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ペンタックスの「アストロトレーサー」に迫る

〜どうやって赤道儀不要の天体追尾を可能にしたか
Reported by 小倉雄一

 ペンタックスが25日に発売するGPSユニット「O-GPS1」は、カメラで天体追尾撮影ができる「アストロトレーサー」機能を搭載したユニークなアクセサリーだ。今回はO-GPS1のうち、アストロトレーサー機能を中心に開発の苦労などを伺った。(インタビュアー:小倉雄一、本文中敬称略)

O-GPS1

 話を伺ったのは、HOYA株式会社ペンタックス イメージング・システム事業部 開発統括部 第1開発部マネージャーの沼子紀夫氏(開発のリーダー)、同開発統括部 第1開発部の飯田好一氏(アドバイザー)、同マーケティング統括部 商品企画グループの前川泰之氏(商品企画)。飯田氏はこのプロジェクトの専任ではないが、天文ファンとしての立場から多くのアドバイスを行なった。普段はデジタルカメラのファームウェアや製品の評価などを担当している。

左から飯田好一氏(アドバイザー)、沼子紀夫氏(開発リーダー)、前川泰之氏(商品企画) インタビューを行なったHOYA株式会社ペンタックス板橋事業所(東京都板橋区)

“アウトドア”という開発テーマから誕生

――アストロトレーサー、この奇想天外な発想は、誰がいつごろ思いついたのでしょうか。

沼子:もう3年以上前のことになりますが、社内で当時“アウトドア”というモチーフで企画を考えなさいという課題を与えられてリストアップしたなかに、ある人がアストロトレーサーのアイディアを提案したというところから始まっています。

――それはデジタル一眼レフカメラの機種でいうと、いつごろの話ですか?

前川:「K10D」の発売の少し後くらいでしょうか。あの機種で防塵防滴が評価されて、そちら(アウトドア)方向を追求していこうというふうになったんですね。

――アストロトレーサーを思いついたのは、開発陣のどなたかですか。

沼子:そうですね。思いついたのは開発部門の一個人です。

――そのアイディアは、いまのアストロトレーサーの機能の原型となるようなものだったのでしょうか?

沼子:今回実現したアストロトレーサー機能そのものですね。私は当時、手ブレ補正機構「SR」(Shake Reduction)の開発を担当していたのですが、「SRを使ってこういうこともできない?」という話を持ちかけられ、それはおもしろいねというところから始まったのです。

前川:最初はアクセサリーとしてのGPSユニットと、アストロトレーサー機能は完全に合致してなかったんですね。アウトドアのなかにGPSという項目があり、それとは別にアストロトレーサーがあった。それがいつの日か合致したんですね。

K-5(左)および645D(右)に装着したところ

星を止めて撮る難しさ

――基本的な質問ですが、星を止めて写すことの難しさについて教えていただけますか。

飯田:従来、星を止めて写すには、赤道儀という特別な機材を三脚に備え付け、その上にカメラを載せて、星の動きに合わせてカメラを動かしていかなければいけなかったんです。どうしても星を点像に写そうと思うと、星を追いかけることができる赤道儀なり別の機材なり、非常に大がかりな機材にカメラを搭載して撮らなければいけないという、ハードルの高さがいままでありました。

――そもそも地球の自転によって星が動いているように見えるということと、あとは被写体としての星が非常に暗いということも関係あるのでしょうか。

飯田:そうですね。フィルム時代からそうですが、どうしても長時間露光という手法が必要で、その長時間露光の間に星が動いてしまいますので、星を正確に追いかけないとキレイに点像に写すことができないという事実があるので、そこをなんとかできないかと。

――赤道儀というのは値段も高いし、非常に大型で重くて、なおかつ設定も非常にめんどうだと聞きましたが。

飯田:そうですね。設定には星を見つけて……。地球が地軸に対して一周ぐるっと自転していることによって星が動いていくのですが、赤道儀では地球の地軸に対して平行に回転軸を合わせてやる必要があります。回転軸を合わせるのに北極星を使うのですが、その作業が非常に難しい。かなりハードルが高いんですね。天文を趣味にしている人、すごく好きな人でないと、そのハードルを超えてまで星を止めて写そうという気にはならない。

