新製品レビュー
ニコンDf
官能に訴えかける唯一無二のデジタル一眼レフ
Reported by 大浦タケシ(2013/11/27 08:00)
「ONLY ONE D-SLR」、これが新しいニコンDfのコンセプトだ。直線的なフォルムやトップカバーのメカニカルダイヤルなど、かつてカメラが持ち合わせていた精密機械としての感触を復活させ、さらにニコンらしさを追求したこれまでにないデジタル一眼レフである。
そのスタイルは、往年の写真愛好家には懐かしく、新しいカメラファンには新鮮にも映ることだろう。Dfのfとはfusion(融合)の頭文字だそうだが、新しいものと普遍的なものを融合したこのカメラの詳細を見ていくことにしよう。
何といってもまず注目すべきはそのスタイリングだ。フィルム一眼レフのニコンFM/FEシリーズを彷彿とさせるペンタカバーや直線を基調としたシェイプ、軍艦部に所狭しと並ぶメカニカルダイヤルなど、その外観は紛れもなく70年代から80年代にかけて生産されたMF一眼レフのオマージュである。右手側の軍艦部はシャッターダイヤルのほか撮影モード、レリーズモードの各メカニカルダイヤルを、その反対側にはISO感度と露出補正のメカニカルダイヤルを設置する。
特にシャッターダイヤル上面に刻まれるシャッター速度の表記は何度も見ても懐かしさを感じるとともに、このカメラのアクセントのひとつにもなっている。これらメカニカルダイヤルは金属製で、精巧なローレット加工も施されるなど高い質感を誇る。
さらに、カメラ前面部にあるサブコマンドダイヤルも特徴的だ。通常デジタル一眼レフではグリップ上にこのダイヤルを配置することが多いが、Dfでは同社のコンパクトデジタルカメラCOOLPIX P7100のように、ボディ前面に貼り付いたように置かれる。グリップが小振りなものであるためこの位置・形状となったと思われるが、ニコンI型(ニコンカメラ)に通じるコンタックスのフォーカスダイヤルがモチーフと聞く。
また、レンズ取り外しボタンやFnボタンなどエッジに銀色の縁取りのなされた円形状のものとするが、これらはニコンF2やFMシリーズを意識しているという。
ボディサイズは、デジタル一眼レフゆえ残念ながらFM/FEシリーズのようにコンパクトとはいえない。ボディの高さや厚みは他のミドルクラスのフルサイズ機と大きく変わらず、一般的な日本人の手の大きさであればやや持て余し気味となるサイズだろう。とはいえ、決してその印象は悪くはなく、それなりに手に馴染みやすく写真を大いに撮る気にさせる。グリップのホールディング感も上々である。なお、重量はニコンの35mmフルサイズデジタル一眼レフとして最軽量の765g(バッテリー、メモリーカード込み)を実現している。
ボディカラーも往年のフィルムMF一眼レフ同様、ブラックとシルバーを用意。購入を考えている写真愛好家は、その選択に大いに悩むことだろう。ちなみに今回のレビューでお借りしたDfのカラーはブラック。使い込むと貫禄の出そうな印象である。ただし、ボディはマグネシウム合金製であるため、真鍮のように塗装が剥がれ金色の地金が出ることはない。メーカーの担当者の話では、真鍮を使うと重くなってしまうことと、真鍮を加工できる業者が現在は限られていることなどがあり、マグネシウム合金の採用に落ち着いたということである。ちなみに、ボディは防塵防滴構造としている。
このカメラの性格を決定づけるもうひとつのポイントが、イメージセンサーだろう。D800/D800Eの3,630万画素のものでも、D610/D600の2,426万画素のものでもなく、D4と同じ有効1,625万画素のCMOSセンサーを採用した。階調再現性や高感度特性などからこのイメージセンサーとしたようだが、闇雲に画素数を追わず描写に重きを置いたことは好ましく感じられる。画像処理エンジンもD4と同じEXPEED 3で、実効感度はISO100からISO12800まで。拡張機能により最低感度はISO50相当に、最高感度はISO204800相当の設定も可能としている。
ちなみに本モデルでは、Ai用のツメ(露出計連動レバー)を跳ね上げ、Aiレンズよりも前の世代、いわゆるオールドニッコールでの撮影も楽しめる。このように非Aiレンズに対応したニコンデジタル一眼レフは初めてで、外観デザインとともに本機が注目を集めるポイントのひとつだろう。参考までに筆者の所有するオールドニッコールやAiニッコールによる作例も記事末に掲載するので、見ていただければと思う。
ファインダーは、視野率100%(FXフォーマット時)、倍率0.7倍とする。ファインダースクリーンのピントの山は掴みやすく、マニュアルフォーカスのニッコールレンズを使用した撮影でも不足は感じない。また、APS-C機用のDXニッコールを装着した場合、他のニコンフルサイズ機と同じくDXクロップ機能が働き、その際ファインダースクリーンにはその撮影範囲を示す罫線も自動的に表示される。ちなみにDXニッコールを装着したときの視野率は上下左右とも97%、記録画素数は680万画素としている。
