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カナディアン・ロッキー(後半)


EOS 5D / APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM(300mm) / F3.5 / 1/200秒 / ISO100 / オート
ホテルへの帰り道で出会ったエルク。ある距離まで近づくと、威嚇するようにこちらを見る

カナダに持ち込んだバックパック型のカメラバック
※カメラはシグマSD14とキヤノンEOS 5Dを使用。すべてRAWで撮影後、JPEGに現像しています。
※写真下のデータはカメラ/レンズ(実焦点距離)/絞り/シャッター速度/感度/ホワイトバランスです。レンズはすべてシグマ製です。
※写真をクリックすると、等倍の画像を別ウィンドウで開きます。


 カナディアン・ロッキー最大の観光地であるバンフの町は、4月下旬の週に高校合唱隊のお祭りがあり、我々のホテルにも20人ぐらいの元気な高校生のグループが泊まっていた。女子が8割を占めるその高校生たちとは、毎晩ホテルの野外温水プールで顔を合わせ、毎朝レストランでも一緒だった。シーズンオフの静かなホテルに時々聞こえる、まだあどけなさがのこる高校生の笑い声だけが、このホテルで唯一の、そして気にならない適度な人の気配を感じさせる音だった。

 私と友人は、バンフでの3日目の朝も早く起床し、ホテルのレストランでコーヒーとトーストだけの軽い朝食をとった。軽食の私たちは、レストランにとっては決していい客ではなかったが、そんなことは全く気にしないウェイトレスの商売っ気のない純な笑顔は、寝不足気味の私たちを朝からすがすがしい気分にしてくれた。

 この日の朝、私たちはまず、動物と出会う機会が多いと言われるボウ・バレー・パークウェイを走ることにした。昨日の夕方、この道でエルクと出会ったので、朝から出かければもっと動物に出会えると単純な期待をした。そしてその単純な期待は裏切られなかった。


写真1
EOS 5D / APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM(300mm) / F4 / 1/400秒 / ISO200 / オート
ゆっくり川を渡っていたので、なんとか撮れた。野生の動物を撮るには、カメラは常にそばに置いていたい

 昨日の夕方、ボウ川を見下ろせるいい場所を見つけたので、まずそこに立ち寄った。車を止め、駐車場から10mぐらい歩くと川が見下ろせる。そこから何気なくボウ川を見渡すと、川をゆっくりと渡るエルクの群れを遠くに発見した(写真1)。私は友人に「エルクが川を渡っている、いい光景だよ」と知らせながら車に戻り、急いでカメラに120-300mmの望遠ズームを付けて、川を見下ろせる位置まで戻り、写真を撮りだした。

 エルクはまるでスローモーションの映像のようにほとんど止まりそうなぐらい、ゆったりと川の浅瀬を歩いている。そしてそのうちの1頭のエルクが我々に気がつき、まったく動かずこちらを見ている。数枚の写真を撮ってから、もっとエルクをアップで撮りたくて2倍のテレコンバーターを取りに車へ戻り、また写真を撮ろうとした。が、エルクは川を渡り切ってしまった。


写真2
EOS 5D / APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM+2xテレコン(600mm) / F5.6 / 1/500秒 / ISO400 / オート
2倍のテレコンバーターで600mmにしたレンズを手持ちで撮るのは、めったにない経験だった
 しかし川の中州にいて最後に川を渡り切った雄のエルクが、しばらく我々の方を見ていた(写真2)。「こっちには来るなよ」と言われているようだった。枝角は雄エルクにしかないから雄とわかり、後の5頭のエルクは枝角がないから牝である。後日、雄のエルクは数頭の雌と行動することが多いと書いてある記事を読んだが、もしそうならこのシーンはその通りである。

 エルクはもともとこの地域には生息はしていなく、1917年にイエローストーン国立公園から57頭が連れて来られたそうだ。時々見かけた警告には「エルクから最低バス3台分、約30mは離れなさい」と書いてあり、あるガイドブックには50mとあった。熊に襲われるよりエルクに襲われて怪我をする人が多いそうだ。なお熊は「最低バス10台分、100mは離れなさい」と警告されている。

 その後友人は、今日もスキーをしたいと言うので、レイク・ルイーズスキー場に彼を降ろし、私は再びボウ・バレー・パークウェイを中心にドライブした。いいスポットを見つけると、車を止めて景色を撮り、動物が出るのを待った。結局大きな動物は見なかったが、鳥はよく見かけた(写真3、4)。


写真3
EOS 5D / APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM(300mm) / F5.6 / 1/400秒 / ISO100 / オート
ボウ川の水は澄んでいて、川底が見える
写真4
EOS 5D / APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM(176mm) / F3.5 / 1/200秒 / ISO200 / オート
グースが川から飛び立ち、ボウ川を見下ろす場所にいた私と、ちょうど同じぐらいの高さを飛んでくれたので、鳥を追うようにして撮った

