新製品レビュー

ライカM(Typ262)

静止画専用で身軽になった、ピュアなMデジタル

2014年にライカ誕生100周年を祝したライカカメラ社は、2015年も単焦点コンパクトの「ライカQ」やミラーレスの「ライカSL」など、話題に事欠かない。そして根幹たるM型にも新しい仲間が加わった。それが12月に発売された「ライカM(Typ262)」である。

これは2012年9月に発表されたライカM(Typ240)をベースにした派生モデルで、撮影性能的にTyp240を上回る製品ではない。近年のライカカメラ社が合言葉としている「本質」の観点から、たとえば「ライカMモノクローム」がモノクロ撮影に特化してオンリーワンの地位を築いたように、一点突破的なキャラクターを持たせたモデルのひとつといえる。

本稿では、ライカが「Typ262」という新しいM型ライカに与えた個性を検証してみる。

ライカM(Typ240)と何が違う?

結論から言うと、Typ240からライブビューと動画機能を省略して、レンジファインダーカメラとしてのM型ライカのアイデンティティだけを残したのがTyp262だ。後述するようにボディが軽くなっている美点もあるが、基本的には“静止画専用のシンプルモデル”と考えるのがわかりやすい。撮れる写真の画質に差はない。

シャッターボタンわきの「M」(MOVIE)ボタンを省略
ホットシュー下のEVF端子もない

ただし、単に動画系の機能を呼び出せなくしたのではなく、動画機能の搭載に必要な「ビデオキャリブレーション」という工程を製造時に省けることでコスト的なメリットが生まれたといい、Typ240を1割ほど下回る価格にまとまっている。

同じセンサーを搭載するTyp240については、すでに本誌のさまざまな記事に実写画像が掲載されているので、画質の傾向はそちらも参照していただきたい。

ライカM関連記事リンク集…ライカMのレビュー記事など
ライカレンズの美学…現行ライカレンズの紹介記事。Typ240を使用

フィルムライカ的な迷いのなさ

では、ライブビューがないと何が不都合なのか。ライブビューが便利に思える瞬間としては、どんなに広角や望遠のレンズであっても、また距離計に連動しないレンズであっても、画面でピントを見ながら視野率100%で確実に撮れる点だ。

ライカの一眼レフ用Rレンズをはじめ、マウントアダプターを介した各種レンズを取り付けて“フルサイズミラーレス”的に使うこともできる。ライカ自身も、Typ240にあわせてライブビュー前提で近接撮影ができるアダプターと、これとの組み合わせで最短撮影距離が80cm→41cmに縮まる「マクロ・エルマーM f4/90mm」を用意している。

だがそれは必ずしもM型ライカの仕事だろうか。Typ240が出た頃はまだ35mmフルサイズのミラーレスカメラが他に存在しなかったが、マウントアダプターで距離計非連動のレンズを楽しむつもりであれば、今ならライカMの1/2〜1/10程度の予算で買える他社ミラーレスをオススメする。

そんなわけで、デジタルのM型ライカをいわゆる「ライカ体験」のための道具とするなら、ライブビューがないTyp262で困ることは一切ないと思っていい。むしろTyp262を選ぶということは、正しくライカ道に足を踏み入れる(そして沼にはまる)覚悟を明らかにするもので、もし迷いがあるなら定番のTyp240を選べばよい。

2015年に新しく就任したライカカメラ社CEOに聞いた話では、今後はライカもスマートフォン連携を広めていきたい考えで、保守的なM型についてもWi-Fi機能などで“コネクテッド”にしていく考えがあるという。あくまでこれは筆者の想像だが、将来的には同じ「ライカM」の名のもとに、通信まで全部入りのモデルと写真特化の2モデルを並行させていくことも期待できる。

けっこう心躍る軽量化

ライカM(Typ240)は、フィルムライカに慣れた人ほど「重い」「分厚い」とこぼす。でも他に選択肢がないから仕方ないよね、というのが実情だ。それがTyp262では、トップカバーの素材をアルミに変更したことで約100gの軽量化を実現している。

具体的にはバッテリー込みの状態で680g→600gになっていて、ライカM9世代と同じ重量になったわけだ。つまり、フィルムのM型ライカともそう変わらないレベルに戻った。Typ240ユーザーなら、持ち上げた瞬間に違いがわかる。冒頭に「Typ262は性能的にTyp240を上回るカメラではない」と書いたが、この重量の差は考え方次第で大きな新機能とも言える。

Typ240との細かな違いとして、赤ロゴがライカM9までの小ぶりなものになっている

ブラックアルマイト仕上げのアルミ削り出しトップカバーは、M型ライカとしては初めてのもの。素材が珍しいからといって、見た目や質感がなんだかヘンということは全くない。手のひらに伝わるサラサラとしたテクスチャーは独特のものだが、外観上は目ざとい愛好家がようやくTyp240とTyp262を識別できるほどの差しかない。

ライカM(Typ262)と、約30年前のフィルム機ライカM6(右)。実用然としたつや消しブラックに相通じるものを感じる

静かなシャッター音

この素朴なライカ、思った以上に見どころが多くて驚いている。Typ262のシャッターは、単写時のみ露光後のシャッターチャージをゆっくりと行い、動作音を抑えている。“ディスクリート”を美とするライカとして、より好ましいアプローチと言えるだろう。

製品発表時にドイツ本社のプロダクトマネージャーに聞いた話では、シャッターユニット自体は同じで、ソフトウェア的な動作シーケンスの違いしかないというが、筆者所有のライカM(Typ240)と比べると、全体的に高音が控えめに聞こえた。筆者自身は、試用したTyp262のフィーリングのほうがより好みだった。

保守派の気持ちに応える1台

振り返れば2012年のフォトキナでお披露目された現行のライカM(Typ240)には、M型ライカがデジカメ的に“便利になってしまった”とショックを受ける日本のライカファンが少なくなかった。あれから3年が経った今でも、それ以前のライカや、他社のミラーレスカメラを使って“様子見”のスタンスをとっているライカユーザーは確実に存在する。

きっとそのライブビュー関連の機能だって、ドイツのライカカメラ社的には“よかれ”と思って搭載したに違いないが、特に1954年登場のライカM3を頂点とするM型ライカに思い入れが強い日本のカメラ文化・ライカ土壌は、それを受け止めきれなかったように感じる。

そう考えると新しいTyp262は、ライカM9以前を懐かしむユーザーの心理と、最新ハードウェアゆえのTyp240の快適さをうまく融合し、伝統を重んじるライカファンの心情に応える最適解なのかもしれない。トラッドな写真撮影以外の可能性を削ぎ落としたことで、M型ライカに求められる本質的要素だけが残ったわけだ。

実写サンプル

使用レンズはSUMMILUX-M F1.4/50mm ASPH.。DNG+JPEGのJPEGデータを掲載。

(本誌:鈴木誠)