新製品レビュー
OLYMPUS PEN-F(実写編)
デジタルならではの絵作りコントロールを楽しむ
Reported by藤井智弘(2016/2/12 07:00)
1963年にオリンパスから発売された世界初のハーフサイズ一眼レフ、ペンFの名前を受け継いだデジタルカメラ、PEN-F。本体のシルエットやPEN-Fのロゴはオリジナルを彷彿させながら、レンジファインダー機を思わせるメカニカルな雰囲気も併せ持つ。またPENシリーズでは初めてEVFを内蔵した。
有効2,030万画素にアップ。高精細記録の「50Mハイレゾショット」も
PEN-Fで最も特徴的な機能がモノクロ/カラープロファイルコントロールだ。モノクロではフィルター効果や周辺光量、トーンカーブが細かく調節でき、粒状感を加えることも可能。カラーでは特定の色の彩度調節やトーンカーブにより、自分好みの仕上がりがコントロールできる。
撮像素子はオリンパス初の有効2,030万画素Live MOSセンサー。これまでの1,600万画素でも解像力の高さは感じられたが、より高精細になった。画素数は増えても階調再現は豊か。ハイライトも飛びにくい。
そして前回でもお伝えした通り、画素数が増えたことで連写合成の「ハイレゾショット」も40Mから50Mに増えた。三脚に固定し、動くものが画面に入らないように撮る手順は変わらないが、驚くほど高い解像力で撮れる。とはいえ、レンズの性能の差がそのまま画質に現れるので、M.ZUIKO DIGITALのPROレンズかPREMIUMレンズが必須だ。また同じ画角ならAPS-Cサイズより焦点距離が短くなるマイクロフォーサーズは、深い被写界深度を得るのに有利。だが50Mハイレゾショットは、わずかにピントが外れただけでも甘さが目立ってくるため、絞り値の設定がシビアに感じた。
高感度特性をチェック
画素数が増えると気になるのが高感度特性だ。ベース感度のISO200からISO800までは、ほぼ同じ感覚。ISO1600とISO3200は拡大すると高感度らしさが少し感じられるが、十分実用的だ。ISO6400からノイズリダクションの影響によるディテールの損失が目立ってくる。それでも等倍に拡大して感じられるレベル。ISO12800とISO25600は小さなサイズのプリントやWeb用なら使えるだろう。
印象としては、高感度ではノイズよりもノイズリダクションの影響による解像力の低下が大きいようだ。それでも最高感度のISO25600でも色調が崩れないのには驚いた。また拡張の低感度ISO80は、解像力は高いもののダイナミックレンジが狭い。特にハイライト側の狭さを感じた。
「プロファイルコントロール」を使いこなす
注目のプロファイルコントロールは、これまでパソコンのレタッチソフトで行っていたコントロールをカメラ本体で可能にした。モノクロはフィルター効果や周辺光量、そして粒状感のレベルが変えられるのが大きい。
特に粒状感は、フィルムに近い雰囲気が出せる。人間の感覚とは不思議なもので、粒状感が全くないと、デジタル的で無機質に感じることがある。粒状感がある方が自然に感じる場合もあるのだ。音楽で例えれば、CDは音がクリアだが、アナログレコードの方が豊かな音色に聴こえるのに近いかもしれない。
そしてトーンカーブを扱う「ハイライト&シャドウコントロール」には中間調の調節も加わったため、周辺光量の調節と併せて、まるでパソコンのレタッチソフトで編集するかのように仕上げられる。ただ欲を言えば、今回も調色の濃さを変えられないのが残念。「薄いセピア」や「濃い目のブルー」などができたら、表現の幅はより広がるだろう。
カラーのプロファイルコントロールも、特定の色の彩度を調節して「自分の色」がつくれる。例えば「全体に彩度は下げて、赤だけ鮮やかに。中間調は下げて深みを出す」とか「青系と緑系の彩度を上げて空と木の葉を強調して、トーンカーブでコントラストを下げて爽やかに」など、好みの仕上がりが得られる。できればカラーでも粒状感や周辺光量の調節できるようになると嬉しい。モノクロの調色の調節やカラーの粒状感や周辺光量は、いずれファームウェアのアップデートで可能になるのを期待したい。
まずプリセットから試してみる
さて、カメラ本体内で自分の好みの仕上がりがつくれるプロファイルコントロールだが、いざ撮影中にダイヤルを回しながら設定していられるのだろうか、という疑問が湧くだろう。もちろん瞬間に反応して撮影する際には不可能だが、スナップでも街並みを狙うくらいなら十分コントロールできる。コツは「自分の好みの色や階調をあらかじめプロファイルに設定しておく」ことだ。