「今回、天体撮影のハードルを一気に取り去ったというのは画期的だと思います」(飯田氏)

――ペンタックスと天体観測、天体撮影の関係について教えていただけますか。

前川:ペンタックスは過去に赤道儀や天体望遠鏡を販売していました。デジタルカメラの時代になってからは縮小し、最終的に終了しましたので、最近はあまりペンタックスの機材を使っている人はいないのですが、フィルム時代は天体関係でのペンタックスのシェアは結構あったんですね。併せてペンタックスの中判カメラなども使っていただいていました。

 ですので、今回アストロトレーサーをペンタックスが開発したというところに対して喜びの声はかなりいただいています。一般の方のなかには、ペンタックスが天体ファンを見捨てたというイメージがあったみたいで、じつは見捨ててなかったんだ、というニュアンスの言葉を多数いただきましたね。

――アストロトレーサーが天体撮影に関係の深いペンタックスから出てきたのは意図したこと、それともたまたまなのでしょうか。

沼子:天文好きの人は社内に多いですよ。

前川:そういう部署があったくらいですから。部署がなくなっただけで、その部署にいた人たちは社内に残っていますからね。

沼子:私も好きなほうで、アストロトレーサーの話を聞いて飛びつきました。私はこの会社に入った半分の動機は星をやりたいというのがありましたから。

――3年半前にアストロトレーサーのアイディアが出されて、すぐに開発はスタートしたのでしょうか。

沼子:最初は承認を得ずに……勝手にやってましたね。

前川:正式な工事ではないですよね。(編注:ペンタックス社内では、プロジェクトを“工事”と呼ぶ)

飯田:そうですね。最初のうちは。

沼子:あいつら何をやってるんだろう? という眼で見られてましたね。ただ部長には声をかけて、ときどき参加してもらってましたけどね。月イチで自由な時間を取りましょう、みたいなイメージです。

飯田:部活動みたいな感じでやっていました(笑)。

「これはペンタックスのSRでしかできない技術ですから、実現したらおもしろいだろうという話はしていました」(沼子氏)

GPS機能との出会い

――もうこれはやるしかない、というふうにだんだん盛り上がっていって……。

沼子:どちらかというと、そこにGPSという製品の開発が出てきたので、それに後付けで載ったのです。

――なるほど、GPSは先に公に開発がスタートしていたわけですね。

前川:そうですね。GPSユニットは必須アイテムとして開発を始めていたんですね。ただ、正直4番手5番手で、ちょっとパンチが足りなかった。そこにアストロトレーサーがあったので、合致させましょうということになったのです。

――結果的に1つになったというお話ですが、GPS機能はアストロトレーサーにとっても必須だったわけですよね。

沼子:もちろんGPSは絶対に必要でしたね。

飯田:アストロトレーサーの機能そのものはアイディアの段階からSR機能を使えば理論的には必ずできることはわかったので、あとはどう具体化していくかだったんですね。いろいろ条件を決めていったときに、位置やカメラの向きの情報が必要で、方位がわからないとダメで、と条件を出していったときにGPSとうまくマッチしていったのです。

沼子:最初は、さまざまなパラメーターを手入力しようというアイディアもあったんです。GPSと1つになる前は。アストロトレーサーをGPSなしでやろうとしたらどうする、といったときに「じゃあ手入力しかないよね、でも天文ファンなら手入力するよね」と、そういう発想はあったんです。

飯田:結局、手入力する煩わしさをクリアして、ごく簡単に一般の人でも意識しないで撮れるようにするためには、どうしても自動入力が必要だと。GPSで緯度とか経度とかの情報がカメラに伝われば、全部自動でOKで、そうすれば入力の手間をかけなくても、カメラを星に向けるだけで星を点に写すことができる、というのは、開発途中の検討のなかで出てきました。

――正式なプロジェクトになった時期から、発売まではどのくらいかかったのですか。

前川:アストロトレーサー機能を、具体的に商品化を前提に考え始めてからは、たぶん2年弱くらいですね。

――では皆さんは、2年弱、いまに見てろじゃないですけど、ちょっとニタニタしながら、アストロトレーサーが世に出る日を楽しみに待っていたのですね。

沼子:これ本当に商品として出すのかな、という感じでした。

前川:その頃、商品性というのはかなり疑わしかったのです。いや、疑わしいというよりも、わからなかったんですよ。いろいろ調べたのですが、当時は世の中にGPSユニットのマーケットデータすらなかった。これがどれくらいいけるのか、というのがわからなかった。私は星の撮影はやらないのですが、星をやる人間からすると、「この機能は絶対にいける」、というのは確信があったみたいなのですが、でもそれを証明する術がなかった。そこが紆余曲折の部分でした。

