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美しいカリフォルニア・コースト「Big Sur」を行く


写真1
F11 / 1/125秒 / シグマ 18-50mm F2.8 Macro(18mm) / ISO100 / 晴天

※カメラはシグマSD14を使用。すべてRAWで撮影後、JPEGに現像しています。
※写真下のデータは絞り/シャッター速度/レンズ(実焦点距離)/感度/ホワイトバランスです。
※写真をクリックすると、等倍の画像を別ウィンドウで開きます。


今回使用した18-50mm F2.8 Macroを付けたシグマSD14のボディと、50-150mm F2.8、10-20mm F4-5.6。この3本のズームレンズで、35mm概算で17~255mmをカバーする。F2.8でもフルサイズ用のレンズと比べると軽量でコンパクトだから、小さなカメラバックに収まるのが嬉しい。旅にはカメラも含めて荷物はなるべく軽めがいい
 サンフランシスコの南からロサンゼルスの北の間、カリフォルニア・セントラルコーストは、美しい海岸線の風景が広がっている。その海岸線を走る道、通称PCH(パシフィック・コースト・ハイウェイ、カリフォルニア・ステートルート1、ハイウェイ1とも呼ぶ)は、旅行雑誌などでもよく特集され、TV CMでもよく見かける、ほかに類を見ない変化に富んだ美しいドライブコースである。

 4月の上旬、サンフランシスコに滞在していた私は、西はパシフィック・オーシャンが広がり、東はサンタルシア・マウンテンが迫るPCHを南下して、ロサンゼルスに帰宅した。サンフランシスコから101フリーウェイを南に下り、ハイテク企業で有名なシリコンバレーの都市サンノゼ付近で17号線に乗り換え南に下ると、サンタ・クルーズでPCHに出会う。そこからはPCHの旅である。右手にモントレー湾を見ながら走ると、辺り一面に広がるアーティチョーク畑が見えてきた(写真1)。

 この辺り、キャストロビルはアーティチョーク(チョウセンアザミ)の生産地として有名で、5月19日、20日にアーティチョーク祭りが開催されるという看板を見かけた。アーティチョークはコレステロールを下げる働きがあり、アメリカのスーパーマーケットではよく見かける野菜だ。冬は霜が降りず、夏場は比較的涼しく霧が出やすい気候が理想で、乾燥して暑い気候は嫌い、十分な太陽光は必要だと、アーティチョーク祭のサイトに説明があったが、なるほどこの辺の海岸気候にぴったり当てはまる。アーティチョークの栽培に適した気候は、人も住みやすい気候と言えると思う。

 サンフランシスコの街を出てから2時間弱、約120マイル(192km)を走ると、私はモントレー、カーメル付近を走っていた。この辺りは、昔から多くのアーティストや富豪に愛されてきた超高級住宅地である。「17マイルドライブ」と呼ばれる有料の道を走り、有名なペブルビーチ・ゴルフコースを見て、お洒落なカーメルに寄り、街を散歩して、そこでランチをするのもいい。

 カーメルは、映画俳優で監督のクリント・イーストウッドが市長を務めたことでも知られ、華やかな世界の人々にも人気の街である。この辺りに来るのが初めてなら、是非立ち寄って欲しいかわいい街だ。しかし、なるべく人がいない場所に早く行きたかった私は、今回はここには寄らず、車を南へ走らせた。

 1932年に完成したビキシービー・ブリッジまで来ると(写真2)、いよいよカリフォルニア・セントラルコーストのドライブの醍醐味が始まる。この辺りは、Big Sur(ビッグ・サー)と呼ばれる地域である。


写真2
F11 / 1/125s / シグマ 10-20mm F4-5.6(10mm) / ISO100 / 晴天
ビキシービー・キャニオンにかかるこの橋を構築するにあたっては、海岸からもう少し離れた内陸に橋をつくる案とトンネルをつくる案があった

