写真展開催への道 ~人生初の個展を経験

Reported by 種清豊

 日頃から、街のあちこちで開催されている写真展。デジタルカメラの普及とともにWebやスマートフォンなどで写真を見る機会が増加し、写真の発表形態が多様化する中にあっても、コストをかけて会場とプリントを用意する昔ながらの展示方法は絶えることがない。

 写真展の魅力のひとつは、実際にギャラリーへ赴くことで、作者のプリントを直接鑑賞することができる点だ。Webや印刷物では表現しえない高い質感を持った“作品”を見ることができる。また、作者が在廊していれば、作品についてより詳しく話を聞くことができることもある。

 作者としても、作品が多くの人の目に触れることで、表現の場としてだけでなく、新たな仕事の依頼に繋がる可能性があるなど、様々なメリットがある。

 筆者は2011年5月、キヤノンギャラリーで人生初の個展を経験した。ここでは個展を行なうにあたり、開催までに超えなければならないハードルや準備内容を中心に、写真展の開催にいたるひとつの道程を紹介したい。(編集部)


写真展開催の動機

 そもそも、なぜ写真展を開催しようと思ったのか。

 それにはいくつかの動機がある。ひとつは、親しくさせていただいている写真家の先輩や仲間が立て続けに写真展を開催、成功しているのを近くで見ていて触発され、そして先輩や彼らに発破をかけていただいたこと。そして、どうでもいいことかもしれないが、30歳までに1度個展を開いてみたかったことが大きなきっかけである。

 ともあれ、写真家の事務所を出てフリーカメラマンとなり2年目の2009年夏ごろ、今後カメラマンとして持続して撮影できる被写体を考えていくにあたって、写真展開催を目標に撮影を開始することで、何か見つかればと考えたのも動機のひとつだったのかもしれない。

 当面の問題は、一体写真展で何を見せるのかということについて全く考えていなかったことだった。とりあえず場所を決めて、テーマはばらばらであれ写真をいくつか展示すれば、写真展はできる。ただ仕事で写真を撮影している以上、なにかしらテーマを持たせた被写体で見せたいと思うのは当然であり、かねてから興味のあった東ベルリンに絞って撮影してみようと考えた。

(c)種清豊

 15歳の頃から勉強していたドイツ語ではあるが、はっきり言ってドイツ語が話せるわけでもなく、向こうに伝手があるでもない。ただそれまで一度もドイツへ行った事がなかったので、そう考えると今回の写真展のためにドイツに行く動機としてもちょうどよかった。などと初めは簡単に考えていたのだが……。

開催場所について

 どこかに依頼されたり、賞などに受かることでできる写真展を除いて、自分で写真展を開催するには大きく分けて2つの方法がある。週単位などで料金を払いギャラリーを借りて行う方法と、メーカー系といわれる写真展会場の公募に出して行なう方法などである。

 どちらの方法をとってもいいのだが、自分の場合、会場の立地や、大阪などメーカーの支店がある場所にも巡回できるという点から、キヤノンギャラリーでの開催を目標にした。後述するが、キヤノンギャラリーの場合審査があるので、まずそれに受からなければならない。ともかく、審査に出す写真が無い以上、写真展が開催できるか未知数の状態ではあるが、作品を撮影しにドイツへ向かうことになった。

(c)種清豊

審査に提出、選考結果は……

 写真展をやろうと決めてから、初めてベルリンを訪れたのが2009年の12月。とてもではないが一度取材に訪れただけでは、まだまだ、何が撮影したいのかという目的もあいまいだった。作品数も少ないので、2010年2月の審査は見送り、2010年8月の締め切りを目標とした。その後2010年の3月、7月と取材に行き、8月末、30点の写真をまとめて審査に提出した。

 審査に応募すると決めたキヤノンギャラリーは、毎年2月末、8月末の2回の締め切りによる応募期間があり、規定など随時キヤノンギャラリーのWebサイトで公開されている。プロ、アマ問わず応募ができ、30点以上の作品を提出しての審査となる。

 どのような審査で、また1度の締め切りに何点ぐらいの作品が集まるのかなどについて、審査される側は全くわからないので、ただ審査結果を待つだけである。その間、再びベルリンへ取材に赴いていたので、結果が判明するのは帰国後である。

(c)種清豊

 と、ここまで簡単に流れを書いてきたが、ドイツから戻ってくるたびに撮影してきた写真を自分で見返すことになる。時には知り合いの写真家やカメラマンに見ていただき、厳しい意見や、今後の道筋など、貴重な意見を伺ったりもした。そういう経緯があっての作品提出だったが、是非とも審査に受かりたいのが本音である。提出期限ギリギリの8月31日の午後まで家で提出用作品のセレクトに悩んでいた。

