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[2008/07/30]

モノ・レイク(前編)
[2008/07/09]

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[2008/06/25]

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[2008/06/11]

サンタ・クルーズ島へ日帰りの旅
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2007年

2006年

2005年

女性ダンサーを撮影


F10 / 1/200秒 / 73mm
ストレッチ中に

※カメラはEOS 5D、レンズはEF 70-200mm F4 Lを使用。すべてRAWで撮影してからJPEGに現像し、幅1,028ピクセルに縮小しています。
※写真下のデータは絞り/シャッター速度/実焦点距離です。感度はすべてISO100です。


 まだ高校生になったばかりで、エネルギーが有り余っている若い女性ダンサーの写真を撮った。私はこの撮影の数カ月前、彼女がステージで踊る姿を観ていた。その時のステージの印象はとても強烈で、長身でしなやかな身体から繰り広げられる彼女の踊りは、大きく鋭く野性味があった。しかしその野性味の中にも気品があり、私は「完成度の高い魅力的なダンサーですね」と、隣で観ていた人に思わず話しかけた記憶がある。


F10 / 1/200秒 / 75 mm
基本的な動きから始めた
F10 / 1/200秒 / 122 mm
これも基本的なポーズ

 数週間前のダンススタジオでの小さな発表会では、ご両親とも話していたし、撮影の数日前には彼女の家で撮影する衣装も母親と確認していたので、撮影する前からお互いによく知っているような気になっていた。

 私と、撮影の手伝いをする20台前半の疲れを知らない若者は、約束の30分前の午後3時に撮影場所であるハリウッドにあるダンススタジオに入り、撮影の準備を始めた。2つのストロボライトをスタンドに乗せ、予想されるスポットに配置する。ライトメーターで露出を計り、バックグラウンドを垂らした。撮ったそばからすぐ写真を見られるように、ノートPCも用意して撮影準備は完了。あとは被写体のダンサーが現れるまでただ待つだけだった私は、広いダンススタジオをブラブラしていた。この撮影前の少しの待ち時間は、何かこの後いいことが起きそうな静かなワクワク感があり、私にとってお気に入りの時間になっている。


F11 / 1/200秒 / 78mm
黒バックに黒のスカーフはうまくいかなかった。いいタイミングで撮るのにはダンサーとの呼吸が合わないとうまくいかない
F11 / 1/200秒 / 104mm
どのタイミングで撮るか、私もダンサーもわかってきたころ

 約束より30分ほど遅れて、ダンサーは母親と現れた。「道路が信じられないぐらい混んでいたわ」と、幸せそうな大きな笑顔で言うので、私は「無事に着いてよかったね」としか言いようがなかった。近年ロサンゼルスは人口増加で車が増えたのか、道路はどこも混雑していて、数年前と比べて随分と移動時間が掛かるように感じられる。そのせいか約束の時間に来ない人が多くなったように思う。だから30分遅れなど遅れではなく、屈託のない彼女の大きな笑顔がそれを証明しているかのようだった。

 父親は明るく優しい黒人男性。母親は物静かだがいつも笑顔を絶やさない背の高い白人女性。両親とも教育者で、母親は非営利団体が経営する特別なカリキュラムを持つ学校のディレクター。撮影後に親しくなり、その学校施設を見学させてもらったが、その学校の発想はとてもユニークかつ創造的で、楽しそうな学校だった。

 ピアニストでもあり芸術的な母親と、明るく優しい父親に見守られ育った、白人と黒人の血が混じる若い女性ダンサーの写真撮影は、もう何回か会って冗談を飛ばし合っているので、何の緊張も問題もなく楽しく穏やかな雰囲気の中、始まった。最初は黒のトップと白いタイツ姿の典型的なダンス衣装で、基本的なポーズをいくつか撮った。

 飛んだり跳ねたり「これはどう? あれはどう?」といろいろなポーズ提案し合い、衣装も数回変えて沢山の写真を撮る。若さが有り余る彼女のジャンプ力は非常に高く、その跳びはダンサーと言うよりもはや体操選手と言う方がふさわしいぐらいで、その力を抑えないとダンス写真ではなくなってしまった。


F10 / 1/200秒 / 126 mm
衣装を変えると気持も変わる
F13 / 1/200秒 / 78mm
これでも跳びすぎないように気を付けている

 ライティングとアングルによっては、高校生になったばかりとは思えない大人の女性のように写った彼女だが、撮影が終わりドレッシングルームから聞こえてきた彼女の大きな話し声は「お母さん、私おなか空きすぎて死にそう!」という高校生らしいものだった。私とアシスタントの若者も彼女に負けないぐらい腹ペコで、機材を車に積み込むと、日曜日の10時近くにダンススタジオの近所に唯一開いていたハンバーガー店に飛び込んだ。この日はかなり汗をかいた1日だったので、ビールがこの店になかったことは、順調だったこの日一番の大アクシデントだった。


F9 / 1/200秒 / 122mm
ライトひとつ
F10 / 1/200秒 / 113mm
ライトは左右から


URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dialy_backnumber/



押本 龍一
(おしもとりゅういち)東京品川生まれ。英語習得目的のため2年間の予定で1982年に渡米する。1984年、ニューヨークで広告写真に出会い、予定変更。大手クライアントを持つコマ―シャルスタジオで働き始める。1988年にPhotographerで永住権取得。1991年よりフリー、1995年LAに移動。現在はLAを拠点にショービジネス関係の撮影が主。日本からの仕事も開拓中。

2007/10/10 00:07
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