特別企画

新フォクトレンダー15mmの周辺画質はどうなった?

デジタル対応の新レンズ設計を検証

新しいスーパーワイドヘリアー15mm F4.5アスフェリカル IIIをライカM(Typ240)に装着。EVFをつければそのままパララックスや視野率を気にすることなく完全なフレーミングが可能になるのはいい。新しいライカの使い方ともいえるが、ピント合わせを行う場合は、距離計を利用したほうが素早い撮影が可能になると思う。

コシナ・フォクトレンダーシリーズにラインアップされている初代スーパーワイドヘリアー15mm F4.5アスフェリカルは、1999年に登場した同社のライカスクリューマウント(いわゆるLマウント)互換マウントを採用するカメラ、フォクトレンダー・ベッサLの発売に合わせて開発されたものである。

ベッサLはコシナが生産していたOEM用のメカニカル一眼レフカメラを改装して誕生したユニークな目測専用カメラだ。機能は露光機能とフィルム給送、TTLメーター内蔵のみのフルメカニカルというシンプルなカメラだったため、スーパーワイドヘリアー15mm F4.5アスフェリカルも距離計カムを備えておらず、目測専用のレンズとして開発されている。被写界深度の深さから、距離計に連動する必要はないと考えられたのであろう。

小型軽量で、くちばしのようなデザインもユニークで、ライカに装着可能なことからライカユーザーにも歓迎され、実際の描写も非常に優秀であった。ライカマウントでは超高価で入手困難な幻のホロゴン16mm F8の代わりとして人気になったのだ。このレンズはコシナ・フォクトレンダーのレンズを代表するものといって過言ではないだろう。

初代スーパーワイドヘリアー15mm F4.5アスフェリカルとベッサL。シンプルなカメラで、現在も時おりこの組み合わせで「歩く眼」のようにして使っている。

その後、II型となり光学系は踏襲したままVM(ライカMマウント互換)マウントに改良され、距離計連動カムを内蔵し至近距離でのピント合わせも安心感が増した。デザインもモダンな雰囲気になった。

ところがこの間にM型ライカもデジタル化を果たし、ソニーα7のようなフルサイズミラーレス機も出現したことで、このII型までの光学系のままでは問題が生じることになった。問題とは周辺の色カブリである。

デジタル向けの新設計に改良

色カブリは、画面周辺域において撮像素子の底まで光が届かないために起こる現象で、とくにクラシックな設計の広角レンズでしばしば発生することがあるのは周知のとおりである。

もっとも色カブリを起こしてもPhotoshopなど画像処理ソフトで補正をすれば正常な色再現に再現することは可能だけれど、作業的には余計で面倒である。

今回紹介する新しいスーパーワイドヘリアー15mm F4.5アスフェリカル IIIでは、基本スペックを踏襲したまま光学設計を一から見直す大きな改良が行われた。

歴代スーパーのスーパーワイドヘリアー15mm F4.5。右から初代、II型、III型となる。III型はやや大きめだが、ライカMマウント互換のスペックからみれば小型のレンズの部類に属する。

レンズ構成は9群11枚構成、非球面レンズを1枚使用している。M型ライカや、コシナ・ベッサシリーズ、ツァイスイコンでは距離計連動範囲は0.7mまで。距離計連動はしないが0.5mまでの距離設定は可能になっている。

もとはフィルムレンジファインダーカメラのことを見据えて設計されたコシナ・フォクトレンダーのレンズシリーズだが、ここでコシナ・フォクレンダー誕生から16年目にして、この代表的なレンズであるスーパーワイドヘリアー15mm F4.5アスフェリカルが本格的なデジタル対応のために改良が行われたことはたいへん興味深いことであり、今後のフォクトレンダーシリーズの展開を予感させるものとなっている。

今回はソニーα7 IIおよびα7Rに同社のフォクトレンダーVM-Eクローズフォーカスアダプターを装着したものと、ライカM(Typ240)にダイレクトに装着してみたが、α7 IIではボディのメニューから手ブレ補正用のレンズ焦点距離設定を行うことで的確な手ブレ補正が期待でき、またVM-Eクローズフォーカスアダプターのフォーカスリングを使用することでさらに至近距離での撮影が可能になるため「超広角マクロ」撮影を行うこともできる。実際みた感じでは、この組み合わせでレンズ面から5cm程度まで近寄れる感覚だ。