写真5
EOS 5D / APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM(197mm) / F5.6 / 1/400秒 / ISO100 / オート
水溜りにピントを合わせて、スノーボーダーを撮る
 午後4時にまでに彼を迎えに行くことになっていたので、それより少し早めにスキー場に行くと、昨日行ったスキー場より標高が低いこのスキー場の下のほうは、雪が少し溶け始めていた。溶け出した雪でできた水溜に、スノーボーダー達が突っ込んでいたのがとても楽しそうに見えた(写真5)。

 スキーを終えた友人と私は、またボウ・バレー・パークウェイを通って、ゆっくりとバンフのホテルに戻ることにした。しばらく走ると友人が「道の向こうに何か見える、あれ、熊じゃないか?」と言う。そばまで近寄ってみると、車を止めてなにやら森の中を見ながらコンパクトカメラで写真を撮っているカナダ人らしき中年男性だった。彼は黒いジャケットを着ていたのでブラック・ベアーに見えたのだが、「何を撮っているのですか」と尋ねると「ブラック・ベアーだよ」と言う。そして彼はその場をすぐ立ち去った。

 道に沿うようにして森の中をカナダ太平洋鉄道が走っているが、道から100mぐらい入ったところのその線路上に、黒い丸い何かが動いているのが見えた。友人に運転を任せていた私は、望遠ズーム付のカメラを手に持ちながら助手席に座っていたので、すぐ車から降りて道から森の中に入った。しかし、木の枝で熊がよく見えない。もっと近く寄らないと熊を撮れない。ただあまり近寄ると、線路の周りには木がなく熊に気が付かれてしまう。友人は「気を付けろよ」と、熊に聞こえないように私に訴えている。後で気が付いたが、友人は、色々な事態を想定して、すぐに逃げられるように車のエンジンをかけたまま、森に入っていた。


写真6
EOS 5D / APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM(300mm) / F4 / 1/400秒 / ISO500 / オート
熊からどのくらいの距離であろうか、300mmでここまで近寄るのが限界だった。怖さ半分、熊の行動を邪魔したくない気持ち半分だった

 少しずつ熊に近寄ると、私はとうとう熊に気が付かれてしまった。しかし、万が一熊が突進して来ても、逃げられると思うぎりぎりの距離まで接近して写真を撮った(写真6)。友人も10mぐらい離れた私の左手にいて、コンパクトデジカメで撮影している。そのビクビクした姿が滑稽で、いつもの私ならそんなアソビ写真を撮るのだが、そんな余裕は到底なかった。どうしてももっと寄りたく、レンズの焦点距離を2倍にするコンバーターを取り付けようとした時、熊はときどき私たちとの距離を確認しながら、森の中へ消えてしまった。

 先ほど写真を撮っていたあの男性のカメラではとても撮れる距離ではないが、やはり熊は危険なのだろう、彼も相当警戒していたのだ。後日、ロサンゼルスタイムスの日曜版の特集で、モンタナで熊に襲われた家族の記事を読んだ。熊だけでなく野生の動物は危険だから、動物を見ても車から降りて近寄ってはいけないと、どのガイドブックも警告している。しかし、なぜ熊が線路上にいたのだろう。今の時季は食べるものが少なく、冬眠から覚めた熊は、電車から捨てられた人間の食べ物を探しているのだと、後日カルガリーのホテルで知り合った日本人のガイドさんが、教えてくれた。

 翌朝は小雨が降っていたが、スキーで疲れている友人を残し、まだ薄暗いうちに私はひとりでボウ・バレー・パークウェイの入り口まで入ってみたが、家族らしい鹿の群れ以外(写真7)、動物は見なかった。しかし、雨のバンフには何とも言えない幻想的な風景が広がっていた。(写真8)


写真7
EOS 5D / APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM(221mm) / F3.5 / 1/160秒 / ISO200 / オート
ミュールディア。野生動物の身の軽さには驚く。私に気が付くと、さっとジャンプして森の中へ入って行った
写真8
EOS 5D / APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM(120mm) / F9 / 1/60秒 / ISO100 / オート
この幻想的な風景は、刻々と変わる壮大なステージのようで、何か大きな力を感じる

 ホテルに帰り軽い朝食をとった後、今日も友人をスキー場に降ろし、私はボウ・バレー・パークウェイを再びドライブした。それまでほとんど見なかったが、この日は土曜日でサイクリングを楽しむ人を多く見かけた(写真9)。

 この日私は、人気スポットであるジョンストン・キャニオンを歩いた。多くのハイカーが来ていて、熊の心配をせずに滝まで約5kmのハイキングを楽しんだが、実は昨日までここの駐車場に車はほとんど見かけず、熊注意の警告があるこのジョンストン・キャニオンに一人で来る気がしなかったのだ(写真10、11、12)。週末と平日の人の出が全く違うのだ。


