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モノ・レイク(前編)
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雪が降った5月のセコイア
[2008/06/25]

5月、霧のキングス・キャニオン
[2008/06/11]

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[2008/05/21]

春のデスバレー(後半)
[2008/05/07]

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春のデスバレー(後半)


シグマDP1 / F11 / 1/250秒 / ISO100
砂丘は大きな砂場だ

※すべてRAWで撮影してからJPEGに現像し、幅1,028ピクセルに縮小しています。
※写真下のデータはカメラ/絞り/シャッター速度/感度です。SD14のみレンズと実焦点距離を付記します。


1日中、首からぶら下げていても苦にならなかったシグマDP1と帽子
 旅の予定をあまり立てない私は、昨夜から砂丘で朝日を迎えることだけは決めていた。そして予定通り、陽の光が射し始めた砂丘を、息を切らせながら歩いた。

 車を停めた190号線から、かなり遠くまで歩いて来たことに気が付く。車道に停めた車は、もうその形を肉眼では認識できない。私は、砂丘で1番高いポイントに立っていた。この朝、砂丘をここまで歩いて来る人はいないようで、あたりに人影はない。

 人の足跡を見ない美しい砂丘の上を歩くと、私の足跡がくっきりと残る。少し強い風が吹くたびに足跡は消え、新しい砂丘の表面が現れるだろう。しかし、自然が丁寧に造った砂丘の庭、その上を歩くことに少し抵抗を感じ、必要以上の足跡を残さないように歩く。

 高いところから低いところへ降りると、砂が私より先に滑り落ちてゆく。サーという音をたてる砂のなだれだ。靴は砂が入り込んで重たくなり、何度も砂を取る。砂は柔らかい肌触りがする。しばらく砂に触れていると心が和む。その砂の上に身を任すように腰を落とすと、今まで見えなかった光が見え、聞こえなかった音が聞こえる。細かい砂は陽の光に反射し、キラキラと光っている。細かい砂は風に流され、サラサラと音を立てている。

 私は柔らかく優しい砂に包まれた気持ちになり、また砂丘を歩きだす。陽の光が砂丘を照らしてから2時間もすると、暑さを感じ始める。朝の9時を少し過ぎた頃、砂丘から車に戻る。砂の上を歩いた私の足はかなり消耗して重い。ビジターガイドによると、1番高い砂丘のポイントまで車道から約2マイル(3.6Km)とある。砂の上を知らぬ間に随分と歩いていたものだ。車のシートに腰を掛け、朝飯のビスケットを何枚もかじりながら、今戻って来た砂丘を振り返り眺めていると、親の目の届く小さな砂場で遊んでいた幼児の頃を思い出す。そして、カメラをぶら下げ、広い砂丘を1人歩き回る今の私も、砂と遊んでいることに大して変わりはないと思えてくる。


シグマDP1 / F11 / 1/125秒 / ISO100
足跡のない砂丘を歩く
シグマDP1 / F11 / 1/200秒 / ISO100
砂丘にもいろいろなドラマがある

シグマDP1 / F11 / 1/100秒 / ISO100
自然がつくったタイル
シグマSD14 / F8 / 1/500秒 / ISO100 / APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM / 150mm
家族が砂丘に入って行った。日焼けと暑さに注意して欲しい

 私はこの日を砂丘で迎えられたことだけで満足だった。そして次の行動はまだ行ったことがないデスバレーの北へ、目的地を定めずゆっくりと気ままに足を伸ばすことにした。

 190号線から北に伸びるスコッティズ・キャスル・ロードを北に走ると、かつて富豪のバケーションハウスだったスパニッシュスタイルのスコッティズ・キャスルに自然にたどり着く。リゾートホテルの様な大きな建物もそのストーリーにも惹かれることはなく、そこには長居はしなかった。


シグマSD14/ F14 / 1/125秒 / ISO100 / 18-50mm F2.8 EX DC HSM / 21mm
鉱山ブームの時代、デスバレーを横断した馬車の跡が、スコッティズ・キャスル・ロード沿いに残されている
シグマDP1 / F11 / 1/320秒 / ISO100
デスバレーの北へ向かうスコッティズ・キャスル・ロード沿いに黄色いデザート・ゴー
ルドが咲いていた

 スコッティズ・キャスルから来た道を少し引き返すと、右に分かれる道があり、その道を行くとあたりの地面は黒いもので覆われている。火山のクレーターがあるのだ。その火山のクレーターからさらに続くダート・ロードが伸びている。「車高が高い4輪駆動車を勧めます」とのサインがあるそのダート・ロードの先には、干上がった湖の表面を、石が自然に動くことで知られるレーストラックと呼ばれる乾燥平野がある。

 その位置をビジターガイドで確認する。ビジターセンターで、その存在は写真を見て知っていて、是非行ってみたい場所だった。今回の旅は4輪駆動車ではなかったが、ダート・ロードを走ることにためらいはなかった。レーストラックまで片道43km、往復で86kmはこの地では大した距離ではなく思える。

 そのダート・ロードを走り出すと、道のデコボコは思った以上で、ハンドルはガタガタと音を立てて大きく揺れっぱなしだ。大きめの石に乗り上げると、「ガン」と音がして、タイヤがパンクしないかと心配になる。時速は30kmぐらいまでしか出せない。山陰を曲がるカーブでは前がよく見えず、広くない道幅、対向車の危険を感じる。細かい石が車のボディに頻繁に当たり、車に少々の傷が着く事など気にはしていられない。