コシナ・フォクトレンダーVM-Eクローズフォーカスアダプターを使用してソニーα7 IIに装着。アダプター内にはヘリコイドを内蔵。これを繰り出すことでマクロ撮影が可能になる。フォーカスリングのトルク感など他に類を見ない優れたものだ。α7 IIはMFレンズ装着時にも焦点距離設定を行えば適切な手ブレ補正効果が期待できる。拡大機能などのやりやすさも他のどのミラーレス機よりはるかに便利だ。

α7 IIはMF時の撮影が非常にやりやすくなったことも特徴で、拡大機能を自分が使いやすいカスタムボタンに割り付けることで素早い撮影も可能。またピーキングも応用できるが、このレンズはもともと被写界深度が深いために、至近距離で絞りを開放気味に設定するなどしなければあまりピント合わせに神経質になる必要はないと思う。ライカとは異なる完全ミラーレス機として、レンジファインダー用のレンズの使用でもフレキシビリティがあるから楽しめる。

有効約3,640万画素の35mmフルサイズCMOSセンサーを搭載したソニーα7Rでも、スーパーワイドヘリアー15mmF4.5IIIを装着して撮影してみた。

α7Rは高解像度を最大限に生かすため光学ローパスフィルターレス仕様となっており、レンズの性能をそのまま生かすことができ、これまでにない高精細の超広角写真製作を行うことができるはず。

しかし、高画素ゆえにα7Rの画素ピッチは4.9μmと小さい(α7/α7 IIは6μm)ことから、マウントアダプターを介しての超広角レンズを使う場合は周辺まで光が届きづらくなり、周辺光量落ちもやや大きくなる。また小絞りによる回折現象も発生しやすくなるといわれている。α7 IIのように強力な手ブレ補正機能が内蔵されているわけでもないので、ブレのリスクが大きくなる。高画質の写真を製作するには撮影にあたっては十分に配慮せねばならないことは言うまでもなかろう。

MマウントレンズとEマウントを繋ぐVM-Eクローズフォーカスアダプター。ヘリコイドを装備しており、繰り出すことでレンズ本体の最短撮影距離を超えてマクロ領域まで撮影可能。作り込み、装着感、フォーカスリングのトルクにまで考慮された他に例のない逸品のアダプターである。

ライカM(Typ240)では、ライブビュー撮影が可能であることと、専用のEVFが用意されているので、これらを応用すれば外付けの光学ファインダーを用意しなくても正確なフレーミングが可能になるわけだ。α7 IIと同様に通常の撮影ではライブビューやEVFではピント合わせに神経質になる必要はないと思う。距離目盛りをみて目測設定してもほとんど問題はない。

至近距離の絞り開放時など、被写界深度が浅くなる条件では、カメラ内の距離計を使って、EVFは構図を決めるファインダーとして徹して使用したほうが撮影速度は速いだろう。ただ、α7 IIよりも撮影距離が遠いので、やや撮影用途としては狭くなる。

ライカM(Typ240)に、コシナ・フォクトレンダー15-35mmズームファインダーを装着。ズームのほかセンサーサイズに合わせて×1.3、×1.5の設定表記がある。光学ファインダーにこだわる人には魅力。現在は残念ながら生産終了しているが、フルサイズでないライカM8やエプソンR-D1などに使う場合は便利だ。現在はコシナから2種の15mmファインダーが発売されている。
ズームファインダーの倍率指標部分。

作例

両機で撮影した実際の撮影画像をみてみると、色カブリは一切ないことが確認され、それだけではなく周辺光量や、コントラスト、解像力、階調再現性も旧型から改良が行われている印象をうけた。とくに超広角ながら画質の均質性に優れていることは特筆に値する。高画素のセンサーのポテンシャルを十分に引き出すことができるはずだ。

画像はII型までのややクラシカルなイメージとは少し異なった印象を受けたことも新鮮だった。絞りによる性能変化は小さく、開放から十分な実用性能を誇る。

ライカM(Typ240)

