【新製品レビュー】キヤノンIXY 10S

タッチパネル液晶を搭載した5倍ズーム搭載モデル
Reported by 北村智史

 2009年9月発売のIXY DIGITAL 930 ISの後継であり、機種名から「DIGITAL」が消えた最初のシリーズ最上位となる。

 同じタッチパネル液晶モニターを採用しながら、前モデルは十字キーやホイールを使った従来どおりの操作系を残していたのに対し、本機はタッチパネルのみの操作系となったのが大きな違い。撮像素子もサイズは同じながら、有効1,210万画素から有効1,410万画素に増えている。

 大手量販店の店頭価格は約4万円。今回お借りできたピンクのほか、シルバー、ブラック、ゴールドの計4色のカラーバリエーションがある。


24mm相当からのズームレンズを搭載

 背面はまさに液晶モニターのみといった様相。前モデルが3型で23万ドットの液晶モニターを搭載していたのに対し、本機はサイズは3.5型に、ドット数も46.1万ドットにアップしている。画面比率は前モデル同様に16:9。ただし、静止画の縦横比は4:3しか選べない。なお、前モデルでは背面にあった操作パーツのうち、再生ボタンだけはボタンのまま生き残って上面に移動している。

 搭載レンズは24mm相当の広角からの光学5倍ズーム。望遠端は120mm相当まで。開放F値はF2.8〜5.9で、望遠端は少々暗め。レンズシフト式の手ブレ補正機構を内蔵している。スペックを見たかぎり、前モデルと同じレンズのようだ。違っているのは広角端の最短撮影距離の数字で、前モデルは通常時が50cmでマクロ時が5cmだったが、本機は通常時でも5cmとなった。要はオートマクロ機能を追加したということだろう。

 電源は前モデルにも採用されていたリチウムイオン充電池NB-6L。容量は1,000mAhで、CIPA基準の撮影可能コマ数は220コマ。前モデル(240コマだった)よりも若干減少している。記録メディアはSDメモリーカード系で、新しい規格のSDXCメモリーカードにも対応している。実写でのファイルサイズは、ラージ・ファインで平均で約3.52MBだった。

背面がタッチパネル液晶モニターだけになってしまった関係で、再生ボタンが上面に移動しているレンズシフト式手ブレ補正機構を内蔵した24〜120mm相当の光学5倍ズーム。スペックからすると前モデルと同じレンズのようだ
手ブレ補正は常時補正の「入」、露光時のみの「撮影時」、横方向の「流し撮り」が選べる。三脚撮影時は「切」が推奨されているシャッターボタンを半押ししている間、フォーカスロックせずに動く被写体にもピント合わせを行なう「サーボAF」を装備
バッテリーは前モデルと同じ。CIPA基準で220コマの撮影が可能。SDXC/SDHC/SDメモリーカードが使える(実際には裏向きに装填する)

多彩なタッチパネル機能

 前述のとおり、液晶モニターは16:9比率のワイド画面だが、静止画は4:3比率なので、左右に空きができる。その部分にタッチボタンが6つ配置されている(好みに合わせて移動させられる)。「P」をタッチすると撮影モードの変更、「FUNC.」に触れるとファンクションメニューが表示されるといった具合で、それぞれボタンをタッチすることで機能の変更が行なえる。

 一方、画面内に指を触れると「枠内をタッチするとピント合わせの位置を変更できます」とメッセージが表示される。親切心なのはわかるが、字が大きくて邪魔に感じることもありそうだ。とはいうものの、指で画面をタッチするだけで測距点の位置を変えられるのはとても快適。十字キーで動かすよりも格段に素早く操作できるのはタッチパネルのいいところだと思う。

 露出補正も、ボタンをタッチするとバーグラフ表示があらわれ、バーグラフ上をタッチすることで設定できる。プラス2/3のところをタッチすると、プラス2/3の指標がバーグラフの中央に動くといった具合。ただ、狙った位置(補正値)にうまくタッチできないケースがちょくちょくあって、ひと目盛行きすぎたり、足りなかったり、あるいは反応してくれなかったりすることもあった。このあたりは感圧式タッチパネルのいまいちな部分といえなくもないが、使い慣れれば気にならなくなるだろう。

