特別企画
Eマウント用の新世代ヘリコイドアダプター、どちらを買う!?
Reported by澤村徹(2014/1/17 08:00)
オールドレンズファンにはおなじみのヘリコイドアダプターが、新たなフェーズに突入しつつある。フォクトレンダーから無限遠ロック付きの製品が登場する一方、元祖ヘリコイドアダプターのホークスファクトリーからは、無限遠アジャスト機能付きの最新バージョンがあらわれた。ともにα7/7Rのフルサイズイメージセンサーに対応し、オールドレンズファンのニーズをしっかりと見据えた仕様だ。両製品をα7に付け、その使用感と機能性をレポートしていこう。
試用アイテム
- フォクトレンダーVM-E Close Focus Adapter
- ホークスファクトリーEマウント用補助ヘリコイド付Mアダプター
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“ヘリコイドアダプター”とは
はじめに軽くおさらいしておこう。ここでいうヘリコイドアダプターとは、Eマウント用ライカMマウントアダプターにヘリコイドを組み込んだ製品だ。ライカMマウントレンズの最短撮影距離は0.7~1mほどで、一眼レフ用レンズに比べて接写性能が弱い。そこでマウントアダプター内にヘリコイドを組み込み、レンズ本来の最短撮影距離よりも寄れるようにした。要はマウントアダプターに伸縮自在の接写リングを組み込んだというわけだ。もちろんヘリコイドを繰り出さなければ無限遠撮影が可能。ミラーレス機用のマウントアダプターは厚みがあり、その厚みを活かしたアイディア製品である。
このヘリコイドアダプターはホークスファクトリーがはじめて製品化に成功し、その後、キポン、RJカメラなどが追随した。言うなれば、ヘリコイドアダプターは海外マウントアダプターメーカーの独壇場だったわけだ。今回フォクトレンダーから日本製のヘリコイドアダプターが登場し、オールドレンズファンの注目を集めている。MFレンズを作り続けているメーカーだけに、ヘリコイドの操作フィーリングに期待している人が多いようだ。
2つの製品を比べてみる
それではフォクトレンダーのVM-Eクローズフォーカスアダプターから詳細を見ていこう。本製品はVM/ZMマウント向けのヘリコイドアダプターだ。基本的にはコシナが手がけるフォクトレンダーVMマウントレンズ、カールツァイスZMマウントレンズを組み合わせて使用する。VM/ZMマウントはMマウント互換なので、自己責任においてMマウントレンズやLMリングを付けたLマウントレンズと組み合わせてもよいだろう。
ヘリコイドの繰り出し量は4mmで、無限遠ロック機能を搭載しているのが特徴だ。ヘリコイドアダプターはヘリコイドを操作すると規定のフランジバックよりも長くなる。無限遠撮影時にヘリコイドが動いてしまうと、無限遠でピントが甘くなってしまうのだ。こうしたトラブルを防ぐため、本製品は無限遠ロックを搭載している。フォーカスリングに赤いスイッチがあり、このスイッチを押下げるとヘリコイドを固定できる。ライカレンズの無限遠ロックとは異なり、明示的にスイッチでヘリコイドをロックする仕組みだ。
レンズメーカーの製品だけあって、ヘリコイドの動きはきわめてスムーズだ。適度なトルクがあり、MFレンズのフォーカスリングと変わらぬ心地よさがある。全周にわたってローレット加工を施し、指先が滑らずに操作しやすい。マウントアダプターとしては高価な製品だが、実物を触ると精巧な作りに十分納得できるだろう。もちろん外観のクオリティの高さも折り紙つきである。
一方、ホークスファクトリーのEマウント用ライカMヘリコイドアダプターは、無限遠ロックに加え、無限遠アジャストという新機能を搭載する。この無限遠アジャストは、無限遠位置を微調整する機能だ。オールドレンズは経年変化などにより、無限遠の出方に個体差がある。そのため最近のマウントアダプターは、“オーバーインフ”になっているものが多い。規定のフランジバックよりもマウントアダプターの厚みを薄くし、レンズの∞マーク手前で無限遠にピントが合う。∞マークに合わせると無限遠を行きすぎるため、こういう仕様をオーバーインフと呼んでいる。
