆるい描写を楽しみたい」という禁断の欲求です(笑)というわけで、いろいろなカメラを試してきました。

最初に気に入ったのはペンタックスの仕上がり設定「カスタムイメージ」のなかの「ほのか」モード。彩度を落として、絶妙な色合いにするこのモードが好きで、写真展を開催したり、ペンタックスの公式カレンダーにもなりました。

でも色合いはいいのですが、画質自体はキレイなまま。そしてホルガなどのトイカメラを試したりしましたが、フィルムだと不確実性が強すぎ、デジタルだと思いのほか画質が良すぎたりと、十分に満足できませんでした。さらに古いポラロイドカメラにもハマりましたが、撮れる絵は理想に近いものの、やはり不確実性が高いのと、デジタル化するのが大変など、これも十分に満足できていませんでした。

そんななか、自分で手作りしたのがデジタルピンホールカメラでした。きっかけはふらりと立ち寄ったピンホールカメラ(フィルム)の写真展でした。その描写が僕の理想通りだったのですが、やはりわずかな穴を通った光だけでは光量が弱く、フィルムではシャッター速度が稼げず、動きモノである鉄道写真には使えません。ならば最新のデジカメでピンホールカメラを作ろう!と思い立ち、手作りしました。

最新のデジカメとピンホールの組み合わせで撮った写真は、まるで記憶の中の風景を撮影しているかのような味わい!というわけで、名称は「おもひでかめら」に決定しました。最初に作ったのは2016年でしたが、そのころは「おもひでかめら」に最適なフルサイズミラーレスカメラが高嶺の花でしたので、一部の人しかオススメできませんでした。でもフルサイズミラーレスが普及した今、やっとオススメできる時代になりました。今回は「おもひでかめら」の作り方から、作品まで解説していきたいと思いますので、ぜひチャレンジしてみてくださいね。

※ピンホールレンズでの撮影時は、イメージセンサーにゴミが付着しやすくなります。また、太陽など強い光を写しこむことによりカメラ内部がダメージを受ける可能性に留意してください。
※以下の工作により生じた損害は、デジカメWatch編集部、中井精也およびメーカーもその責を負いません。自己責任でお願いします。

「おもひでかめら」の作り方

これが「おもひでかめら」です。正確に言えば、キャップがそれです。ボディキャップに穴を開け、その裏からピンホールをあけたアルミホイルを貼り付けているだけです。あたりまえですが、ピンホールカメラなのでレンズはありません。これで写るの?って思うかもしれませんが、ちゃんと写るんです。ピンホール部分は完成品が売られていますが、簡単にできますので自分で作ってみましょう。

ピンホールカメラを真剣に作っている人たちは通常のレンズを使った描写に近づけることを目指す方もいますが、僕がピンホールカメラを使う目的は「描写力のゆるさ」ですので、あえてお手製にチャレンジしてみます。

作成するにあたって用意するものはコレだけ。電動ドリルはプラ製のボディキャップに大きめの穴を開けるためだけに使いますので、手動のものでもかまいません。キャップの右にある白いのは、アルミホイルに穴をあけるための針です。フツーのマチ針です。

まずはボディキャップに穴をあけます。ここにピンホールを開けるのではなく、ピンホールを開けたシールを張るための大きめの穴を開けます。厳密でなくてもかまいませんが、できるたけセンターを出すようにしましょう。やらないとは思いますが、カメラにつけたまま穴を開けないようにしましょう。センサーにも穴が開きます(笑)

いよいよピンホール部分の作成です。画質重視のピンホールカメラを作る場合はここに金属製の薄い板を使うなどのこだわりポイントがありますが、「おもひでかめら」はそのへんで売っているアルミホイルを華麗にチョイスします(笑)。そして、ピンホールを開ける部分をテキトーに油性マジックで黒く塗ります。

そしてマチ針で中心に穴を開けます。ここでは中心はテキトーでも大丈夫です。大切なのは力加減。あまり力を入れすぎず、ホイルに針が当たったら、ちょっとクルクル回す感じでOKです。開いたかどうかわからないくらいが、ちょうどいい感じです。

柔らかいアルミホイルなので、簡単に穴が開きます。穴の大きさは0.○mmくらいがいい!……といったアドバイスはありません。透かしてみたら穴が開いてたので、コレで良しということにして先に進みます。

穴が大きい方が光がたくさん入りシャッター速度が稼げますが、ピントのボケが大きくなり描写力は低下します。なんせアルミホイルなので、明るさと描写力のバランスのいい穴があくまで、何度もチャレンジしてみましょう。

ただのキャップだと味気ないというひとは、シールなどを貼ってかわいく仕上げましょう。
ピンホールレンズの作り方(クリックで拡大します)

おもひでかめらに向いているカメラ

結論から言うと、フルサイズミラーレスがベストです。おもひでかめらの焦点距離は、センサー面の位置からキャップにつけられたピンホールまでの距離になりますが、ソニーα7S IIで測るとだいたい21mmなので、かなりの広角レンズということになります。おもひでかめらは近くの被写体のほうがキレイに写る傾向にありますので、近景を入れやすい広角であればあるほど味わいある作品になります。

画角の目安

※フランジバック+キャップ厚3mm程度を想定。画角は35mm判換算値です
※各マウントの深さによっても画角は微妙に変化します

ミラーレス画角
フルサイズ約21mm
APS-C約32.5mm
マイクロフォーサーズ約50mm
一眼レフ画角
フルサイズ約50mm
APS-C約75mm
そのほか画角
ライカM約31mm

