写真を巡る、今日の読書

第111回:誰もがレンズを向けたくなる街「ニューヨーク」

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

歴史的名作も多く

写真作品には、さまざまな場所や人物、時代が取り上げられますが、ニューヨークは最も多くの写真家がレンズを向けてきた都市のひとつと言えるでしょう。

写真史をひもとくと、まず1893年にアルフレッド・スティーグリッツが撮影した《終着駅》を挙げることができます。近い時代では、エドワード・スタイケンによる《フラットアイアン・ビル》も象徴的な1枚です。その後も、ウィリアム・クラインの写真集『NEW YORK』やソール・ライターの初期作品群、ブルース・デヴィッドソンのシリーズ『Subway』など、歴史的名作の多くがニューヨークという場から生まれてきました。

私自身もこれまでに何度かニューヨークを訪れていますが、最初に滞在したときには、フィルムのGRを片手にスナップしているだけで、なんとなく自分がちゃんとした写真家になったような気分にすらなったことを覚えています。今日は、そんなニューヨークをキーワードに、いくつか写真集を選んでみたいと思います。

『借りた場所、借りた時間』北島敬三 著(PCT/2025年)

1冊目は、北島敬三の『借りた場所、借りた時間』です。本書は、長野県立美術館で行われた大規模な北島の回顧展のカタログとして制作されたもので、年譜や資料、文献もまとめられており、北島敬三という作家の仕事を俯瞰するうえで非常に優れた1冊になっています。

北島が撮影してきた場所は、東欧や旧ソ連、コザなど多岐にわたりますが、ニューヨークはそのなかでも最も象徴的なモチーフの1つだったと言えるでしょう。

沖縄での撮影を通じてアメリカという存在を強く意識するようになった後、1981年の夏から計9か月にわたって撮影された『New York』は、第8回木村伊兵衛写真賞の受賞作ともなりました。私自身も、写真学生の頃にこの作品に強く憧れたことをよく覚えています。

本書では、北島のキャリア全体における被写体や撮影スタイルの変遷をたどることができますし、現在は新版の『NEW YORK』も入手可能ですので、そちらも併せてチェックしてみることをおすすめします。

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『写真をめぐるクロニクル NEW YORK/2009-2022 』川津悦子 著(日本写真企画/2022年)

2冊目は『写真をめぐるクロニクル NEW YORK/2009–2022』です。本書は、ニューヨーク在住の写真家・川津悦子による、ニューヨークでの生活やアートシーンを綴った随筆集です。

2008年から雑誌『フォトコン』で連載された「ニューヨーク便り」をもとに構成されています。ニューヨークで開催されたさまざまな写真展や、この街と縁の深い写真家たちの紹介、そして日々の暮らしの描写を通して、写真文化やそこに流れる空気感をつぶさに感じ取ることができます。現代写真に関する説明や紹介も多く、写真芸術の最前線を知るうえでも格好の1冊と言えるでしょう。

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『Weegee: Society of the Spectacle』今橋映子 著(白水社/2007年)

最後は『Weegee: Society of the Spectacle』です。写真芸術に造詣の深い方のなかには、ニューヨークという都市を思い浮かべたとき、真っ先にウィージー(Weegee)の名が頭に浮かぶという方も少なくないでしょう。警察無線を傍受し、誰よりも早くニューヨーク中の事件現場に駆けつけて撮影したと言われるウィージーの作品は、アメリカ社会を風刺的かつ批評的に捉えた傑作として広く知られています。

事件現場や裏社会の現実を容赦なく写し出す一方で、華やかなパーティーや熱狂する群衆、著名人のポートレートなども収めた本書は、まさにアメリカ社会のスペクタクルを体現した1冊だと言えるでしょう。ウィージーの著作はほかにも多くありますが、本書はそのキャリアを一望できる構成となっており、入門書としても最適です。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。