赤城耕一の「アカギカメラ」

第97回:写りが良く見た目も良し。“35mm好き”の心を捉えたキヤノン「RF35mm F1.4 L VCM」

とてもヤバすなレンズがレンズがキヤノンから登場しました。その名もRF35mm F1.4L VCMと申します。はい、筆者の大好きな35mmレンズでありまして、F1.4の大口径です。

写りとは関係なく、鏡筒を見た瞬間にときめくレンズって、最近はそう多くはないのですが、本レンズは鏡筒デザインと555gというゾロ目の重量にグラっときました。ちなみにEF35mm F1.4L II USMは760gでした。筆者は外観が美しいレンズなら写りもいいに違いないという確信を持っております。もちろん根拠はありません。

昨今のミラーレス機用の土管みたいな鏡筒のレンズを見るのがイヤで、わざわざ一眼レフ用のレンズをアダプターで使っているくらいですから、鏡筒デザインは光学性能より重要です。嘘です、自分の商売がうまくいかないので機材が新調できないわけです。

鏡筒は寸胴ではあるのですが、EOS R6 Mark IIとのバランスは良いですね。特別にコンパクトではないですが、取り回しがとてもいいです。

本レンズですばらしいのはアイリスリング(絞り環)が付いていることです。動画撮影を意識した採用で、クリックも排していますが、1/3段刻みと細かくこれも鏡筒のデザインを引き締めることに貢献しております。

アイリス(絞り環)があるだけで単純な筆者は涙しそうです。でも静止画では機能しません。いいんです。飾りでも。ロック機構が付いています。

わーい。と思ったら、アイリスリングは現時点で動画撮影設定時のみ機能するようです(泣)。でも大丈夫、本レンズ鏡筒にはコントロールリングがあります。ここに絞りを割り当てればいいわけです。割り当てないけど。きっとスチール撮影でもアイリスリングが使える日が来るに違いありません。シ、シグマみたいにね。

今回キヤノンRFレンズに初搭載となった聞きなれないVCMって、Vシネマの略じゃないですぜ、「ボイスコイルモーター」のことだそうです。大口径レンズに使われる分厚いレンズ駆動に適しているそうですね。

キヤノンのアナウンスではナノUSMによるフローティングレンズの駆動を組み合わせた電子式フローティングフォーカス制御を採用して、重い大口径フォーカスレンズ群を高推力のVCMで、軽量なフローティングレンズを省電力・小型のナノUSMで駆動。それぞれの移動量を制御することにより、大口径レンズにおいて高速でスムーズなフォーカシングを実現とあります。

つまりVCMに加えてナノUSMも入っているという。2つのモーターで動かすわけですか。すげー。当然、動画撮影時のブリージングも起こらないように配慮されています。

実際のAFの動きは素晴らしいですね。AFスピードは爆速というか、筆者の肉眼よりも速いというか、EOS R6 Mark IIとの組み合わせでフォーカスを自動選択にすると、気づかないうちに目標に合焦しているというか、それが音もなく素早く進行するわけです。怖いくらいです。お前さ、オレはそこまで頼んでないからね、くらいの勢いでさっさと仕事をしてしまいます。

では描写性能はいかがなものでしょうか。EF35mm F1.4L II USMと同等かそれ以上の描写をするとあります。素晴らしいです。

Lレンズの証である赤ラインが先端に。その下がコントロールリングです。静止画ではアイリスが使えないので、絞りを割り当ててみました。レンズはフッ素コーティングしてあるので付着した汚れを簡単に取り除けると。本当ですか?

開放絞りから合焦点は微塵のにじみもありません。少しくらいトロくてもおじいさんは間違いなく許すというか、そうあって欲しい時もあるのですが、本レンズは情け無用というか冷徹なほどしっかり写ります。絞りによる性能変化はありません。周辺光量も十分すぎます。これも多少は落ちた方がいいと思うのですが、優秀なキヤノンの光学エンジニアさんがそんなことを許すはずはありません。

最近は高性能のレンズに絞りは要らない論があるみたいですが、筆者はレンズの性能の向上よりも被写界深度のコントロールこそが写真の妙味だと考えているので、絞りがないのは困りますので念のため、絞りは必須だと書き添えておきますね。土門拳も「写真は絞りだ」と申しています。

