【新製品レビュー】FUJIFILM X-E1
富士フイルムから発売された「FUJIFILM X-E1」(以下X-E1)は2012年1月に発売された「FUJIFILM X-Pro1」(以下X-Pro1)とおなじく、同社が展開する「Xシリーズ」に属するミラーレスカメラである。その外観はX-Pro1と同様、往年のレンジファインダーカメラを彷彿とさせるもの。イメージセンサーにもX-Pro1と同じく、ローパスフィルターレスの「X-Trans CMOSセンサー」を採用する。
XF 18-55mm F2.8-4 R LM OISを装着したFUJIFILM X-E1。発売は11月7日。ボディのみの実勢価格は8万9,800円前後 |
今回はX-E1の発売に併せて登場したXマウント初のズームレンズ「XF 18-55mm F2.8-4 R LM OIS」と組み合わせ撮影した画像をもとに、X-E1の使用感をレポートしたい。
■アナログにこだわった操作系
X-E1のシルエットはまさに往年のレンジファインダーカメラそのものだ。ボディは長方形の箱型で、一眼レフ特有のペンタプリズム部はない。レンズマウントは中央部の少し左手寄りとなり、ファインダーはレンズマウントの真後ろではなくカメラ左手端に位置する。電子ファインダー(EVF)なのでカメラ前面にガラスのファインダー窓こそないが、カメラ上面に配置されたシャッタースピードダイヤルや露出補正ダイヤルの趣はまさしく銀塩カメラのものだ。しかも、シャッターボタンにはねじ込み式のケーブルレリーズが使用できるというこだわり様だ。
カメラ背面部に配置されたボタン類は、基本的には1ボタン1機能が割り当てられており非常にシンプル。メニュー操作は上下左右方向のボタンで操作。右手親指が当たる箇所にはコマンドダイヤルが用意されている。このコマンドダイヤルはメニューの選択のほか、MF時や画像再生時の画面拡大などに使用する。
カメラ上面のダイヤル類。フイルム巻き上げレバーこそないが、その趣は銀塩カメラを意識したもの。 | 背面のボタン類はカメラを構えたままでも親指で操作できる配置。ただし右肩部の露出補正ダイヤルに関してはファインダーを覗きながらでは回転させにくい。 |
「Q」ボタンを押して「クイックメニュー」を表示。コマンドダイヤルを使用して各項目を設定することができる。 | AFポイントの切り替えは、左手をレンズから持ち替えAFボタン(背面左下)を押したうえで右手側の上下左右ボタンで移動させる必要があり、ファインダーを覗きながらの操作は非常に難しい。 |
カメラ前面レンズマウント横にフォーカスモード切り替えレバーがある。慣れればファインダーを覗きながらでも切り替えが可能。ただし持ち歩く際に誤って切り変わってしまうことも多いので注意が必要だ。 | AF補助光/セルフタイマーランプ。X-E1には操作音を一時的に消す「マナーモード」が用意されており、その際にはAF補助光も発光しない。 |
左右水平方向の電子水準器を内蔵。背面モニターおよびファインダー内に水準線を表示させることができる。画面中央に記された白いラインを青い水準線と重ねることでカメラを水平に合わせることができる。 |
■「覗いて撮る」が前提
X-E1は、X-Pro1に搭載されていた光学式ファインダーとEVFが融合した「ハイブリッドマルチビューファインダー」を省くことで、EVFのみに簡素化したモデルと言える。それによりX-Pro1に比べサイズは小型化し、質量も約100g軽量化されている。
ただし単なる簡素化ではなく、X-Pro1のEVFが0.47型約144万ドットの液晶電子ビューファインダーであったのに比べ、X-E1では0.5型約236万ドットの有機EL電子ビューファインダーへと変更されている。さらにファインダーを覗いたときの視野角が約25度と広くなった点などから、X-E1もまた、“ファインダーを覗いて撮る”カメラであることを意識したモデルであることがわかる。
実際にファインダー内の画面はコントラストも高くピントの山も掴みやすい。アイポイントが約23mmと長めに設定されているので、メガネを常用している筆者でもファインダーがケラレることはなかった。またX-Pro1には搭載されていなかった視度調整機構が搭載された点も嬉しい点だ。
ただし、一般的な一眼レフタイプのようなペンタプリズム部がないおかげか、直射日光のもとでの撮影では目に日光が射し込むことが多く、手で目の周りを覆わないとファインダー内が見えないことがあった。
ファインダー内の画像。有機ELでコントラスト、発色ともに良い。EVFだからこそ、さまざまな情報をファインダー内の画面で確認しながら撮影することができる。それだけに表示させる項目はシンプルにセレクトしたい。 |
■ローパスフィルターレスで高精細な記録画像
X-E1に搭載されているイメージセンサーはX-Pro1に搭載されているX-Trans CMOSセンサーと同じものだ。X-Trans CMOSセンサーとは、一般的なベイヤー配列のセンサーで採用されている2×2で構成される4画素単位のカラーフィルター配列とは異なり、6×6の36画素を一単位としたカラーフィルター配列を採用したものだ。
