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モノ・レイク(後編)
[2008/07/30]

モノ・レイク(前編)
[2008/07/09]

雪が降った5月のセコイア
[2008/06/25]

5月、霧のキングス・キャニオン
[2008/06/11]

サンタ・クルーズ島へ日帰りの旅
[2008/05/21]

春のデスバレー(後半)
[2008/05/07]

春のデスバレー(前半)
[2008/04/23]

パソ・ロブレスの冬
[2008/04/09]

モハヴェ砂漠の冬(後半)
[2008/03/26]

モハヴェ砂漠の冬(前半)
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砂漠のルート66
[2008/02/27]

サークル・Xランチ、サンタモニカ・マウンテンズ
[2008/02/14]

冬のカーピンテリア
[2008/01/30]

12月のニューヨーク(後半)
[2008/01/16]


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12月のニューヨーク(後半)


F8 / 1/125秒 / ISO50 / 18-50mm F2.8 EX DC Macro / 24mm
ブルックリンブリッジを支えているワイヤーは、クモの巣の糸のように見える

※カメラは特記したもの以外はシグマSD14を使用。レンズはすべてシグマ製です。
※すべてRAWで撮影してからJPEGに現像し、幅1,028ピクセルに縮小しています。
※写真下のデータは絞り/シャッター速度/感度/レンズ/実焦点距離です。


 久しぶりのニューヨーク、宿泊先であるミッド・タウンにある友人のアパートメントのスチーム暖房は、とても強力だった。強さを調節できないスチーム暖房は、窓を少し開けっぱなしで外の冷たい空気を常に部屋に入れていないと、部屋は低温サウナのように乾燥し暑くなる。けたたましい音を鳴らして走る消防車、酒が入っているに違いない男女の大きな笑い声、必要以上にたて続けに鳴らされる車のクラクション、そのいろいろな街の声は、窓の隙間から天井の高い部屋に24時間絶えず流れ込んで来る。しかし、その街の声にも邪魔されることなく毎晩熟睡できたのは、街をよく歩きまわった疲れからと、乾燥した部屋でその味もさらに増したビールのおかげだった。


F3.2 / 1/500秒 / ISO100 / 50-150mm F2.8 EX DC / 150mm
自由の女神像
 今回の約1週間のニューヨーク滞在中、昔よくぶらついた場所を歩いてみた。マンハッタン島の最南端にあるバッテリー・パークのすぐ横に、スタッテン・アイランド行きのフェリー・ターミナルがある。マンハッタンからスタッテン・アイランドまでの8.4kmの間を運行するこのフェリーには、よく乗ったものだった。快晴の空の下、真っ赤な夕焼け、静かな月夜、凍りつきそうな吹雪、この日のように冷たい霧雨まじりの日もあった。

 マンハッタンからスタッテン・アイランドを往復する1時間弱の水の上のショート・トリップは、ニューヨークに来て間もない80年代前半、知りあいも少ない頃はいつもひとりだった。しかし、友人が増えてもひとりでこのフェリーに乗るが好きだった。マンハッタンからしばし離れ、少し遠くからマンハッタンを眺める。そしてアメリカ合衆国100周年を記念してフランスから贈呈され、1886年に完成した自由の女神像の存在を確認する。忙しいマンハッタンの生活からほんの少しだけ逃れ、息をつき自分を少しだけ取り戻し、まためまぐるしく忙しいマンハッタンの生活に戻っていく。そんな思い出があるこのフェリーは、昔と比べると随分ときれいになっていた。


F5.6 / 1/200秒 / ISO50 / 18-50mm F2.8 EX DC Macro / 24mm
フェリーからマンハッタンの最南端を見る
F5 / 1/160秒 / ISO50 / 18-50mm F2.8 EX DC Macro / 29mm
かもめがフェリーを追ってくる

 その後フェリー・ターミナルからウォーター・ストリートを北に少し歩き、世界の金融の中心地に出るころには雨は上ったが、その日は空から陽が射すことはなかった。車のセールスマンで30代のポール、ニューヨーク・タイムスでパートタイム勤務のライター志望で20代前半のロバート、彼らと住んだニューヨーク生活3件目の住居となった薄暗く小さなロフトは、このウォーター・ストリートにあった。夜は人影がなくなり物音がしなくなる。昼と夜、週日と週末の顔を大きく変える奇妙な場所だった。ウォール・ストリートに出るとクリスマスの飾り付けもあり、週末にもかかわらず世界の金融の中心地には多くの観光客の姿を見かけた。