オーバーインフの利点は大半のオールドレンズで無限遠にピントが合うことだが、無限遠撮影時に確実なピント合わせが必要になる。このピント合わせを怠ると、「レンズの∞マークに合わせてF8まで絞ってパンフォーカス」というつもりが、ピントが甘いという結果になりがちだ。こうしたオーバーインフの使い勝手の悪さを解消するのが、ホークスファクトリーの無限遠アジャストである。ヘリコイドアダプターの所定のネジを緩めると、アダプターの無限遠ロック位置を微調整できる。装着するオールドレンズに合わせて無限遠位置を微調整しておけば、レンズの∞マークでジャストで無限遠にピントが合うわけだ。これはマウントアダプター初の機能であり、特に広角レンズのように無限遠撮影の多いレンズでは重宝するだろう。
ホークスファクトリー製のその他の仕様を見ていこう。ヘリコイドの繰り出し量は5mm。これはフォクトレンダー製よりも1mm多いことになる。フォーカシングレバーを搭載し、ここに指をかけることで快適にピント操作できる。無限遠ロックはライカレンズに似た感触で、所定の位置まで回すと自ずとロックがかかる。レンズの着脱ボタンは小さめで、デザイン的にはまとまりがよいのだが、着脱に手間取る印象は否めない。ヘリコイドの動きはやや軽めで、グリスアップしてあるので動き自体は滑らかだ。
仕様の違い
さて、ヘリコイドアダプターは繰り出し量が多いほど、より近くまで被写体に寄れる。フォクトレンダー製の繰り出し量は4mm、ホークスファクトリー製は5mm。ヘリコイドアダプターの購入を検討する際、この数字の差は気になるところだろう。そこで広角から中望遠まで、4本のレンズで両製品を試してみた。
まずレンズ側の最短撮影距離で撮影し、その後ヘリコイドアダプターの最短撮影距離で試写している。ヘリコイドアダプターの最短撮影距離はレンズの焦点距離によって異なり、大ざっぱにいうと、最短0.7~1mのレンズが、その1/2~1/3程度まで寄れるようになる。正確な数値はフォクトレンダーおよびデジタルホビーのページで確認してほしい。
作例に先んじて結論を述べると、繰り出し量5mmのホークスファクトリー製の方がたしかに寄れる。しかしながら両者の差はごくわずかで、繰り出し量5mmというだけでホークスファクトリー製を積極的に選ぶほどではない。逆に繰り出し量4mmだからフォクトレンダー製が劣るという印象もない。どちらも無限遠ロックを搭載し、α7/7Rでケラレなく撮影できる。ヘリコイドの感触や外観を重視するならフォクトレンダー製、実用性を重視するなら無限遠アジャスト搭載のホークスファクトリー製、というのが順当な選び方と言えそうだ。
実際に撮影してみる
・Heliar 50mm F2(限定モデル)
フォクトレンダー製レンズの例として、ヘリアー50mm F2を試してみた。レンズの最短撮影距離は1mで、VM-Eクローズフォーカスアダプター装着時は49.1cmまで寄れる。ホークスファクトリー製ではさらにもうひと寄り可能で、一眼レフ用レンズで寄り切ったような印象だ。マウントアダプター側の内面反射の影響も感じられず、良好な試写結果といえる。作例はF5.6で撮影したものを掲載している。
・DR Summicron 50mm F2
DRズミクロンは近接撮影可能なライカレンズで、通常域の最短は1m、近接域は45cmまで寄れる。ヘリコイドを切り替えて使用するため、従来は一部のヘリコイドアダプターで撮影できないことがあった。今回試した両ヘリコイドアダプターは、ともに本レンズの近接域の最短撮影距離でヘリコイド動作が可能だ。ヘリコイド側の最短カットでフレアが出ているが、これは被写体の真下に白い支柱があったためだ。内面反射によるフレアではない。作例はF5.6で撮影している。
・Tele-Elmarit 90mm F2.8
中望遠レンズの例として、テレエルマリート90mm F2.8を試してみた。通称ファットエルマリートと呼ばれるタイプである。最短撮影距離は1mで、中望遠レンズとはいえ気持ち寄り切れないストレスがある。こういうレンズこそヘリコイドアダプターの出番だ。ホークスファクトリー製は繰り出し量5mmが功を奏し、文句なしの接写を実現している。作例はF2.8で撮影している。
・Ultra-Wide-Heliar 12mm F5.6 ASPHERICAL(旧タイプ)
旧タイプのウルトラワイドヘリアー12mm F5.6アスフェリカルを、広角レンズの例として試してみた。このレンズは距離計非連動のレンズということもあり、元々30cmまで寄ることができる。VM-Eクローズフォーカスアダプター装着時は9.1cmでの接写が可能。これはもうレンズフードに被写体が触れんばかり距離だ。ヘリコイドアダプター側の最短撮影では像の流れが顕著で、被写体と多少距離をとった方が画質的には安定するだろう。作例はF5.6で撮影している。