新製品レビュー
FUJIFILM X-T1
プロユースも視野に入れたXシリーズ新機軸
Reported by澤村徹(2014/2/28 08:00)
富士フイルムXシリーズに、新しく一眼レフ風スタイルを採用した「FUJIFILM X-T1」が加わった。Xシリーズのミラーレス機は、フラッグシップ機のX-Pro1、スタンダード機のX-E2という構成だったが、ここに新機軸のX-T1が名を連ねる。X-Pro1の後継ではなく、X-Pro1とX-T1のツートップ体制といえる。X-Pro1が光学ファインダーとEVFを同時搭載した趣味性の高いモデルであるのに対し、X-T1は防塵防滴対応でプロユースも視野に入れたモデルである。とはいえ、実用一辺倒のカメラではない。既存のXシリーズと同様、カメラ好きのマインドを様々なギミックで刺激してくれる。早速、X-T1の魅力を見ていこう。
まず本機を語る際、デザインに触れなくてはなるまい。オリンパスOM-Dシリーズ、ソニーα7/7Rに次ぎ、このX-T1もペンタ部付きのEVF内蔵モデルに仕上がっている。海外、特に欧米では、ペンタ部がないと本格カメラとして認めてもらえないという風潮があるとか。高性能ミラーレス機をワールドワイドで展開する際、ペンタ部付きのカメラ然としたデザインが必須なのかもしれない。
既出のOM-Dやα7/7Rは往年のカメラスタイルを踏襲しつつも、デジタルカメラを主張したデザインだ。それに対し、X-T1はフィルムカメラの印象を色濃く残し、「フジカSTに似ている」「コンタックスRTSっぽい」など、リリース当初から様々な意見が飛び交っている。ちなみに、筆者はローライフレックスSL35Eに激似と確信している。X-T1を見てどんなカメラを思い出すかで、その人のカメラ遍歴やカメラの志向性が垣間見えるかもしれない。
イメージセンサーは有効1,630万画素のAPS-Cサイズで、ローパスレスのX-Trans CMOS IIを搭載している。画像エンジンはEXR Processor IIだ。イメージセンサー上に位相差画素を搭載し、位相差AFとコントラストAFを自動で使い分けるインテリジェントハイブリッドAFを実現している。もちろん従来機同様、点像復元技術にも対応する。デジタルカメラとしての心臓部は実のところX-E2と同等だが、AF追従時の連写スピードがX-E2では秒間3コマであるのに対し、X-T1は秒間8コマに向上した。ISO感度も拡張感度でISO51200に対応している。既存モデルと同等の高画質を保ちつつ、パフォーマンスの向上が図られているわけだ。
本機はプロユースも念頭に置き、Xシリーズ初の防塵防滴ボディとなった。約80点のシーリングにより、ホコリや水気をシャットアウトする。さらにマイナス10度の耐低温性能も備えた。既存のレンズは防塵防滴仕様ではないものの、開発発表済みのXF 50-140mm F2.8 R OIS WR、XF 16-55mm F2.8 R LM OIS WR、XF 18-135mm F3.5-5.6 R LM OIS WRの3本が防塵防滴対応となる予定だ。また、オプションの縦位置グリップも防塵防滴仕様になっており、その徹底ぶりが感じられる。
記録媒体はSDカードの新規格UHS-IIにデジタルカメラとして初めて対応し、高速なデータの読み書きが可能だ。従来のUHS-I対応SDカードは電子接点が1列だったが、UHS-II対応SDカードは電子接点が2列に増え、より多くのデータを短時間でやり取りできる。富士フイルムによると、X-T1とUHS-II対応SDカードを組み合わせた場合、連写後のデータ書き込みでアドバンテージがあり、UHS-I対応SDカードのおよそ半分の時間で書き込みができるという。
そこで、実際に連写時の書き込み時間を測定してみた。現在UHS-II対応SDカードは、サンディスクと東芝から発売されている。それぞれX-T1に装着してフォーマットし、JPEG+RAWで高速連写した。シャッターボタンを押して、連写速度が遅くなった時点で指を離す。シャッター押下げからアクセスランプが消灯するまでの時間を手動測定した。
サンディスクのエクストリーム プロSDXC UHS-IIカード(64GB)は約14秒、東芝のEXCERIA PRO UHS-II SDHCカード(16GB)も約14秒だった。UHS-Iの例としてサンディスクのエクストリーム プロ SDHC UHS-I カード(16GB)で試したところ、約19秒という結果になった。UHS-II対応SDカードを使うことで書き込み時間が確実に短縮し、そのパフォーマンスの良さは体感できるレベルだ。
