写真を巡る、今日の読書
第63回:良い写真集は手に入るうちに…ロバート・アダムスなど高評価受ける作家たち
2024年7月10日 07:00
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
良い写真集は手に入るうちに
ここしばらくの連載では、文章技法やロケーション関連の書籍を扱いましたので、今回は久しぶりに写真集の紹介を。
毎回書くことですが、写真集は印刷部数も限られていますので、その時々の出会いが全てとも言えます。良い写真集は、気づくと絶版になってしまい、古書流通で高値が付けられてしまいます。
今日は、比較的最近発売された写真集で、世間的な評価も高く個人的にも良い本だと感じられるものをいくつか取り上げたいと思います。
『Robert Adams: Summer Nights, Walking: Along the Colorado Front Range 1976-1982』Robert Adams 作(Steidl/2023年)
1冊目は、『Robert Adams: Summer Nights, Walking: Along the Colorado Front Range』。写真史においても重要な役割を果たした作家である、ロバート・アダムスの作品です。
ロバート・アダムスといえば、『The New West』という写真集が最も有名で、その中で捉えられている日中の眩い光の中で明るく乾いたトーンを放つ「都市化する自然風景」を思い浮かべる方が多いのではないかと思います。本作はそれとは対照的に、夜の郊外風景を捉えた1冊になります。柔らかな影がうごめくどこか暖かなプリントからは、昼間のハイライトを基調としたイメージとは全く異なる感覚が得られます。
元は、1985年に『Summer Nights』というタイトルで発表されたものですが、その25年後にアダムス自身によって再構成された写真集です。出版後すぐに絶版となったものを、増補版として復刊したのが本書となっています。
編集から印刷製本まで社内で一貫して行うドイツの出版社であるシュタイデルから発表された美しい装丁であることも考えると、間違いなく、持っていて損はない写真集だと言えるでしょう。
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『Between Worlds』Harry Gruyaert 作(hames & Hudson/2022年)
2冊目は、『Between Worlds』。ハリー・グリエールという写真家はご存知でしょうか。スティーブン・ショアやウィリアム・エグルストンなどと並んで、カラー写真表現のパイオニアの1人として知られる、写真家集団「マグナム・フォト」に所属する写真家です。
彩度の高い独特な色彩と、まるで演出を加えたような舞台的で印象的な一瞬を切り取るスナップショットが特徴的です。賑やかで騒々しい群像写真があるかと思えば、まるでエドワード・ホッパーの描く都市の孤独さや無機質さが描かれたような1枚もあり、世界の様々な面を、印象的な光と色で記録しています。
どこか超現実的な一瞬を捉えた独特な感覚は、普段スナップ写真を撮影される方にとっても刺激的なイメージになるのではないかと思います。
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『Deborah Turbeville: Photocollage』Deborah Turbeville 写真(Thames & Hudson/2023年)
最後は、『Deborah Turbeville: Photocollage』。デボラ・ターブヴィルは、ファッション雑誌『ハーパース・バザー』の編集者からキャリアをスタートし、その後写真家へ転身して多くのファッション誌や広告で活躍した作家です。
暗く静謐で、抽象性が高いイメージをファッション写真に持ち込んだことで知られ、作品としてもボケやブレを効果的に用いたもの、あるいは物理的にプリントを破いたり、付け加えたりするコラージュの手法を多く用いたものが残されています。
本書は、キュレーターであり写真研究者でもあるナタリー・ハーシュドルファーの編集によって構成されており、初期から晩年までの作品を掲載しつつ、それぞれの時代におけるターブヴィルの影響力やコンセプトについてのテキストがまとめられています。
大胆なイメージの構築を行う上で、良い資料となるでしょう。人物を撮影する上においても、新たな視点が得られる1冊だと思います。