これにより、偽色やモアレの発生を大幅に軽減することができるという。この方式を採用することで、光学ローパスフィルターを使用せずともモアレを防ぐことができるため、解像感の損失に繋がるローパスフィルターの影響を受けることなくAPS-Cサイズ相当のセンサーながらも、35mmフルサイズセンサーに匹敵するクオリティの画像を得ることができるという。
X-E1のイメージセンサーは、X-Pro1と同等の1,630万画素X-Trans CMOSセンサー。また画像エンジンも「EXRプロセッサーPro」を採用しており、撮影画像のクオリティはX-Pro1と同等のものとなる。 |
実際に撮影した画像を見ると、実に精細感が高いのに驚く。無機質なもので構成された建造物などの硬質な描写から、草木など自然のなかの造形物にいたるまで、とても質感を忠実に再現してくれる。とくに細かい葉のパターンやビルの窓格子など、モアレの出やすい被写体に関しても実にクリアに描写されているので驚く。
また人物撮影では、肌の肌理までもリアルに描写しつつ諧調豊かに捉える事ができる。目元の睫毛から、髪の毛の1本1本まできれいに分離されることで、アウトフォーカスとの対比により気持ちのよい立体的なポートレートとすることができるのだ。
■フィルムでの仕上がりをシミュレーション
X-E1には色彩や諧調表現を切り替えることができる「フィルムシミュレーションモード」が搭載されている。これまで富士フイルムから発売されたポジフィルムやネガフィルムなどの色味や諧調に近い描写を得る事ができるモードだ。
「フィルムシミュレーション」はメニューから選択する。 |
再現出来るフィルムおよび色彩は、PROVIA(スタンダード)、Velvia(ビビッド)、ASTIA(ソフト)、PRO Neg. Hi(すこし硬調)、PRO Neg. Std(すこし軟調)、モノクロ、モノクロ+Yeフィルター、モノクロ+Rフィルター、モノクロ+Gフィルター、セピアの10種類となる。
これらのうち、PROVIA、Velvia、ASTIAというフィルムを実際に使用してきた経験のある人ならその仕上がりを想像することはできるであろう。このような表現をあえて採用しているところは、X-E1を選択するであろう、写真好きなユーザー層を想定しての演出だともいえる。
■ノイズレスに限りなく近づいた高感度撮影
ローパスフィルターレスのセンサーは高感度撮影時の画質向上にも貢献するという。記録に同じ被写体を感度を変えて撮影した作例を用意したのでご覧いただくとよくわかるが、高感度撮影時においても驚くほどにノイズが少ない。常用感度であるISO200~6400のあいだでは、ほとんどノイズを気にする必要もない。拡張感度域のISO12800~25600に及ぶとさすがに暗部にノイズが表れてきて細部のデティールも喪失してくるが、けっして使用を躊躇うほどのものではない。
これほどの画質であれば通常の撮影の範疇は、自在にISO感度を変えることで被写体の状況に対応した撮影を行なうことができる。状況に合わせて自動的にISO感度を変更してくれるISOオートも搭載されているので、日常のスナップ撮影などでは積極的に使用してもいいだろう。
カメラ底面にバッテリー室とメディアスロットが併設。使用できるメディアはSDXC/SDHC/SDメモリーカード(UHS-I対応)。 | カメラ上面に手動ポップアップ式の内蔵フラッシュを搭載。ガイドナンバーは7(ISO200・m)。専用ワイヤレスフラッシュのコマンダー機能も搭載。 |
■Xマウント初の標準ズームレンズ
今回の撮影はすべて「フジノンレンズXF 18-55mm F2.8-4 R LM OIS」で撮影を行なった。このレンズは、これまで単焦点レンズのみであったXマウント用レンズに加えて、初の標準ズームレンズとして開発されたものだ。
X-E1にXF 18-55mm F2.8-4 R LM OISを装着。F2.8-4という明るさだが比較的スリム。X-E1とのバランスもよい。 | レンズ付け根のスイッチは、プログラムおよびシャッター優先での撮影時は「オート」、絞り優先とマニュアル時は「手動」に切り替えることで鏡胴の絞りリングで絞り値セットできるようになる。絞り値は1/3段ごとの設定が可能。 |
高品位なレンズであることを前提に開発されたXマウント用ズームレンズであるだけに、その描写力は非常に高い。非球面レンズ3枚、異常分散レンズ1枚を含む10群14枚で構成されており、35mm判換算で27-84mm相当の画角をカバーする。最短撮影距離は広角端約30cm、望遠端約40cmとスナップ撮影からポートレート撮影まで扱いやすい。
レンズ内にAF用と手ブレ補正機構用のリニアモーターをそれぞれ内蔵することで、同社の話ではX-E1との組み合わせでは約0.1秒というAFスピードを実現したという。実際の使用でもAFは速くストレスはない。レンズ内手ブレ補正機構は4段分の性能をもっており、しっかりとしたホールドを行なえばある程度のスローシャッターでも手ブレせずに撮影できた。
■クラシカルな見た目だが高いポテンシャルを持つ
今回はこのX-E1を携え、街でのスナップ撮影や人物ポートレート撮影を中心に行なったわけだが、当初は普段使用している一眼レフタイプのカメラとの操作性の違いやファインダーの位置の違いなどに戸惑いを感じることが多かった。