O-GPS1の内部。白い部品がGPSアンテナだ

――いまは各社からGPSユニットが出てますが、2年前はまだそれほど出ていなかったと思います。

前川:出始めたかどうかという頃でしょうか。

――では上層部を説得するにも、ちょっと説得力不足というか。

前川:他社と同じモノでもダメだし、ペンタックスの場合、ニコンさんキヤノンさんに比べたらカメラ自体の数が少ないですから。それもあってどれくらい出るのかなあと。数の問題ですね。

――でも、難産だったというアストロトレーサーですが、この機能があるからペンタックスのカメラを買おうという人も現れてくるのではないでしょうか。

前川:ありがたいことに、発売前からそのようなお声を頂いています。

手ブレ補正機構で星が追尾できるワケ

――なぜ手ブレ補正機構を使って星の軌跡を追尾できるのでしょうか。

飯田:手ブレの場合はカメラがブレますが、星が動いていくというのは、カメラ側から見ると被写体ブレということになります。ただ、計算で完全に動きをシミュレートすることができる被写体ブレなのです。星が動いていく速さやどれくらい動くのかというのは、完全に計算できる。だからその動きをカメラ側で演算して、その通りにSR機構を動かしてあげれば、星が動いていく軌跡をキャンセルすることになりますから、星が点に写る。だから手ブレ補正機構を使って実現できるんです。

――このアストロトレーサーは、従来からの「構図微調整機能」を利用した機能という理解でよいのでしょうか。

飯田:基本的にはそうですが、構図微調整機能もアストロトレーサーも電子水準器も、ベースになっているのはSRなんですね。SRというのは他社にはないオンリーワンの技術として、ガイドがない方式になっているんです。SR機構を動かすところを見ていただくとわかりやすいのですが、他社の撮像素子シフト式手ブレ補正機構はX軸方向とY軸方向にガイドがあって、そのガイドに沿って動いていく。ペンタックスのSRはXY方向にも動かせるほか、ガイドがないことによって撮像素子を回転させることができる。この回転機能がオンリーワンの機能で、これがあるからこそ、構図微調整やアストロトレーサー、電子水準器が実現できたのです。

 SRの応用技術のひとつが構図微調整であり、アストロトレーサー、電子水準器である、というように理解していただくとよいかと思います。ですから、技術的に簡単だった構図微調整と電子水準器は比較的早い機種で搭載することができたのですが、アストロトレーサーについてはそれ以外にもGPS情報とかカメラの向きなどさまざまな情報をカメラに教える必要があり、そういう情報を教える手段を開発しなければならなかったので、少し時間がかかったのです。

――このアストロトレーサーは、他社の手ブレ補正方式では絶対にできないのでしょうか?

沼子:先ほど他社の撮像素子シフト式の話をしましたが、レンズ式(光学式)では、レンズを動かしても構図は変わらないので無理ですね。

SRユニット。右はセンサーが載った可動部分 このようにSRではボディに対して撮像素子を“回転”させることができる

飯田:レンズ式も、回転ができません。縦横の動きはできますが、回転ができないと星を追尾することはできないんですね。

前川:天球のどこの星を撮ろうとしても、回転の要素が入りますので。

3次元の動きを2次元にするのに苦心

――開発で特に苦労したのはどの辺りでしょうか。

沼子:星の動きを計算式に落とす作業ではかなり苦労しました。赤道儀を一定の速さで動かせばいいという話だったら簡単でしょうけど、3次元を2次元にするときに動きが変わってくるので……。

飯田:星の動きは完全にシミュレーションできますが、その式をどういうふうに組み立てるかですね。3次元で動いている現象を、平面上でどう制御するんだという部分です。球面三角関数で動かすだけなんですけども、それをファームウェアに落とし込むまでの間の紆余曲折ですね。ファームウェアの組み方とか。