広角系の大口径レンズですと、ボケ味がダメじゃねえの。っていうステレオタイプの論調もあるのですが、本レンズは良い感じです。とはいえ点光源とか見ますと全部丸く写るということはありません。が、筆者はそんなことは1ミリも興味はないので、ここでは問題視しません。

点光源は画面周辺ではレモン型ですね。筆者はこういう話には疎いんだけど、欠点とは思いませんが。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/絞り優先AE(1/400秒、F1.4、−0.3EV)/ISO 400
魚屋さんの店頭。レンズを向けたら目玉のところにすっとフォーカスを合わせにいくEOS R6 Mark II。当たり前と言えばそうだけど。質感描写が良くて、艶かしい感じで写るレンズです。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/絞り優先AE(1/2,500秒、F1.4、−0.7EV)/ISO 400

それよりもなんですかね、安易に“空気感”なる文言は使いたくないのですが、本レンズは素晴らしくヌケが良いように感じています。

鏡筒の中に11群14枚もレンズが詰まっている感じがないのです。透明感が感じられるのが謎ですね、この夏の湿度が高い時期に撮影したので覚悟をしていたのですが、画像を見て、くぐもったようなやれやれという描写にはなりませんでした。開放絞りから少しコントラストが高すぎるんじゃないですか?(かなり褒めてますよ)

昼間ですが、ビルに星が降りました。均質性の高い高画質です。周辺光量も十分です。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/プログラムAE(1/200秒、F10、−0.7EV)/ISO 100
実直な描写というか、ひたすら鮮明な質感描写に驚きます。何かを見つけたら躊躇なくシャッターを切ることにしましょう。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/プログラムAE(1/400秒、F7.1、±0.0EV)/ISO 100

1つだけ気になるのは、携行している時なんですが、カメラの電源が入っていない時は鏡筒内からコトコトと小さい音がします。

電源を入れないとVCMに磁力が発生しないからかなあ。どうなんでしょうね。素人にはよくわかりませんけども。もちろんしばらく使用しているうちに慣れましたけどね。でもねレンズの中から音はしない方がいいよね。なんか壊れていると勘違いされたりね。

本レンズは筆者が新規導入のEOS R6 Mark IIに装着して使用してみました。まだ試作の域のレンズなので、DLO(デジタルレンズオプティマイザ)は現時点で対応していないのですが、それこそ素の性能がわかるわけですが、筆者には、このレンズ、描写にスキがなく感じました。といいうことはですね、DLOが対応したらよりすごい画質になるのでしょうか、これはわかりませんけど、楽しみですね。

鮭の模型だと思うのですがそれでも湿度があるような描写になるのに感心しております。窓のリフレクションも良い感じです。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/プログラムAE(1/160秒、F4.5、−0.3EV)/ISO 400
ビルの間から出現したように見えた電信柱。モノトーンに近いので質感と階調描写が重要になりますが、とても優れた画質に驚いております。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/プログラムAE(1/125秒、F4.0、−0.3EV)/ISO 100
絞り込んでディテールの雰囲気を見てみます。このクリアさは他に変え難い魅力があります。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/プログラムAE(1/640秒、F9.0、±0.0EV)/ISO 200

EOS R6 Mark IIはそのうちにお迎えせねばならないと考えていましたが、予想より早い導入になりました。期待通りなかなか良い仕事をしました。RF35mm F1.4L VCMとの組み合わせは特別にコンパクトだという印象は薄いですが、バランスがとても良い感じであります。

筆者の苦手な夏ですから、外の撮影では思考停止しがちなので、今回はフォーカスも露出もほぼ気にしないでカメラ任せで撮影しましたが、レンズのAFが速いことも相まって、気になったものにレンズを向けるだけで、設定はカメラとレンズに勝手にやってもらってしまっている印象があります。いや、この位置にフォーカスが来れば万全だぜ、と思えば、目的のところにすっとフォーカスが合う感じです。これではさらにアタマを使わなくなるのでカメラ任せはほどほどにしておこうという自覚は必要です。