 もちろん、再生時にもタッチ操作を使う。再生ボタンを押すと、例によって「タッチで拡大表示/動画再生しダブルタッチでインデックス表示します」と大きく表示してくれる。画面の両サイド部分をタッチするか、画面をドラッグすることで前後の画像に切り替えたり、決められたなぞり方をすることで画像を消去したりスライドショーを開始したりできる「タッチアクション」機能も利用できる。

撮影画面と液晶モニターの縦横比の違いから生まれる左右のスペースに、タッチボタンを並べた操作系。ボタン配置は自分で変えられる撮影モードの選択画面。誤操作を避けるためだろう、各モードのアイコンはかなりゆったりめに配置されている
ファンクションメニューの画面。ここではじめて「MENU」ボタンが表示されるのは不思議だ画面内をタッチすると表示されるメッセージ。初めての人には親切でいいかもしれないが、ちょっと大きすぎるのでは
でも、画面をタッチするだけで、測距点をさくっと移動させられるのは快適。これぞタッチパネルという感じで素晴らしい露出補正中の表示。画面内のバーグラフを直接タッチする。指先よりツメの先を使ったほうが、ねらいどおりの位置にヒットしやすい感じ
ボタンの配置は好みなどに合わせて変えられる。ただし、ファンクションメニューは画面左側に開くので、左側に置いたほうがよさそうプリセットのボタンレイアウトは3種類。「スタンダード」が初期設定で、ほかのは「DISP.」以外が片側にひとまとめになる
ボタンを移動させるときはこんな感じ
カメラの左右端をコツンとやるのにはちょっぴり勇気がいる。慣れられない人は「アクティブ再生」を「切」にするのがおすすめだ液晶モニターを指でなぞることで設定した操作を実行できる「タッチアクション」機能も備えている。

「連想再生」など新機能も

 再生関連の機能で興味深いものがある。ひとつは、Webサイトの記述によるところの「再生中の画像を元に、カメラが自動で関連のある4つの画像を選んで表示」してくれる「連想再生」だ。関連する4コマの画像のいずれかをタッチすることで、また別の4コマが表示されるというもの。どんな画像が出てくるかがまったくわからないのがかえって新鮮だったりする。

 もうひとつは、カテゴリーによる分類機能だ。撮影した画像に分類用のタグを付け、「絞り込み再生」で指定したカテゴリーの画像のみを表示するようにできるもの。最近は、大容量のメモリーカードが低価格化したこともあって、撮った画像を消去せずに、そのままモバイルアルバムとして利用している人も多いらしく、カメラ内検索機能の重要性はかなり高まっているといえる。本機の「マイカテゴリー」もそうした流れを受けてのものだろう。

 4GBのSDHCメモリーカード(安いのだと1,000円くらいで買える)に、ラージ・ファインで1,000コマ強の画像が保存できるわけで、その中から人に見せたい画像をさくっと探し出せる機能があれば心強い。

 が、使ってみての率直な感想は、あまり実用的とはいえない、である。一応、撮影時に自動的にタグ付けされるのだが、これが何を基準にしているんだか、納得できない分類をやってくれるのである。誰がどう見ても風景以外にありえない画像(広角端で遠距離で顔検出もオフにして撮ってるようなヤツとかね)が「人物」に分類されていたり、夜景バックの人物撮影向けモードの「ファンタジーナイトモード」で撮ったカットが「風景」に分類されていたりなど、首をかしげたくなってしまうのが多いのも問題だし、数百枚以上の画像に対して手動でカテゴリーわけをやる時間と手間がどこにあるのよ的問題もある。

 そのあたりをきちんとやってくれれば、もっともっと便利な機能になるはずだ。現時点ではまだまだ未完成といいたいレベルだが、今後には期待したい。

連想再生中の画面。4コマから1コマを選んでタッチすると画面が切り替わって、次の4コマが表示される。どういう基準なのか興味深い
再生時に「FUNC.」ボタンをタッチして、いちばん下の「マイカテゴリー」で分類用のタグ付けを行なうマイカテゴリーのタグのアイコンは7種類。1コマの画像に対して複数のタグを付けることも可能だ
再生時の詳細表示の画面ではマイカテゴリーのタグが確認できる。右上のボタンをタッチすると、全画面表示に切り替えられる(これ便利)「絞り込み再生」で「人物」カテゴリーのみを表示している状態。どうしてこの画像が「人物」に分類されているかは謎
インデックス表示は、6コマ(3×2)、12コマ(4×3)、48コマ(8×6)と130コマ(13×10)が可能