沼子:天球の3次元の動きを平面に落とそうと思ったら、どこがどういう動きになるのか、というのをずっと悩んでいました。そこで透明な半球ドームが大活躍したんです。星がここにあって逆側にあったらどういう動きをして、それを内側から見るとどういう動きをするのかを見ることができます。

天体の動きを確認するために活躍した半球ドーム。何度も書き込んだ様子が開発の苦労を物語る

 すべての星が円運動をしているように見えるけれども、内側から見るとこういう向きでは真っすぐ動く、こういう向きではこう動く、こっち側のときはこう回るけど、こっち側のときは逆に回るんだよな、というのがだんだんゴチャゴチャになってきて、そういうのを計算していくんですが、計算上で符号の問題が出てくるとこの符号はプラスだったらどうなるのか、みたいなことになってきて、誰かに聞いてもらおうと思っても、誰もそんな話を聞きたがらないので(笑)。

 不意な方位に入ったところで符号が逆になったりとか、計算ミスをしてると90度を超えたところでいきなり動きが逆になったりとか……それが本当にもう、毎日頭を抱えて机で悩んでましたね。

――コンピューターのシミュレーションでポンとできるもんではないんですね。

沼子:シミュレーションはするんですけども、それが正しいか確認しなければなりませんから。

――この半球ドームを使っていたのは、開発の最初期ですか?

沼子:いや、開発の途中でも実際に撮ってみると、ある部分でイマイチうまく動かないことがあって、改めて見直して、半球ドーム上に星の軌跡を描き入れて、これはこっちだよなあっていうこともけっこう長いことやってましたね。

方位精度を上げるためキャリブレーションが必須

――ほかにも苦労した部分はあるのでしょうか?

沼子:星の軌跡はわかってるのですが、それを自動で計算するときに使うデータの精度もしっかり出ていないとキツイんですね。

――その辺りは、ユーザーの皆さんも心配しているところだと思うのですが。

沼子:やはり重要なのはコンパスなんですよ。地球の磁場はすごく弱いもので、ちょっとしたものがまわりにあるだけで簡単にずれたりして、なかなか精度が出ない。これまでの他社製品に入ってる電子コンパスをみてみると、分解能は8方位などおおざっぱなモノばかりだったのに対して、星がずれないようにする精度ってどれくらいなのかと計算をしました。

飯田:普通にコンパスが使われるときというのは、私たち生活のなかでは東西南北ですよね。せいぜい北東の方角とか。あと天気予報などで南南西の風と言ったりします。日常生活で使う方位というのは、南南西まで入れても16方位です。その程度の精度で日常生活では十分なんです。でも、ことアストロトレーサーに限っていえば、とてもそういった精度では星を追尾できない。そこの精度を出すのに非常に苦労しました。

沼子:コンパスはアナログで磁場がある方向に勝手に向いてくれるので簡単だろう? と思われるかもしれませんが、電子コンパスはデジタルデータでしか入ってこないのでどちらを向いてるのかというのがすごくわかりづらいんですね。ですから「キャリブレーション」が必要で、現在地がだいたいどういう磁場になってるのかを判断したあとに、方位を見つけるという手順をふまないと、いけないのです。

 それでも、ちょっと条件を変えただけでも全然方位が合わなかったりするので、そこが一番大変だったと思います。例えば、金網に2mくらい近づくだけでもずれてしまいます。

飯田:カメラボディによっても変わります。金属がいっぱい入ってますから。

沼子:「K-5」と「K-r」でキャリブレーションし直さないといけません。電池を交換しても変わるんです。電池の磁界によって。

飯田:カメラというのは電気の固まりですので。それが動けば、まわりの磁界も、極端なことをいえば変わる。にもかかわらず、カメラの上に装着してもちゃんと北を挿すんです。

前川:キャリブレーションすることによって、影響をキャンセルするんですね。それをしないとやはり影響が起きるので。

コンパスの精度をさらに上げることは可能なのだが……

――コンパスの精度はどれくらいなのでしょうか。

前川:精密なキャリブレーションをしたときに、±5度ですね。キャリブレーションには2通りあって、一般的なキャリブレーションとアストロトレーサーを使うときの精密キャリブレーションがあります。それをやっていただいたときに±5度というのを出してますね。

キャリブレーションは2種類ある。動かし方は同じだが、精密キャリブレーションの方が時間を要するという

――キャリブレーションというのは、カメラを振るのですか?