カメラを向けたと同時にフォーカスがスッと飛んでゆくという印象です。街で、何かを拾い集める作業が好きな筆者には最高でした。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/絞り優先AE(1/800秒、F1.4、−0.7EV)/ISO 200
ウマ? ロバ? の形していても、EOS R6 Mark IIは何も言わなくても目玉の奥の奥にピントを合わせにいきます。背景ボケがうるさくなるのかなあと思ったら良い感じに省略してもらえました。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/絞り優先AE(1/500秒、F1.4、−0.7EV)/ISO 400
この写真も脊髄反射的にシャッター切りましたが、フォーカスが飛んで行くかのようでした。思いの通りに撮れています。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/プログラムAE(1/640秒、F9.0、−0.7EV)/ISO 400

EOS R6 Mark IIは約2,420万画素ですが、このRF35mm F1.4L VCMで撮影した画像はEOS R5(約4,500万画素)に負けていないように見えます。

ただしですね筆者にとって、仮にRF35mm F1.4L VCMを導入することになれば、RF35mm F1.8 マクロ IS STMをどうするのかという大きな問題が立ち塞がることになります。

F値にして1段ほどとなれば、ISO感度でカバーできる範囲ですし、被写界深度の違いはありますが、筆者はボケ味至上主義ではありませんのでねえ。時として、大きなボケが得られたら良いなあという程度であります。それにRF35mm F1.8 マクロ IS STMは素晴らしくよく写ります。

マクロ名がついたレンズですから最短撮影距離が0.17mというのはありがたく、とても便利ですね、ただね、実用面ではワーキングディスタンスが短いですから本気でマクロ領域にまで踏み込んで撮影するのかなあという感じもありますが、寄れることは便利なことに間違いありません。

このレンズはISもあるしなあ。それに効果があるかどうかもまったくわからない“輪っか” みたいな専用の高価な純正フードも買ってしまったしねえ。手放すのはよくないよなあ。

少し絞り込んできっちりとブツを取ろうという試みです。光の条件はあまり良くないんですが、再現性は良好。手ブレ補正もうまく効いています。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/プログラムAE(1/40秒、F13、−0.7EV)/ISO 400

もちろん焦点距離が重複してもRF35mm F1.4L VCM追加でお迎えすりゃいいんでしょうけどね。以前だったら躊躇しないでやらかしていたよなあ。今は大口径の広角レンズを生かせる仕事はないですからねえ。

などと、ぶつぶつ言っていたら、6月28日に、ニコンからNIKKOR 35mm F1.4が興味深い仕様で発表されましたし、これって、レンズ構成とか仕様を見ますと、超高性能描写を追求したRF35mm F1.4L VCMとは真逆の思想が背景にあるようにもみえます。気になりますねえ。

35mmレンズならば、地球上に存在するすべてを欲しがる筆者にとって、悩ましい時代が到来したことは確かです。おかげさまで、このところずっと眠りが浅いままなんですよ。これは熱帯夜だからじゃありませんね。RF35mm F1.4L VCM発売まであと1週間ですよねー。

玩具屋さん店頭。これも顔認識から手前の近い方の目玉にスッとピントきますね。ビニールのカバーとかかかっていてもカメラは問題としないんでしょう。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/絞り優先AE(1/2,.500秒、F1.4、±0.0EV)/ISO 400
紫陽花も、作例の定番ですが、もうおしまいですよね。あまりにも質感描写が素晴らしくて、つい選んでしまいました。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/絞り優先AE(1/500秒、F1.4、−0.7EV)/ISO 200
街で発見した人形。筆者の膝よりも低い位置にありました。おじいさんは足が痛く、しゃがまずに背面モニターを適当に見て撮影したら、うまくいきました。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/プログラムAE(1/125秒、F4.0、−0.7EV)/ISO 100
最近は背の低いひまわりもあるんですね。背景がどういうところか思い出すために少し絞り込んで様子を見てみましたが、街角のリアリティがあります。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF35mm F1.4 L VCM/プログラムAE(1/160秒、F4.5、−0.3EV)/ISO 100
赤城耕一

1961年東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒。一般雑誌や広告、PR誌の撮影をするかたわら、ライターとしてデジカメ Watchをはじめとする各種カメラ雑誌へ、メカニズムの論評、写真評、書評を寄稿している。またワークショップ講師、芸術系大学、専門学校などの講師を務める。日本作例写真家協会(JSPA)会長。著書に「アカギカメラ—偏愛だって、いいじゃない。」(インプレス)「フィルムカメラ放蕩記」(ホビージャパン)「赤城写真機診療所 MarkII」(玄光社)など多数。