新製品レビュー
Nikon 1 V3
ニコンの本気度が伝わる高速ミラーレス
Reported by 大浦タケシ(2014/5/21 08:00)
ミラーレスが相変わらず元気だ。この半年ほどで際立った動向を思い返してみると、ソニーのα7R/α7、オリンパスのOM-D E-M1、富士フイルムのX-T1およびX-E2と、マニア注目のカメラが相次いで登場してきている。これまで頑なに一眼レフ至上主義を唱えていた写真愛好家もいよいよミラーレスを無視できないものになっているといえるだろう。飛ぶ鳥を落とす勢いとは、まさにこのことである。
そのような中、ニコンも同社ミラーレスの上位モデルNikon 1 Vシリーズのモデルチェンジを行った。新しい「Nikon 1 V3」はEVFを別体化し、AFやコマ速の速さを追求したものである。
EVFとグリップが着脱式に
Nikon 1 Vシリーズ3代目となる本モデルだが、大きく変わったことを嫌が応にも知るのがEVFが外付けになったことだろう。おかげでトップカバーはスッキリとしたものとなり、カメラとしてもまとまりのよいボディシェイプとなっている。EVFがボディに組み込まれていたこれまでは、デザイン処理が難しかったのかも知れないが、トップカバーの造形が視覚的に馴染みにくく、どこかチグハグとした印象を持つものであっただけに素直に歓迎したい。
さらに、外付けファインダー「DF-N1000」は、あえてカメラとデザインのテイストを揃えないことで、往年の距離計連動カメラに別体のファインダーを装着したときのような、組み合わせの妙を感じさせ、どことなくマニアックな雰囲気が漂う。無理にEVFを内蔵して小難しいスタイルになってしまうより、こちらのほうが断然いいように思える。
ちなみに、DF-N1000はNikon 1 V3の光軸上にあるマルチアクセサリーポートに装着する。EVFと液晶モニターの切り換えを行うアイセンサーを備えるほか、視度調整機能も搭載し使い勝手は従来とほとんど変わることがない。搭載するディスプレイは0.48型、236万ドットと従来より高精細化し、コントラストも高くEVFとしては鮮明な見え具合を誇る。本稿執筆時点の税込実勢価格は3万2,060円前後であるが、デジタル一眼レフの操作に慣れ親しんでいるのなら是非とも揃えておきたいアクセサリーといえる。
その他の外観および操作に関するところで、まず目新しいのがカメラ前面部に備わったサブコマンドダイヤルだろう。現在人気を博しているデジタル一眼レフ「ニコンDf」と同様の形状のもので、より直感的な操作が可能。見た目に敬遠する向きもあるが、馴れると使い勝手はよい。
また、カメラ背面のメインコマンドダイヤルは、新たにプッシュ操作も可能となり、Fn2ボタンとしての役割が与えられる。こちらも直感的な操作が楽しめることはいうまでもない。ちなみにカメラ背面にもFn1ボタンを搭載しており、使用頻度の高い機能を割り当てれば、より自分好みのカメラに仕立て上げることができる。
グリップは、大きく前に張り出していたNikon 1 V2にくらべると、拍子抜けするほど小ぢんまりとしたものだ。ただし、ホールディングしたときの印象としては、悪くはない。グリップの有無や大きさは意見の分かれるところだが、筆者個人としては好ましく感じる。
もしこの大きさで不満を感じるようであれば、別売のグリップ「GR-N1010」を装着するとよいだろう。先代モデルのようにしっかりと手でホールドできるほか、シャッターボタンとコマンドダイヤル、ファンクションボタン(本体にないFn3ボタン)を備え、操作性もより向上する。こちらは税込実売1万5,860円前後である。
なお、このグリップを装着したままでもメモリーカードスロットやHDMI・USB端子へのアクセスは可能だが、バッテリー交換については一度グリップをカメラから外さなければならないのはいささか面倒に思える。
20コマ/秒のAF追従連写。動体撮影できるミラーレス
デバイスの進化として、注目はAFだろう。先代「Nikon 1 V2」も73点の位相差AFと135点のコントラストAFをハイブリッドで利用できたが、本モデルはそれを上回る。位相差AFは105点、コントラストAFは171点だ。これによりさらに画面の隅々までをカバーする。フォーカスしたい被写体の位置を選ばず、画面のどこにあっても確実に捕捉するといってよい。
しかもより高速になったAFはストレスを感じることがない。特に今回のレビューで使用した標準ズームレンズ「1 NIKKOR VR 10-30mmF3.5-5.6 PD-ZOOM」との組み合わせでは、デジタル一眼レフを超える測距速度を実現しているとメーカーは謳うが、実際の使用においても不足を感じることは一切なかった。