II型では画面の周囲の光量低下が著しく、色カブリが見られるが、III型では周辺まで問題のない画像であることがわかる。比較はともにF8。

II型
III型
至近距離まで近寄り、絞り込んで撮影しているがヌケがよいたいへんシャープな画像である。絞りF8
歪曲収差はよく補正されており、建築物撮影にも安心感がある。絞りF8
日没近い状況だが、よく雰囲気が出ている、質感描写もまったく申し分ない。絞りF11
画角が広く、使いこなしは難しいが、遠近感を生かして作画してみた。適度な周辺光量低下が画面を締める感じ。絞りF8
肉眼では至近距離でも、ファインダーを覗くとえらく遠く感じる。画面周辺までの画質の均質性は良好だ。絞りF5.6
至近距離で絞り開放という条件だが、合焦点の描写はいい。背景もクセのない描写だ。

α7 II

ライカM(Typ240)と同様に、II型の撮影画像では周辺に色カブリがあることがわかる、画像処理ソフトで修正せねば使用できないレベル。比較は絞りF8共通。

II型
III型
色再現のクリアさよく偏りもない。α7 IIのポテンシャルをうまく引き出していると思う。絞りF8
超広角レンズの使い方のコツは、手前に被写体を大きく、後ろをつき放すような構図にするのがいちばんいい。
新宿の思い出横丁の路地。日中でも薄暗い条件だが、α7 IIの手ブレ補正の効きは十分。絞り開放条件だが像が整っている。絞りF4.5
都市風景にも適したレンズで、アングルの取り方でおとなしくみせることもできるし、迫力ある写真も創れる。絞りF11
VM-Eクローズフォーカスアダプターを使用してマクロ撮影。ボケ味云々をいうレンズではないけれど、とくに違和感はない。超広角マクロの世界は独自の雰囲気を得ることができる。絞りF8
実直な描写というか、画面の画質の均質性と歪曲収差の見事な補正で、大胆なアングルでも意外にも違和感がない。絞りF8
太陽を画面内に入れたが、とくべつに見苦しいゴーストは発生していない。逆光にも強いレンズである。F8
これも大陽光を直接入れたが、ゴーストはない。画面周辺に太陽を位置させなければゴーストは出てこないようだ。F8

α7R

α7Rに旧II型を装着して撮影してみると、大きく周辺光量が落ち込み、トンネルから撮影したのようになってしまった。III型は周辺光量低下はα7 IIよりは大きめに感じるものの問題のない再現性だ。

II型
III型

とはいえII型の周辺光量落ちも見方によっては非現実的な再現性で魅力がある。画像処理に長けた人なら色カブリの補正も考えてもいいだろうし、モノクロではよりダイナミックさを感じさせる再現になるはずであり。あわててII型を下取りに出したりせずにIII型との使い分けを考えてみても面白いかもしれない。

III型の高い解像力はα7Rのポテンシャルもストレートに引き出せる。もともと被写界深度が深いため極端に絞り込む必要もないが、絞り開放近くで近接撮影を行う場合などは、高画質を追求するためにもきちんとフォーカシングを行ったほうが明らかに結果はいい。超広角レンズを使用した緻密な風景写真などにこれから使われることだろう。

絞り込んでパンフォーカス撮影を試みたが、さほど目立った回折現象は感じない。仮に回折が発生するにしても、撮影条件や表現によっては絞り込みたい場合もあるから、このあたりは臨機応変に考えるべきだろう。絞りF11
カメラの曲がりに注意して、パースペクティブを抑制してみたが、さすがにこれだけの広角となると建築物の周辺は引っ張られたような像になる。しかし歪曲収差の補正はしっかりしておりとくに見苦しいわけではない。絞りF8
VM-Eクローズフォーカスアダプターを装着してオブジェに15cmほどまで接近、背景の状況をみせることで非現実的な雰囲気を演出してみた。絞りは開き気味なので画像を拡大してフォーカシングを行っている。さすがにこの距離では手前がボケたが、これがかえって効果を上げている。絞りF5.6
この条件でもカメラを水平に構えてパースペクティブを抑制している。収差補正が周囲まで行き届いているために意外と超広角レンズを使ったようにはみえない。風景にも向いているし、狭い部屋などの撮影にも応用できる画角だと思う。絞りF8
VM-Eクローズフォーカスアダプターを使用して、建物前にある植え込みの花にぎりぎりまで寄って撮影をしてみた。M型ライカでは距離計を無視してもここまでのマクロ撮影は不可能で、α7シリーズ+VM-Eクローズフォーカスアダプターの独壇場であるといえる。絞りF8

制作協力:株式会社コシナ

赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「ズームレンズは捨てなさい!」(玄光社)。