まとめ

 いちばんのポイントは、タッチパネルのみの操作系をどう受け止めるか、だろう。カメラの小型化と液晶モニターの大型化という相反する要求を満たすことのできるタッチパネル液晶は注目のデバイスといえる。しかし、従来の操作系にタッチパネル要素を組み込んだだけでは操作性はかえって悪くなる。タッチパネルにはタッチパネル専用に組み立てた操作系が必要なのである。

 もちろん、使っているうちに操作を覚えてしまうのだから、指が迷うようなことは少なくなる。が、人が機械に慣れるのではなく、技術が人に添うのが理想だと思うし、その点では本機の操作系はもっと成長すべきだろう。

 一方、十字キーなどを廃したことで、前モデルよりも液晶モニターが大きくなったこと、ドット数が2倍に増えたことはプラス材料だし、「連想再生」や「マイカテゴリー」といった試みも意欲は買える。また、シーンモードに新しく追加された「魚眼風」、「ジオラマ風」もお遊び的機能ではあるが、撮る楽しさを増やしてくれている。

 カメラとしての根幹であるレンズ性能もまずまず以上のレベルで、機能面でも不満を感じさせる部分は少ない。28mm相当の広角が物足りなく思える人には要チェックのモデルといえる。


実写サンプル

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。

・画角変化と歪曲収差

 広角端の歪曲収差は弱いタル型で、24mm相当のレンズとしてはよく抑えられているほうといえる。四隅の像の崩れもそれほど目立たない。120mm相当の望遠端はイトマキ型の歪曲収差が見られるが、これも気になるほどではない。

4.3mm(24mm相当)
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/100秒 / F4 / +0.3EV / ISO80 / WB:太陽光
21.5mm(120mm相当)
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/50秒 / F5.9 / +0.3EV / ISO80 / WB:太陽光

・魚眼風とジオラマ風

「魚眼風」は、魚眼レンズで撮ったかのような歪みを加えるもの。効果のレベルを「弱」、「中」、「強」から選べるが、やはり「強」が面白い(通常撮影のほうの作例はプリセットホワイトバランスの太陽光で撮ったせいで色味が違っているが)。

「魚眼風」モード。当然だが、レンズの画角よりも広く写るわけではなく、魚眼レンズ風の歪み効果を加えるモードである最近ハヤリの機能となりつつある「ジオラマ風」モード。画面の上下をボカしてミニチュアを接写したかのような雰囲気で撮れる

 いわゆる逆ティルト撮影のような効果が得られる「ジオラマ風」は、画面の上下をボカしてミニチュアっぽい画面に仕上げるもの(ボケ効果だけでなく、彩度も変化する)。ピントを合わせる範囲の広さを3段階に変えられるほか、上下に移動させることもできる。

通常
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/50秒 / F2.8 / 0EV / ISO80 / WB:太陽光 / 4.3mm(24mm相当)
魚眼風
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/60秒 / F2.8 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 4.3mm(24mm相当)
通常
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/60秒 / F4 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 4.3mm(24mm相当)
ジオラマ風
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/100秒 / F4 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 4.3mm(24mm相当)

・感度

 フル画素での感度の設定範囲はISO80からISO1600。ピクセル等倍で見て不満を感じないのはISO400までで、撮影状況などによってはISO800も使えなくはないレベル。ISO1600は非常用と割り切ったほうがよさそうな画質だ。

ベース感度はISO80で、フル画素での最高感度はISO1600。約345万画素記録となる「ローライト」モードでは、ISO6400までとなる

 シーンモードの「ローライト」は画素混合によって高感度を実現するもののようで、記録画素数は約1/4(2,411×1,608ピクセル)となる。感度はISO400からISO6400までの範囲で自動設定される。作例はISO400での撮影となったが、フル画素でISO400で撮った画像を50%に縮小したものと比べると、大きなアドバンテージがあるようには感じられなかった。