また絞りがなく、計算上では開放値はF100くらいになるので、日中でも高感度撮影がメインになります。そのためISO 50000などの高感度に設定できるカメラがベストです。機種によって高感度画質にも差がありますが、もともと画質を追求するためのカメラではないので、設定できれば問題ないでしょう。

作品

それでは作品を見ながら、「おもひでかめら」の特徴を見ていきましょう。

ソニーα7S II シャッタースピード優先オート(1/6秒) ISO 2000 WB:日陰 (B+1,G+2) ビビッド

これがおもひでかめらで写した作品です。現実離れした「あの世感」がたまりません。ピンホールカメラはピントをあわせるという概念がありませんので、撮影にはスゴい違和感がありますが、ピント合わせから開放された喜びがすぐに快感に変わります(笑)。

基本はパンフォーカスなので、近いものから遠いものまでボケずに写すことができますが、近い被写体のほうが鮮明に描写される傾向にあるため、この写真のように引いた感じの構図だと、全体的にボケている感じになります。

おもひでかめらは「絞り」がありませんが、基本的には「マニュアル」でシャッター速度を自分で選択して撮影します。明るさはISO感度で調整します。ここでは1/6秒、ISO 2000で撮影することで、かなり明るい感じにしてみました。

ソニーα7S II シャッタースピード優先オート(1/125秒) ISO 64000 WB:日陰 (B+1,G+2) ビビッド

開放値がF100相当というピンホールカメラでは、鉄道のような動きモノの撮影は夢のまた夢でした。でも近年めざましいデジカメの高感度画質の向上によって、ピンホールカメラで鉄道写真という夢が実現したのです。ここではISO 64000まで上げ、1/125秒という高速シャッターで高速で走る列車を写し止めることができました。

また前述したとおり、「おもひでかめら」は近景のほうがキレイに描写されます。カメラの目の前にある花を見ると、ピンホールとは思えないほどシャープに描写されていますね。この近景をいかにうまく使うかが、「おもひでかめら」の攻略法の基本なのです。

撮影した写真を確認しながら撮れるだけでなく、ホワイトバランスという最新の機能でピンホール作品を演出できるのも、「おもひでかめら」の大きな利点でしょう。

ソニーα7S II シャッタースピード優先オート (1/25秒) ISO25600 WB:日陰 (A+5,M+4) ニュートラル

近景はキレイに撮れるこのカメラの特徴を生かした作品。パンフォーカスで写るので、距離感をわからなくしてさらにいい感じに写りました。撮影したのは近景に強い「おもひでかめら」の特徴を見せるためで、クリームたい焼きが食べたいからではありません(笑)。次回はライカSL2を使った「おもひでかめら」で撮影した銚子電鉄の作品をご紹介しますね。お楽しみに。

中井精也よりお知らせ

おもひでかめらミニ写真集のご案内

今回ご紹介したおもひでかめらの作品は、フォートナカイオンラインストアでもお買い求めいただけます。B6版・本文48ページ・全ページフルカラーのミニ写真集形式。中井精也のピンホール作品に興味がありましたらぜひご検討くださいませ。

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特別展「天空ノ鐵道物語」

2019年12月3日(火)〜2020年3月22日(日)にかけて、六本木ヒルズ 森アーツセンターギャラリー&スカイギャラリーにて、「特別展 天空ノ鉄道物語」が開催されます。JR7社をはじめ、東京メトロ・都営交通局など各社全面協力のもと、かつてない規模で開催される大型企画。

そしてこちらの展示会会場にて、中井精也写真展「鉄道のある暮らしの風景 —夢と希望の三陸鉄道—」の写真展を開催!

復活した三陸鉄道の勇姿とそれを支えた人たちの熱意、そして「人と鉄道の共生」の究極の姿を捉えた作品から、鉄道の素晴らしさをあらためて感じてもらえれば光栄です。

皆様のご来場を心よりお待ちしております。

<特別展 天空ノ鉄道物語>
日程:2019年12月3日(火)〜2020年3月22日(日)
開館時間:10時〜20時(但し、火曜日は17時まで)
会場:森アーツセンターギャラリー&スカイギャラリー
(六本木ヒルズ森タワー52階)

チケット:
一般 2,500円、高校生・大学生 1,500円、4歳〜中学生 1,000円
(いずれも税込価格。3歳以下無料)

イベント公式Webサイト:
http://www.tentetsuten.com/

ゆる鉄倶楽部、会員募集中!

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中井精也

1967年、東京生まれ。鉄道の車両だけにこだわらず、鉄道にかかわるすべてのものを被写体として独自の視点で鉄道を撮影し、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。2004年春から毎日1枚必ず鉄道写真を撮影するブログ「1日1鉄!」を継続中。広告、雑誌写真の撮影のほか、講演やテレビ出演など幅広く活動している。株式会社フォート・ナカイ代表。2015年、講談社出版文化賞・写真賞、日本写真協会賞新人賞受賞。著書・写真集に「デジタル一眼レフカメラと写真の教科書」「DREAM TRAIN」(インプレス・ジャパン)、「ゆる鉄」(クレオ)、「都電荒川線フォトさんぽ」(玄光社)などがある。2018年5月、東京都荒川区に鉄道写真ギャラリー&ショップ「ゆる鉄画廊」をオープンした。甘党。https://ameblo.jp/seiya-nakai/

■TVレギュラー:「中井精也のてつたび」/NHK BSプレミアム、「ヒルナンデス!沿線フォトさんぽ」/日本テレビ、「ひるまえほっと てくてく散歩」/NHK総合、中井精也の「にっぽん鉄道写真の旅」/BS-TBS、カメラと旅する鉄道風景/CS各局