写真を巡る、今日の読書

第17回:「写真集」という表現方法を知る

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

写真集は、時に一枚の写真そのものよりも重要

現代写真は、プリントや映像、あるいはSNSへの投稿など様々な方法によって表現され、提示されています。何を最終媒体として写真表現を行うかによって、見え方も感じ方も、作品が届く鑑賞者も違ってきます。どんな方法で写真を見せるのかは、モチーフやテーマを選ぶのと同等に重要なものだと言えるでしょう。

そのひとつとして挙げられるものに、写真集があります。写真集は一枚のプリントや、複数枚の構成を空間で見せる展示などとは違い、多くの写真を紡ぎ、一冊の本としてページをめくりながら写真を眺められるのが特徴だと言えるでしょう。画集というのは、多くの場合図録のような役割のものが多いのですが、写真を連ねた写真集というのは、それとは少し違い、本というかたちによって写真表現を行うものが多くあります。

例えば、森山大道の『狩人』という写真集には、「三沢の犬」や「何かへの旅」など自身を代表する写真が多く収録されています。しかしながら、そこで眺めるそれらの写真は単独の作品を眺めるための資料的役割ではなく、一冊の本を紡ぐ重要なピースとなって機能しています。特に日本の写真史に触れるとき、写真集は、時に一枚の写真そのものよりも重要だと言えるでしょう。「写真」ではなく「写真集」が自らの作品であるとする写真家も多くいます。今日は、そんな「写真集」という表現について知ることができる本を紹介したいと思います。

『日本写真集史 1956-1986』金子隆一 著、アイヴァン・ヴァルタニアン 著(赤々舎・2009年)

一冊目は『日本写真集史 1956-1986』。著者は、日本の写真界に多大な功績を残し、惜しまれながら昨年逝去した金子隆一と、ニューヨークのアパチャー・ファンデーションや光琳社出版などで多くの美術書や写真集の編著に携わってきたアイヴァン・ヴァルタニアン。

1956年に出版された濱谷浩の『雪国』から始まり、1986年出版の深瀬昌久の『鴉』まで、日本の近現代写真史において最も重要な写真家と写真集がセレクトされています。それぞれの解説では、ただ表面的に写真に写し出されている絵柄についてではなく、その写真集がなぜ重要なのか、時代背景や文脈を絡めて非常に丁寧に説明されています。

一冊を通して、写真家が写真集とプリントを表現手段としてどのように分けて捉えていたのかがよく理解できると思います。写真集というものが持つ価値と楽しみ方が良く分かる、写真ファン必携の書と言えるでしょう。

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『写真集の本 明治~2000年代までの日本の写真集 662』飯沢耕太郎 著(カンゼン・2021年)

二冊目は「写真集の本 明治~2000年代までの日本の写真集 662」。長く写真評論家として活躍してきた飯沢耕太郎と、若手写真史家として注目される打林俊によってまとめられた一冊です。

恵比寿の写真集食堂「めぐたま」に並ぶ、飯沢さんが収集した5,000冊以上の写真集の中からセレクトされており、日本で本格的に写真が始まった明治時代から現代まで、図鑑的にその歴史を眺めることができます。表紙と数ページの書影と共に、写真集の概要が掲載されているため、歴史を俯瞰するのにも役立つ本になるでしょう。

未知の写真集との新たな出会いにもなるのではないでしょうか。興味のある写真集を見つけたら、「めぐたま」に探しに行ってみるのも良いかもしれませんね。巻末に掲載されている、著者たちによる「ベスト写真集」を選ぶ鼎談も興味深く、自分ならどれを選ぶだろうと考えてしまいました。

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『日本は写真集の国である』金子隆一 著(梓出版社・2021年)

今日最後に紹介するのは、「日本は写真集の国である」です。著者は先ほど紹介した写真集史にも携わった、金子隆一です。日本で最も写真集というモノを研究し、愛したその姿勢そのものが形となったような一冊です。日本における、写真集というかたちでの表現の重要性や特徴が様々な作家の制作を通して描かれます。

また、写真家たちの表現に対する熱が写真集へと注がれていった60~70年代から、80年代以降のより洗練されたブックデザインやコンセプトメイキングなど、写真集を軸とした写真表現史が豊かに解説され、語られていきます。時代ごとの芸術運動や雑誌の変遷などにも触れられており、写真集がその中でどのように新たな表現を獲得していったのかが、その背景と共に理解できるのではないでしょうか。

まるで大切な物語を語るように進められていく本書は、あとがきの一節に書かれているように、「金子隆一自身の日本の写真への希望のメッセージ」であると思います。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『写真を紡ぐキーワード123』(2018年/インプレス)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)等。東京工芸大学芸術学部非常勤講師。最新刊に『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)。