前川:はい、振るんです。精密キャリブレーションのほうは振り方を厳密にします。キャリブレーションが終わるとOKって出るんですけど、そのOKがなかなか出づらい。

飯田:精密キャリブレーションだと、3軸で180度以上回転させる必要がありまして……。

――±5度というのは必要十分な精度という理解でよいのでしょうか。

飯田:うーん。贅沢を言えばもう少し……。

沼子:やはり焦点距離が長いレンズだと動く量が大きくなるので、そのぶん精度は必要なんです。ですので、どこまでが十分だといわれると、欲をいえばキリがないわけですが、±5度あれば天体好きな人がちょっと広角ぎみの焦点距離で撮るのだったら大丈夫と言うくらいにはなっています。

前川:開発側では、本当はもっと精度を詰めたかったらしいのですよ。詰める術があったので。ですが、私が切りました(笑)。

――開発スケジュールの問題で?

前川:いえ、マーケット的な話になるんですけれども、この商品のターゲットというのは天体マニアではなく天体に少し興味を持ってくれている一般の方です。そうした方が引いてしまうようなキャリブレーションの方法はNGだろうと考えました。

――キャリブレーションをもっと厳密にやると精度が上がるわけですね。ちなみに、一般の方が引いてしまうキャリブレーションとはどういったものなのでしょうか?

前川:まずは3方向にある特定の星を探して……、みたいなことをいうんですよ。

――まさに赤道儀の世界……。

飯田:地球の緯度と経度のように、星も天球上の座標を必ず1つずつ持っています。それをファインダーの真ん中に入れていただければ確実にその方角がわかるんですね。決まった星を見つけてもらってOKを押せば100%間違いない。これは天文マニアならやりますが、一般の人は普通に考えるとできません。

――たとえば北極星をファインダーの真ん中に入れてシャッターを半押しする、といったことですか?

飯田:そんなイメージですね。北極星くらいだったらわりと普通の人でも探せるかもしれませんが、ナニナニ座のなんとかっていう星をファインダーの真ん中で捉えてOKボタンを押せ、みたいな話になると、もう……。

――でも、そういうキャリブレーション機能が搭載されてたらすごい嬉しかった、という人もいるでしょう。

飯田:いますよね。私がどちらかというと、そういうほうなんです。なので、「入れましょうよ」と強く言ったのですが、却下されました。

――なるほど。ところで、赤緯によって追尾可能時間が異なるのですね。

飯田:赤緯というのは星の天球上の緯度で、北極星が+90度。地球の赤道にあたるのが0度で、南のほうが-90度になります。

沼子:星によって動きが違いますよね。北極星のまわりはゆっくりしか動かないですが、太陽が動くあたりの星は、太陽と同じくらい長い軌跡を描きます。

飯田:SRの動かせる範囲というのは当然限界があります。どのあたりの星を撮っているかによって、追いかけられる時間が変わってくるんです。

沼子:回転の仕方も変わるので、移動量だけではなく、回転も加味して時間が決まるということになります。

測定した条件やレンズの画角などから追尾可能時間を自動的に算出。タイマーによるバルブ露出も可能

――レンズの焦点距離によって追尾可能時間が異なるのも同じ理由でしょうか。

飯田:倍率ですね。焦点距離が長ければ、写す範囲が狭くなる。だけど星は同じスピードで動きますから、すぐに枠から外れてしまうということですね。

――縦位置でも星を追尾できますか。そのときは、追尾可能時間は短くなるのですか?

沼子:縦でも問題なく追尾できます。GPSの感度や計算の制限で追尾可能時間が短くなることはありません。ただ横位置から縦位置にした場合は、天体の動きに対してカメラの姿勢が変わるので、追尾可能時間は変化します。そのときの条件によって、短くなったり長くなったりします。

気になる過去機種への対応は未定

――対応カメラがK-5とK-rとありますが、K-7以前のカメラには対応しないのでしょうか?

前川:商品企画としては対応してほしいと思ってはいるのですが。まだ決めてはいないです。

――可能性はゼロではない?