AFはD610/D600と同じ39点マルチCAM 4800オートフォーカスセンサーモジュールを採用。中央9点はクロスタイプとするほか、中央に加え、左右それぞれ2つ、上下それぞれ1つの計7点は開放F8測距対応と心強い。AFエリアモードについてもD610/D600と同じとしており。シングルポイントAF、ダイナミックAF(9点、21点、39点)、3D-トラッキング、オートエリアAFから選択を可能としている。
最高シャッター速度は1/4,000秒。これに関しては些か不満の残るところ。明るいシーンでより浅い被写界深度で写したいときや、少しでも大きなボケをつくりたいときなど、1/8,000秒があればと思うこともありそうだ。
最高コマ速は5.5コマ/秒とする。Dfのユーザー層の使い方を考えると不足を感じるようなことは少ないだろう。それよりもシャッター音は耳障りな高音を抑えたもので、さらにキレもよい。筆者所有のD800と比較してみたが、Dfのほうがぐっと上質。個人的には、これまでのどのデジタル一眼レフにも勝るように感じられる。店頭などで手にする機会があったら、ぜひ他のカメラと聴きくらべてみてほしい。
撮影時の操作については、これまでとさほど大きくは変わらない。露出関連では、絞り優先オートのときはカメラ前面にあるサブコマンドダイヤルで絞り値の設定を、シャッター優先オートのときは当然のことながらシャッターダイヤルでシャッター速度を設定する。また、シャッター優先オートとマニュアル時は、シャッターダイヤルを[1/3STEP]に合わせればカメラ背面にあるメインコマンドダイヤルで1/3段ステップの設定も可能としている。
メカニカルダイヤルの操作感も上々だ。クリック感は心地よく、何より設定状態がすぐに把握できる。露出補正ダイヤル、ISO感度ダイヤル、露出モードダイヤルにはロック機構を備えており安心して撮影が楽しめる(シャッターダイヤルも1/3STEPのみロックが付いている)。カメラ背面部の操作系のレイアウトに関しては、D610/D600などと大きくは違わない。ただし、動画機能を搭載していないので、それに関する操作部材は当然省略されている。液晶モニターは固定タイプで、3.2型、92万ドットとする。
ところでカメラ前面部にあるサブコマンドダイヤルは右手人指し指で操作するが、手が小さいと操作に苦労するかもしれない。筆者の手でもちょっと遠くに感じており、あと2、3mmカメラ側面に寄った位置に付いていたらと思う。もっともそうなると指の大きいユーザーは使い勝手が悪くなってしまうかもしれないが。さらに露出補正ダイヤルに関しては、カメラを構えたままではたいへん操作しづらい。右手親指で操作できる位置に露出補正ダイヤルを設置するか、メインコマンドダイヤルでも露出補正ができるようにしてほしく感じる。
前述しているように、DfはAi化されていない古いニッコールレンズの装着も可能としている。ただし、そのようなレンズを使用する際はいくつかの約束事がある。まず、ひとつがマウントに沿うようにある絞り連動レバーを跳ね上げなければならない。次に、セットアップメニューのレンズ情報手動設定に使用するレンズを登録しておき、装着時にはそのレンズ情報を選択する。これについてはAi化されているレンズも同様だ。さらに、セットした絞り値をその都度サブコマンドダイヤルでカメラに読み込ませる作法も必要とする。これらを行なわないと正確な露出は得られない。面倒なことが多いが、レンズのカニ爪と連動させる露出計連動ピンを持たないDfでは致しかたないところだろう。
ただし、セットアップさえ終えてしまえば、絞り優先AEでの撮影も可能。手間はかかるが、これまで非Aiのオールドニッコールを装着できる35mmフルサイズセンサーのデジタル一眼レフは無かっただけに、古くからのニコンファンやレンズマニアにとってDfは貴重な存在になることだろう。合わせてニコンというカメラメーカーの懐の深さも感じさせる。
デジタルカメラ全盛の現在でも、MF時代のフィルム一眼レフに対するある種の憧れや郷愁を持つカメラ愛好家は少なくない。精密機械らしい金属製ボディの高い質感やメカニカルダイヤルを中心とするアナログ操作の軽快感など、従来のデジタル一眼レフにはない官能に強く訴えかける部分が多々あるからだ。
Dfは、そのようなMF時代のフィルム一眼レフに持つ我々のイメージを同社なりに解釈し、さらにニコンらしさを加えデジタルとして甦らせたカメラである。しかも静止画撮影に特化したものとしており、動画機能はもちろんのことWi-FiやGPSも外付け対応で内蔵されていないという潔さ。「ONLY ONE D-SLR」というコンセプトのとおり、写真撮影を純粋に楽しみ、かつカメラとしての操作感や所有感をこれまでになく味わうことのできる唯一無二のデジタル一眼レフなのである。
実写サンプル
- ・作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- ・縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
・感度
・ピクチャーコントロール
・作例
・その他ニッコールレンズ実写サンプル