そのなかでも露出補正ダイヤルの操作とAFポイントの移動のための操作は、ファインダーを覗きながらでは頻繁に操作することは難しい。そういう意味で私にとってはX-E1は速写性の高いカメラとは言い難いだろう。しかし撮影した画像をパソコンに転送して細かく見る事で、その画質の良さに驚かされてしまった。
日頃からローパスフィルターレスのカメラを使用している私だが、このX-E1が持つポテンシャルは高く、また高感度特性の良さなど撮影状況に左右されない強みを感じた。そのクラシカルな外観からは、一見、デザインを重視するユーザー向けの製品のようにも思えるが、実のところはかなり硬派なカメラとして仕上がっているといえる。
先に述べた操作性など改善してもらいたい点はあるが、手にする事の楽しみとハイクオリティな写真を撮影することを同時に満足することができる、いまのデジカメとしては希有な存在だと言えるだろう。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
・フィルムシミュレーション
※共通設定:X-E1 / XF 18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 4,896×3,264 / 1/450秒 / F8 / +1.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 55mm
PROVIA | VELVIA | ASTIA |
PRO Neg. Hi | PRO Neg. Std | モノクロ |
モノクロ+Yeフィルター | モノクロ+Rフィルター | モノクロ+Gフィルター |
セピア |
※共通設定:X-E1 / XF 18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 4,896×3,264 / 1/210秒 / F11 / +0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 55mm
PROVIA | VELVIA | ASTIA |
PRO Neg. Hi | PRO Neg. Std | モノクロ |
モノクロ+Yeフィルター | モノクロ+Rフィルター | モノクロ+Gフィルター |
セピア |
・感度別
※共通設定:X-E1 / XF 18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 4,896×3,264 / F5.6 / +0.7EV / 絞り優先AE / WB:オート / 28.9mm / フィルムシミュレーション:PROVIA
ISO200 | ISO400 | ISO800 | ISO1600 |
ISO3200 | ISO6400 | ISO12800 | ISO25600 |
・作例
X-E1 / XF 18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 約5MB / 3,264×4,896 / 1/85秒 / F6.4 / +0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 32.9mm / フィルムシミュレーション:PROVIA / モデル:夏弥 | X-E1 / XF 18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 約4.4MB / 3,264×4,896 / 1/150秒 / F4.5 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 55mm / フィルムシミュレーション:PROVIA / モデル:夏弥 |
X-E1 / XF 18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 約4.8MB / 3,264×4,896 / 1/120秒 / F4 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 25.4mm / フィルムシミュレーション:PROVIA / モデル:夏弥 | X-E1 / XF 18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 約4.2MB / 3,264×4,896 / 1/100秒 / F3.6 / +0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 34.3mm / フィルムシミュレーション:PROVIA / モデル:夏弥 |
X-E1 / XF 18-55m-m F2.8-4 R LM OIS / 約2.8MB / 4,896×3,264 / 1.4秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:晴れ / 22.3mm / フィルムシミュレーション:Velvia |
X-E1 / XF 18-55m-m F2.8-4 R LM OIS / 約3.5MB / 7,680×1,440 / 1/4,000秒 / F3.6 / 0EV / ISO200 / ぐるっとパノラマ / WB:オート / 21.4mm / フィルムシミュレーション:PROVIA |
2012/11/22 00:00