前川:可能性はゼロではないです。あまり期待いただいても困るのですが。理論的にはSRがついていて、ホットシューがあって、ファームウェアをアップデートできる機種であれば大丈夫なはずです。

――では、1つ前のK-7までは対応するといったことでしょうか?

前川:そうですね。それも検討させていただきます。

O-GPS1の外観検討用モックアップ(左ほど古い)。右端は製品版。当初は単3電池や単4電池×2本を想定していたが、大きすぎるため単4×1本とした
コレジャナイロボ仕様も!? 実はこれ、外装パーツの組み合わせを検討するために色分けしたもの。「どうせならと、コレジャナイロボカラーにしてみました」(前川氏)。残念ながら、この色での発売予定はないとのこと

――ケーブル接続が不要でホットシューのみでデータ通信を行うわけですが、これは容易なことだったのでしょうか。

沼子:仕様自体にはとくに手を加えていません。もともとストロボ専用の制御を行なっているのですが、アストロトレーサーでは予備としてリザーブしていた通信仕様を使っています。ストロボ以外でも使えるようにと過去に決めた仕様なのですが、実際には使ったことがなかったので、今回本当に使えるのかという心配はありましたね。

――GPSユニットを電池駆動にしたのはどのような意味があるのでしょう?

前川:他社製品ではカメラボディから電源供給するものもありますが、けっこう電池を食ってしまって、いざというときにカメラが撮影できないということが起こる。われわれは万が一、GPSが使えなくてもシャッターが押せることには影響がないようにしようと考えたので独立電源にしました。でもそうなるとサイズが大きくなってしまうので、どれくらいの電池まで許されるのかとモックアップを作ってずいぶん検討しました。

――結果的に単4電池を1本使うのがバランスがよかったということですか。

前川:そうですね。単4電池である程度の時間駆動できる、というのが条件でした。最初、リチウム電池の「CR2」という意見もありましたけど、総スカンを食らいましたね。「どこで手に入るのか?」と。

――コンビニで売っていますよね?

前川:それは日本だけですから。世界中で一応確認して、単4でしたらどこでも手に入るということが確認できました。

電源にはニッケル水素充電池も使用可能

――なるほど。ところで、GPSユニットおよびアストロトレーサー機能を内蔵したデジタル一眼レフカメラは出さないのでしょうか。

前川:当然あってしかるべき要望だと思います。最終的にはそうなるんではないかと思ってるんですけれども……。

飯田:携帯電話にはGPSが入ってしまいましたからね。

被写体となる天体の向き不向きは無し

――アストロトレーサーは、天体によって撮影の向き不向きがあるのでしょうか。

飯田:基本的には何でも大丈夫です。やはり星を点に写したい、きれいな星空を写したいということになると、比較的広角めのレンズで撮っていただくのがオススメだと思います。あまり焦点距離の長いもので写そうと思うと、追尾できる時間が短くなるといった制限も出てきます。気軽に撮って楽しんでいただくのであれば、28mm、35mm、21mmなどのレンズで撮っていただけると、いちばん性能も発揮できて、一般の人にきれいな星空の写真だね、と思っていただけるような写真が撮れると思います。

 それから、地上の風景を星と一緒に写すいわゆる「星景写真」は、アストロトレーサーを使うと地上の風景がブレてしまうので、アストロトレーサーをOFFにして撮影していただければと思います。

――アストロトレーサーを使って星を撮るときの撮影モードは?

飯田:バルブです。これに設定しないとアストロトレーサーを選択できませんので。なお、星を撮るのであればタイマー設定ができます。撮影レンズなどの情報から、追尾可能な限界時間が表示されます。ちなみに、アストロトレーサーというのは、極端なことをいえば、撮影に三脚も要らないんですよ。

沼子:公園の地べたに上を向いて置いておいてもちゃんと撮れますから。

飯田:たとえば山に登られる方が、山小屋で星空がキレイだから、外に出て、ちょっとカメラを置いてやると、三脚なしで星が撮れる。そのためだけに三脚を持っていくのはどうかな、と思っているような方だったら、うれしいのではないかと思います。

――SRのユニットをもう少し大きくすれば可動範囲が広がって、追尾可能時間も延長できるのでしょうか?