 そして2010年10月初め、ベルリンの取材から戻ったころ審査結果の封筒が届いた。

「まあ、初めての応募だし落ちてもしかたないかな……」

 本当は受かっていてほしいはずだが、不安のほうが圧倒的に大きかった。そんな状態で封筒を開け、選考結果の書類を見た記憶がある。

 無事開催できることとなり、2011年の5月19日より銀座のキヤノンギャラリーで、続いて福岡、大阪での開催と決まった。

(c)種清豊

当日までの準備

 結果が判明し、ここで1つ大きな山は越えることができた。ただ、安堵のため息をつけたのもほんの束の間。開催まで約7カ月、準備期間ともいえる時間に入った。

 実際に準備で忙しくなるのは早くて2カ月前~3カ月前からだ。その時点で写真展用のDM画像を決めたり、写真展のタイトルを決定することになる。当然タイトルとDMの画像は一度決めてしまってから変更することが基本的にできない。DMが完成すると今度は、今までお世話になった方や関係者、自分が教えている写真教室の生徒さんなどへの案内を発送する事務作業も進行する。

大体どの写真展会場にも置いてある芳名帳。アドレス帳や、感想記入欄があるオリジナルの用紙を使っている場合もある。氏名と連絡先を記入すると、新作展示の案内などが届くことがある左がDMの束。DMは会場にも置いていることが多いので、1枚持ち帰って、家族や友人などに紹介するといった用途に使える

 それとひとつ重要なことだが、開催が決定した上で、現実問題としてまとまった費用も掛かってくる。取材費を除いたとしても、プリントや額装をするのに数万円ではなかなか厳しい。

 ともあれ一番大事なのは、撮影してきた写真をどうまとめるか。

 どんな写真展もそうだと思うが、展示する30点から40点の作品を何にするかということに迷うし、それ以上にギャラリーにどういった具合に並べるかということには最後の最後まで本当に悩まされた。撮影と並んで、こればかりは自分でやるほかない。

 また同時に考えなければいけないのがプリントや展示形態について。展示する写真の大きさや点数が決まらないとラボに発注ができないわけだが、筆者の場合は、すでに写真展を行なったことのある先輩方にユニバーサルカラーという専門のラボを紹介していただき、その場をお借りしていろいろと写真展について打ち合わせを行うことができた。2~3週間前にプリントをお願いし、その間に2回ほどラボにおいてプリントチェックを行なった。

 そこまで完了すればあとは開催前日に行なう飾り付け作業、そして初日を迎えることになる。

1度目のプリントチェック。テストプリントを前に、ラボの担当者と綿密な打ち合わせを行なう2度目のプリントチェック。展示サイズに引き延ばされた作品をチェックしている
開催前、会場への搬入の様子。厳密に角度を計測し、釘を打ち込んで、作者が意図した通りの展示を構築していく紙を壁面に見立てて、サムネイルを配置した展示イメージ
展示間隔と水平のチェック
照明を調整しているところギャラリーのショーウインドウに飾る作品を展示しているところ

開催、そして今後へ

 2011年5月19日より約1週間、銀座のキヤノンサロンで無事に人生初の写真展を迎え、終えることができた。まず自分の撮影した写真を多くの方に見てもらえるいい機会であるし、また自分がどういった写真を撮影しているのかという、ある意味宣伝にもなるので、労力はいるが写真展を実行したこと自体は大変よかった。そして何よりも、訪れていただいた方に直接写真に対する意見を伺えたことはとても貴重であり、今後の活動にとって大きな力になった。

展示完了後の会場の様子会期中は、作者が作品を解説するギャラリートークも実施する。それ以外の機会でも、作者が在廊しているときは、解説を直接聞ける場合がある

 もちろん自己満足という観点で写真展を捉えることもできるだろう。ただ今まで自分が一番客観的に自身の写真をみていたつもりであったが、改めて写真展会場という場所で写真を眺めてみると、まだまだ自分の足りていない要素も見えてきたりする。そういう意味で写真展は素直に自分の作品と向き合えるいい機会であった。

 1度目だからまあこんなもんか、とは自分ではなかなか判断できないが、もし今後もどこかで写真展を開催することができたら、今回学べたことを生かせればと思う。

 最後に、写真展を開催する機会に恵まれたことに感謝し、そして開催にあたってご協力やご心配していただいたたくさんの方々にこの場をお借りして御礼申し上げます。


 種清豊写真展「Ostalgie-Berlin」は、2011年6月16日~6月28日までキヤノンギャラリー福岡、2011年7月7日~7月13日までキヤノンギャラリー梅田でそれぞれ開催予定です。

 このうち、キヤノンギャラリー梅田において、7月9日の15時よりトークショーを実施します。

取材協力:キヤノンギャラリー銀座、ユニバーサルカラー






種清豊
(たねきよ ゆたか)1982年大阪生まれ。京都産業大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、写真家竹内敏信氏のもとで約3年間のアシスタントを経て、2007年よりフリーランスに。主に日本各地に残る明治、大正、昭和初期のクラシックな素材から現代の街まで幅広く撮影中。また人物撮影や、東京の下町の祭も撮影。キヤノンEOS学園講師、NPO法人フォトカルチャークラブ講師。ブログはこちら

2011/6/14 00:00