F4 / 1/50秒 / ISO50 / 18-50mm F2.8 EX DC Macro / 18mm
昔住んだロフトの入り口は変わってはいなかったが、1階のバーは無くなっていた
F5.6 / 1/100秒 / ISO50 / 18-50mm F2.8 EX DC Macro / 50mm
ファイナンシャル・ディストリクト
F8 / 1/30秒 / ISO50 / 18-50mm F2.8 EX DC Macro / 40mm
ウォール・ストリートからトリニティー教会(1846年建立)を見る

F5.6 / 1/80秒 / ISO50 / 10-20mm F4-5.6 EX DC / 10mm
フェデラル・ホールから
F4 / 1/50秒 / ISO50 / 18-50mm F2.8 EX DC Macro / 29mm
ニューヨーク証券取引所

 セントラル・パークには数回出かけた。夏には野外コンサートが開かれ、走る人、犬と散歩をする人、ボール遊びをする人、ピクニックに来る人、多くの人がこの公園でそれぞれの行動をする。私もよくこの公園を走って汗を流し、ぶらぶらと公園内を歩いたものだった。秋が終わり、冬になると人出も随分と減る。今回の滞在中、セントラル・パークに足を踏み入れたいずれの日も天候には恵まれなかった。雪が朝から降りだした日は雪景色が見られると期待したが、パークに着く前に雪は冷たい雨に変わり、白い雪がパークをきれいに覆うことはなかった。

 それでも昔よく行ったスポットに傘をさし、とぼとぼと歩いて行ってみた。ブーツは雨で濡れて冷たく重たくなり、手袋も雨がしみて指の動きが鈍くなる。雪になりきれない12月の雨のセントラル・パークは、人がほとんどいなく寂しくて冷たい。それでも何度も私を遊ばせてくれたこの公園に親しみを感じ、冷たい空気を吸いながらしばらく歩き回った。雨の中のひとり散歩は、充実した静かな時間だった。


F5 / 1/80秒 / ISO100 / 50-150mm F2.8 EX DC / 150mm
クリスマスソングを演奏するサックス奏者
F4.5 / 1/80秒 / ISO100 / 50-150mm F2.8 EX DC / 95mm
自転車で引っ張る観光用の2人乗りの車体にサンタの帽子が

F5.6 / 1/25秒 / ISO50 / 50-150mm F2.8 EX DC / 77mm
雪は雨になり、雪はなかなか積もらない

F3.2 / 1/50秒 / ISO100 / 50-150mm F2.8 EX DC / 116mm
滑りやすい公園の階段の雪を取り除く
F2.8 / 1/25秒 / ISO100 / 50-150mm F2.8 EX DC / 102mm
I LOVE NYの傘は、雨の少ないカリフォルニアから持参した。普段ほとんど出番がない傘はニューヨークではフル活動だった

F4 / 1/50秒 / ISO100 / 18-50mm F2.8 EX DC Macro / 18mm
ボウ・ブリッジからマンハッタンのアッパー・ウエストの建物が見える

 マンハッタンとブルックリンを結び、イースト・リバーにかかる長さ1,825mの吊橋ブルックリン・ブリッジも渡ってみた。地下鉄の駅ブルックリン・ブリッジ-シティー・ホールで降りて地上に出る。この日は朝から陽が射していて寒さもさほど感じない穏やかな冬の日。駅からはすぐにブルックリン・ブリッジを渡り始めることができる。この日は平日にもかかわらず、この橋を渡ろうとする多くの観光客がいた。橋の途中まで渡ると太陽は雲に隠れ、陽の光がダイレクトで届かないイースト・リバーの水の上は、一気に真冬となった。橋の半分まで来ても寒さでそのまま引き返す人も多かったが、私はほとんどブルックリンまでたどり着き、四方八方から吹く冬風の中、ブルックリン・ブリッジを渡りマンハッタンに引き返した。


F11 / 1/125秒 / ISO50 / 18-50mm F2.8 EX DC Macro / 18mm
地下鉄から地上に出ると太陽の光に当たるのがうれしい

F6.3 / 1/125秒 / ISO50 / 10-20mm F4-5.6 EX DC / 10mm
ブルックリン・ブリッジからマンハッタンを見る
F5.6 / 1/500秒 / ISO100 / 50-150mm F2.8 EX DC / 125mm
ブルックリン・ブリッジからマンハッタン・ブリッジ越しにエンパイヤ・ステイトビルディングが見える