写真9
SD14 / 18-50mm F2.8 EX DC MACRO(18mm) / F8 / 1/125秒 / ISO100 / オート / 内蔵ストロボ使用
まだ寒い朝、隣町のケンモアーからサイクリングに来ていた女性3人組に声をかけたら、止まってくれた。後日カルガリーへの帰り道、彼女らが住むケンモアーの町に寄り、コーヒーを飲んだ。地元の人と話すとその土地に親密感が沸く

写真10
SD14 / 18-50mm F2.8 EX DC MACRO(26mm) / F22 / 1/13秒 / ISO100 / オート / 三脚使用
この滝まで片道2.6km。まだ雪が残っていて歩きにくかった
写真11
SD14 / 18-50mm F2.8 EX DC MACRO(43mm) / F22 / 1/25秒 / ISO100 / オート / 三脚使用
渓谷に陽が差すと、川の色が変わった

写真12
EOS 5D / APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM(300mm) / F32 / ISO100 / オート / 三脚使用
水の流れ落ちるのを見ていると、心が落ち着く

 夕方、友人をスキー場でピックアップした後、人口湖であるレイク・ミネワンカに行った(写真13)。そこでは、ビッグ・ホーン・シープとの出会いが待っていた(写真14、15)。

 そしてホテルへの帰り道、3頭のエルクを木のないオープン・スペースに見た(冒頭の写真)。少しずつ接近したが、野性動物との間に何も障害物がなく逃げ隠れできない原っぱでは、動物園にいる動物とは全然違う、刺すような鋭い視線を感じた。この感覚は経験したことのないものだった。「この感覚は、はまったら辞められないかも」と友人に言うと、「もう、はまっているよ」と返ってきた。


写真13
SD14 / 18-50mm F2.8 EX DC MACRO(18mm) / F16 / 1/125秒 / ISO100 / 晴れ
レイク・ミネワンカ。滞在中最高の快晴になった

写真14
EOS 5D / APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM(197 mm) / F5.6 / 1/320秒 / ISO200 / オート
ビッグ・ホーン・シープは、本当に優しい目をしている
写真15
EOS 5D / APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM(300mm) / F5.6 / 1/160 秒 / ISO160 / オート
崖がバックだと見えにくい、保護色なのだろうか

 バンフ最後の日の朝は、雪だった(写真17~20)。私たちは、午前中バンフ国立公園をドライブし、明日の朝早い飛行機でカナダを出るので、午後からカルガリー空港近くのホテルに向かった。そのホテルでジャクージに浸かっていると、日本人のカップルが入ってきた。男性の方はもう20年もバンフに住んでいて、旅行ガイドをしているという。この旅最後にカナディアン・ロッキーのプロに出会うのはどんな意味があるのだろうか。また来いというサインなのかなと素直に思った。

 その彼が、50代のご夫婦が早期退職してバンフに移住した話をしてくれた。写真好きの旦那さんは、はじめの1年間はうろうろ歩き回りロケハンばかりでなかなか気に入った写真が撮れず、2年目から少しずつ納得できる写真が撮れるようになったそうだ。


写真16
シグマSD14 / 18-50mm F2.8 EX DC MACRO(18mm) / F5.6 / 1/100秒 / ISO100 / オート
雪になると雄大な山々も見ることができない。ボウ川とカナダ太平洋鉄道
写真17
EOS 5D / APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM(300mm) / F5.6 / 1/125秒 / ISO100 / オート
ブラック・ベアーが爪を研ぐというアスペン・ツリーと雪景色

写真18
SD14 / 18-50mm F2.8 EX DC MACRO(50mm) / F5.6 / 1/100秒 / ISO100 / オート
雪のジョンストン・キャニオンは違った景色を見せてくれた

 カナディアン・ロッキーは、1度体験すると、また来たくなる魅力がある。バンフのホテルでも今年で4年連続、今の季節に日本からスキーをしに来ている60代の男性2人組と会った。「スキー以外でも、沢山のハイキングコースも楽しめるからここは最高ですね」と、楽しそうに話されていたが、ここは人を元気にする何かの力があるのかもしれない。

 私は睡眠をあまり取らず、早朝から行動していたので身体は疲れていたが、帰宅後、目に見えない何かのドアが開いて精神が元気になっていた自分を感じた。レイク・ルイーズの氷が溶けて湖の水面のコバルト色が美しく、エルクの枝角も大きく成長している夏のカナディアン・ロッキーは、またすばらしい光景が展開しているに違いない。


写真19
EOS 5D / APO 120-300mm F2.8 EX DG HSM(247mm) / F8 / 1/500秒 / ISO125 / オート
標高2,949mのランドル山


URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dialy_backnumber/



押本 龍一
(おしもとりゅういち)東京品川生まれ。英語習得目的のため2年間の予定で1982年に渡米する。1984年、ニューヨークで広告写真に出会い、予定変更。大手クライアントを持つコマ―シャルスタジオで働き始める。1988年にPhotographerで永住権取得。1991年よりフリー、1995年LAに移動。現在はLAを拠点にショービジネス関係の撮影が主。日本からの仕事も開拓中。

2007/06/13 10:20
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