写真3
F7.1 / 1/125s / シグマ 18-50mm F2.8(18mm) / ISO100 / 晴天
アンドリュー・モレラ・ステート・パークを流れるビッグ・サー・リバーの下流。以前訪れた時には簡単な丸太の橋があったと記憶しているが、この時は何もなく、靴を脱いで川を渡らなければ、ビーチまで行けなかった
 私はアメリカに来てビッグ・サーという言葉を初めて聞いた時、「ビッグ・サーフ」だと思った。大きな波が来るサーファーに人気がある地域だとしばらく思っていたのだ。Big Surは、スペイン語で「El pais grande del sur Grande」(The big country to the south)と呼ばれていたのに由来すると言われている。

 一般的には、カーメルの南のカーメル・リバーからサンシメオンの北のサンカポッフォロ・クリークまでの、約90マイル(145km)の海岸線と、その東の一部の山岳地帯を含めてビッグ・サーと呼ぶそうだが、ビッグ・サー・リバーの下流付近(写真3)をビッグ・サーと考えている人もいるようだ。しかし正式にここからここまでビッグ・サーという境界線はなく、数多く出版されている写真集やガイドブックなどから、私もこのエリアをビッグ・サーと呼んでいいと思う。

 ビッグ・サーには数箇所のステートパークがある。切り削がれたような岸壁と、岩と、静かな砂浜だけでなく、豊かな森もビッグ・サーの魅力である。春は、多くの草花がビッグ・サーを彩る。特に海岸に咲くカリフォルニア・ポピーの花は、春のビッグ・サーの象徴的な光景で、車を止めて写真を撮る人も多い(写真4、5、6、7、8、9)。

 夏は、ビッグ・サー・リバーで川下りをして遊んだり、パシフィック・オーシャンからの涼しい風を感じながらのハイキングも楽しい。秋から冬は訪問する人が減り、特に2月は静かで、ビッグ・サーの自然を独り占めできる。2月から3月にかけては、海岸から肉眼でクジラをよく見かける。宿泊施設は各種あるが、夏は観光客が多いから予約が必要だ。

 ビッグ・サーには、北から、または南から、いずれにしても18年の歳月をかけて1937年に完成したPCHを走らないと、来ることができない。風光明媚な海岸と山の景色、1年中比較的安定して穏やかな気候、それに加えてこの限られたアクセスが、ここを特別な地域にしている。「こんな小さな地域が、世界中の多くの旅行者に誇りを持てることは、珍しいことだ」と、この地を愛し長く住んだことで有名な作家のヘンリー・ミラーが書き残している。この小さな地域「Big Sur」に来ると、自分の中にある繊細なプライバシーを再確認できる気がしているのは、私だけではないと思う。


写真4
F11 / 1/125秒 / シグマ 18-50mm F2.8 Macro(28mm) / ISO100 / 晴天
ルーピンズの花。眺めのいいスポットには駐車できる場所がいくつもある
写真5
F11 / 1/125秒 / シグマ 10-20mm F4-5.6(10mm) / ISO100 / 晴天
マックウェーイ・フォールズの南になるこのスポットには、数箇所のキャンプサイトがある。ここでテントを張れば、この景色を独り占めできる。海に突き出した岸壁にある林の中でキャンプをする

写真6
F16 / 1/125秒 / シグマ 18-50mm F2.8 Macro(33mm) / ISO100 / 晴天
マックウェーイ・フォールズと呼ばれる滝。かつては水が海に流れ落ちていたが、PCHを修復中に崖が崩れ落ちてしまい砂浜が広くなり、今は流れ落ちる水が浜辺に落ちている

写真7
F5.6 / 1/500秒 / シグマ 50-150mm F2.8(116mm) / ISO100 / 晴天
写真6と同じスポットから。夜は岸壁に押し寄せる波の音で眠れるのだろうか
写真8
F16 / 1/125秒 / シグマ 18-50mm F2.8 Macro(35mm) / ISO100 / 晴天
太陽が眩しいパシフィック・オーシャンと菜の花