例えばモノクロなら、ベースとなるフィルター効果や周辺光量、粒状感を設定しておき、状況に合わせて微調整を行うと素早く撮影できる。カラーも自分の好みの色やコントラストを決めてそれをベースにしておくと、やはり微調整だけでスピーディーな撮影ができる。プロファイルコントロールの使いこなしは、PEN-Fを購入したら、まずは自分の好みの仕上がりになるようにセッティングから始めることだ。それはまるでレーサーが自分のマシンのエンジンやサスペンションを、ベストな状態にセッティングするのに似ている。前回の「外観・機能編」で、PEN-Fを“エキスパート向け”と書いたのはこのためなのだ。
しかし、いきなり「自分の色」といわれても、何が自分の好みなのかわからない人もいるだろう。そこで、あらかじめセットされているプリセット2やプリセット3にして、そこから調節してみるとわかりやすい。またRAWでテスト撮影し、OLYMPUS Viewer 3の編集画面で好みの値を探し、カメラ側でそれを再現する、という方法もある。カメラ本体でこれだけ絵作りをコントロールできるというのは新鮮で、デジタルカメラの新たな楽しみ方を実感した。
単焦点レンズで軽快に楽しみたい1台
PENF-は、ネーミングからデザイン、そして機能まで、すべてにおいてこだわりを感じるカメラだ。キットレンズが35mm判換算24mm相当の12mmで、シルバーボディでもレンズ鏡筒はブラック、というのも見た目を重視しているのがわかる。一見すると操作部が多いようにも見えるが、実際に使ってみると迷うことはなく、見た目だけでなく使いやすさもしっかり考慮されているのを感じた。
またAFの速度やレスポンス、シャッターを切った感触も申し分ない。個人的にはズームレンズではなく単焦点レンズで軽快に撮り歩きたい。テーブルに置いて眺めていても、手にとってみても、撮影していても楽しめる、まさにプレミアムなカメラだ。
作品集(カラー)
カラープロファイルコントロールに設定。全体の彩度を落とした後に、青系の彩度だけ上げて青空を強調した。カラープロファイルコントロールは、彩度をいっぱいに下げてもわずかに色は残る。
鳥が画面に入った瞬間、とっさにシャッターを切った。PEN-Fはレスポンスが良く、撮りたい瞬間にすぐ反応できる。独立した露出補正ダイヤルも使いやすい。
カラープロファイルコントロールで赤の彩度を下げて、トーンカーブの中間調も下げて重みのある仕上がりを狙った。
小型でこだわりのデザインを持つPEN-Fを手に、街を歩いて被写体を探すのはとても楽しい。ここでは青空と光が当たる壁、そして赤い花と人の影を意識した。
マイクロフォーサーズは35mmフルサイズやAPS-Cサイズと比べると大きなボケは得にくい。しかしキットの広角レンズ12mmでも、被写体に近づいて絞りを開放にすると、これだけ大きなボケになる。フリーアングル液晶モニターを使ってフレーミングした。
強い光が当たった路面はさすがに飛んでいるが、それでも不自然さはなく、階調は十分豊かだ。撮影したときの印象をそのまま再現できている。
35mm判換算で50mm相当の画角になる標準25mmで撮影。PEN-Fには単焦点レンズがよく似合う。
ISO3200に設定した。拡大しないと高感度とはわからないほど自然な仕上がり。階調再現も豊富だ。
有効2,030万画素と5軸手ブレ補正。しかも高感度にも強く、夕暮れの光を見事にとらえてくれた。
作品集(モノクロ)
フィルター効果を赤にして、やや強めに。周辺光量をわずかに落とし、トーンカーブでシャドー部を下げて光の強さを強調した。粒状感を強くしてフィルム的に仕上げている。
フィルター効果はブルー系を弱く。周辺光量も少し落としている。さらにトーンカーブは中間調を下げてややフラットな雰囲気に。粒状感は弱に設定した。
フィルター効果は黄緑を選択してやや強めに。階調にメリハリをつけるために、トーンカーブでハイライトを持ち上げて、シャドーを落とした。粒状感は中。周辺光量はデフォルトのまま。
フィルター効果はオレンジ。周辺光量を強めに落としている。さらにトーンカーブでコントラストを上げている。粒状感を強くして、奥行き感を出した。
フィルター効果は黄緑を弱く設定し、周辺光量をやや強めに落とした。さらにトーンカーブでハイライトを強調し、シャドー部を落とし、深みのある写真に仕上げた。レンガの質感を重視して粒状感は加えていない。