写真を巡る、今日の読書

第112回:ブルーシートの街景から巨大施設、異星のようなモンゴルまで。独自の着眼が光る「風景写真」

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

それぞれの視点で見つめる「風景」

これまで日本の風景は多くの写真家によって記録され、表現されてきました。風光明媚な自然景観はもちろん、現代を象徴する都市風景、日常の街角、工事現場や廃墟など、そのモチーフは実に多様です。

一口に「風景」と言うと四季の移ろいを含む豊かな自然がまず思い浮かびますが、「風景」という切り口には多様な見方やテーマが内包されています。

今日紹介する3冊もいずれも「風景」を扱う作品ですが、それぞれの写真家が独自の着眼で取り組んだ視点と表現が色濃く出たユニークなアプローチだと言えるでしょう。

『JAPANESE BLUE』小林のりお 著(赤々舎/2025年)

1冊目は、『JAPANESE BLUE』。作者の小林のりおは、多摩・港北ニュータウンの造成地を記録した代表作『LANDSCAPES』をはじめとして、夜の工業地帯を撮影した『FIRST LIGHT』など大型カメラやデジタル表現を用いた実験的かつ先進的な取り組みによって、郊外風景と都市の周縁を独自の視点で記録し続けた作家です。

本作は30年以上にわたって撮影された、ブルーシートのある風景を収めた写真集です。都市のスクラップ&ビルドを撮影し続けてきたなかで常にその風景の中に存在した「ブルー」は、ある種日本の景観の一部となっていることが、本作からは良く伝わってきます。視覚的にも強く目に飛び込んでくるブルーシートの「ブルー」は、人工性や非日常性、保護や隔離といった象徴として写り込むのがわかるでしょう。「風景」というものを考えるための視覚的資料としても非常に優れた一冊だと思います。

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『Build the Future』西澤丞 写真(太田出版/2010年)

2冊目は『Build the Future』です。西澤丞が『DEMIURGOS』で見せた複雑な配管や工場群、『MEGA‑SHIP』で描いた巨大船体・造船所のモチーフに通じる、スケールの大きな人工物を主題とした写真集です。

本作では核融合研究施設や加速器、ロケット関連施設、巨大船など、現代文明を支える「巨大な機能体」が丁寧に撮影されています。圧倒的なスケール感と構造の造形美は見る者の目を奪いますが、個人的に印象的だったのは、画面の随所に差し込む鮮やかでまばゆい光のニュアンスです。無機的な施設風景に光が入り込み、非日常的な色気や不思議さを添えている点が、ただのドキュメント写真に終わらない魅力を生んでいます。

加えて各施設の説明や研究者へのインタビューも収録されており、ビジュアルとテクストが相互に補強し合う構成になっています。工学や科学、巨大建築に関心のある読者はもちろん、現代の産業風景を写真で味わいたい人にとっても、何度でも見返したくなる写真集だと言えるでしょう。

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『山内悠写真集 惑星』山内悠 著(青幻舎/2020年)

最後は『山内悠写真集 惑星』です。富士山7合目の山小屋に長期滞在して撮影した『夜明け』で独自の風景表現を切り拓いた山内悠が、5年の歳月をかけてモンゴルに通って制作した写真集です。

2014年に八ヶ岳へ移住した山内が、山の空き地にモンゴルのゲルを建てようと思い立ったことから本プロジェクトは始まりました。初めて訪れた地で撮影したネガを現像してみると、そこに広がる像は「どこか嘘っぽく、まるでスタジオで撮影したようなつくりもののユートピアをイメージさせる世界」だったと語っています。

本書には、星光が瞬く夜空や砂漠の風景、さらにはユートピアの裏側を連想させるディストピア的な都市風景までが織り込まれており、その集積は「並行して存在する別の惑星」のような視覚体験を読者に与えます。

日本の風景写真ではないものの、『夜明け』や山内の日本での経験を踏まえた視点が随所に滲んでおり、山内の表現世界を追ううえで格好の1冊と言えるでしょう。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。