ちなみに、高速連写可能な撮影枚数(シャッター押下げから連写間隔が遅くなるまでの間に撮影できた枚数)は、どのメモリーカードでも22枚前後という結果だった。連写可能枚数はカメラ側のバッファメモリーの容量によるところが大きく、メモリーカードの転送速度はさほど影響しない印象だった。
Xシリーズの真骨頂はファインダーにある。X-T1もご多分にもれず、ファインダー環境が充実したモデルだ。内蔵EVFは236万ドットの高精細有機ELを採用し、デジタルカメラで世界最大級のファインダー倍率0.77倍を誇る。また、表示タイムラグ0.005秒というスペックも特筆に値するだろう。実際にファインダーをのぞくと、その広大な視野に飲み込まれそうな錯覚すらおぼえる。
さらにマルチモード・ビューファインダーを新たに搭載し、フル/ノーマル/2画面の切り替えが可能だ。フルは画面いっぱいに像を写し、大型ファインダーの強みを活かしたモードだ。ノーマルは従来型のモードで、フレーミング重視の際に使いやすい。フルおよびノーマルで縦位置にすると、各種情報表示も回転する。ファインダーはいわばカメラのコックピットなので、このアイディアは実にありがたい。
2画面モードはオールドレンズファンに注目してほしい機能だ。このモードはMF時に選択可能となり、ファインダー上にメインとサブ、ふたつの画面があらわれる。サブ画面はメイン画面の中央部を拡大表示したもので、要はファインダー上で全体像と拡大像を同時に見ることができるのだ。サブ画面の拡大倍率は6倍固定で、欲を言うと10倍超えしてほしいところだが、今回いくつかのオールドレンズで試写した範囲では十分快適にピント合わせできた。
このマルチモード・ビューファインダーは、本体背面のDISPボタンで切り替えられる。加えて、FOCUS ASSISTボタンを長押しすると、フォーカスアシスト機能をデジタルスプリットイメージ、フォーカスピーキング、スタンダードと切り替えることが可能だ。このフォーカスアシストの切り替えは2画面モードの拡大画面にも適用される。つまり、DISPボタンとFOCUS ASSISTボタンを操作するだけで、ファインダー環境をすばやくスイッチングできるわけだ。単に多機能というだけでなく、実用できるファインダー機能に仕上がっている。
操作面ではダイヤルオペレーションへのこだわりが突出している。軍艦部を上から見ると、露出補正、シャッタースピード、ISO感度といった3つのダイヤルが並ぶ。さらにペンタ部両サイドのダイヤルは2層式になっており、シャッタースピードダイヤルの下は測光モードダイヤル、ISOダイヤルの下はドライブモードダイヤルを備えている。要は5つのダイヤルを搭載しているわけだ。さらにグリップ部と背面にコマンドダイヤルを備え、露出モードに応じて絞りとシャッタースピードを直感的にコントロールできる。
これらのダイヤルを駆使することで、クイックオペレーションは無論のこと、ファインダーから目を離さずに撮影に専念できるだろう。これまでミラーレス機はメニュー画面に依存する度合いが大きかったが、X-T1はフィジカルコントローラーを多数搭載し、直感的かつスピーディーな操作を実現しているのが特徴といえるだろう。
ファンクションボタンの充実も本機の特徴だ。本体フロント面と軍艦部にひとつずつ、そして十字キーがそれぞれファンクションボタンとして機能する。合計6つのファンクションボタンがあり、任意の機能が割り当て可能だ。従来機は十字キーに該当機能のマークが付いていたが、X-T1はファンクションボタン化にともない何もマークがない。ファンクションボタンに割り当てた機能を確認するときは、DISPボタンを長押ししよう。これで割り当て機能の一覧が液晶モニターに表示される。また、各ファンクションボタンを長押しすると、機能割り当ての設定画面があらわれる。ファンクションボタンの使い勝手にも十分な配慮が感じられる仕様だ。
X-T1はプロユースを意識しているだけあって、信頼性と直感的操作に重きを置いている。単に機能を増やすのではなく、有用な機能をシンプルに使える配慮に満ちたモデルだ。マルチモード・ビューファインダーとダイヤルオペレーションは、その最たる例と言えるだろう。X-T1はX-Pro1と同様、Xシリーズのハイエンドモデルとして登場した。しかし、X-Pro1とは明確な差別化が図られており、X-Pro1とX-T1の2台持ちというスタイルも考えられるだろう。