写真を巡る、今日の読書
第85回:知っておいてほしい“スウェーデン出身の写真家”
2025年5月14日 07:00
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
独自の発展がみられる北欧の文化
昨年、スウェーデンの写真学校で招待講演を行い、その後10名の学生が来日して、ゼミの学生と共同展示を行うなどの国際交流活動を行いました。これをきっかけに、私もスウェーデンを含めた北欧の写真文化や芸術に関して学ぶようになったのですが、欧州圏とはいえ、やはり北欧の文化は独自の発展が見られますし、日本とも異なった歴史的背景のなかで写真芸術が発展してきたことがわかります。
魅力的な作家や作品も多く、紹介したい本はたくさんあるのですが、日本の書店では扱いも少なく、かなり高騰しているものが多いのが現状です。その中で、今回はスウェーデン出身の写真家に絞って、特に名前を知っておいてほしい作家を少し紹介してみたいと思います。
『Café Lehmitz』Anders Petersen 写真(Prestel Pub/2022年)
1冊目は、『Café Lehmitz』。本作は、1944年生まれのスウェーデンの写真家、アンデルス・ピーターセンの代表作です。ドイツ語を学んだ後、ハンブルクのカフェ・レーミッツというバーで60年代後半から3年間に渡り撮影された写真群です。
労働者や娼婦、薬物中毒者や恋人たちなど、多様な人々を捉えたポートレートは、欧州の写真史においても重要なドキュメンタリー作品として知られています。
ピーターセンの作品には、他に日本の沖縄をとらえた「Okinawa」などがあり、その撮影中に被写体ともなった写真家の酒航太が運営するギャラリー&バー「スタジオ35分」では、2025年の3月から4月まで本作の展示が行われました。
また、本作の1点はトム・ウェイツの名盤『Rain Dogs』のアルバムカバーにもなっており、再刊版にはトム・ウェイツの序文も新たに掲載されています。現時点では、まだ新刊が手に入るようですので、この機会に是非。
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『Another Language』Marten Lange 写真(Cambridge University Press/2013年)
2冊目は、『Another Language』。現代美術やファッション写真の分野で横断的に制作を行うモルテン・ランゲの代表作です。
植物や動物、自然現象、都市といった様々な分野の物質性や美学を標本的にとらえ、特徴的なモノクロームで仕上げた本作は、写真史において多くの写真家がテーマとしてきた「等価=Equivalent」の現代的解釈のひとつだと言えるのではないかと思います。
新たな視点が得られる作品というのは多くありますが、ランゲの作品は鑑賞者に拡張的な視覚を与えるという意味では、特に強い体験が得られるもののひとつだと言えます。例えばアンドレアス・グルスキーの作品を見た後、巨大な建築物や大量の商品が並ぶ景色に対する見方が変わるように、ランゲの作品も、見た後にその視点が目に宿るような感覚を受けるでしょう。
本作も市場では既に価格が高騰しており、入手が難しいとは思いますが、書店や図書館などで是非1度手に取ってほしいと思います。また、『Ghost Witness』という別作品はより判型も大きく、こちらもおすすめです。(ただし、こちらも稀覯本になっています)
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『Hanezawa Gardens』Anders Edstrom 写真(MACK/2015年)
3冊目は、『Hanezawa Gardens』。写真家であり、映像作家としても活躍するアンダース・エドストロームによる1冊です。ファッション写真の分野でキャリアを築きつつ、日常の中の光や情景を独自の視点でとらえた作品を発表してきたことで知られています。
現在は東京を活動のベースにしており、本作以外にも日本の風景やそこに流れる時間を描いた作品を多く残しています。色彩や造形へ向ける視点と共に、注ぐような光をとらえる感覚が、日本の日常的な風景を通して豊かに再現されています。
エドストロームの作品はいずれも出版されてから割合早い時期に売り切れてしまうことが多いため、本作に限らず書店などで見かけたら是非チェックしてみてほしい作家のひとりです。