F5.6 / 1/125秒 / ISO100 / 70mm F2.8 EX DG Macro / 70mm
直径3、4cmぐらいのブルックリン・ブリッジを支えているワイヤー

 歩くのが楽しい街角があるウエスト・ヴィレッジもぶらぶらと歩いてみた。私は最近の大型コーヒーチェーン店のセルフサービスと紙コップにはどうも馴染めない。歩くと床がきしむ音がし、スカートの上からエプロンをかけているウエイトレスが珈琲を運んでくれる店。その店の窓から通り過ぎる人を見ながら大きな珈琲カップの重さを感じ、珈琲を味わって飲むのが好きだった。そんな店がヴィレッジにまだ存在していることに安堵感を伴う嬉しさを感じる。


F5 / 1/100秒 / ISO50 / 18-50mm F2.8 EX DC Macro / 35mm
ウエスト・ヴィレッジの街角
F8 / 1/125秒 / ISO50 / 18-50mm F2.8 EX DC Macro / 50mm
静かなウエスト・ヴィレッジのクリスマス

 この時期多くのクリスマス・ツリーが飾られるニューヨークの街中で、私がとくに好きなスポット2カ所に行った。ひとつはニューヨーク大学の建物に囲まれているワシントン・スクェアー・パークのアーチの前。5番街を下るとこの公園に突き当り、そこにはクリスマス・ツリーが立てられている。このパークから14丁目付近までの5番街は、静かな街並みで、夏の夜に歩くのが好きだった。

 もうひとつはグラマシー・パーク。レキシントン・アベニューを南に下ると21丁目でこのアベニューは終わる。そしてそこに小さいグラマシー・パークがある。パークといっても一般公開されておらず、フェンスで囲まれていて中にはいることはできない。このパークの南側に小さなクリスマス・ツリーが飾られている。パークの周辺は、ちょっと隠れ家的な雰囲気がして好きだったので、回り道になってもこのパークの周りを歩いて帰宅することが多かった。パークの北に隣接するようにグラマシー・パーク・ホテルが建っている。そのホテルのバーでジンを飲むのは、当時の自分としてはちょっと大人になった気分だった。


F10 / 1.6秒 / ISO50 / 18-50mm F2.8 EX DC Macro / 18mm / 三脚使用
ワシントン・スクウェアー。風でクリスマス・ツリーが揺れていた
F10 / 1.6秒 / ISO50 / 18-50mm F2.8 EX DC Macro / 18mm / 三脚使用
グラマシー・パークのクリスマス・ツリー。左後方に見えるのは、クライスラー・ビルディング

F3.2 / 1/60秒 / ISO500 / 24-70mm F2.8 / 45mm / EOS 5Dで撮影
12月の日曜の早朝、グランド・セントラル・ステーション

 約1週間のニューヨーク滞在も終わりを告げる日の朝、夜から降り出した雪は結構本格的になっていた。私は朝6時に23丁目の友人宅を出ると、街は一面雪景色とは言えないまでも、歩道は白い雪でうっすらとカバーされていた。水気の多いベトベトした雪の上を転ばないようにゆっくりと歩き、パーク・アベニューからタクシーを拾う。グランド・セントラル・ステーション前に位置する空港行きのバスの発着地点でタクシーを降り、チケットを買いバスに乗りこんだ。

 私を入れて3人の乗客しか乗せていないバスは無事にケネディー国際空港に着いた。乗客が飛行機の席につくとすぐに「雪のため滑走路は半分閉鎖されました」と機長からアナウンスがあり、ユナイテッド航空ロサンゼルス行きの機体は、滑走路で1時間ほど離陸の順番待ちを余儀なくされた。機内でまだかまだかと離陸を待ち続けていた私の耳元で「ニューヨークはそんなに簡単にはいかない街だってことは知っているよね」と誰か、ささやいた気がした。



URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dialy_backnumber/



押本 龍一
(おしもとりゅういち)東京品川生まれ。英語習得目的のため2年間の予定で1982年に渡米する。1984年、ニューヨークで広告写真に出会い、予定変更。大手クライアントを持つコマ―シャルスタジオで働き始める。1988年にPhotographerで永住権取得。1991年よりフリー、1995年LAに移動。現在はLAを拠点にショービジネス関係の撮影が主。

2008/01/16 15:16
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