ISO80
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/60秒 / F2.8 / -0.7EV / WB:太陽光 / 4.3mm(24mm相当)
ISO100
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/60秒 / F3.2 / -0.7EV / WB:太陽光 / 4.3mm(24mm相当)
ISO200
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/80秒 / F4 / -0.7EV / WB:太陽光 / 4.3mm(24mm相当)
ISO400
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/160秒 / F4 / -0.7EV / WB:太陽光 / 4.3mm(24mm相当)
ISO800
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/250秒 / F4 / -0.7EV / WB:太陽光 / 4.3mm(24mm相当)
ISO1600
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/500秒 / F4 / -0.7EV / WB:太陽光 / 4.3mm(24mm相当)
ISO400(ローライト)
IXY 10S / 2,144×1,608 / 1/200秒 / F2.8 / -0.7EV / WB:太陽光 / 4.3mm(24mm相当)
  

・そのほか

ベース感度がISO80と低めで、望遠側は開放F値が暗いうえに、曇り空。で、1/10秒の条件だが、手ブレ補正の効果は十分だ
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/10秒 / F5.6 / -1.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 17.9mm(100mm相当)
マクロ切り替えなしでレンズ前5cm(広角端)まで寄れるのは便利なところ。が、背景のボケ味はもうひとつな印象だ
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/160秒 / F4 / 0EV / ISO80 / WB:太陽光 / 4.3mm(24mm相当)
望遠端での手ブレ補正の効き具合をチェックしつつ撮ったカットだが、なぜか「人物」カテゴリーに入っている
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/20秒 / F5.9 / -1EV / ISO80 / WB:オート / 21.5mm(120mm相当)
長い間に土が流されたのだろう、露出した根が不思議な光景を生みだしていた。これはさすがに手持ちではブレたので三脚を使った
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/13秒 / F5.9 / -1EV / ISO80 / WB:オート / 21.5mm(120mm相当)
コンパクトデジカメらしく、いちばん寄れるのが広角端。被写体に寄りつつ、背景を大きく取り入れる広角マクロが得意だ
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/160秒 / F4 / -1EV / ISO80 / WB:オート / 4.3mm(24mm相当)
枝にさげられた木札に品種が書かれている。冬至のころに花を付けるところから名付けられたらしい
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/400秒 / F4 / -0.7EV / ISO80 / WB:オート / 4.3mm(24mm相当)
めいっぱい寄ったときの撮影範囲は公称で80×60mm。コンパクト機のマクロ機能としては悪くないレベルだ
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/60秒 / F4 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 4.3mm(24mm相当)
広角端ではそれほど明るくないシーンでも絞りF4まで絞る一方、かなり明るくてもそれ以上に絞らない傾向がある
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/1250秒 / F4 / -0.7EV / ISO80 / WB:太陽光 / 4.3mm(24mm相当)
手ブレ補正の効果は、望遠端だとシャッター速度2段ちょいくらいありそう。1/20秒ならそこそこいけそうな感じだ
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/20秒 / F5.9 / +0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 21.5mm(120mm相当)
広角端でF4まで絞る傾向があるのは、周辺部の画質を上げるのと回折による小絞りボケを避けるのと両方の意味合いがあるのかも
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/80秒 / F4 / 0EV / ISO80 / WB:太陽光 / 4.3mm(24mm相当)
最近は、広角端より望遠端がいまいちなレンズが多い気がするが、本機は四隅以外はコントラストもいいし解像力も高い感じがする
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/160秒 / F5.9 / +0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 21.5mm(120mm相当)
広角端でも絞りF4だと四隅まできちんと解像しているし、色ニジミも気にならないレベル。24mm相当でこの画質なら十分だ
IXY 10S / 4,320×3,240 / 1/100秒 / F4 / -0.7EV / ISO80 / WB:太陽光 / 4.3mm(24mm相当)




北村智史
北村智史(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。2011年、東京の夏の暑さに負けて涼しい地方に移住。地味に再開したブログはこちら

2010/2/16 15:14