加えて動体に対するAFの追従性もミラーレスの常識を覆す。像面位相差AFを採用するミラーレスが増えてきているが、動いている被写体を撮影してみるとフォーカス精度が怪しく感じられるものも少なくない。本モデルではそのような不安は杞憂と述べてよく、動体に対してもデジタル一眼レフのようにしっかりとピントを合わせ続ける。しかもAF追従で約20コマ/秒の高速連続撮影が可能。これは数字のうえではハイエンドデジタル一眼レフを大きく上回るもので、ミラーレスでも本格的な動体撮影が可能になったと断言してよいものである。
キーデバイスも新しい。Nikon 1 V2の1型(CXフォーマット)有効1,425万画素のCMOSセンサーから、V3では同じく1型の有効1,839万画像 CMOSセンサーに変更。画像処理エンジンもEXPEED 3Aに替わり、より進化したEXPEED 4Aを搭載する。イメージセンサーは先代同様ローパスフィルターレスであるが、アップした解像度でよりキレのある描写が得られる。さらに最高感度もISO6400からISO12800に。厳密に比較した訳ではないが、ISO800からISO3200あたりのノイズレベルが特に従来よりも向上したように感じられる。
なお、ISO6400とISO12800では、高速で連写した4コマを合成し、ノイズを低減するNR機能を搭載する。作例を見るかぎりISO6400では通常撮影したものとでは見極めがつかないほどだが、ISO12800の場合ではその違いは決して小さくない。カメラを手持ちしての撮影も可能なので、気軽な夜景撮影などでは積極的に活用したい機能である。
液晶モニターはこれまでと同じく3型。ただし、92万ドットから104万ドットに解像度がアップし、新たにタッチ操作も可能とする。さらに上方向に170度、下方向に87度可動するチルト式となり、様々なアングルでの撮影も可能となった。
また、目新しく感じるところとして、液晶モニターのベゼル部に再生やメニューなどボタンを配置。ボタンの設置スペースの都合からだと思われるが、ボタン部分までチルトするのは珍しい。角度によっては操作しやすく感じられる。
独特のメニュー構成。Dシリーズとの共通化に期待
メニュー表示はタブがより細分化され、これまでの再生/撮影/セットアップから、再生 /撮影/動画撮影/絵づくり/セットアップ/Wi-Fiとなった。ここで注目は、新しく登場した絵づくりのメニューだ。ピクチャーコントロールのみならずホワイトバランスやISO感度設定などもこのメニューとする。
ただし、この括りにはあまり馴染みがないためか、うっかり忘れてしまうと右往左往することがあるかもしれない。実際、ISO感度の比較作例の撮影では、高感度ノイズリダクションに関する機能が撮影メニュー内に見当たらず、暫くメニューのなかを探しまわってしまったのである。馴れるまでには少々時間を必要とするかも知れない。
さらに、同社のデジタル一眼レフを使用している者からいえば、本モデルもそのメニューと同じ構成やデザインにしてもらえれば、あれこれ悩む必要もなくなると思うのだが、いかがだろう。
メニューで残念に思えるのが、AEブラケット機能を非搭載とすることだろう。同社は以前からエントリークラスのデジタル一眼レフとミラーレスに関してなぜか同機能を搭載しようとはしない。1インチセンサーのレタッチ耐性も考えると、AEブラケットはやはり必要に思えるし、本モデルの連続撮影コマ速を考えれば、AEブラケットで3コマ撮るのは本当に一瞬で、手間もかからないだろう。同社ミラーレスシリーズの上位モデルであるわけだし、ベテランユーザーの使用も考えているのなら、ぜひAEブラケット機能を搭載してほしいと思う。
Wi-Fiの搭載はもはや当然の成り行きだろう。先代モデルの場合、Wi-Fiを使おうと思ったらワイヤレスモバイルアダプター「WU-1b」を別途購入し、USB端子に装着しなければならなかっただけに、たいへんうれしく思える。Wireless Mobile Utilityをインストールしたスマーフォンとの接続方法は従来通りで、画像の閲覧、転送のほか、遠隔撮影も可能。スマートフォンよりも格段に高品質な画像をSNSやブログなどにアップできるはずだ。
動体撮影も諦めないミラーレス
Nikon 1 V3は、これまでにくらべ見た目も使い勝手もぐっと洗練された。特にEVFを別体としたことは、英断といってよい。たしかに買う側からすれば、内蔵されていたほうが感覚として安く手に入れられるわけだが、トップカバーのシェイプはそのトレードオフで、決してスマートとはいい難いものであったことを考えると、Nikon 1 V3のほうが遥かに魅力あるものに感じられた。
さらに高速で被写体追従性に優れたAFもこれまで以上。ミラーレスだからと諦めていたような被写体などこのカメラには存在せず、何よりAF追従で20コマ/秒を実現したことは驚きに値する。同社はキヤノンとともにミラーレスをどちらかといえば冷遇しているようにこれまで感じられてきたが、このカメラを見るかぎり本気度がひしひしと伝わってくる。