飯田:もちろんSRを大きくして可動範囲を広げれば、追尾できる時間は長くなると思いますが、そうするとイメージサークルの最周辺になったときに収差の影響をどうしても受けてしまいます。レンズもそれを考慮して、周辺部まで精度のいいレンズを設計してというようなことをやると、もっと可能性は広がりますね。

前川:そうですね。大きなイメージサークルのなかで、真ん中の美味しい部分だけを使うことになりますからね。

「画質に関していえば、67や645のレンズをアダプターを介して装着するのも手ですね」(前川氏)

反響は「アストロトレーサーの一辺倒」

――製品発表以降の反響はいかがでしょうか?

前川:もの凄いですね。予想以上です。ただ、ここまでアストロトレーサー一辺倒になるとは考えてなかったですけれども。

沼子:開発陣は、アストロトレーサーが来ると固く信じていましたが。

前川:当然われわれがプレゼンするときも、アストロトレーサーを前面に出してやってますし、パッケージも星空なんです。なのでアストロトレーサーがイチオシなのは間違いないんですけども、もうちょっと電子コンパスや直線ナビといったほかの機能も扱ってほしいなあとは思っています(笑)。

――どのようなユーザーから引き合いがあるのでしょうか。

前川:天体ファンの反応はまず第一でしたけれども、それから一般の方からも、撮ってみようかなという反応がありましたね。赤道儀を持って行かなくてもいい、といううれしさのコメントと共に、まったく星を撮ってなかったけど、これからチャレンジしてみようかなというコメントが増えてますね。お客さま相談センターというのがあって、一般的にはカメラボディなど大きなアイテムの場合は引き合いがあるのですが、アクセサリーではあまり問い合わせは普段こないんです。ところが今回はカメラ並みに来ましたね。なので、非常にビックリしています。

――645Dの場合、アストロトレーサー以外の機能は対応とありますが、アストロトレーサーは残念ながら非対応ですね。

前川:センサーが動きませんから、アストロトレーサーは使用できないですね。

645D上面の表示パネルを全点灯させると、中央右寄りに謎の空き地が現れる(実際には全点灯はできない) 実はGPSの信号を受信すると、この部分に“GPS”と表示される。比較的大きな表示パネルを活かそうと、当初から表示を織り込んでいた

――「なんでSRを入れておかなかったんだ」といった声は社内から起こらなかったですか。

前川:実は当初、645DにSRを入れようという検討も当然あったのですが、やはり制御しきれないんですね。センサーが大きくて重いので、動いても止めるのが難しい。重さがK-5やK-rの5倍くらいありましたね。ものすごく重いです。面積だけじゃなくて、厚みもありますからね。

――ちなみに星を撮るときの感度ですが、設定は自由なわけですよね。オススメの感度があるのでしょうか。

前川:感度は自由に設定していただけます。

飯田:個人の好みにもよるでしょうが、K-5なら一般的にはISO800〜1600くらいまで十分いけると思うんです。

――アストロトレーサーは、自動パノラマ合成のような機能は搭載していないわけですよね。そうした機能のアイデアはありますか?

飯田:今回はなかったですが、そういうところまでも含めると、組み合わせたらきっとおもしろいだろうなあというアイディアはいろいろ出てきます。可能性としては十分考えられるのではないでしょうか。

――それから、「この星座が撮りたい」というのを入力すると、“この方向にカメラを向けて撮れば写るよ”とカメラが教えてくれるナビゲーション機能があったら楽しそうですね。

前川:スマートフォンなどに天体関係のアプリケーションがありますよね。そういう機能を入れればもっとおもしろくなるかもしれません。

――夢は広がりますね。ちなみに、月産は何台くらいなのでしょうか。

前川:当初は1,000台となっています。

実用的な「直線ナビ」機能

――直線ナビ機能を搭載しようと思ったきっかけは何ですか?