 レーストラックまで片道43km、この分だと片道1時間半も掛かる計算だ。急いではいないが、見通しのいい直線では時速40kmまで速度を上げて走ると、なぜかデコボコ道からの振動が幾分弱まる。途中、1台の車とすれ違うと、お互いの車は土煙に包まれる。

 ダート・ロードから1つのテントが見える。水もトイレもあるキャンプ場でなく、荒野にテントを張るバックカントリー・キャンプだ。私にとってキャンプ場で寝起きをすることは十分ワイルドな体験だが、それでは物足りない人間もいる。

 いくつかのアップダウンを越えると、開けた土地の向こうに白い乾燥平野が見えてくる。その中に黒い岩の固まりの島が、湖にぽつんと浮かんでいるように見える。神秘的な風景だ。近そうに見えたが、そこからさらに8kmほど走り、干上がった湖、レーストラックに到着する。車のドアを開けると土が舞い上がる。ダート・ロードを走って来た車は、砂と土に覆われて真っ白だった。

 表面は強い雨が降ると多少ぬかることはあるが、1年のほとんどは干上がりひび割れている、長さ4.5km、幅2.5kmのドライレイクの上に出てみる。標高1,130mのせいか、風が少し冷たい。身を隠すことも逃げ隠れもできない非常に平らな地表だ。陽の光が、隅々まで照らし出しているその神秘的な地表の上に立つと、心の底まで照らし出され、全ての思いは太陽に見透かされていると感じる。

 私は1時間あまりこのドライレイクの上を遊歩し、ダート・ロードを再び引き返す。ダート・ロードも終わりに近くなったあたりでパンクして、タイヤを交換している1台の車を追い越した際にゆっくりと走った以外は、土煙を上げながらデコボコしたダート・ロードを爆走し続けた。


シグマSD14 / F5.6 / 1/500秒 / ISO100 / APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM / 50mm
ダート・ロードの道標
シグマSD14 / F8 / 1/500秒 / ISO100 / APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM / 50mm
神秘的なドライレイクが見える
シグマSD14 / F8 / 1/800秒 / ISO100 / APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM / 102mm
北側が南側より僅か4cmほど高いだけで、とても平らだ

シグマDP1 / F11 / 1/400秒 / ISO100
小さな石を見つけるが動いた跡はなかった
シグマDP1 / F11 / 1/80秒 / ISO100
土煙を上げて爆走する

シグマSD14 / F8 / 1/500秒 / ISO100 / APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM / 54mm
3、000年前噴火した火山の周り
シグマSD14 / F13 / 1/125秒 / ISO100 / 10-20mm F4-5.6 EX DC HSM / 20mm
直径1,731m、深さ182mのクレーター

 舗装された道に戻り、3,000年前の噴火で出来たと言われているユベヒベ・クレーターに立ち寄ると、そのクレーターの周りは、恐怖感さえ感じる強い風が吹きつけていた。

 今夜の寝床を決めていなかった私は、朝走ってきた道を戻り、デスバレーを南下した。結局、昨晩泊まったキャンプ場に戻り、同じサイトが空いていたので、テントを昨夜と同じ場所に同じように張る。

 その後、観光スポットであるサブリスキー・ポイントに行く。サンセットを見に多くの人が訪れていた。その夜も穏やかだったが、明け方、テントを少し揺さぶる程度の風が吹いた。翌朝、朝日に輝くデスバレーを目撃するために、再びサブリスキー・ポイントに行く。日の出前から多くの人がカメラを持ち、そこに集まっていた。


シグマSD14 / F11 / 1/100秒 / ISO100 / 18-50mm F2.8 EX DC HSM / 50mm
傾いた太陽がサブリスキー・ポイントを照らす
シグマSD14 / F8 / 1/2000秒 / ISO100 / APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM / 150mm
サブリスキー・ポイントの夕方

シグマSD14 / F16 / 1/125秒 / ISO100 / 18-50mm F2.8 EX DC HSM / 28mm
サブリスキー・ポイントの朝

シグマSD14 / F7.1 / 1/125秒 / ISO100 / 18-50mm F2.8 EX DC HSM / 35mm
デスバレーに朝日が差し込む
シグマSD14 / F8 / 1/400秒 / ISO100 / APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM / 58mm
強い朝日がサブリスキー・ポイントに当たる

 私は、サブリスキー・ポイントで朝を迎えた後、190号線を北に走り、ソルト・クリークと呼ばれる塩水の小川に立ち寄った。デスバレーではじめて見るまともな水面だった。水が存在していることに感動を覚える。その後、乾いた地で活動する気力が薄れていた私は、この地を去ることにした。パナミント・バレー・ロードを南に下り、トロナ、リッジクレストを経由してロサンゼルスに帰宅した。

 帰宅後の数日間、私は全身で疲労を感じていた。ビジターガイドで、デスバレーを「極限の地」と紹介している。雄大なデスバレーは、足を踏み入れるだけでもハードな地である。


シグマDP1 / F11 / 1/160秒 / ISO100
塩水にも数種類の魚が生息している
シグマSD14 / F9 / 1/500秒 / ISO100 / APO 50-150mm F2.8 EX DC HSM / 72mm
塩分が多く草が少ないトロナ


URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dialy_backnumber/



押本 龍一
(おしもとりゅういち)東京品川生まれ。英語習得目的のため2年間の予定で1982年に渡米する。1984年、ニューヨークで広告写真に出会い、予定変更。大手クライアントを持つコマ―シャルスタジオで働き始める。1988年にPhotographerで永住権取得。1991年よりフリー、1995年LAに移動。現在はLAを拠点にショービジネス関係の撮影が主。

2008/05/07 01:02
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