写真9
F11 / 1/125秒 / シグマ 18-50mm F2.8 Macro(20mm) / ISO100 / 晴天
カリフォルニアポピーの花。春のビッグ・サーを代表する花

 岸壁から飛び出しそうになるいくつもの急カーブを超え(写真10)、PCHを南下し、サンシメオンまで来ると、岸壁は姿を消し、海岸線は急に穏やかになる。PCHも急カーブがなくなり、ここでビッグ・サーの旅は終わりを告げる。この付近の海岸ではゾウアザラシを見ることができる(写真11)。


写真10
F8 / 1/250秒 / シグマ 18-50mm F2.8 Macro(18mm) / ISO100 / 晴天
急カーブが多いから、運転には気を付けたい。雨の多い冬は、土砂崩れも起こるので、道路のコンデションは前もってチェックをしたい
写真11
F10 / 1/125秒 / シグマ 18-50mm F2.8 Macro(26mm) / ISO100 / 晴天
サンシメオンでは、ゾウアザラシが見られる

 サンシメオンはサンフランシスコとロサンゼルスのちょうど中間に位置し、PCH沿いにはホテルやモーテルが立ち並んでいる。私は、北から来て1番先に見えたモーテルのフロントに行った。シーズンオフで泊り客は少ないせいか、アジア系の中年女性が大きな笑顔で私を出迎えてくれた。宿泊代もリーズナブルで、レストランも隣接していて便利である。私は即決でこのモーテルに泊まることにした。

 2階の部屋に荷物を運び、周りを少し散歩した後、レストランに入った。客は私を入れて3組だけだった。このモーテルでの夜は物音ひとつせず、静かすぎるぐらいだった(写真12、13、14)。朝起きると気持ちのいい快晴で(写真15、16、17、18)ロサンゼルスまで230マイル(370km)の4時間のドライブは快適だった。


写真12
F4 / 1/500秒 / シグマ 50-150mm F2.8(150mm) / ISO100 / 晴天
サンセットを見つめる老夫婦と犬。プライバシーがある平和な日没

写真13
F11 / 2秒 / シグマ 18-50mm F2.8 Macro(31mm) / ISO100 / 晴天 / 三脚使用
夜のPCH
写真14
F5.6 / 2秒 / シグマ 18-50mm F2.8 Macro(21mm) / ISO200 / オート / 三脚使用
宿泊したモーテル

写真15
F5.6 / 1/500秒 / シグマ 50-150mm F2.8(150mm) / ISO100 / 晴天
早朝のサンシメオン

写真16
F4 / 1/500秒 / シグマ 50-150mm F2.8(95mm) / ISO100 / 晴天
モーテルの隣にあった素朴なデリの看板に、朝日が当たる
写真17
F5.6 / 1/1,000秒 / シグマ 50-150mm F2.8(116mm) / ISO100 / 晴天
モーテルの朝、季節外れのプール

写真18
F5.6 / 1/500秒 / シグマ 50-150mm F2.8(102mm) / ISO100 / 晴天
サンンシメオンまで来ると、山はなだらかな丘になる

【お詫びと訂正】記事初出時、作家ヘンリー・ミラーの名前を誤って表記しておりました。お詫びして訂正させていただきます。



URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dialy_backnumber/



押本 龍一
(おしもとりゅういち)東京品川生まれ。英語習得目的のため2年間の予定で1982年に渡米する。1984年、ニューヨークで広告写真に出会い、予定変更。大手クライアントを持つコマ―シャルスタジオで働き始める。1988年にPhotographerで永住権取得。1991年よりフリー、1995年LAに移動。現在はLAを拠点にショービジネス関係の撮影が主。日本からの仕事も開拓中。 http://oshimoto.net

2007/05/16 01:47
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