前川:ペンタックスがGPSユニットを出すにあたって、独自機能を搭載し、他社と差別化を図りたいと考えました。コンパスを利用した2つの機能がこの直線ナビとアストロトレーサーなのですが、やはり何らかの独自機能がほしかったんですね。ただ今のところ、ここまでガン無視されるとは思わなかったんですけども(笑)。

――誰も無視してはいないと思いますが……。

前川:一応、アストロトレーサー、直線ナビ、電子コンパスを3本柱として、ニュースリリースなどでは同じ分量で、フォントの大きさも同じように作ったのですが、アストロトレーサーしか注目を浴びなかった。

――これがユーザーの率直な反応ということなのでしょうか。

前川:そうですね。ただ直線ナビに関していうと、機能の内容が十分訴求できてないというところもありますね。目的地を入力すると、方向と距離が出ますから、その方向どおり行けばいずれその目的地に着きます、という機能です。カメラに地図は出ないので(液晶モニターで)地図を見ながらというのはできませんが。

直線ナビではデフォルトでペンタックスの9拠点がインプットされている 板橋事業所を選択したところ

――初期設定では各地のペンタックスの場所が入っているんですよね。

前川:はい。直線ナビは、3通りの方法で設定できるんです。1つめはパソコンで編集してカメラに登録する方法、もう1つはデフォルトのペンタックスのサービス拠点。そして3つ目がメインなのですが、位置情報が入った画像を読み込めば、その場所に向けて設定できます。DCF規格に則った画像であれば、携帯電話の画像でも大丈夫です。たとえば何百kmも離れていたら、近くまではクルマなり電車で行ってもらって、ある程度ゾーンを絞れば、たとえば撮影地に対してピンポイントで行けるという具合に実用性もあるんですよ。

電子コンパスは鉄道撮影で活きる!?

――電子コンパス機能はいかがでしょうか。

前川:ほかの機能はすべて電子コンパスが基本になっています。最初に申し上げたように、GPSだけですと最後発。注目も何も浴びませんから、やはり付加機能がほしかった。いろいろなところにヒアリングに行く中で、鉄道の某雑誌社に伺いました。そこで、各社からGPSが出ているが方位が入ってないんだよね、といわれました。方位情報が絶対に欲しいということを聞きました。そこで方位情報を入れようという話になりました。

電子コンパスの画面。高度も表示される

――鉄道を撮るのに方位情報が特別重要なのですか?

前川:私もちょっとわからなかったのですが、鉄道のファンにとっては重要なのだそうです。かつての鉄道写真の方たちというのは、自分の撮影データというのは、あまり人に教えなかった。これはどこか言えないけどいいんだよ、というのが一般的だったらしいのですけれど、デジタルカメラになってから、インターネットなどで情報共有するのが一般的になって、そのときにどこでどっちを向いて撮ったというのが重要だというのです。

 さらにいうと、上下どっちを向いたかも欲しいらしいのです。そういう情報共有の場では、なるべく細かい情報が必要だということがわかりました。ただ、それでも企画を進めるにあたってはパンチが弱かったんですよ。角度がわかるだけ? というのが。そこにアストロトレーサーの話が入ってきたので、じゃあ入れましょうとなったんですけれど、これがどれだけ売り物になるのか正直私は星をやりませんから、疑わしかったんですよ。

飯田:人の言うことを信じないんだから(笑)。

前川:で、それを確かめるために某天文雑誌の編集部に伺って聞いたところ、もの凄い食いつきがあり、これはいけるのかなというところから、製品化を本格的に進めました。これが、1年くらい前のことですね。

同梱ソフトのアップデートも検討

――カメラ同梱ソフトでのGPS対応はどうなっていますか?

前川:K-5やK-rに付属している現状の「Digital Camera Utility」というソフトでは、残念ながら対応できていません。ジオタグ情報までは見ることができません。アップデートすれば当然見られますので、そこをどうするか検討中です。すでにGoogle Earthなど一般のソフトで地図に対してポイントを打つということができますので、そこまでわれわれでメンテナンスしなくていいかなと思ってはいますけども、位置情報の数字くらいは見られたほうがいいのではないかと、そこはちょっと考慮したいですね。

沼子:星図を出したいですね……。

――撮った星座に枠がついてわかると楽しそうですね。

沼子:そうですね。今後の検討課題ですね。






小倉雄一
小倉雄一(おぐらゆういち) フリーランスの編集者&ライター&カメラマン+塾講師。デジカメ関連の媒体を中心に活動中。 新聞社の写真記者、雑誌編集者を経てフリーに。1967年、東京・築地生まれ。血液型B型。 http://jagabata.net/

2011/6/24 13:41